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第47話 二柱の関係

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 アテンとニックには目もくれず、地母神は真っ直ぐに俺を睨みつけている。

 室内にしばし緊張感が走る。誰も動けない。

「ソレイユ」

「……はい」

 名を呼ばれ応えると、地母神は俺の方に近づいてきて手を振り上げた。

 怒られることは覚悟していたので甘んじて受けようと思ったのだが。

「全く、心配をかけおって!」

 その手は俺の頬を打つではなく首に回され、ギュッと抱きしめられた。

「どういう、事ですか?」

 アテンは怪訝そうな顔をし、ニックはぽかんと口を開けて呆けていた。

 それは驚くだろうな。

 どちらも俺と地母神がこんな気安い関係とは思ってなかっただろうし、俺も伝えていなかったから。

 出来れば自分の口から言いたくないのもあった。

「何じゃソレイユ。お前部下に何も言ってないのか?」

「あまり言いふらす類の話ではありませんし、その事を言えば全てを伝えなくてはならないだろうと、躊躇しておりました」

 俺は地母神の手をおろし、アテンとニックに向き直る。

「黙っていて悪いとは思ったのだが、見ての通り俺と地母神様は血縁関係にあたる。色々とあって秘密にしていた、驚かせてすまないな」

「伯母と甥じゃ。疚しい関係にはないぞ」

 カラカラと笑う地母神の言葉にニックが目に見えて動揺している。

(男女の関係でも疑っていたか)

 そんな訳ないだろ、全く。

「それにしても良かった、妾の宝物よ。そなたが天から落とされたと聞いた時は天上神を殴り殺そうかと思ったぞ」

 泣きながらの頬ずりに、俺は思わず顔を背ける。

「心配をかけてしまいすみませんでした。しかし元はと言えば俺が悪いのですから。地母神様、落ち着いて下さい」

 流石に子どもにするような事はされたくない。何とか地母神の行動を回避する。

 それが気に障ったのか、地母神はややムッとしてしまった。

「いつまでそのような他人行儀な呼び方をするのじゃ。お前は大事な甥っ子なのだから、もっと気楽にせい」

 そう言われても暫く会ってない事や部下の手前では呼びづらい。

「それにしてもソレイユのせいとは、一体何があった? 詳細な話しは妾達は聞いておらぬ。ただソレイユが禁忌を犯したから罰として追放したとしか聞いておらぬのだが」

「その場にいた地上の神達は何も言っていないのですか?」

「どうやら天上神と海王神に脅されたらしくてな。聞ける雰囲気ではなかったわ」

 地母神は苛立たしげに吐き捨てる。

「就任する月の神も体調を崩したということでついぞ会えないままであったし、おかしな宴であったのぅ。ソレイユ、どうか真相を教えておくれ」

 流石に真実を知れば今度こそ怒られるであろう。

 もしかしたら天上神へと突き出されるかもしれないと覚悟を決め、俺は洗いざらい天空界であったことを話した。





 ◇◇◇







「我が甥に何と言うことを!」

 地母神は顔を赤くし怒りだした。

 アテンとニック、そして周囲に控えていた地上の神や神人もその怒りように萎縮してしまう。

「仕方ない事と思います。俺がしたことは許されない事なので」

「何を言う! 怒るのが当事者であるそのルナリアという娘ならわかるが、天上神が怒るのはお門違いであろう。そもそもあの男に口出しする権利はない!」

 ガミガミと怒る地母神に合わせ、地面が揺れる。

「それで地位を剥奪され落とされただと? 妾がいたらそんな事を許さなかったのに、あぁ腹立たしい」

 そう言って怒る言葉には俺への咎めの気持ちはなさそうだ。

「……あの爺、妾にこんな重大な事を秘密にしおって。娘が嫁いだ事で傷心だとか戯けたことをぬかして、今も仕事を放棄しておるな。すぐ乗り込んで張り倒してやろうか」

「落ち着いてください、伯母上」

 ついには立ってはいられない程地面が揺れ出した為、慌てて声をかけると揺れがぴたりとおさまった。

「あぁ可愛いソレイユ。またそう呼んでくれるとは、嬉しいなぁ」

 そう言って俺の頭を撫で始める、ようやく落ち着いてくれたようだ。

「伯母上、俺を天上神へとつき出そうとは思わないのですか?」

「それはないな。確かにソレイユは道から外れた事をしたが、天上神にも親としての責任があり、一概にソレイユのせいではないじゃろう。罰するのであればそのルナリアという娘も同罪であろう。それを娘可愛さにソレイユ一人に負わせるとはな。天上神はソレイユを突き放すのではなく、諭す道を取ればよかったはずじゃ。なのにそれを放棄し、息子を見捨てる道を選んだ。許し難い事じゃ」

 御尤もだとは思うが、ルナリアまで責められると心苦しいものだ。

「ルナリアは悪くありません。俺が彼女を誑かした、それだけは聞き入れてください」

「あの男の娘というだけで虫唾が走るが、しかしソレイユが選んだ娘ならば仕方ないか……本当は妾の知る信用が置ける娘を紹介しようと思ったのだが」

「地母神様」

 さすがに聞き捨てならない。

「そう怒るでない。わかった、今の言葉は撤回する。そなたが選んだのならばきっと良い娘なのであろう」

 やや腑に落ちないといった表情ながらもそれ以上は言及しては来なかった。

「そう言えばずっと怪我を治さぬままであったな」

 空気を変える為か、地母神は俺に手を翳し、俺の傷を癒していく。

 暖かな力が体に染み渡るが、心は晴れない。

「ありがとうございます」

「機嫌を直しておくれ。もうルナリアの事は悪く言わないし、折角会えたのだから。妾はソレイユの力になりたいのじゃ」

 心配そうに見つめて来る地母神の目を見て俺は自分の幼さをまた反省する。

(自分が責められるのはいいが、ルナリアを悪しく言われるのは我慢できないな)

 地母神はルナリアに会った事がない。

 それ故に俺を庇い、憎い天上神の娘であるルナリアを責めたくなる気持ちもわかる。

 けれどやはり愛する女性を責められるのは嫌なものだ。

 こうして助けてもらえてるというのに、それでもやはり気持ちは受け入れられない。

(この状態で助力を求めるというのは虫のいい話だな)

 申し訳無さばかりが募っていく。
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