天上神の大事な愛し子との禁忌の愛。けれど想いは消せなくて

しろねこ。

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第36話 海と大地

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「ルナリア!」

 リーヴの操る水が鋭い刃となり、わたくしの周囲の植物を刈り取っていく。

 だが直ぐ様次の花々や草、そして木の根が怒涛のように押し寄せてきた。

 わたくしはリーヴの伸ばす手を見ないふりをして、反対の方向へと身を翻した。
 この好機をのがせば、もう地上に出ることは叶わないだろうと懸命に空を飛んで場を離れる。

「ルナリア、そちらじゃない!」

 尚も追い縋ってくるリーヴに向けて巨大な木の根が襲いかかる。

「あなたには悪いけれど、あの女だけは許せないわ!」

 シェンヌとリーヴの二柱が追って来ようとするが、互いが互いを攻撃している為、思ったよりも早く包囲網を抜けられた。

 力と力がぶつかる音が聞こえるが、振り返る事なく無我夢中で飛行する。

 昔ソレイユに空を早く飛ぶ方法を教えて貰っていたお陰で、何とか出し抜く事が出来た。

 シェンヌの領域だから危険だとは思ったものの森の中を進む事に決める。

 水のある川沿いではリーヴやその部下に見つかってしまう可能性もあり、そちらに近付くことは止めておいた。

 森の神はわたくしを捕まえようと植物達に命令したのだろうけれど、リーヴ達に気を取られているからか、戦いになれていないわたくしでも避ける事が出来た。

(とにかく遠くまで逃げよう、兄様にさえ会えれば大丈夫)

 地上にソレイユが居ると言うし、もしかしたら会えるかもしれない。

 けれどシェンヌとはどういう関係なのだろう。

(明らかに好意を持っている言葉だったわ。もしかしてソレイユの恋人だったとか?)

 彼がどういう交友関係を持っていたか、わたくしは何も知らない。

 自分と会う前に、好き合う女性が居たとしてもおかしくない。それ程ソレイユは魅力的だもの。

「いえ、今はそんな事を考えている場合ではないわ」

 リーヴに捕まったらしばらくまた地上まで来られないだろうし、シェンヌに捕まれば命はないだろう。

 夜が明け、朝が来ても止まるつもりはなかった。

 いつ後ろから追ってくるだろうかと気が気ではなく、落ち着かないせいだ。

 少しだけ浴びれた月光のおかげで体の調子も良いからか、疲れもなかなか感じなかった。

 ソレイユに会えるかもという期待もあって、体に力も漲る。

 けれど、さすがに限界は来るもので日が高くなるにつれ、段々と飛ぶ速度も落ちて来る。

(どこかで休まないと)

 後ろを見て、今のところ何の気配もない事を確認してようやく止まった。

 当てなどないけれど、とにかく隠れられる場所を探さないと。

 けれど外で眠った事もないし、木の上で休むなどしたらうっかり落ちてしまいそうだ。

「空も何だか暗くなってきたわ」

 先程まで空が見えていたような気がしたが、暗い雲が迫り、今にも覆われそうだ。

 空に広がる雲はとても黒い色をしている。もしかしたら雨が降るのかもしれない。

(天空界では経験したことないけど、確か大量の水が降るのよね)

 経験した事はないけれど、水に濡れる事を考えると体が震えてしまう。

 リーヴから受けた行いを思い出してしまうから。

(早い所どこか探さないと)

 森や川の近くを避けて道沿いを進む。建物がありそうな方を目指して飛ぶことにした。






 ◇◇◇





「ルナリア!」

 まさか地上の神がこうして襲ってくるとは思わなかった。

 それもルナリア狙いとは。

 追いかけようとするが、木の根や蔓が邪魔をする。

 蹴散らしても蹴散らしてもどこからともなくまた現れ、僕とルナリアの間に入り込んできた。

 ルナリアは次々と繰り出される攻撃に驚いたのか、僕とは反対方向に離れて行ってしまう。

 追いかけようにもこの女が邪魔だ

「貴様! こんなことをしてただで済むと思うなよ!」

 僕が誰なのかを知らないのか、そして彼女がどれ程大事な存在なのかを理解していないのか。

 怒りで目の前が赤く染まる。

「あんなにあの人の匂いをさせて見せつけて……あの獲物は八つ裂きにしないと気がすまない」

「あの人だと?」

 目が据わっており、キンキン声で喚いているところから、シェンヌもまた正気ではないようだ。

 意味も分からない事ばかりを言う女に対し、僕は激流を呼び寄せた。

「意味のわからないことばかり言いやがって。彼女は僕の妻だ、その彼女を傷つけようとした罪は許されない!」

 この女神を一刻も早く倒し、追いかけなくては。

 ルナリアの姿は時間が経つにつれ遠ざかっている。

「お前達、すぐにこいつを殺せ!」

 しかしここは森の中。

 水場から離れては力が発揮できないし、相手の領域となるとそう簡単には蹴散らせない。

 追いかける事はなかなか出来なかった。

「ルナリア!」

 あの状況ではあぁ逃げるのは仕方がないし、今は恐怖で混乱しているかもしれない。

 リーヴは目の前にいる女神に向かい、手を翳す。

「まともな死を迎えられると思うなよ」

 妻と子を取り戻すため、僕は焦っていた。

 本来であればこのような神同士の争いは許されない事だが、止むを得ない緊急時だ。

 地上界最高位の地母神からの怒りを買おうと、この女は殺す。
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