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第52話 諍いと安否
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聞き覚えのある名に俺も地母神と部下の話に耳を傾ける。
「何故シェンヌがそのような事を……あれは自ら戦いに赴くような気性はしておらぬ。何かの間違いではないか? そしてシェンヌは無事なのか?」
それには俺も同意だ。
そのような気概があったとは思えないし、その対峙したという海底の神が先に何かをしたのではなかろうか。
「今は海底界にて拘束されているそうです。事が事だけにすぐには解放されなさそうですね。私たちも何かの間違いだとは思ったのですが、戦った相手が相手だけに嘘とも思えず、判断に困っております」
「そのシェンヌが戦った相手というのは、一体誰なのじゃ」
地母神の問いに、口ごもりつつも名を口にする。
「シェンヌが手を出したのは……海王神様のご子息であられる、リーヴ様、との事です」
「何だと?!」
その名を聞いて俺の方が驚愕してしまった。
(あいつがどうして……なぜ地上に来たんだ?)
そしてシェンヌと戦うようになったとは、二人の間で何が起きたのだろうか。
「あの小生意気な童が相手とは……それは厄介だのぅ」
さすがの地母神も口を閉ざし、眉間に皺を寄せている。
海王神の跡継ぎに喧嘩を挑むなど、たとえ誰であっても許されることではないだ。
しかも地上界の神が先に攻撃を仕掛けたとあれば、その責任は地母神が背負わなくてはならない。
あの陰険で性格の悪い海王神が何と言ってくるかを考えれば、決して悠長には構えてはいられない事案だ。
「まずはきちんとした事実確認をしよう。本当にシェンヌが先に手を出したのかなどを調べねばな。念のため詫びの品も準備しておくれ」
「はい」
急ぎ指示を出すと、俄かに宮殿は慌ただしくなった。一大事だからな。
「シェンヌはなぜ斯様なことをしたのか、他に何かわかっている事はあるか? そもそもリーヴはなぜ地上に?」
「それが偶々地上界に散歩に出ていたとの話です。その時にシェンヌがリーヴ様の奥方を狙ったらしく……」
「待て。あいつに妻だと? まさか、ルナリアの事じゃないだろうな」
「ソレイユ、落ち着け」
地母神が止めるが落ち着いてなどいられない。
「ルナリアが地上に来ていたのか? それはいつの話だ。彼女は無事なのか?」
「え、えっと、あの、」
詰めるように寄るがしどろもどろとするだけで、なかなか話をしない。
「どうなんだ!」
「ひぃっ!」
声を荒げれば、他の者がばたばたと部屋に入ってくる。
「何でもない。話を聞いて少し興奮しただけじゃ。皆早う仕事に戻れ」
地母神が集まってきた神人や部下を追い返す。
「リーヴの妻とはルナリアという女神か? 銀の髪に紫の目をした美しいものだと聞いているが」
「そうだと思います。ただシェンヌの攻撃を受け、地上ではぐれてしまったそうで……今どこにいるのか、無事なのかもわかっていないそうです。海底界の神も今探しているそうですが」
「待てソレイユ!」
急ぎ外に出ようとした俺を、地母神は強い力で引き留めてくる。
「止めないでください。ルナリアが今この地上のどこかにいるなら、急いで見つけ、匿ってあげないと」
慣れない場で心細い思いをしているかもしれない、もしかしたら怪我をし動けなくなっているかもしれないと思うと、シェンヌにも怒りが込みあげてくる。
(なぜシェンヌはルナリアを攻撃した? 会ったことがあるのか?)
リーヴならばいくら傷つけてもいいが、ルナリアに傷などつけていたら、理由は何であろうと許すつもりはない。
「ソレイユがルナリアを探したいのはわかるが、今は危険じゃ。聞いたじゃろ? 今海底界の神達がルナリアを探していると。鉢合わせになってしまえば、殺されてしまうかもしれない」
「ですがルナリアを思えば何もしないでいるなど出来ません」
「いかん!」
ぎりっと地母神の爪が肩に食い込む。
「妾が必ず見つけ、ここに連れてくる。だからソレイユは待っておれ。地の利もないそなたよりも、妾の部下達の方が早く見つけられようぞ」
確かに俺よりも地母神やその部下の方が地上に詳しく、情報も早い。
けれどリーヴもルナリアを探しているのだ。もしもあいつが先にルナリアを見つけでもしたらと思うと、胸がざわざわする。
「たとえ地上の神が見つけたとしても、リーヴが知れば引き渡せと言ってくると思います。ならば俺が探しに行った方がいい。これ以上地上界と海底界で諍いが起きたら取り返しのつかない事となってしまいますよ」
もしも俺が見つかったとしても、目撃したものを殺せばいいだけだ。
どうせ後ろ盾はないし、兄や地母神との関りをいうつもりもない。
部下二人も脅して従わせていたと言えば誰も傷つかないだろう。
今は何よりもリーブにルナリアを渡したくないという思いしか出てこない。
「馬鹿を申すな。言ったであろう、妾はソレイユの力になると」
地母神は俺の頭を撫で、優しい笑みを浮かべる。
「すぐにルナリアを保護し、引き合わせてやる。だから待っておれ」
そう懸命に訴えてくる地母神を見て、俺は頷くことしかできなかった。
「何故シェンヌがそのような事を……あれは自ら戦いに赴くような気性はしておらぬ。何かの間違いではないか? そしてシェンヌは無事なのか?」
それには俺も同意だ。
そのような気概があったとは思えないし、その対峙したという海底の神が先に何かをしたのではなかろうか。
「今は海底界にて拘束されているそうです。事が事だけにすぐには解放されなさそうですね。私たちも何かの間違いだとは思ったのですが、戦った相手が相手だけに嘘とも思えず、判断に困っております」
「そのシェンヌが戦った相手というのは、一体誰なのじゃ」
地母神の問いに、口ごもりつつも名を口にする。
「シェンヌが手を出したのは……海王神様のご子息であられる、リーヴ様、との事です」
「何だと?!」
その名を聞いて俺の方が驚愕してしまった。
(あいつがどうして……なぜ地上に来たんだ?)
