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第17話 森の奥
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「それで、相手は何人だ?」
対峙する前に相手の情報が少しでも欲しい。
昼の明るい内ならばまだ勝機があるだろうと、シェンヌにその敵のもとへと案内を頼んだ。
「それが、相手は一人なのです」
「一人?」
たった一人とは驚きだ。
それならばまだ何とかなったのではと思ってしまうが、彼女は戦う為の力はない為、このような事態になったそうだ。
見たところ、この森は広大である。そんな場所を統べるシェンヌはきっと強い神力を持つだろう、倒しこそは出来ないにしろ、撃退はしてきただろうに、それも出来ないとは。相手は一体どのような者か。
「私では、太刀打ちできません……今まで外敵を退けてはきましたが、あれは別格です。あんなにも強い者、今まで見た事がありません」
肩を落とす彼女にそれ以上は聞きはしなかった。
彼女は神力はあれども、ルナリアのように戦いに向かないタイプのようだし、正確な強さなんて誰しもがわからないものだ。
「こんな事しか出来ませんが……」
移動前にシェンヌによって体の疲れや怠さは取り除かれたのだが、シェンヌもルナリアのように癒やしの力を持つそうだ。
この借りも返したいものだ。
(それにしても他の神はこの森の異変に気付かなかったのだろうか?)
戦いに向く神が協力してくれてたなら違っただろうが、そうならなかったのなら近くにそういう者がいなかったのだろう。
(今まで平和だったんだろうな)
戦う力など必要がなかったのかもしれない。
大きな戦いもなく、これまでこのような大きな森を維持出来ていたとは、凄い事だ。
しかしだからといってシェンヌがサボっていたようには思えない。
このような綺麗な森を維持してきたわけだし、先程見た動物達もシェンヌを慕っていたように見える。並々ならぬ努力をしてきたのだろうとは容易に想像出来た、それを思えば力になりたい。
(俺のことも報告もせずに隠してくれていたようだしな)
俺がこの森に落ちたのはおそらくは夜、ならば件の者にもバレただろう。
それなのに殺されも囚われもせずに過ごせたのだから、シェンヌが匿ってくれたであろう事が予想出来る。
「安心しろ、俺が何とかする」
「……ありがとうございます」
ややくぐもった声出返ってくる。ちらりとみれば涙で目が潤んでいた。
(受けた恩は返さないとな)
◇◇◇
着いた場所は森の奥の鬱蒼とした所である。
太陽は真上をやや過ぎたが、それでもまだ明るい時間だ。なのにこんなにも影があるのは、木々が生い茂っていて日の光を遮ってしまうからか。
「暗いな……」
空気も重たく感じる。単に陽光がないからそう錯覚するのか、それとも奥にいる強敵の気配を感じてなのか、わからない。
今までにない緊張感だ。
シェンヌは青ざめた顔をし、立ち止まってしまう。怯えているのか、体も震えていた。
「この奥にいるんだな」
頷いたのを見て俺はゆっくりと呼吸を整える。
「シェンヌはここで待っていろ。俺だけで行くから」
「で、でも」
「何かあったら大変だからな、危ないから待っていろ」
自分一人ならともかく守りながらではどれだけ動けるかもわからない。
それにシェンヌに何かあればこの森自体に影響が及ぶだろう。彼女はこの森の神なのだから。
(そうなると俺の代わりはもういるのだな)
煌々と輝く太陽にはなんの影響も出ていない。つまり既に後任がいるのだろう。
(俺の居場所はもうないのだろう)
あの地位に未練はないがそれでも少し寂寥感を覚えた。
そんな余計な事を考えていた時、前方から唐突に黒い鞭が襲い掛かってくる。
「!!」
一本や二本ではない。
手の指程の太さのそれが数十本も俺に向かって繰り出された。
咄嗟に横へと飛び退るが、俺に合わせてそれらも追いかけて来る。
シェンヌの悲鳴が聞こえるが、構っている余裕はない。
(数は脅威だが、意外と動きは早くないな)
思ったよりも体は動けている。
父に力を返したのだが、兄から与えられた力もあるのだろう。
思ったよりも衰えた感じはない。
しかし、それでも余力があるとは言い難い。逃げ回っているだけではこちらの体力が消耗するだけだ。
「ならばこちらから攻めるか」
鞭の数は多いが、放たれる大元は一か所だ。
数多の鞭を掻い潜り、時には木を盾にして躱しながら、鞭を操る人物に向かい走る。
「卑怯者め、姿を見せろ」
進めば進むほど、黒が濃くなる。
まるで闇に向かって進んでいるような感覚だ、体が動かしづらくなってきた。
「わざわざこっちに向かってくるとは、面白い奴だな」
暗闇に浮かぶ赤い目と、白い牙が見える。
ようやくシェンヌとこの森を脅かす輩と遭遇する事が出来た。
対峙する前に相手の情報が少しでも欲しい。
昼の明るい内ならばまだ勝機があるだろうと、シェンヌにその敵のもとへと案内を頼んだ。
「それが、相手は一人なのです」
「一人?」
たった一人とは驚きだ。
それならばまだ何とかなったのではと思ってしまうが、彼女は戦う為の力はない為、このような事態になったそうだ。
見たところ、この森は広大である。そんな場所を統べるシェンヌはきっと強い神力を持つだろう、倒しこそは出来ないにしろ、撃退はしてきただろうに、それも出来ないとは。相手は一体どのような者か。
「私では、太刀打ちできません……今まで外敵を退けてはきましたが、あれは別格です。あんなにも強い者、今まで見た事がありません」
肩を落とす彼女にそれ以上は聞きはしなかった。
彼女は神力はあれども、ルナリアのように戦いに向かないタイプのようだし、正確な強さなんて誰しもがわからないものだ。
「こんな事しか出来ませんが……」
移動前にシェンヌによって体の疲れや怠さは取り除かれたのだが、シェンヌもルナリアのように癒やしの力を持つそうだ。
この借りも返したいものだ。
(それにしても他の神はこの森の異変に気付かなかったのだろうか?)
