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第67話 和解(?)
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二人をとっさに突き飛ばした俺は暗い空間に吸い込まれた。
「ここは、どこだ」
上下もわからぬような場所で、暗く何も視界も聴覚も奪われるような静かな空間。
だが肌を刺激するようなひりついた感触がある影が蠢き、俺の体を蝕もうとしているのだと本能的に感じた。
(あの男、ただ者ではないな)
得体のしれない雰囲気を纏った男だとは思ったが、まさかこんな力を持っていたとは。
考えている間にも黒い影が俺の体にまとわりついていき、闇がどんどん濃くなっていく。
「この闇には覚えがある」
地上で戦ったあいつらと同じものだ。
自分の周りに集まってくる闇を打ち払うように炎を顕現させていくと、すぐさま影が俺の体から離れていく。
外敵と同じ力を放つこの影たちにも俺の炎は有効なようで助かった。
「一気に焼き払おうじゃないか」
充満している闇たちを一掃するよう。俺は力を溜めて一気に放出した。
暗闇がさざ波のように引いていき、そして宙に亀裂が入る。
◇◇◇
「かはっ!」
苦し気に呻く声が耳に入り、そちらに視線を向ければうずくまる男の姿が見えた。
元の路地に戻ってこれたようで先程よりも周囲が明るい、どうやら無事に解き放たれたようだ。
「ソレイユ様、ご無事でよかったです」
「何か変な黒いのがソレイユ様を取り込んで……もうだめかと思いました」
アテンが安堵の声を漏らし、ニックが涙交じりの表情で駆け寄ってくる。
「俺は大丈夫。二人も無事か?」
「「えぇ」」
交戦した様子もないようで、怪我がない事にホッとする。
「ソレイユ……なかなかの力だな」
黒髪の男が口元の血を拭い立ち上がった。場に緊張が走る。
「俺の影をいとも容易く退けるとは、ルナリアが縋る気持ちもわかる」
何故この男から彼女の名前が出るのか。
「ルナリアを知っているのか?」
「あぁ。彼女を狙う不埒な者が多く匿っているよ」
「今すぐルナリアの元へ案内しろ、彼女は俺の妻だ」
彼女の居場所を知っているとは、逃がすわけにはいかない。俺は男との距離を詰めようと近づくが――。
「クラウン様を傷つけるのは許しやせん!」
威嚇するように鋭い針状に変化した影が俺と男の間を阻む。
応戦しようと炎を生み出す前に、クラウンと呼ばれた男が影を制止した。
「落ち着けシェイプ、お前の力ではこの男には勝てない」
威嚇するようにクラウンが睨むと、すごすごといった形で影が収まっていく。
「ソレイユ。貴様がルナリアにふさわしい男ならば彼女の元へと案内してやろう。だが、そうではない場合は彼女は俺が守る」
金の目が俺を射抜く。
一体この男はルナリアの何だというのだ。気安く彼女の名前を呼ぶが、どういう関係なのか。
「何を偉そうに。お前なんかにそんな命令されたくないやい」
「止めなさいニック。ルナリア様の情報を持つ貴重な者です、まずは話を聞きましょう」
ニックが抗議するのをアテンがなだめる。
「まずはこちらから質問だ。お前はルナリアとどういう関係だ、何故彼女と一緒にいる」
俺の問いにクラウンが目を細める。
「縁あってルナリアを助けたのだが、彼女は数々の危険に晒されている。貴様が彼女を守れるかどうか、そうでにないならば彼女の居場所を教えるわけにはいかない」
「先程の戦いでお前との力の差は示しただろう、お前の影では俺に勝てない」
「あれはクラウン様が加減したからでやんす。それにソレイユっていうからお嬢さんの知り合いかと思って――」
「シェイプ黙れ、退けられたのは事実だ。だが、それだけでは認められない」
怨嗟の炎にまみれた視線と声が向けられる
「……彼女のお腹には子供がいる。何故あのような状態の彼女を一人にしたのか、それについて納得のいく説明を寄こせ」
クラウンの言葉にエリスから言われたことを思い出した。
(やはり彼女のお腹に子供がいるのは本当なのか……)
衝撃を覚えたが、今はまずルナリアに会う事が優先だ。
「彼女のお腹の子供について知ったのはつい先日の事だ。知っていたら、誰に邪魔されようが海底界にでもどこにでも乗り込んだのに」
「海底界? 彼女は月の神だろう、何故そんなところと関係あるんだ?」
クラウンの戸惑う声にこちらも戸惑う。