そしてシェンヌと戦うようになったとは、二人の間で何が起きたのだろうか。
「あの小生意気な童が相手とは……それは厄介だのぅ」
さすがの地母神も口を閉ざし、眉間に皺を寄せている。
海王神の跡継ぎに喧嘩を挑むなど、たとえ誰であっても許されることではないだ。
しかも地上界の神が先に攻撃を仕掛けたとあれば、その責任は地母神が背負わなくてはならない。
あの陰険で性格の悪い海王神が何と言ってくるかを考えれば、決して悠長には構えてはいられない事案だ。
「まずはきちんとした事実確認をしよう。本当にシェンヌが先に手を出したのかなどを調べねばな。念のため詫びの品も準備しておくれ」
「はい」
急ぎ指示を出すと、俄かに宮殿は慌ただしくなった。一大事だからな。
「シェンヌはなぜ斯様なことをしたのか、他に何かわかっている事はあるか? そもそもリーヴはなぜ地上に?」
「それが偶々地上界に散歩に出ていたとの話です。その時にシェンヌがリーヴ様の奥方を狙ったらしく……」
「待て。あいつに妻だと? まさか、ルナリアの事じゃないだろうな」
「ソレイユ、落ち着け」
地母神が止めるが落ち着いてなどいられない。
「ルナリアが地上に来ていたのか? それはいつの話だ。彼女は無事なのか?」
「え、えっと、あの、」
詰めるように寄るがしどろもどろとするだけで、なかなか話をしない。
「どうなんだ!」
「ひぃっ!」
声を荒げれば、他の者がばたばたと部屋に入ってくる。
「何でもない。話を聞いて少し興奮しただけじゃ。皆早う仕事に戻れ」
地母神が集まってきた神人や部下を追い返す。
「リーヴの妻とはルナリアという女神か? 銀の髪に紫の目をした美しいものだと聞いているが」
「そうだと思います。ただシェンヌの攻撃を受け、地上ではぐれてしまったそうで……今どこにいるのか、無事なのかもわかっていないそうです。海底界の神も今探しているそうですが」
「待てソレイユ!」
急ぎ外に出ようとした俺を、地母神は強い力で引き留めてくる。
「止めないでください。ルナリアが今この地上のどこかにいるなら、急いで見つけ、匿ってあげないと」
慣れない場で心細い思いをしているかもしれない、もしかしたら怪我をし動けなくなっているかもしれないと思うと、シェンヌにも怒りが込みあげてくる。
(なぜシェンヌはルナリアを攻撃した? 会ったことがあるのか?)
リーヴならばいくら傷つけてもいいが、ルナリアに傷などつけていたら、理由は何であろうと許すつもりはない。
「ソレイユがルナリアを探したいのはわかるが、今は危険じゃ。聞いたじゃろ? 今海底界の神達がルナリアを探していると。鉢合わせになってしまえば、殺されてしまうかもしれない」
「ですがルナリアを思えば何もしないでいるなど出来ません」
「いかん!」
ぎりっと地母神の爪が肩に食い込む。
「妾が必ず見つけ、ここに連れてくる。だからソレイユは待っておれ。地の利もないそなたよりも、妾の部下達の方が早く見つけられようぞ」
確かに俺よりも地母神やその部下の方が地上に詳しく、情報も早い。
けれどリーヴもルナリアを探しているのだ。もしもあいつが先にルナリアを見つけでもしたらと思うと、胸がざわざわする。
「たとえ地上の神が見つけたとしても、リーヴが知れば引き渡せと言ってくると思います。ならば俺が探しに行った方がいい。これ以上地上界と海底界で諍いが起きたら取り返しのつかない事となってしまいますよ」
もしも俺が見つかったとしても、目撃したものを殺せばいいだけだ。
どうせ後ろ盾はないし、兄や地母神との関りをいうつもりもない。
部下二人も脅して従わせていたと言えば誰も傷つかないだろう。
今は何よりもリーブにルナリアを渡したくないという思いしか出てこない。
「馬鹿を申すな。言ったであろう、妾はソレイユの力になると」
地母神は俺の頭を撫で、優しい笑みを浮かべる。
「すぐにルナリアを保護し、引き合わせてやる。だから待っておれ」
そう懸命に訴えてくる地母神を見て、俺は頷くことしかできなかった。
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