50 / 83
第50話 情報共有
しおりを挟む
「天空界はこんなに不祥事が溢れるほどに無能ものばかりであったかのう!」
地母神は怒りを隠しもせず、強くこちらを非難する。
言いたい事はわかるが、彼女は自分の立場からそう言うのではなく、ほぼほぼ私怨からそう言っているのはわかっていた。
(ここに父上がいなくてよかった)
部下には万が一天上神が来たら伝えるようにとは言ってある。
折角話が出来る機会を潰されたくはない。
「地母神様の怒りは尤もな事です。私達が不甲斐ないばかりに心配ばかりを掛けてしまいまして、申し訳ありません」
私の言葉に地母神はますます顔を歪め、眉間に皺を寄せた。
私の部下も地母神の部下も、はらはらした表情でこちらを見つめている。
「ほぅ……そう言うからにはルシエルよ。伝言もなく勝手に宴を解散し、説明もなく追い返そうとした妾への無礼に対して、何か償いはあるのだろうな?」
普通の者であれば身震いしそうな程鋭い眼光で睨みつけられるが、そのような事で引きはしない。
私は逆に一歩前に出た。
「そうですね、ではお詫びの言葉を失礼します」
「は?」
私が耳元で伝えた言葉を聞いて、地母神は力任せに私の胸倉を掴み上げる。
(さすが最高神の一人、女性と言えども凄い力だ)
ギリギリと締め上げられるが、かろうじて呼吸は出来るところに温情を感じる。
「今の言葉は真実だろうな? 嘘をついていたら承知せぬぞ!!」
また地響きが鳴り、建物が揺れる。
「大きな声では言えないですが、本当です。出来ればここの神には内密にして欲しいですね」
「ふん!」
地母神は私を突き飛ばす勢いで手を離す。
「大丈夫だ」
駆け寄って来ようとする部下達を手で制し、再び地母神に向き直った。
「もしも嘘であればお前を許さぬからな」
不機嫌な顔は変わりないが、やや声が優しくなる。
「身に危険が及ぶような嘘をついたなどと知られたら私は殺されるでしょう。誰に、とは言いませんが」
不承不承と言った感じで、地母神は私に背を向ける。
「急ぎ確認に向かう。ルシエル、もしも本当であればそれ相応の褒美をお前にやろう」
「さすが地母神様はお心が広い。いえ、それだけ彼が大事な存在なのですよね」
「お前、まさか知っているのか?!」
驚く地母神に頭を下げる。
「弟からは色々と伺っています」
ソレイユは地母神との関係を教えてくれていた。
その事があったから、地上に落としたのもある。地母神なら必ずソレイユを助けてくれると信じていた。
(しかし直ぐに匿ってもらえるかはわからないし、地上の神全てがソレイユの味方をするとは限らない。こちらからも援軍を送らなければ)
地母神とて探すとすれば、信頼する部下にしかソレイユが生きていることを話さないだろう。
うっかり天上神へと伝わりでもすればいくら地母神とて庇いきれないだろうから。
「私は彼の味方です。ですから地母神様とも今後ぜひ仲良くして頂ければ嬉しいですね」
「……考えておこう」
逡巡してから地母神はそれだけ言って再び歩き始めた。
恐らくこの後すぐにソレイユを探す手筈を整えるはずだ。
私の方でもソレイユの部下に捜索させねば。
一旦私の部下として引き入れれば、天上神に知られる事なく地上界に送り込めるだろう。
口が堅く信頼に厚いものはもう見繕ってある。
「さすがに疲れたな……」
地母神の姿が見えなくなってから思わずため息が出てしまう。
少々気を張ったが、こうして直接話を出来て良かった。
(秘密裏に使者を送ろうと思ったが手間が省けたな。天上神に知られたらソレイユも私も命がない。そうなればルナリアを助ける事が出来なくなってしまう)
だがうまくソレイユを味方してくれる者が増えて安堵する。
今後も手を間違えないように気をつければ、いつか天上神を討つことが出来るだろう。
「大丈夫ですか? ルシエル様」
おずおずと声を掛けられ、私は顔を上げた。
見れば部下達が心配そうな表情をしている。
「すまない、大丈夫だ」
軽々しく泣き言や弱音を言うものではないな。
私はいずれ今の天上神に成り代わってこの世界を守っていかなければならない。
その為に誰よりも強い力を持って、そして誰よりもこの世界を想っていこう。
