1 / 10
第1話 恋の始まり
しおりを挟む
レナンは恋をしている。
ここアドガルム国の王太子エリック=ウィズフォードにだ。
彼を知った時には、既に彼には婚約者がいた。
憧れている彼に、レナンはひっそりと眺めるだけの恋をする。
自分だけではない。
エリックは氷の王子と度々揶揄されている程、笑顔は硬く、その目も冷たく冷え切っていた。
しかしその人間離れした雰囲気が良いと、美しい顔立ちに見惚れる女性は多かった。
金髪翠眼、白い肌はきめ細かく、その双眸は切れ長で見るものを若干萎縮させる。
人形のように人間離れしたその美貌は、女性陣からの評判は良かった。
アカデミーに入学し同じクラスになった時は内心大喜びしていた。
遠くから、見つめ、憧れ、それで充分だと思った。
そもそも婚約者がいる人に手を出すなんて、貴族としてありえないのだから。
「あの、レナン様。内密でお話が……」
彼の従者、ニコラが放課後声を掛けに来た。
人気のないところに連れていかれ、そそっと何かを渡される。
「こちらの魔石を受け取ってほしいのです」
「魔石?」
見せられたのは手に納まる小さな魔石。
「このようなもの、ニコラ様から受け取れませんわ」
「こちら、僕からではなくエリック様からなのです。あなたに内密で渡して欲しいと」
ますます受け取れない!
「誤解されておられますが、こちらは観賞用ではなく、通信石となります」
「通信?」
「王家の秘術です。遠く離れた方と会話が出来るもの。特定の方との通信しかできないため、他の方は使えませんが」
レナンと会話したいという話だ。
「以前あなたは自己紹介の際に、他国の産業と貿易について興味があると話されていましたよね? いずれは留学してみたいと。語学も勉強中と聞きました。そこでエリック様は強い興味を持ち、あなたとそういう話をしてみたいとおっしゃったのです。しかしエリック様は婚約者のいる身分、いくらあなたと学術的な話がしたいと思っても周りの目が許しません」
そこで魔石を指し示した。
「なのでこの通信石を通してぜひエリック様にそのお知恵を貸して頂きたい。もちろん他言無用で。あなた様に迷惑がかかるといけませんからね」
改めて差し出され、レナンは考え込む。
急な申し出だし、受け取っていいものか。
「レナン様、念の為お聞きしますが婚約者様はいらっしゃいますか?」
婚約者がいるから遠慮されているのかと、尋ねられる。
「わたくしには婚約者がいませんわ。勉強ばかりで外見も磨かずに来たため、社交界デビューも父のエスコートでしたの。何度か婚約のお話はありましたが、ご覧の通り可愛げのない女ですので」
これからのパーティなどでいつまで父にエスコートしてもらえるか、心配だと話す。
いずれは誰かと結婚しなくてはいけないとわかっているが、相手がいない。
「もしよろしければ僕がエスコートを引き受けますよ。今後毎回お父上に頼むのも大変でしょうし」
もちろん通信石を受け取ってもらえるならばだが。
「婚約者が見つかるまでの間、あなたの盾になりましょう。他意はございません。僕も心に決めた人はいますので」
交換条件の一つです、とレナンに念を押す。
「あとこちらもレナン様と話すことで有益な話が出来ます。なので、もしも留学する際は国からの支援を約束します。レナン様なら貴重な人材となりますのでぜひ援助させてもらいたいのです」
どちらも魅力的なお話だが、戸惑いは拭えない。
「レナン様以外にも、有益な話が出来そうな方には声をかけています、重く受け止めず、交流のつもりで受け取ってもらえれば幸いです」
他の方にもという話を聞き、それなら誤解されずにすみそうだ。
それに自分だけ特別だなんて思う方が不遜だと、ようやくレナンは受け取った。
魔石は淡く光ると静かになる。
「これでレナン様以外にこの通信石は使えません。通信先はエリック様だけですので、会話は他にはもれません」
あとこちらを、とネックレスを渡された。
「万が一会話が聞かれたら困りますので、話す際はこちらに魔力を流してください。周りとの音が遮断され、盗み聞きなどを防ぐものです」
普段使いでもお守りになるためどうぞ、と渡される。
金鎖の先に小さな緑の魔石がついている。
制服の中にも隠せるし、目立たない。
「本日の夜、ノーヴェの刻にて通信させて頂きます。通信が来たら魔石が光りますので、魔力を流してください。お声だけなのであまり緊張なさらずに」
そう伝えるとペコペコと頭を下げながら、ニコラは足早に去っていった。
秘密の石に何だかドキドキしてしまう。
ここアドガルム国の王太子エリック=ウィズフォードにだ。
彼を知った時には、既に彼には婚約者がいた。
憧れている彼に、レナンはひっそりと眺めるだけの恋をする。
自分だけではない。
エリックは氷の王子と度々揶揄されている程、笑顔は硬く、その目も冷たく冷え切っていた。
しかしその人間離れした雰囲気が良いと、美しい顔立ちに見惚れる女性は多かった。
金髪翠眼、白い肌はきめ細かく、その双眸は切れ長で見るものを若干萎縮させる。
人形のように人間離れしたその美貌は、女性陣からの評判は良かった。
アカデミーに入学し同じクラスになった時は内心大喜びしていた。
遠くから、見つめ、憧れ、それで充分だと思った。
そもそも婚約者がいる人に手を出すなんて、貴族としてありえないのだから。
「あの、レナン様。内密でお話が……」
彼の従者、ニコラが放課後声を掛けに来た。
人気のないところに連れていかれ、そそっと何かを渡される。
「こちらの魔石を受け取ってほしいのです」
「魔石?」
見せられたのは手に納まる小さな魔石。
「このようなもの、ニコラ様から受け取れませんわ」
「こちら、僕からではなくエリック様からなのです。あなたに内密で渡して欲しいと」
ますます受け取れない!