「クラウンといったか、お前は一体何者だ? ただの人間ではないと思ったが、事情を知らない様子から神でもなさそうだ。なのに何故そこまで神界に詳しい」
「俺が何者なのか、今それらは関係ないだろう」
「関係あるさ。お前が俺を試すように、俺もお前が信じられる存在なのかでどこまで話すかが変わってくる。少なくとも敵ではないという保証が欲しい」
クラウンの力は外敵やハディスと名乗った者達に似ているが、奴らとは違い話が通じるしルナリアの事を考えてくれている。
あれらと同じ存在のようだが、目的がわからない。
「俺が何者であろうが、ルナリアを害することはない。それよりも彼女に何があったのか詳しく話せ。海底界にいたという彼女が何故あんなひどい状態で地上にいたのか、一体ルナリアに何があった」
自分の事は何も話す気がないという事か。その態度に俺も苛立ちが募り始める。
ルナリアを呼び捨てにするのも気に食わない。
「知りたければお前が先に話をするんだな。話す気がないのなら彼女の元へと案内しろ、その方が早い」
「まだお前が信用できるものと決まったわけではない、それなのに案内なぞ出来るものか」
ピリッとしたものが俺とクラウンの間に走る。
「ソレイユ様落ち着いてください。匿ってくれたという事は助けてくれているという事、そのような方といがみ合ったとしれたらルナリア様も悲しむと思いますよ」
「クラウン様も喧嘩腰はいけやせんぜ。お嬢さんがソレイユさんに会いたいと言っていたのを聞いてやすよね? あまり一人にしておくのも心配ですし、ひとまず連れて行ってみやしょう」
アテンとシェイプに言われ、とりあえずこれ以上の諍いは起こさぬように言葉を飲み込む。
「……ついてこい。だが詳しい話は聞かせてもらうぞ」
しばしの沈黙の後クラウンはそう言って空へと浮かんだ。
「お前もな。何があったのか、聞かせてもらうぞ」
振り切られぬようにクラウンの後ろをついて空を駆ける。
やはりただ者ではないな。天空界の者と同じくらいかそれより早い飛び方をしている。ニックがやや遅れているようだが、アテンがいるので大丈夫だろう。
「ようやく会える……」
もうすぐルナリアに会えるだと思うと緊張感が増してきた。
離れてしまったことの詫びや体調についての事など、何を話したらいいのかなど言葉が定まらない。
けれど伝えるべき気持ちは一つだ。
もう二度と傷つけないと。
「ここは、どこだ」
上下もわからぬような場所で、暗く何も視界も聴覚も奪われるような静かな空間。
だが肌を刺激するようなひりついた感触がある影が蠢き、俺の体を蝕もうとしているのだと本能的に感じた。
(あの男、ただ者ではないな)
得体のしれない雰囲気を纏った男だとは思ったが、まさかこんな力を持っていたとは。
考えている間にも黒い影が俺の体にまとわりついていき、闇がどんどん濃くなっていく。
「この闇には覚えがある」
地上で戦ったあいつらと同じものだ。
自分の周りに集まってくる闇を打ち払うように炎を顕現させていくと、すぐさま影が俺の体から離れていく。
外敵と同じ力を放つこの影たちにも俺の炎は有効なようで助かった。
「一気に焼き払おうじゃないか」
充満している闇たちを一掃するよう。俺は力を溜めて一気に放出した。
暗闇がさざ波のように引いていき、そして宙に亀裂が入る。
◇◇◇
「かはっ!」
苦し気に呻く声が耳に入り、そちらに視線を向ければうずくまる男の姿が見えた。
元の路地に戻ってこれたようで先程よりも周囲が明るい、どうやら無事に解き放たれたようだ。
「ソレイユ様、ご無事でよかったです」
「何か変な黒いのがソレイユ様を取り込んで……もうだめかと思いました」
アテンが安堵の声を漏らし、ニックが涙交じりの表情で駆け寄ってくる。
「俺は大丈夫。二人も無事か?」
「「えぇ」」
交戦した様子もないようで、怪我がない事にホッとする。
「ソレイユ……なかなかの力だな」
黒髪の男が口元の血を拭い立ち上がった。場に緊張が走る。
「俺の影をいとも容易く退けるとは、ルナリアが縋る気持ちもわかる」
何故この男から彼女の名前が出るのか。
「ルナリアを知っているのか?」
「あぁ。彼女を狙う不埒な者が多く匿っているよ」
「今すぐルナリアの元へ案内しろ、彼女は俺の妻だ」
彼女の居場所を知っているとは、逃がすわけにはいかない。俺は男との距離を詰めようと近づくが――。
「クラウン様を傷つけるのは許しやせん!」
