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第72話 存在と目的
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クラウンが後始末を買って出てくれたのだから、いつまでもここにいてはいけないな。
あいつのやる事に支障が出てしまうかもしれない。
「落ちるなよ、シェイプ」
周囲に人がいないのを確認してから俺はルナリアを抱えて空へと浮かぶ。
「あのソレイユ、わたくし自分で飛べますから」
遠慮してなのかルナリアは申し訳なさそうな表情でそんな事を言ってくる。
「俺がこうしたいんだ。ルナリアと離れたくない」
ルナリアは顔を赤くし、シェイプは器用に口笛を吹く。
「いやぁらぶらぶでやすね。そんな素直なところをクラウン様も見習ってくれるといいんでやすが」
目的地に向けて飛び始めるとシェイプは落ちないようにと、俺の腕に体を巻き付けてくる。
ひやりとした感触が存外心地よい。
「素直どころか本心も見せなさそうな男だが。シェイプは付き合いが長いのか?」
「付き合いが長いというか、生まれた時からクラウン様の名は聞いておりやした。クラウン様は凄い御方なんでやすよ!」
「そうなのね」
ルナリアもあまりクラウンの事は知らないようだ。
「確かにあのプライドの高さととっつきにくさは普通じゃあないよな。シェイプが力を貸していたにしても、生活するのは大変だったのではないか?」
宿の人間を平気で殺し、シェイプの事も平気で投げるような男だ。普通の人に混じって生活するなんてできそうには見えない。
「いえ、そこまでではなかったでやすよ。まぁあっしが代わりをしていたのもありやすが。しかしこんなに表に出て自発的に動いてくれるのは本当に久しぶりの事でで……お嬢さんには感謝しておりやす」
ぺこりとルナリアに向かって頭を下げる。
「お嬢さんの存在がクラウン様にまた生きる気力を与えたでやんす、あっしは本当に嬉しく思ってやす」
赤い目から大粒の涙を流すシェイプに驚きつつも、気になる言葉だ。
「ルナリアが生きる気力を、とはどういう事だ」
これ以上ルナリアに横恋慕をするものが出るのは困るのだが。
「お嬢さんは特別な力をお持ちでやすからね、それはクラウン様の希望でやす。いつか落ち着いたらぜひその力を貸して欲しいでやす」
「わたくしの力? 特に身に覚えがないけれど」
ルナリアは小首をかしげ、考え込む。
「ルナリアの力というと癒しの力か。誰か救って欲しい者でもいるのか?」
癒しの力は貴重だが、珍しいほどではないはずだが。
「いえいえ、お嬢さんの力はそれだけではありやせん。まぁ、それについてはおいおい話しやす、勝手をしたらクラウン様に怒られてしまいやすから」
シェイプの一存では言えないという事か。
どちらにせよ、今は自由には動けない。
シェイプの様子を見るに切羽詰まってるわけではなさそうだから、その話は置いておこう。
◇◇◇
しばらく飛んでいると空が白み始める。
ルナリアは疲れからかすっかりと目を閉じて寝息を立てていた、シェイプもいつの間にか腕ではなく日の光の当たらないところに移動している。
「ソレイユ様、その当てというところにゃあ、まだ着かないんでやすか?」
日の光に当たらないように極力影に隠れながら話しかけてくる。
「もうすぐだ。だがクラウンは追ってこれるだろうか」
人の足では登れないようなところを抜け、大地の裂け目へと身を投じた。
暗くどこまでも闇が続くような場所ゆえに俺は前方に火を顕現させて明かりを作る。
このようなところを通るとは言っていなかったし、こんな暗いところ迷わず来れるだろうか。
「あっしの気配を探ってきてくれやすよ。それに闇はあっしらの領域、これくらいのところなんて目を瞑ってても歩けやす」
「気になっていたが、シェイプ達は一体どこから来たんだ? 闇を住処とするなんて、ハディスと呼ばれるあいつらと同じではないか」
俺は地上に来るまで闇や夜を領域とする者達を知らなかった。
今までも地上界に来てはいたけれど、ハディスという存在は聞いたことも見たこともない。
そしてクラウンやシェイプのような者も。
(ルナリアの事がなければ敵と認定していただろう)
「すいやせん、そのあたりの事も今のあっしでは言う事はできやせん」
それもまたクラウンの許可がいる話という事か。
(クラウンが素直に話してくれればいいが、そう一筋縄ではいかないだろう)
「わかった。だがいつかは話してくれよ」
「へい、いつかは必ず」
それは俺にというよりは、ルナリアへの誓いのように思える。
ルナリアを裏切ることはないと言っていたから、そのあたりも関係あるのだろうか。
「敵として戦う事がない事を願うよ」
「……」
聞こえているはずなのにシェイプからの返事はない。
その後はルナリアが眠っているのもあり、地母神の宮殿に着くまでお互いに無言となった。
あいつのやる事に支障が出てしまうかもしれない。
「落ちるなよ、シェイプ」
周囲に人がいないのを確認してから俺はルナリアを抱えて空へと浮かぶ。
「あのソレイユ、わたくし自分で飛べますから」
遠慮してなのかルナリアは申し訳なさそうな表情でそんな事を言ってくる。
「俺がこうしたいんだ。ルナリアと離れたくない」
ルナリアは顔を赤くし、シェイプは器用に口笛を吹く。
「いやぁらぶらぶでやすね。そんな素直なところをクラウン様も見習ってくれるといいんでやすが」
目的地に向けて飛び始めるとシェイプは落ちないようにと、俺の腕に体を巻き付けてくる。
ひやりとした感触が存外心地よい。
「素直どころか本心も見せなさそうな男だが。シェイプは付き合いが長いのか?」
「付き合いが長いというか、生まれた時からクラウン様の名は聞いておりやした。クラウン様は凄い御方なんでやすよ!」
「そうなのね」
ルナリアもあまりクラウンの事は知らないようだ。
「確かにあのプライドの高さととっつきにくさは普通じゃあないよな。シェイプが力を貸していたにしても、生活するのは大変だったのではないか?」
宿の人間を平気で殺し、シェイプの事も平気で投げるような男だ。普通の人に混じって生活するなんてできそうには見えない。
「いえ、そこまでではなかったでやすよ。まぁあっしが代わりをしていたのもありやすが。しかしこんなに表に出て自発的に動いてくれるのは本当に久しぶりの事でで……お嬢さんには感謝しておりやす」
ぺこりとルナリアに向かって頭を下げる。
「お嬢さんの存在がクラウン様にまた生きる気力を与えたでやんす、あっしは本当に嬉しく思ってやす」
赤い目から大粒の涙を流すシェイプに驚きつつも、気になる言葉だ。
「ルナリアが生きる気力を、とはどういう事だ」
これ以上ルナリアに横恋慕をするものが出るのは困るのだが。
「お嬢さんは特別な力をお持ちでやすからね、それはクラウン様の希望でやす。いつか落ち着いたらぜひその力を貸して欲しいでやす」
「わたくしの力? 特に身に覚えがないけれど」
ルナリアは小首をかしげ、考え込む。
「ルナリアの力というと癒しの力か。誰か救って欲しい者でもいるのか?」
癒しの力は貴重だが、珍しいほどではないはずだが。
「いえいえ、お嬢さんの力はそれだけではありやせん。まぁ、それについてはおいおい話しやす、勝手をしたらクラウン様に怒られてしまいやすから」
シェイプの一存では言えないという事か。
どちらにせよ、今は自由には動けない。
シェイプの様子を見るに切羽詰まってるわけではなさそうだから、その話は置いておこう。
◇◇◇
しばらく飛んでいると空が白み始める。
ルナリアは疲れからかすっかりと目を閉じて寝息を立てていた、シェイプもいつの間にか腕ではなく日の光の当たらないところに移動している。
「ソレイユ様、その当てというところにゃあ、まだ着かないんでやすか?」
日の光に当たらないように極力影に隠れながら話しかけてくる。
「もうすぐだ。だがクラウンは追ってこれるだろうか」
人の足では登れないようなところを抜け、大地の裂け目へと身を投じた。
暗くどこまでも闇が続くような場所ゆえに俺は前方に火を顕現させて明かりを作る。
このようなところを通るとは言っていなかったし、こんな暗いところ迷わず来れるだろうか。
「あっしの気配を探ってきてくれやすよ。それに闇はあっしらの領域、これくらいのところなんて目を瞑ってても歩けやす」
「気になっていたが、シェイプ達は一体どこから来たんだ? 闇を住処とするなんて、ハディスと呼ばれるあいつらと同じではないか」
俺は地上に来るまで闇や夜を領域とする者達を知らなかった。
今までも地上界に来てはいたけれど、ハディスという存在は聞いたことも見たこともない。
そしてクラウンやシェイプのような者も。
(ルナリアの事がなければ敵と認定していただろう)
「すいやせん、そのあたりの事も今のあっしでは言う事はできやせん」
それもまたクラウンの許可がいる話という事か。
(クラウンが素直に話してくれればいいが、そう一筋縄ではいかないだろう)
「わかった。だがいつかは話してくれよ」
「へい、いつかは必ず」
それは俺にというよりは、ルナリアへの誓いのように思える。
ルナリアを裏切ることはないと言っていたから、そのあたりも関係あるのだろうか。
「敵として戦う事がない事を願うよ」
「……」
聞こえているはずなのにシェイプからの返事はない。
その後はルナリアが眠っているのもあり、地母神の宮殿に着くまでお互いに無言となった。
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