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第53話 異なる思惑
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「一体彼女はどこに行ったんだ!」
地上に捜索に出ている部下達からの報告を受けるも、ルナリアの行方はいまだわからず、リーヴは苛立ちを募らせていた。
(一体どこへ?)
誰かがルナリアを匿っているのは明白だ。
邪魔をした森の神をズタズタにし、付近の神たちに尋ねたがまるで情報はない。
いくら地上の神と仲が良くないとはいえ、海王神となるリーヴに逆らうものはいないはずだ。
だからすぐに見つかると思ったのだが……足取りはつかめない。
部下がルナリアの髪を見つけ、急ぎ聞いた場所へと向かったのだが、まるで見つけられなかった。
再度その髪を渡した奇妙な見た目の人間を探しに戻ったのだが、その場所から移動してしまったようで再度会うことは出来なかったようだ。
(ルナリアが人間に捕らえられたとは思えないが……)
身を守る術も力も持っているはずだ、いざとなれば空を飛んで逃げることも出来るのに。
「いや、あれだけの美しさだ。心惑わされた人間達が何としてでも手に入れようとしても何ら不思議ではないな」
人間は欲深い生き物だ。
手に届かないような女神が自分たちの目の前に現れれば、気が狂ってもおかしくはない。
(僕のルナリアに手を出したら許さない!)
ルナリアの髪を大事そうに抱えながら、リーヴは人間への憎悪も深くしていく。
そしてシェンヌのような狂った神を放置していた地母神へも。
「リーヴ、ルナリアの行方はどうだ?」
苛立ちの表情の海王神がリーヴのもとへと来る。
「父上。残念ながら、まだ見つかっておりません」
海王神は眉間に皺をよせ、苦い顔をする。
「天空界には戻ってはいないようだが、一体どこへ行ったというのか。地上界に伝手はないはずだ」
「天上神様が匿っている可能性はないのですか? あれ程溺愛していたのですから、僕のもとへと返したくないからと隠してしまったのでは?」
「それはない。そうであれば俺様のもとに報告が来る」
海王神は歯噛みする。
「地母神に抗議を入れるがそうなると天上神にも伝わる……そうするとルナリアを危険に晒したと、返還するように言われるだろうな。もしもあちらが先に見つければもう二度と戻ってこないかもしれない。そうならないようもっと神人達を派遣してあいつらよりも先に見つけ、ルナリアを連れ戻すぞ」
「はい!」
自分とルナリアの為に力を尽くしてくれる父を頼もしく思い、リーヴは少しだけ気持ちが軽くなった。
だが海王神はリーヴが大事な息子だからと画策したのではない。
(あの娘を失うわけにはいかないな)
お腹には次期海王神になるであろう孫もおり、そしてルナリア自身もその出生から特殊な力を有している。
そんな力を引き継ぐ子が海底界の神として生まれるのだから、何としても連れ戻したい。
(天上神のもとに置いておくには勿体ない娘だ、それにこのまま三界が拮抗状態であるとも限らない)
表向きは平穏だが、裏では三界のバランスに亀裂が生じているのだ。
ここ最近ハディスと呼ばれる存在が顕著に姿を見せていて、それにより、今まで築いてきた体制が崩れる事を海王神は危惧していた。
それが完全に壊れる前に強い力を蓄えたいという思いもあった。
「僕も地上に行き、ルナリアを探します。このままここでただ待つだなんて出来ません」
「くれぐれも気をつけるんだぞ」
「大丈夫ですよ、僕に勝てるような力を持つものは少ないですから。何かあれば一帯ごと潰してきます」
曲がりなりにもリーヴは海王神の次に神力を持っている。
シェンヌとの戦いのときは誤ってルナリアを傷つけないようにと力を抑えていたのだが、人間や見知らぬ神相手であれば遠慮することはない。
(もしもルナリアに何かをしたのならば、僕はその者たちを絶対に許さない)
ルナリアを隠しているのが人間なのか神なのかまでは知らないが、自分からルナリアを奪うものをそのままにはしておけない。
「ルナリア……今君はどこにいるのだろうか」
心細い思いをしていないか、寂しくて泣いていないか、心配だ。
早く会って抱きしめてあげたいと、リーヴはぐっと拳を握る。
リーヴと海王神の思惑は違うものではあるが、目的は一緒であった。
地上に捜索に出ている部下達からの報告を受けるも、ルナリアの行方はいまだわからず、リーヴは苛立ちを募らせていた。
(一体どこへ?)
