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第11話 宴の前 

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 そしてとうとうお披露目の日が来た。

 今宵ルナリアが月の神になった事を知らせる、盛大な宴が開かれる。

 天空にいる神は疎か、地上や海中の神も呼ばれており会場は賑やかだ。

 初めての経験、初めて会う他の神々、ルナリアはその様子を遠くから見ただけで緊張し、今にも倒れそうな顔色をしている。

「あんなにもたくさんの方々がわたくしを見に来ているなんて……どうしましょう。心の準備が間に合いません」

 ルナリアはおろおろとして落ち着かず、控室の中を歩き回っている。

「大丈夫。俺がいるし、挨拶の時には兄上も側にいるから」

 今はまだ宴の開催時間ではないが、父と兄は少しだけ先に行って他の神々への挨拶をしている。

 本当は父がルナリアの付き添いを行ないたかったそうだが、
「天空界最高位の神が顔出ししないと各界の最高神に失礼でしょうが」
 と、兄に連れて行かれた。

 兄の言う事だけはきちんと守るのは凄いと思う。

(きっと今頃ルナリアについて色々な事を聞かれているだろうな)

 就任してからだいぶ日が開いている為に、皆興味津々のはずだ。

 そうでなくとも好奇心旺盛で宴好きな神達だ、酒が入った状態であるから歯に衣着せぬ言い方をしてくるだろう。
 何故すぐに宴を開かなかったのか、新たな月の神とはどのような者か、聞かない訳はない。

 普通であればそこまで注目されないのだが、通例と違うからどうしても目立ってしまう。

 その余計なプレッシャーのせいで殊更ルナリアは緊張していた。

 全ては父の我儘のせいなのだが、そんな事を皆の前で言えるはずもなく、もやもやはしてしまう。

「前に言っただろう、守ると。だからそこまで怖がらなくていい」

 ルナリアも俺も準備は出来ているし、時間的にもそろそろ行かなくてはならない。けれども怖がっているルナリアに無理はさせたくない。

 自分が同じ立場であったらばやはり怖いと思ってしまうだろうから。

(普段他の神と会う事もなく話をした事もない、そんな見慣れぬ大勢の者達の前に出て話をしろだなんて言われたら俺でも尻込みしてしまう)

 気持ちがわかるからこそ、ルナリアの心が整うまではとギリギリまでここに居ようと思った。

「そうですね。ソレイユとルシエルお兄様が居てくださるんだもの、絶対に大丈夫」

 ルナリアは深呼吸をしてどうにか自分を落ち着かせようと努めている。

 こういう時なのだが、そんな仕草も可愛らしいと感じてしまう。

 さすがに部屋内には身支度を整えてくれた神人もいるのだから、どうこうするつもりはないが。

 そうして部屋のノックがされた。

 応じれば入ってきたのは兄だ。

「準備は出来たか? 行くぞ」

 迎えに来てくれたようだが、それにしてはおかしい。父がいないのだ。

「兄上。父上は一緒ではないのですか?」

「他の者に掴まっていたから置いてきたが、いなくても特に支障はないだろ」

 断言する兄の言葉に少しだけルナリアの顔に笑みが戻る。

「ルシエル兄様もそんな事を言うのですね」

「何か問題な発言はあったか?」

 やや二人の関係は気安いもののように感じ、少しだけ妬いてしまう。

 が、これが本来の兄妹関係なのだろう。そう思えば羨ましくすら思う。

「二人は仲が良いですね」

 ぽつりと漏らした言葉に、ルナリアはキョトンとし、兄はいつも通りの無表情だ。

「普通の事だ。自分の家族だと思ったものは大事にするだろう」

 そこにそれ以上の感情はないのだろうかと少し考えるが、兄はこの前自分達の事を祝福すると言ってくれた。

 ならば本当に他意はないのだろう。

「ルシエル兄様はいつもわたくしの事を気に掛けてくれてて、それに何度も助けてもらっていますから」

 話しを聞くに父の犠牲になった神人達を可能な限り救い出してくれているらしい。

 それならばルナリアが信用する理由も頷ける。

「大したことはしていない」

 さらっと言うが充分凄い事だ。あの父を出し抜き、秘密裏にそのような事をするとはさすがとしか言えない。

「さぁそろそろ行こう。ソレイユ、ルナリアの隣にて色々と教えてやれ。私は他の神々への対応で忙しいからな」

 それは命令という名の気遣いか。

 口調は素っ気無いのに、この兄は本当に優しい。

「気負いすぎないように」

 ルナリアはようやく決心がついたようで、笑顔を取り戻した。

「はい、お兄様」

 ルナリアは俺の腕に手を添え、兄の後ろをついて歩く。

(腹違いの兄妹とは思えないな)

 こんな風に三人で仲良くずっと過ごせたら……そんな幸せはもうすぐ終わる。




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