天上神の大事な愛し子との禁忌の愛。けれど想いは消せなくて

しろねこ。

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第55話 不安と疑念

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 地母神と話をした後、俺は部屋へと戻った。

 地上界の神と海底界の神によるいいざこざにて宮殿は俄かに騒がしい。

(事が事だけにそう簡単には収まらないだろうな)

 休む場所を提供してくれて傷も癒してくれた事には感謝している。だからこそ大変な中でこれ以上お世話になるのは心苦しい。

 アテンとニックを部屋に呼びつける。

「ここを出ていくのですね」

 アテンの方は察しが早く、特に異論も唱えずに了承してくれた。

 しかしニックの方はおろおろとしていて、戸惑っている。

「ソレイユ様、迷惑をかけたくないという気持ちはわかるのですが、今ここを出た方が地母神様の負担になるのではないでしょうか? 地母神様はソレイユ様の事を本気で心配していますし、ルナリア様を探してくださるというのなら、こちらで待っていた方がいいのではないでしょうか?」

「言いたいことはわかるが、地母神様は海底界とのやり取りや情報収集で忙しいだろう。そんな中で俺の為に神人達を動かさせるなどして、充分な捜査が出来なくなっては申し訳ないだろう。そんな事になっては悔やんでも悔やみきれない」

「しかし、僕たちが闇雲に動いて見つけられるとは思いません。地上はこんなに広いんですから、地母神様を信じてこちらで待っていた方がいいと思うのですが」

 ニックはあくまでも地母神からの連絡を待てというが……

(地母神が俺の為に本当に力を貸してくれれば、だな)

 俺を愛しく思ってくれているのは確かだとは思う。

 けれどルナリアまでも大切に思っているかは別だ。

(地母神はルナリアを良く思っていないし、昔俺に従姉妹を娶せようとした。そうして自分の側にいるもので俺を固め、庇護下に置こうとした事がある)

 だからどこまで信じていいのかわからない。

「確かに地母神様ならいずれルナリアを見つけられるかもしれないが、今は平時ではない。それなら俺たちも探しに出た方がいいだろう。地上界の神のほとんどはルナリアを知らないのだから」

「でも、誰だってルナリア様を見たら一目でわかるかと思います。あれ程までに美しい方はそうはいないのですから」

「ニック、落ち着いて考えなさい。そんな目立つ容姿のルナリア様なのに、いまだ見かけたという情報は聞かれない。これはどこかに巧妙に隠れているか、あるいは地母神様が私たちに伝えないようにしている可能性もあるのですよ」

 穿った見方ではあるが、アテンも俺と同じことを思ったようだ。

「突発的にリーヴから離れられたとしても、慣れない土地で隠れたり逃げ続けることがルナリアに出来るとは思えない」

 慣れない土地でリーヴの手から逃げたり、人間に見つからないように過ごすなど彼女に出来るとは思えなかった。だから誰かが隠しているのではないかと疑っている。

「地母神ではないにしろ、少なくとも地上界の神が絡んでいるのではないかと見ている。彼女はとても美しいからな」

 地母神の命に逆らい、ルナリアを捕らえている可能性は十分に考えられた。

「誰が敵か味方かも今はもわからない。たとえ実の伯母でもルナリアを大事に思っているか定かではないから、信用は出来ない。だからただ待つのではなく動いていくつもりだ、強制はしないが、どうする?」

「私はソレイユと共についていきます。その為に来たのですから」

 アテンは即答だが、ニックは迷っているようだ。

(ニックにとってここはとても居心地のいいところなのであろう)

 そうでなければニックがこのように悩むことはないし、先のような話も出なかっただろう。

「……僕も行きます。僕もその為に来たのですから」

 少し思案したようだが、ニックも頷いてくれた。

「ならばすぐにここを出ようか。急いでルナリアを追いかけなければ」

 時間が経つほど足取りも手がかりも失われてしまう。

 リーヴのもとにも戻っていないとなれば、ルナリアはリーヴを好いていないのだろう。

 水辺に行き、助けを呼べば海底界の神にすぐ通達が行くのにそれをしないという事は戻りたくないという事。

 つまり川や湖などにも近づかないようにしているはずだ。

 地上界の神が見かけていないというのも森には近づかないようにしている可能性がある。

 森や山にはよくいるが、普通の平地には滅多に神はいない。恩恵が何もないからだ。

 しかし平地では身を隠す術はないから、いつまでもそんなところにいるとは思えない。

「そうなると人の街か?」

 人を見守る神もいるが、大勢が行き交えば見落としてしまう可能性だってあるだろう。

 ないとは思うが人に捕らえられたかもしれない。

(そんな事ないとは思うが……)

 ルナリアとて力はあるのだから、ただの人間に捕まるわけはない。

 そうは思うものの、もしかしたら、という不安もよぎり、胸がざわざわする。

(どうか無事でいてくれ)

 変な輩に誑かされていないことを切に願う。
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