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第7話 海底界

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 この世界には天空界、地上界、海底界などがある。

 空と陸と海に分かれた世界にそれぞれ神々が住まい、管理をしている。

 時に協力をし、時にいがみ合う彼らはだがそれでも関係を断つことは出来ない。

 空も陸も海もどこも繋がっているのだ、完全に別離することなどしたくとも無理な話だ。

 それ以外にも共通の敵がいるために力を合わせないといけない事、そしてこの世界を見守る存在があると古来より言い伝えられていることがある。

 世界の均衡を崩さないようにと。




 ◇◇◇




「なぜ兄上は俺に行けと命じたのだろう。こんな事他の者でもいいだろうに」

 俺はアテンとニックを引き連れて天空界より下降していく。

 今日は戦いに行くのではなく話をしに行かねばならないのだが、信頼する兄からの命令とはいえ些か腑に落ちない思いでいた。

「ソレイユ様じゃないといけない、何かしらの理由があったのでしょう。ルシエル様が気まぐれで言うとは思いませんから」

 隣で付き添うアテンが困った顔をしている。

「ソレイユ様が一番頼りになるからではないですか? 何があってもソレイユ様なら切り抜けられそうですもん」

 ニックは何も考えていない様な笑顔である。

「ルシエル様からの信頼が厚いのもあるでしょう。何かあるとすぐにソレイユ様に依頼が来ますし」

 アテンの言葉に首を傾げる。

「信頼ならばいいがな」

 単純に体のいい駒として扱われている感が否めない。

(兄弟だから言いやすい、というよりは使うのに便利なのだろう)

 兄がすることや決める事に間違いはないとは思っているが、それでも理由を伝えてくれないから、どう思っているのかわからない時がある。

 後々に教えてもらって納得する事もあるが、大抵は何も言ってくれないのでこうして困惑してしまう事もしばしばだ。

「忙しいのだろうけれど、最初に理由くらい教えてほしいものだ」

 そうすれば納得して動けるのにと、つい愚痴めいた気持ちが浮かんでしまう。

「そろそろ着きますね」

 そんな話をしながらついたのは海辺だ。

 砂浜を歩き、波打ち際まで行く。周囲に人がいないのを確認して、俺は両手を海に向けた。

「この呼びかけもめんどくさいものだ。どうせ何もかも聞こえているだろうに」

 海を通して全てを見、聞いているはずだから、来訪者に気づいているはずなのだが、一応昔から続く呼びかけ方法で声を掛ける。

 手に力を集中させ、深い海に届くように光を放った。

 一筋の光が海底に向かって充分に伸びただろうと見越して、俺は海底界に居るものに向けて呼びかける。

「失礼する、俺は天空界より使者として参った太陽神のソレイユだ。大事な話があって今日は来た、海底界への道を開けては貰えないだろうか」

 その声に呼応するように海がやや荒れ、波が高くなる。

 少ししてそれらが落ち着くと今度はゆっくりと海が裂け、そこから数名の人影が出て来た。

 その先頭に立つ者は俺を見て顔を顰めているが、そんなのは無視だ。

「久しぶりだな、リーヴ。元気にしていたか?」

 その先頭に居た不機嫌そうな男に労いの言葉を一応かける。しかし増々嫌そうな顔となった、心底俺の事が嫌いなのだろう。

「元気でしたよ、それで今日は何の用で来たのですか、ソレイユ」

 口調もやや不貞腐れた様な調子で、話したくはないというのがありありだな。
 だが俺も使者としてきたわけだからこのまま帰るわけにはいかない。

「海底界の神々に伝えてくれ。月の神就任の宴をすると」

「あぁようやくですか。噂には聞いていたがこんなにも就任のあいさつが遅いかと心配していましたよ。どれだけの深窓のお嬢様何だか」

 リーヴはわざとらしいため息をつく。

「そうだな。だからそろそろお披露目を行なうと、準備が整ったと天上神より海底界への伝言を賜ったのだ。それではこの旨を海王神並びに他の神達にも知らせてくれ。話はそれだけだ」

「それだけ、ですか?」

「それだけだ」

 そう言うと増々リーヴは不機嫌さを増した顔になる。

「たかが就任の宴の伝言の為にあなた程の者が来たなんて、信じられません。何か隠しているのではないですか?」

 こういう所が面倒臭い。これだからこちらもため息が出てしまう。

「兄に頼まれたからだ。それに妹の就任のお披露目という事で大事な式。その重要度を考えれば俺が知らせに来る事に何らおかしい事はないだろ」

「僕の就任の宴にあなたは出なかったのに、妹の為なら熱心という事ですか。お忙しい太陽神の事ですから覚えてもいないでしょうが」

 棘のある言葉にムッとなるも言い返すのは得ではない、ただ帰るのが遅くなるだけと理解しているので、流していく。

「仕方ない事だろ、外敵の討伐があったのだから」

 あの時、外敵の制圧に時間を要したために海底界まで行けなかったのだが、どうやら相当根に持たれているようだ。

「妹が余程大事なのですね」

「当然だろう、家族なんだから」

 何を当たり前のことを言うのか。

(この男とは昔から全く話が噛み合わないな)

 何が気に入らないのか。気づいた時にはこうして突っかかってくるような事ばかりを言う。

 悪いものではないのだろうけど、正直面倒だから顔を合わせたいとは思っていない奴の一人だ。

「お前の妹などどうせろくな女性ではないでしょう」

 俺はついに眉を顰める。

「生憎と優しくて、そしてとても美人だ。惚れるなよ」

 釘をさすものの、リーヴは俺の言葉を鼻で笑った。

「ソレイユの妹なのに? そんな事あり得ない」

(いやあの兄上の妹でもあるのだが)

 それすらも忘れてしまったのだろうかと問いたくもなるが、何を言っても聞かないだろう。

 どうにもリーヴは俺の事となると頭が弱くなる。

(妹と言っても異母妹なのだが、そうなれば俺がどうこうとかあまり関係ないと思うのだが)

 だがルナリアに興味を持たないのであればその方がいい。

 どうせ醜女なのだろうとリーヴは侮っている。

「そうだな。だからルナリアには手を出すなよ」

「あぁ」

 そんな言質を取ってはいたのだが気持ちは変わるもので、ルナリアを見て自分の言葉を一気に忘れてしまうとは、リーヴも想像していなかっただろう。






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