天上神の大事な愛し子との禁忌の愛。けれど想いは消せなくて

しろねこ。

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第37話 初めての人間

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 ようやく人のいる場所まで来れたけれど、近づくのは怖くて出来ない。

(見たのも初めて……言葉も、通じるのかしら)

 自分達とは違うその存在にどう接したらいいのか分からず、隠れながら遠巻きに見るにとどめている。

 見つかったらどういう反応をされてしまうだろう。

(好意的な人間もいるらしいけれど、野蛮な者もいるから、あまり心を許してはいけないとも言われたわね)

 一人一人は弱いけれど、群れを成せば脅威だとも。

 それを考えれば声を掛ける気になれない。

(それにしても、楽しそうね)

 何を話しているのか聞こえないが、とても楽しそうに笑い合ったり、時には真剣な表情で話しをしている。

 家族なのか、それとも場所を同じくして働く者なのか、どういう関係かわからないけれど、羨ましい。

(あんな風に気安く話が出来る友達が欲しかったなぁ)

 ついぞそんな者は出来なかったからか、ああして仲良さそうに話す様子が羨ましい。

 そうして見つめているうちに、雨がぽつぽつと降り出した。

 急いでケープを被り、頭が濡れないようにする。

 道で話をしていた人たちも急ぎ家路に着いたようで、今はもう姿はない。

 そうして誰もいなくなった通りを恐る恐る進んでみる。

 どの家からも薄明かりが漏れていて、人の気配が感じられた。

(こんなにも人っているのね)

 建物の数だけ人がいると考えると、それはとても多く感じられた。

 家自体はわたくしが住んでいた宮殿に比べれば小さいけれど、先程幼い子ども達が母親らしき女性と入っていったのを見ると、家族一緒に暮らしているのだろう。

 他にも家に帰る人達を見たが、皆家族に迎えられていた。

「いいなぁ……」

 あんな風な、笑顔で帰宅を迎えられるような、明るい家に生まれたかった。

(でも今のわたくしは一人ではないのね)

 しっかりしないと。

 行く当てはないけれど、せめて屋根があるところを探し、歩みを進めた。



 

 ◇◇◇







 少し外れたところに、窓も割れて人もいないような屋敷を見つけた。

 灯りもなく、草なども伸びている。

 先程見てきた人のいた建物とは違い、廃れた雰囲気を感じたので入ってみたのだけれど、念の為に声をかける。

「誰か、いますか……?」

 しかし帰ってきたのは静寂のみ、むしろホッとした。

 ここなら人目に触れることなく、休めるかもしれないと。

「危うくどこかに連れて行かれてしまうところだったわ」

 先程一人で道を歩いていたら、見知らぬ者達に声を掛けられた。

 何を言っているのか分からなかったけれど、一緒に来るように言われたような気もする。

「さすがにこのような服で歩いていたから目立ったのかしら」

 人の着ている服はもう少し動きやすそうなもので、ドレスもこんなにひらひらとしていなかった。

 わたくしのように足首まで隠れるスカートの者はいなかったし、ズボンのものばかりであった。

 地上で生活するとはそういうものなのかも。

 何とか声を掛けてきた男性たちを振り切ったけれど、次は見つからないように気をつけないといけない。

 目立ってしまったら、リーヴやシェンヌの耳にまで届いてしまうかもしれないから。

「今は少し休まないと」

(少しだけお借りしますね)

 扉を閉め中に入るも、入口の側の窓は割れて風が入ってくる。

 濡れた体には尚更寒く感じられる、このままではまた体調を崩してしまうと、もう少し奥の、窓が割れていない部屋を探す。

 ちょうど休むのに良さそうな部屋を見つけたのでそこに入ると、雨が更に激しく降ってきたのが見えた。

「良かったわ、丁度いい所を見つけられて」

 もともとは寝室だったのだろうか、やや小さいがベッドがある。

 毛布はないし、多少埃もかぶっているが、休めるならば文句は言えない。

「もう、クタクタ」

 腰をおろした事でどっと疲れが出てくる。

 安心したせいか緊張も解け、眠気すら襲ってきた。

(少しだけ休もうかな)

 少しだけ膨らんだお腹を擦り、目を瞑る。

 そうするといつの間にか眠りに落ちたようで、気づけば夜となっていた。

(いつの間にか眠っちゃった……)

 そんな夢現な意識の中に、突如聞きなれない声が聞こえて来る。

「うら若き女性が一人でこのような所にいるなんて、危ないですぜ」

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