戦いに向く神が協力してくれてたなら違っただろうが、そうならなかったのなら近くにそういう者がいなかったのだろう。
(今まで平和だったんだろうな)
戦う力など必要がなかったのかもしれない。
大きな戦いもなく、これまでこのような大きな森を維持出来ていたとは、凄い事だ。
しかしだからといってシェンヌがサボっていたようには思えない。
このような綺麗な森を維持してきたわけだし、先程見た動物達もシェンヌを慕っていたように見える。並々ならぬ努力をしてきたのだろうとは容易に想像出来た、それを思えば力になりたい。
(俺のことも報告もせずに隠してくれていたようだしな)
俺がこの森に落ちたのはおそらくは夜、ならば件の者にもバレただろう。
それなのに殺されも囚われもせずに過ごせたのだから、シェンヌが匿ってくれたであろう事が予想出来る。
「安心しろ、俺が何とかする」
「……ありがとうございます」
ややくぐもった声出返ってくる。ちらりとみれば涙で目が潤んでいた。
(受けた恩は返さないとな)
◇◇◇
着いた場所は森の奥の鬱蒼とした所である。
太陽は真上をやや過ぎたが、それでもまだ明るい時間だ。なのにこんなにも影があるのは、木々が生い茂っていて日の光を遮ってしまうからか。
「暗いな……」
空気も重たく感じる。単に陽光がないからそう錯覚するのか、それとも奥にいる強敵の気配を感じてなのか、わからない。
今までにない緊張感だ。
シェンヌは青ざめた顔をし、立ち止まってしまう。怯えているのか、体も震えていた。
「この奥にいるんだな」
頷いたのを見て俺はゆっくりと呼吸を整える。
「シェンヌはここで待っていろ。俺だけで行くから」
「で、でも」
「何かあったら大変だからな、危ないから待っていろ」
自分一人ならともかく守りながらではどれだけ動けるかもわからない。
それにシェンヌに何かあればこの森自体に影響が及ぶだろう。彼女はこの森の神なのだから。
(そうなると俺の代わりはもういるのだな)
煌々と輝く太陽にはなんの影響も出ていない。つまり既に後任がいるのだろう。
(俺の居場所はもうないのだろう)
あの地位に未練はないがそれでも少し寂寥感を覚えた。
そんな余計な事を考えていた時、前方から唐突に黒い鞭が襲い掛かってくる。
「!!」
一本や二本ではない。
手の指程の太さのそれが数十本も俺に向かって繰り出された。
咄嗟に横へと飛び退るが、俺に合わせてそれらも追いかけて来る。
シェンヌの悲鳴が聞こえるが、構っている余裕はない。
(数は脅威だが、意外と動きは早くないな)
思ったよりも体は動けている。
父に力を返したのだが、兄から与えられた力もあるのだろう。
思ったよりも衰えた感じはない。
しかし、それでも余力があるとは言い難い。逃げ回っているだけではこちらの体力が消耗するだけだ。
「ならばこちらから攻めるか」
鞭の数は多いが、放たれる大元は一か所だ。
数多の鞭を掻い潜り、時には木を盾にして躱しながら、鞭を操る人物に向かい走る。
「卑怯者め、姿を見せろ」
進めば進むほど、黒が濃くなる。
まるで闇に向かって進んでいるような感覚だ、体が動かしづらくなってきた。
「わざわざこっちに向かってくるとは、面白い奴だな」
暗闇に浮かぶ赤い目と、白い牙が見える。
ようやくシェンヌとこの森を脅かす輩と遭遇する事が出来た。
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