地母神は怒りを隠しもせず、強くこちらを非難する。
言いたい事はわかるが、彼女は自分の立場からそう言うのではなく、ほぼほぼ私怨からそう言っているのはわかっていた。
(ここに父上がいなくてよかった)
部下には万が一天上神が来たら伝えるようにとは言ってある。
折角話が出来る機会を潰されたくはない。
「地母神様の怒りは尤もな事です。私達が不甲斐ないばかりに心配ばかりを掛けてしまいまして、申し訳ありません」
私の言葉に地母神はますます顔を歪め、眉間に皺を寄せた。
私の部下も地母神の部下も、はらはらした表情でこちらを見つめている。
「ほぅ……そう言うからにはルシエルよ。伝言もなく勝手に宴を解散し、説明もなく追い返そうとした妾への無礼に対して、何か償いはあるのだろうな?」
普通の者であれば身震いしそうな程鋭い眼光で睨みつけられるが、そのような事で引きはしない。
私は逆に一歩前に出た。
「そうですね、ではお詫びの言葉を失礼します」
「は?」
私が耳元で伝えた言葉を聞いて、地母神は力任せに私の胸倉を掴み上げる。
(さすが最高神の一人、女性と言えども凄い力だ)
ギリギリと締め上げられるが、かろうじて呼吸は出来るところに温情を感じる。
「今の言葉は真実だろうな? 嘘をついていたら承知せぬぞ!!」
また地響きが鳴り、建物が揺れる。
「大きな声では言えないですが、本当です。出来ればここの神には内密にして欲しいですね」
「ふん!」
地母神は私を突き飛ばす勢いで手を離す。
「大丈夫だ」
駆け寄って来ようとする部下達を手で制し、再び地母神に向き直った。
「もしも嘘であればお前を許さぬからな」
不機嫌な顔は変わりないが、やや声が優しくなる。
「身に危険が及ぶような嘘をついたなどと知られたら私は殺されるでしょう。誰に、とは言いませんが」
不承不承と言った感じで、地母神は私に背を向ける。
「急ぎ確認に向かう。ルシエル、もしも本当であればそれ相応の褒美をお前にやろう」
「さすが地母神様はお心が広い。いえ、それだけ彼が大事な存在なのですよね」
「お前、まさか知っているのか?!」
驚く地母神に頭を下げる。
「弟からは色々と伺っています」
ソレイユは地母神との関係を教えてくれていた。
その事があったから、地上に落としたのもある。地母神なら必ずソレイユを助けてくれると信じていた。
(しかし直ぐに匿ってもらえるかはわからないし、地上の神全てがソレイユの味方をするとは限らない。こちらからも援軍を送らなければ)
地母神とて探すとすれば、信頼する部下にしかソレイユが生きていることを話さないだろう。
うっかり天上神へと伝わりでもすればいくら地母神とて庇いきれないだろうから。
「私は彼の味方です。ですから地母神様とも今後ぜひ仲良くして頂ければ嬉しいですね」
「……考えておこう」
逡巡してから地母神はそれだけ言って再び歩き始めた。
恐らくこの後すぐにソレイユを探す手筈を整えるはずだ。
私の方でもソレイユの部下に捜索させねば。
一旦私の部下として引き入れれば、天上神に知られる事なく地上界に送り込めるだろう。
口が堅く信頼に厚いものはもう見繕ってある。
「さすがに疲れたな……」
地母神の姿が見えなくなってから思わずため息が出てしまう。
少々気を張ったが、こうして直接話を出来て良かった。
(秘密裏に使者を送ろうと思ったが手間が省けたな。天上神に知られたらソレイユも私も命がない。そうなればルナリアを助ける事が出来なくなってしまう)
だがうまくソレイユを味方してくれる者が増えて安堵する。
今後も手を間違えないように気をつければ、いつか天上神を討つことが出来るだろう。
「大丈夫ですか? ルシエル様」
おずおずと声を掛けられ、私は顔を上げた。
見れば部下達が心配そうな表情をしている。
「すまない、大丈夫だ」
軽々しく泣き言や弱音を言うものではないな。
私はいずれ今の天上神に成り代わってこの世界を守っていかなければならない。
その為に誰よりも強い力を持って、そして誰よりもこの世界を想っていこう。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる