55 / 83
第55話 不安と疑念
しおりを挟む
地母神と話をした後、俺は部屋へと戻った。
地上界の神と海底界の神によるいいざこざにて宮殿は俄かに騒がしい。
(事が事だけにそう簡単には収まらないだろうな)
休む場所を提供してくれて傷も癒してくれた事には感謝している。だからこそ大変な中でこれ以上お世話になるのは心苦しい。
アテンとニックを部屋に呼びつける。
「ここを出ていくのですね」
アテンの方は察しが早く、特に異論も唱えずに了承してくれた。
しかしニックの方はおろおろとしていて、戸惑っている。
「ソレイユ様、迷惑をかけたくないという気持ちはわかるのですが、今ここを出た方が地母神様の負担になるのではないでしょうか? 地母神様はソレイユ様の事を本気で心配していますし、ルナリア様を探してくださるというのなら、こちらで待っていた方がいいのではないでしょうか?」
「言いたいことはわかるが、地母神様は海底界とのやり取りや情報収集で忙しいだろう。そんな中で俺の為に神人達を動かさせるなどして、充分な捜査が出来なくなっては申し訳ないだろう。そんな事になっては悔やんでも悔やみきれない」
「しかし、僕たちが闇雲に動いて見つけられるとは思いません。地上はこんなに広いんですから、地母神様を信じてこちらで待っていた方がいいと思うのですが」
ニックはあくまでも地母神からの連絡を待てというが……
(地母神が俺の為に本当に力を貸してくれれば、だな)
俺を愛しく思ってくれているのは確かだとは思う。
けれどルナリアまでも大切に思っているかは別だ。
(地母神はルナリアを良く思っていないし、昔俺に従姉妹を娶せようとした。そうして自分の側にいるもので俺を固め、庇護下に置こうとした事がある)
だからどこまで信じていいのかわからない。
「確かに地母神様ならいずれルナリアを見つけられるかもしれないが、今は平時ではない。それなら俺たちも探しに出た方がいいだろう。地上界の神のほとんどはルナリアを知らないのだから」
「でも、誰だってルナリア様を見たら一目でわかるかと思います。あれ程までに美しい方はそうはいないのですから」
「ニック、落ち着いて考えなさい。そんな目立つ容姿のルナリア様なのに、いまだ見かけたという情報は聞かれない。これはどこかに巧妙に隠れているか、あるいは地母神様が私たちに伝えないようにしている可能性もあるのですよ」
穿った見方ではあるが、アテンも俺と同じことを思ったようだ。
「突発的にリーヴから離れられたとしても、慣れない土地で隠れたり逃げ続けることがルナリアに出来るとは思えない」
慣れない土地でリーヴの手から逃げたり、人間に見つからないように過ごすなど彼女に出来るとは思えなかった。だから誰かが隠しているのではないかと疑っている。
「地母神ではないにしろ、少なくとも地上界の神が絡んでいるのではないかと見ている。彼女はとても美しいからな」
地母神の命に逆らい、ルナリアを捕らえている可能性は十分に考えられた。
「誰が敵か味方かも今はもわからない。たとえ実の伯母でもルナリアを大事に思っているか定かではないから、信用は出来ない。だからただ待つのではなく動いていくつもりだ、強制はしないが、どうする?」
「私はソレイユと共についていきます。その為に来たのですから」
アテンは即答だが、ニックは迷っているようだ。
(ニックにとってここはとても居心地のいいところなのであろう)
そうでなければニックがこのように悩むことはないし、先のような話も出なかっただろう。
「……僕も行きます。僕もその為に来たのですから」
少し思案したようだが、ニックも頷いてくれた。
「ならばすぐにここを出ようか。急いでルナリアを追いかけなければ」
時間が経つほど足取りも手がかりも失われてしまう。
リーヴのもとにも戻っていないとなれば、ルナリアはリーヴを好いていないのだろう。
水辺に行き、助けを呼べば海底界の神にすぐ通達が行くのにそれをしないという事は戻りたくないという事。
つまり川や湖などにも近づかないようにしているはずだ。
地上界の神が見かけていないというのも森には近づかないようにしている可能性がある。
森や山にはよくいるが、普通の平地には滅多に神はいない。恩恵が何もないからだ。
しかし平地では身を隠す術はないから、いつまでもそんなところにいるとは思えない。
「そうなると人の街か?」
人を見守る神もいるが、大勢が行き交えば見落としてしまう可能性だってあるだろう。
ないとは思うが人に捕らえられたかもしれない。
(そんな事ないとは思うが……)
ルナリアとて力はあるのだから、ただの人間に捕まるわけはない。
そうは思うものの、もしかしたら、という不安もよぎり、胸がざわざわする。
(どうか無事でいてくれ)
変な輩に誑かされていないことを切に願う。
地上界の神と海底界の神によるいいざこざにて宮殿は俄かに騒がしい。
(事が事だけにそう簡単には収まらないだろうな)
休む場所を提供してくれて傷も癒してくれた事には感謝している。だからこそ大変な中でこれ以上お世話になるのは心苦しい。
アテンとニックを部屋に呼びつける。
「ここを出ていくのですね」
アテンの方は察しが早く、特に異論も唱えずに了承してくれた。
しかしニックの方はおろおろとしていて、戸惑っている。
「ソレイユ様、迷惑をかけたくないという気持ちはわかるのですが、今ここを出た方が地母神様の負担になるのではないでしょうか? 地母神様はソレイユ様の事を本気で心配していますし、ルナリア様を探してくださるというのなら、こちらで待っていた方がいいのではないでしょうか?」
「言いたいことはわかるが、地母神様は海底界とのやり取りや情報収集で忙しいだろう。そんな中で俺の為に神人達を動かさせるなどして、充分な捜査が出来なくなっては申し訳ないだろう。そんな事になっては悔やんでも悔やみきれない」
「しかし、僕たちが闇雲に動いて見つけられるとは思いません。地上はこんなに広いんですから、地母神様を信じてこちらで待っていた方がいいと思うのですが」
ニックはあくまでも地母神からの連絡を待てというが……
(地母神が俺の為に本当に力を貸してくれれば、だな)
俺を愛しく思ってくれているのは確かだとは思う。
けれどルナリアまでも大切に思っているかは別だ。
(地母神はルナリアを良く思っていないし、昔俺に従姉妹を娶せようとした。そうして自分の側にいるもので俺を固め、庇護下に置こうとした事がある)
だからどこまで信じていいのかわからない。
「確かに地母神様ならいずれルナリアを見つけられるかもしれないが、今は平時ではない。それなら俺たちも探しに出た方がいいだろう。地上界の神のほとんどはルナリアを知らないのだから」
「でも、誰だってルナリア様を見たら一目でわかるかと思います。あれ程までに美しい方はそうはいないのですから」
「ニック、落ち着いて考えなさい。そんな目立つ容姿のルナリア様なのに、いまだ見かけたという情報は聞かれない。これはどこかに巧妙に隠れているか、あるいは地母神様が私たちに伝えないようにしている可能性もあるのですよ」
穿った見方ではあるが、アテンも俺と同じことを思ったようだ。
「突発的にリーヴから離れられたとしても、慣れない土地で隠れたり逃げ続けることがルナリアに出来るとは思えない」
慣れない土地でリーヴの手から逃げたり、人間に見つからないように過ごすなど彼女に出来るとは思えなかった。だから誰かが隠しているのではないかと疑っている。
「地母神ではないにしろ、少なくとも地上界の神が絡んでいるのではないかと見ている。彼女はとても美しいからな」
地母神の命に逆らい、ルナリアを捕らえている可能性は十分に考えられた。
「誰が敵か味方かも今はもわからない。たとえ実の伯母でもルナリアを大事に思っているか定かではないから、信用は出来ない。だからただ待つのではなく動いていくつもりだ、強制はしないが、どうする?」
「私はソレイユと共についていきます。その為に来たのですから」
アテンは即答だが、ニックは迷っているようだ。
(ニックにとってここはとても居心地のいいところなのであろう)
そうでなければニックがこのように悩むことはないし、先のような話も出なかっただろう。
「……僕も行きます。僕もその為に来たのですから」
少し思案したようだが、ニックも頷いてくれた。
「ならばすぐにここを出ようか。急いでルナリアを追いかけなければ」
時間が経つほど足取りも手がかりも失われてしまう。
リーヴのもとにも戻っていないとなれば、ルナリアはリーヴを好いていないのだろう。
水辺に行き、助けを呼べば海底界の神にすぐ通達が行くのにそれをしないという事は戻りたくないという事。
つまり川や湖などにも近づかないようにしているはずだ。
地上界の神が見かけていないというのも森には近づかないようにしている可能性がある。
森や山にはよくいるが、普通の平地には滅多に神はいない。恩恵が何もないからだ。
しかし平地では身を隠す術はないから、いつまでもそんなところにいるとは思えない。
「そうなると人の街か?」
人を見守る神もいるが、大勢が行き交えば見落としてしまう可能性だってあるだろう。
ないとは思うが人に捕らえられたかもしれない。
(そんな事ないとは思うが……)
ルナリアとて力はあるのだから、ただの人間に捕まるわけはない。
そうは思うものの、もしかしたら、という不安もよぎり、胸がざわざわする。
(どうか無事でいてくれ)
変な輩に誑かされていないことを切に願う。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。

貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる