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第60話 邪魔
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(この女はルナリアの正体を知っているのか?)
そうならば生かしておくわけにはいかない。
「器量良しで人とは思えない美しさをしてるらしいわね。さて、どこの貴族のお嬢さんを誑かしたのやら」
「……あなたには関係ないでやすね」
笑顔を作りこたえるものの、それで解放はしてもらえない。
「あら困ってるところを助けてあげたのだから、教えてくれてもいいじゃない? ね素直に話してくれたらここで匿っていてあげるわよ」
女主人は立ち上がり俺の側に来る。
酒と、そして甘ったるい匂い。あまりにも強い臭気に気分が悪くなる。
「休ませてもらったのはありがたいでやすが、そろそろお暇させてもらいやす。あまり長居すると迷惑になりやすから」
「身重だとも聞いているわ。それなのにどこに行こうと言うの?」
「案外どこでも暮らしていけるものでさぁ。ではこの辺で失礼しやす」
腕に絡みつこうとした手をするりと躱し、部屋の外に出ようとするがドアが開かない。
「鍵?」
俺が入った後、外からでも掛けられたのだろうか。
何度ノブを捻っても開きはしない。
「せっかちね、まだ話は終わってないわ」
「あっしにはないんで。彼女が心配だから早く部屋に戻りたいんでやすが」
「あたしはまだ用があるの。あとちょっとだけお話していて頂戴」
内心の苛立ちでつい舌打ちが出てしまう。
(埒が明かないな、ドアを破壊しよう)
「あっしもその方がいいと思いやす、この女……なんか変でやすし」
酒のせいか頬は紅潮し、目もとろんとしている。
だがそれだけではないように思えた。
「部屋に充満している甘い匂い、これ、なんかの薬でやす。おそらく正気を失う類のでやすね」
(毒みたいなものか)
だからか、先程から妙に鼻につくのは。
(あいにくと俺に毒は効かない。心配なのは向こうだ)
「お嬢さんの方に誰かが来ちまいやしたね」
想定はしていたが、自分がいない間に誰かがルナリアの元へと来たようだ。
入ろうとしたがドアを開けられず、魔法まで使用しこじ開けようとしているのが感じられる。
(あの程度で開くことはないが、ルナリアが怖がっている)
「えぇ、早いところ戻りやしょう」
「クラウン、さっきから何をぶつぶつ言っているの? あぁ、やっと薬が効いてきたのね」
女主人はこちらの内心など知らず、くすくすと笑みを浮かべている。
「あなたの事は気に入っていたから惜しいとは思ったんだけど、旦那様から捕らえなさいって言われてるの。あなたが連れていたあの女性ってどこかの貴族令嬢でしょ? 連れ出した犯人であるあなたを突き出し、彼女を家族に届ければいい金になるだろうって」
「……」
「ほんと、こんな美形を殺すのは惜しいと思ったんだけど……旦那様からの命令じゃしょうがないわね、この家では旦那様が一番偉いんだから。でも殺す前に少し遊ぶのは許してくれたの。だからあなたを呼んだのよ」
何も返さずにいると薬が効いたと勘違いしたのか、ぺらぺらと話しを続ける。
「最後だからたっぷりと楽しみましょ」
そう言って俺に触れようとしたその手を振り払う。
「くだらねぇ」
「そんな、薬が効いたんじゃ……」
驚愕した表情の女主人を俺の影が飲み込んでいく。
彼女に危害を加えようとするものなど生かしてはおけない。
それにしても何と不味い味だろうか。
「お嬢さんが心配でやんすね」
(急ぎルナリアのもとに向かおう)
固く閉ざされたドアに触れ力を込めると、黒い影が瞬時にドアを覆って粉々に分解をした。
「「なっ?!」」
複数の驚愕に満ちた声が廊下に響き渡るが、構うつもりはない。
「どいてくだせぇ。邪魔するなら皆喰っちまいやすよ」
「お前、ヴェルミン様はどうした?!」
「あの女ですか? さて、どこに行きやしたかね」
対応するのも面倒くさくてそのまま横を通り過ぎようとしたのだが、肩を掴まれ阻まれる。
「ふざけるな! お前と一緒にいただろうが……」
怒鳴り声ごと黒い影で男を包む。
それを見て周囲からさらに叫び声が上がった。
「だから言ったのに……大ごとにはしたくなかったんでやすがね」
(邪魔をするのが悪い)
こちらとしても急いでいるのだ。いちいち構っていたらルナリアのもとに着くのが遅くなってしまう。
「今のを見てわかりやしたね? 邪魔するならホントに食べちまいやすよ」
そう言って舌なめずりをしてみせれば、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「ば、化け物……!」
腰を抜かしたのか、恐怖の瞳でこちらを見るのは、俺をここまで案内した女だ。
「そうでやす。あっしは化け物ですから、さっさとこの屋敷からも離れた方がいいでやすよ。化け物を怒らせたらただじゃあすみやせんからね」
「ひぃっ?!」
女は這いつくばって少しでもこの場から離れようともがき出した。
「さてさてお嬢さんを助けてさっさとこんな所おさらばしちまいやしょ」
(その後はすぐ安全な所を探さねばな。彼女が安心してお産を臨めるようなところを見つけてあげよう)
まだまだやる事はある。
