天上神の大事な愛し子との禁忌の愛。けれど想いは消せなくて

しろねこ。

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第56話 遠い記憶

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「一体どこへ行くの?」

 クラウンの後をついていくが、行けども行けども道ばかりで目的地はまだ見えてこない。

 木々の中に出来た道は常に誰かが通っている為か踏む固められていて歩きやすい。

 けれど、周囲を木に囲まれているのは落ち着かない。いつか襲ってくるのではないかと気になってしまう。

「あっしが暫く居たところでやんすよ。きれいな街じゃありやせんが、訳ありには優しいんで」

「そう……」

 始めていくし、人のいるところは不安だわ。

 まともに話をしたことがあるのはクラウンだけだから、他の人と話が通じるのかもわからない。

(クラウンが裏切るとは思わないけれど……)

 もしそんな事になったら……そこまで考えて頭を振る。

 こんなにも優しくしてくれているのに疑うのは悪い気がしてならない。

「心配はいりやせん。ちょいと伝手がありやして、まぁ治安が良いところではありやせんから、フードは絶対に外してはいけやせんよ」

 そう言われて外れかけていたフードを改めて深く被り直す。

 慣れないためについ被るのを忘れてしまっていたけれど、わたくしの容姿はとても稀有なものらしく、クラウンに度々気を付けるようにと言われていた。

 いつだか道中すれ違っただけの人たちがわたくし達の後を付けてくる事があった。

 クラウンが追い払ってくれたから事なきを得たけれど、わたくしを大金に変えようとしていると教えられて驚いたものだ。

(お金と交換に見知らぬものを捕まえて売ろうとするなんて、人間って野蛮なのね)

 そう思いはしたが、そんな考えにやや苦笑してしまう。

 神だって同じようなものだ。

 天空界の為に天上神はわたくしをリーヴへと手渡した。もちろん許せるわけがない。

(今後もしも会うことがあってもあの方を父とはもう呼ぶ気はないわ)

 事情はどうあれ、自分の見捨てたのだから……たとえ母が愛した男性だとしても。

「?」

 何だろう、胸が痛い。

(違う、母は天上神を愛してなんていなかった……)

 何の根拠もないけれどそんな気持ちが胸に湧き上がる。

「大丈夫でやすか?」

 立ち止まり胸を抑えるわたくしを見てクラウンが駆け寄ってくれる。

「大丈夫です、少し疲れてしまって……」

「顔色が悪い、少し休みやしょう」

 クラウンは道を外れたところに布を敷いてくれてそこに座るようにと促してくれた。

 申し訳なさを感じつつも疲労も確かにあったので腰を下ろさせてもらう。

「いつもありがとう、クラウン」

 座ると一気に体が疲れが出てしまった、思っていた以上に体に負担がかかっていたようだ。

「いえいえこちらこそ慣れないことをさせちまって申し訳ありやせん。馬とか馬車とか借りれりゃよかったんですが」

 どちらも聞いたことはあるけれど体験したことはないわ。

「それらはどのようなものなの?」

「そうですね、馬はとても大きな生き物で力がありやす。馬車は馬に引かせる車輪のついた箱のようなものでやんすね。人以外にも荷物を乗せられるから遠くに行くときは大体使われてやす」

「そうなのね」

 他の生き物の力を借りて移動するなんて、興味があるわ。

「その馬という動物に頼めばいいのね、この辺りにはいないのかしら。あぁでも馬車はないし、支払うものも持っていない、どうしましょ」

 たとえ会えたとしてもその馬が喜ぶものをもっていないから、頼めないかも。

「馬は何が好きなのかしら。後からでも渡すと約束したら、力を貸してくれるかしら」

「お嬢さん……馬ってのはそのあたりにそうそういるもんじゃないんすよ」

 クラウンは口を手で覆い、肩を震わしている。

「大体の馬が人間に飼われていて、お金を出して借りたり買ったりするんす。野生の馬はなかなかいないし人になつかない、危険でやんすよ」

「そうなの?」

 どうやらわたくしが言ったことは余程的外れな事であったようで、クラウンは笑っていた。

「世間を知らないとは思ってやしたけれどここまでとは、本当にお嬢さんは箱入りでやんすね」

「箱入り?」

 またしても聞きなれない言葉だけれど、これ以上笑われるのも恥ずかしいので余計なことは言わないようにする。

「危険な目に合わないようにあまり家の外に出さないようにしてきたって意味でやすかね。まぁ大事に育てられてきたって事でやすよ」

「外に出されないは合っているかも。父に引き取られてからは外に出ることはなかったから」

「引き取られた? じゃあそれまではお母上様と二人っきりだったでやすか?」

「えぇ。父のもとに行くまでははわたくしも外に出て遊んでいた、走り回ったりして――」

 違う、そうではない。

 幼い頃お母様と遊んだ覚えはある、けれど、他にも誰かがわたくしとお母様の側にいた。

 黒い髪に黒い眼をした誰かが。

「お嬢さん?!」

 頭が割れるように痛い、耳鳴りが酷く、クラウンの声も次第に遠くなっていく。

(誰? わたくしは一体誰といたの?)

 どうして思い出そうとすると頭が痛むのだろうか。

 お母様の事を思い出そうとするといつも頭痛が起きはしたが、今日の痛みはいつもの比ではない。

(もしかして、思い出してはいけないことなの?)

 体中から汗が噴き出し、体が激しく揺れる感覚に襲われる。

 クラウンの顔も黒くぼやけて見えなくなってきた。








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