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第40話 お人好し
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クラウンはとにかく見た目とは違って気配り上手であった。
わたくしの体調を気遣い、お金がないといっていたのに色々な果実を持って来てくれたり、部屋の掃除などもしてくれた。
「どうしてここまでしてくれるの?」
雨が続き、なかなか外に出られない中で、クラウンはわたくしの世話を甲斐甲斐しくしてくれる。
「そりゃあこんな美人でやすし、お腹に赤ちゃんがいるなら尚更優しくしないと
。男が廃るってもんでさぁ」
誇らしげに胸を張るけれど、そのお腹が唐突に鳴り響く。
「あぁすいやせん、耳苦しいもの聞かせちまって」
照れくさそうにクラウンは誤魔化すように笑う。
「そう言えば用事がありまして」
などと言ってそのまま部屋を出ようとしたから引き止めた。
「ねぇクラウン、もしかして何も食べていないの?」
わたくしに食べ物を与えてくれるのに、自分は口にしていないのではないか。
「いやぁお腹いっぱい食べやしたよ」
そそくさとクラウンは行ってしまった。
(きっとわたくしの為に無理をしているんだわ)
そんな事をしてもらう義理はないのに、申し訳ない。何らかの形でお返しをしないと。
わたくしに出来る事はあるかしら……少し大きくなってきたお腹を擦り、考える。
「人間の街ではお金が必要なのよね」
お金というものは聞いたことがある。それらは労働の対価や、価値あるものと交換するものだと。
仕事もした事がないし、売るような物なんてあるだろうか。
「……何も思いつかないわ」
そもそも外での暮らしをした事がないから、どうしたらいいのかなど見当もつかない。今まで誰かに用意してもらっていた生活だった為に、そういう考えも全く浮かばなかった。
「せめてルシエル兄様に会えたら」
兄様がいたなら、クラウンへの恩返しを一緒に考えて貰えただろう。
しかしこの雨では見つけるのも見つけてもらうのも一層困難だ。
あの日から続いている長雨で、気も滅入ってしまう。
そうして外を見ると見た事のある男性が外にいるのが見えて、思わず窓から離れる。
(あれはリーヴと一緒にいた方よね、まさかこんな所まで)
側にいる他の者は知らないが、もしかしてわたくしを探しているのだろうか。
(どうしよう、このままここにいたら見つかってしまう)
建物の中にも来てしまうかもしれない、何とかやり過ごさないと。
その時コンコンとノックの音が聞こえて思わず声が出そうになる。
「失礼しやす。何やら屋敷の周りをうろつく奴らが居やしてね。もしかしてあれは知り合いですか? 随分身なりのいい坊ちゃんばかりだからお嬢さんと同郷の方なのかと思って」
「知り合いではないです。どちらかと言うと会いたくない相手なの」
そう言うとクラウンが訝し気な表情をする。
「クラウン、お願い。どうか彼らと会わないように済むようにしてほしいの。実は複雑な事情があって……」
わたくしはかいつまんでクラウンに説明をする。
今まで助けてもらえた事や力を貸してもらうためには嘘は言えないと思ったのだ。
「なるほど、結婚したくない男と一緒にさせられたと。そうでやしたか」
クラウンはわたくしを責める事もなく、目頭を抑え、涙を拭う素振りを見せた。
「まぁお腹の子に罪はありやせんからねぇ……にしても、その金持ち坊ちゃんはあなたを逃がす気はないっぽいですねぇ。海の近くからこんな所まで探しに来るとは」
神という身分を隠して話したのだけれど、どうやらリーヴの事を金持ちの家の令息だと思ったみたいだ。
でもそのようなものだし、神族とは言えないから訂正はしない。
「では対応はあっしに任せてください。あっ! ちょっと頼みがあるんですが」
「えぇそれくらい良いですよ」
クラウンの言う事を信じ、躊躇いつつも了承をする。
わたくしの体調を気遣い、お金がないといっていたのに色々な果実を持って来てくれたり、部屋の掃除などもしてくれた。
「どうしてここまでしてくれるの?」
雨が続き、なかなか外に出られない中で、クラウンはわたくしの世話を甲斐甲斐しくしてくれる。
「そりゃあこんな美人でやすし、お腹に赤ちゃんがいるなら尚更優しくしないと
。男が廃るってもんでさぁ」
誇らしげに胸を張るけれど、そのお腹が唐突に鳴り響く。
「あぁすいやせん、耳苦しいもの聞かせちまって」
照れくさそうにクラウンは誤魔化すように笑う。
「そう言えば用事がありまして」
などと言ってそのまま部屋を出ようとしたから引き止めた。
「ねぇクラウン、もしかして何も食べていないの?」
わたくしに食べ物を与えてくれるのに、自分は口にしていないのではないか。
「いやぁお腹いっぱい食べやしたよ」
そそくさとクラウンは行ってしまった。
(きっとわたくしの為に無理をしているんだわ)
そんな事をしてもらう義理はないのに、申し訳ない。何らかの形でお返しをしないと。
わたくしに出来る事はあるかしら……少し大きくなってきたお腹を擦り、考える。
「人間の街ではお金が必要なのよね」
お金というものは聞いたことがある。それらは労働の対価や、価値あるものと交換するものだと。
仕事もした事がないし、売るような物なんてあるだろうか。
「……何も思いつかないわ」
そもそも外での暮らしをした事がないから、どうしたらいいのかなど見当もつかない。今まで誰かに用意してもらっていた生活だった為に、そういう考えも全く浮かばなかった。
「せめてルシエル兄様に会えたら」
兄様がいたなら、クラウンへの恩返しを一緒に考えて貰えただろう。
しかしこの雨では見つけるのも見つけてもらうのも一層困難だ。
あの日から続いている長雨で、気も滅入ってしまう。
そうして外を見ると見た事のある男性が外にいるのが見えて、思わず窓から離れる。
(あれはリーヴと一緒にいた方よね、まさかこんな所まで)
側にいる他の者は知らないが、もしかしてわたくしを探しているのだろうか。
(どうしよう、このままここにいたら見つかってしまう)
建物の中にも来てしまうかもしれない、何とかやり過ごさないと。
その時コンコンとノックの音が聞こえて思わず声が出そうになる。
「失礼しやす。何やら屋敷の周りをうろつく奴らが居やしてね。もしかしてあれは知り合いですか? 随分身なりのいい坊ちゃんばかりだからお嬢さんと同郷の方なのかと思って」
「知り合いではないです。どちらかと言うと会いたくない相手なの」
そう言うとクラウンが訝し気な表情をする。
「クラウン、お願い。どうか彼らと会わないように済むようにしてほしいの。実は複雑な事情があって……」
わたくしはかいつまんでクラウンに説明をする。
今まで助けてもらえた事や力を貸してもらうためには嘘は言えないと思ったのだ。
「なるほど、結婚したくない男と一緒にさせられたと。そうでやしたか」
クラウンはわたくしを責める事もなく、目頭を抑え、涙を拭う素振りを見せた。
「まぁお腹の子に罪はありやせんからねぇ……にしても、その金持ち坊ちゃんはあなたを逃がす気はないっぽいですねぇ。海の近くからこんな所まで探しに来るとは」
神という身分を隠して話したのだけれど、どうやらリーヴの事を金持ちの家の令息だと思ったみたいだ。
でもそのようなものだし、神族とは言えないから訂正はしない。
「では対応はあっしに任せてください。あっ! ちょっと頼みがあるんですが」
「えぇそれくらい良いですよ」
クラウンの言う事を信じ、躊躇いつつも了承をする。
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