威嚇するように鋭い針状に変化した影が俺と男の間を阻む。
応戦しようと炎を生み出す前に、クラウンと呼ばれた男が影を制止した。
「落ち着けシェイプ、お前の力ではこの男には勝てない」
威嚇するようにクラウンが睨むと、すごすごといった形で影が収まっていく。
「ソレイユ。貴様がルナリアにふさわしい男ならば彼女の元へと案内してやろう。だが、そうではない場合は彼女は俺が守る」
金の目が俺を射抜く。
一体この男はルナリアの何だというのだ。気安く彼女の名前を呼ぶが、どういう関係なのか。
「何を偉そうに。お前なんかにそんな命令されたくないやい」
「止めなさいニック。ルナリア様の情報を持つ貴重な者です、まずは話を聞きましょう」
ニックが抗議するのをアテンがなだめる。
「まずはこちらから質問だ。お前はルナリアとどういう関係だ、何故彼女と一緒にいる」
俺の問いにクラウンが目を細める。
「縁あってルナリアを助けたのだが、彼女は数々の危険に晒されている。貴様が彼女を守れるかどうか、そうでにないならば彼女の居場所を教えるわけにはいかない」
「先程の戦いでお前との力の差は示しただろう、お前の影では俺に勝てない」
「あれはクラウン様が加減したからでやんす。それにソレイユっていうからお嬢さんの知り合いかと思って――」
「シェイプ黙れ、退けられたのは事実だ。だが、それだけでは認められない」
怨嗟の炎にまみれた視線と声が向けられる
「……彼女のお腹には子供がいる。何故あのような状態の彼女を一人にしたのか、それについて納得のいく説明を寄こせ」
クラウンの言葉にエリスから言われたことを思い出した。
(やはり彼女のお腹に子供がいるのは本当なのか……)
衝撃を覚えたが、今はまずルナリアに会う事が優先だ。
「彼女のお腹の子供について知ったのはつい先日の事だ。知っていたら、誰に邪魔されようが海底界にでもどこにでも乗り込んだのに」
「海底界? 彼女は月の神だろう、何故そんなところと関係あるんだ?」
クラウンの戸惑う声にこちらも戸惑う。
「クラウンといったか、お前は一体何者だ? ただの人間ではないと思ったが、事情を知らない様子から神でもなさそうだ。なのに何故そこまで神界に詳しい」
「俺が何者なのか、今それらは関係ないだろう」
「関係あるさ。お前が俺を試すように、俺もお前が信じられる存在なのかでどこまで話すかが変わってくる。少なくとも敵ではないという保証が欲しい」
クラウンの力は外敵やハディスと名乗った者達に似ているが、奴らとは違い話が通じるしルナリアの事を考えてくれている。
あれらと同じ存在のようだが、目的がわからない。
「俺が何者であろうが、ルナリアを害することはない。それよりも彼女に何があったのか詳しく話せ。海底界にいたという彼女が何故あんなひどい状態で地上にいたのか、一体ルナリアに何があった」
自分の事は何も話す気がないという事か。その態度に俺も苛立ちが募り始める。
ルナリアを呼び捨てにするのも気に食わない。
「知りたければお前が先に話をするんだな。話す気がないのなら彼女の元へと案内しろ、その方が早い」
「まだお前が信用できるものと決まったわけではない、それなのに案内なぞ出来るものか」
ピリッとしたものが俺とクラウンの間に走る。
「ソレイユ様落ち着いてください。匿ってくれたという事は助けてくれているという事、そのような方といがみ合ったとしれたらルナリア様も悲しむと思いますよ」
「クラウン様も喧嘩腰はいけやせんぜ。お嬢さんがソレイユさんに会いたいと言っていたのを聞いてやすよね? あまり一人にしておくのも心配ですし、ひとまず連れて行ってみやしょう」
アテンとシェイプに言われ、とりあえずこれ以上の諍いは起こさぬように言葉を飲み込む。
「……ついてこい。だが詳しい話は聞かせてもらうぞ」
しばしの沈黙の後クラウンはそう言って空へと浮かんだ。
「お前もな。何があったのか、聞かせてもらうぞ」
振り切られぬようにクラウンの後ろをついて空を駆ける。
やはりただ者ではないな。天空界の者と同じくらいかそれより早い飛び方をしている。ニックがやや遅れているようだが、アテンがいるので大丈夫だろう。
「ようやく会える……」
もうすぐルナリアに会えるだと思うと緊張感が増してきた。
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