俺は急ぎルナリアの元へ行く為にと体を変化させる。
黒い影へと変化した俺は、暗い闇にそのまま溶けていった。
そうならば生かしておくわけにはいかない。
「器量良しで人とは思えない美しさをしてるらしいわね。さて、どこの貴族のお嬢さんを誑かしたのやら」
「……あなたには関係ないでやすね」
笑顔を作りこたえるものの、それで解放はしてもらえない。
「あら困ってるところを助けてあげたのだから、教えてくれてもいいじゃない? ね素直に話してくれたらここで匿っていてあげるわよ」
女主人は立ち上がり俺の側に来る。
酒と、そして甘ったるい匂い。あまりにも強い臭気に気分が悪くなる。
「休ませてもらったのはありがたいでやすが、そろそろお暇させてもらいやす。あまり長居すると迷惑になりやすから」
「身重だとも聞いているわ。それなのにどこに行こうと言うの?」
「案外どこでも暮らしていけるものでさぁ。ではこの辺で失礼しやす」
腕に絡みつこうとした手をするりと躱し、部屋の外に出ようとするがドアが開かない。
「鍵?」
俺が入った後、外からでも掛けられたのだろうか。
何度ノブを捻っても開きはしない。
「せっかちね、まだ話は終わってないわ」
「あっしにはないんで。彼女が心配だから早く部屋に戻りたいんでやすが」
「あたしはまだ用があるの。あとちょっとだけお話していて頂戴」
内心の苛立ちでつい舌打ちが出てしまう。
(埒が明かないな、ドアを破壊しよう)
「あっしもその方がいいと思いやす、この女……なんか変でやすし」
酒のせいか頬は紅潮し、目もとろんとしている。
だがそれだけではないように思えた。
「部屋に充満している甘い匂い、これ、なんかの薬でやす。おそらく正気を失う類のでやすね」
(毒みたいなものか)
だからか、先程から妙に鼻につくのは。
(あいにくと俺に毒は効かない。心配なのは向こうだ)
「お嬢さんの方に誰かが来ちまいやしたね」
想定はしていたが、自分がいない間に誰かがルナリアの元へと来たようだ。
入ろうとしたがドアを開けられず、魔法まで使用しこじ開けようとしているのが感じられる。
(あの程度で開くことはないが、ルナリアが怖がっている)
「えぇ、早いところ戻りやしょう」
「クラウン、さっきから何をぶつぶつ言っているの? あぁ、やっと薬が効いてきたのね」
女主人はこちらの内心など知らず、くすくすと笑みを浮かべている。
「あなたの事は気に入っていたから惜しいとは思ったんだけど、旦那様から捕らえなさいって言われてるの。あなたが連れていたあの女性ってどこかの貴族令嬢でしょ? 連れ出した犯人であるあなたを突き出し、彼女を家族に届ければいい金になるだろうって」
「……」
「ほんと、こんな美形を殺すのは惜しいと思ったんだけど……旦那様からの命令じゃしょうがないわね、この家では旦那様が一番偉いんだから。でも殺す前に少し遊ぶのは許してくれたの。だからあなたを呼んだのよ」
何も返さずにいると薬が効いたと勘違いしたのか、ぺらぺらと話しを続ける。
「最後だからたっぷりと楽しみましょ」
そう言って俺に触れようとしたその手を振り払う。
「くだらねぇ」
「そんな、薬が効いたんじゃ……」
驚愕した表情の女主人を俺の影が飲み込んでいく。
彼女に危害を加えようとするものなど生かしてはおけない。
それにしても何と不味い味だろうか。
「お嬢さんが心配でやんすね」
(急ぎルナリアのもとに向かおう)
固く閉ざされたドアに触れ力を込めると、黒い影が瞬時にドアを覆って粉々に分解をした。
「「なっ?!」」
複数の驚愕に満ちた声が廊下に響き渡るが、構うつもりはない。
「どいてくだせぇ。邪魔するなら皆喰っちまいやすよ」
「お前、ヴェルミン様はどうした?!」
「あの女ですか? さて、どこに行きやしたかね」
対応するのも面倒くさくてそのまま横を通り過ぎようとしたのだが、肩を掴まれ阻まれる。
「ふざけるな! お前と一緒にいただろうが……」
怒鳴り声ごと黒い影で男を包む。
それを見て周囲からさらに叫び声が上がった。
「だから言ったのに……大ごとにはしたくなかったんでやすがね」
(邪魔をするのが悪い)
こちらとしても急いでいるのだ。いちいち構っていたらルナリアのもとに着くのが遅くなってしまう。
「今のを見てわかりやしたね? 邪魔するならホントに食べちまいやすよ」
そう言って舌なめずりをしてみせれば、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「ば、化け物……!」
腰を抜かしたのか、恐怖の瞳でこちらを見るのは、俺をここまで案内した女だ。
「そうでやす。あっしは化け物ですから、さっさとこの屋敷からも離れた方がいいでやすよ。化け物を怒らせたらただじゃあすみやせんからね」
「ひぃっ?!」
女は這いつくばって少しでもこの場から離れようともがき出した。
「さてさてお嬢さんを助けてさっさとこんな所おさらばしちまいやしょ」
(その後はすぐ安全な所を探さねばな。彼女が安心してお産を臨めるようなところを見つけてあげよう)
まだまだやる事はある。
俺は急ぎルナリアの元へ行く為にと体を変化させる。
黒い影へと変化した俺は、暗い闇にそのまま溶けていった。
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