誰かがルナリアを匿っているのは明白だ。
邪魔をした森の神をズタズタにし、付近の神たちに尋ねたがまるで情報はない。
いくら地上の神と仲が良くないとはいえ、海王神となるリーヴに逆らうものはいないはずだ。
だからすぐに見つかると思ったのだが……足取りはつかめない。
部下がルナリアの髪を見つけ、急ぎ聞いた場所へと向かったのだが、まるで見つけられなかった。
再度その髪を渡した奇妙な見た目の人間を探しに戻ったのだが、その場所から移動してしまったようで再度会うことは出来なかったようだ。
(ルナリアが人間に捕らえられたとは思えないが……)
身を守る術も力も持っているはずだ、いざとなれば空を飛んで逃げることも出来るのに。
「いや、あれだけの美しさだ。心惑わされた人間達が何としてでも手に入れようとしても何ら不思議ではないな」
人間は欲深い生き物だ。
手に届かないような女神が自分たちの目の前に現れれば、気が狂ってもおかしくはない。
(僕のルナリアに手を出したら許さない!)
ルナリアの髪を大事そうに抱えながら、リーヴは人間への憎悪も深くしていく。
そしてシェンヌのような狂った神を放置していた地母神へも。
「リーヴ、ルナリアの行方はどうだ?」
苛立ちの表情の海王神がリーヴのもとへと来る。
「父上。残念ながら、まだ見つかっておりません」
海王神は眉間に皺をよせ、苦い顔をする。
「天空界には戻ってはいないようだが、一体どこへ行ったというのか。地上界に伝手はないはずだ」
「天上神様が匿っている可能性はないのですか? あれ程溺愛していたのですから、僕のもとへと返したくないからと隠してしまったのでは?」
「それはない。そうであれば俺様のもとに報告が来る」
海王神は歯噛みする。
「地母神に抗議を入れるがそうなると天上神にも伝わる……そうするとルナリアを危険に晒したと、返還するように言われるだろうな。もしもあちらが先に見つければもう二度と戻ってこないかもしれない。そうならないようもっと神人達を派遣してあいつらよりも先に見つけ、ルナリアを連れ戻すぞ」
「はい!」
自分とルナリアの為に力を尽くしてくれる父を頼もしく思い、リーヴは少しだけ気持ちが軽くなった。
だが海王神はリーヴが大事な息子だからと画策したのではない。
(あの娘を失うわけにはいかないな)
お腹には次期海王神になるであろう孫もおり、そしてルナリア自身もその出生から特殊な力を有している。
そんな力を引き継ぐ子が海底界の神として生まれるのだから、何としても連れ戻したい。
(天上神のもとに置いておくには勿体ない娘だ、それにこのまま三界が拮抗状態であるとも限らない)
表向きは平穏だが、裏では三界のバランスに亀裂が生じているのだ。
ここ最近ハディスと呼ばれる存在が顕著に姿を見せていて、それにより、今まで築いてきた体制が崩れる事を海王神は危惧していた。
それが完全に壊れる前に強い力を蓄えたいという思いもあった。
「僕も地上に行き、ルナリアを探します。このままここでただ待つだなんて出来ません」
「くれぐれも気をつけるんだぞ」
「大丈夫ですよ、僕に勝てるような力を持つものは少ないですから。何かあれば一帯ごと潰してきます」
曲がりなりにもリーヴは海王神の次に神力を持っている。
シェンヌとの戦いのときは誤ってルナリアを傷つけないようにと力を抑えていたのだが、人間や見知らぬ神相手であれば遠慮することはない。
(もしもルナリアに何かをしたのならば、僕はその者たちを絶対に許さない)
ルナリアを隠しているのが人間なのか神なのかまでは知らないが、自分からルナリアを奪うものをそのままにはしておけない。
「ルナリア……今君はどこにいるのだろうか」
心細い思いをしていないか、寂しくて泣いていないか、心配だ。
早く会って抱きしめてあげたいと、リーヴはぐっと拳を握る。
リーヴと海王神の思惑は違うものではあるが、目的は一緒であった。
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