「誤解されておられますが、こちらは観賞用ではなく、通信石となります」
「通信?」
「王家の秘術です。遠く離れた方と会話が出来るもの。特定の方との通信しかできないため、他の方は使えませんが」
レナンと会話したいという話だ。
「以前あなたは自己紹介の際に、他国の産業と貿易について興味があると話されていましたよね? いずれは留学してみたいと。語学も勉強中と聞きました。そこでエリック様は強い興味を持ち、あなたとそういう話をしてみたいとおっしゃったのです。しかしエリック様は婚約者のいる身分、いくらあなたと学術的な話がしたいと思っても周りの目が許しません」
そこで魔石を指し示した。
「なのでこの通信石を通してぜひエリック様にそのお知恵を貸して頂きたい。もちろん他言無用で。あなた様に迷惑がかかるといけませんからね」
改めて差し出され、レナンは考え込む。
急な申し出だし、受け取っていいものか。
「レナン様、念の為お聞きしますが婚約者様はいらっしゃいますか?」
婚約者がいるから遠慮されているのかと、尋ねられる。
「わたくしには婚約者がいませんわ。勉強ばかりで外見も磨かずに来たため、社交界デビューも父のエスコートでしたの。何度か婚約のお話はありましたが、ご覧の通り可愛げのない女ですので」
これからのパーティなどでいつまで父にエスコートしてもらえるか、心配だと話す。
いずれは誰かと結婚しなくてはいけないとわかっているが、相手がいない。
「もしよろしければ僕がエスコートを引き受けますよ。今後毎回お父上に頼むのも大変でしょうし」
もちろん通信石を受け取ってもらえるならばだが。
「婚約者が見つかるまでの間、あなたの盾になりましょう。他意はございません。僕も心に決めた人はいますので」
交換条件の一つです、とレナンに念を押す。
「あとこちらもレナン様と話すことで有益な話が出来ます。なので、もしも留学する際は国からの支援を約束します。レナン様なら貴重な人材となりますのでぜひ援助させてもらいたいのです」
どちらも魅力的なお話だが、戸惑いは拭えない。
「レナン様以外にも、有益な話が出来そうな方には声をかけています、重く受け止めず、交流のつもりで受け取ってもらえれば幸いです」
他の方にもという話を聞き、それなら誤解されずにすみそうだ。
それに自分だけ特別だなんて思う方が不遜だと、ようやくレナンは受け取った。
魔石は淡く光ると静かになる。
「これでレナン様以外にこの通信石は使えません。通信先はエリック様だけですので、会話は他にはもれません」
あとこちらを、とネックレスを渡された。
「万が一会話が聞かれたら困りますので、話す際はこちらに魔力を流してください。周りとの音が遮断され、盗み聞きなどを防ぐものです」
普段使いでもお守りになるためどうぞ、と渡される。
金鎖の先に小さな緑の魔石がついている。
制服の中にも隠せるし、目立たない。
「本日の夜、ノーヴェの刻にて通信させて頂きます。通信が来たら魔石が光りますので、魔力を流してください。お声だけなのであまり緊張なさらずに」
そう伝えるとペコペコと頭を下げながら、ニコラは足早に去っていった。
秘密の石に何だかドキドキしてしまう。
0
お気に入りに追加
346
あなたにおすすめの小説
とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
三月叶姫
恋愛
私はこの世界から嫌われている。
みんな、私が死ぬ事を望んでいる――。
とある悪役令嬢は、婚約者の王太子から婚約破棄を宣言された後、聖女暗殺未遂の罪で処刑された。だが、彼女は一年前に時を遡り、目を覚ました。
同じ時を繰り返し始めた彼女の結末はいつも同じ。
それでも、彼女は最期の瞬間は必ず笑顔を貫き通した。
十回目となった処刑台の上で、ついに貼り付けていた笑顔の仮面が剥がれ落ちる。
涙を流し、助けを求める彼女に向けて、誰かが彼女の名前を呼んだ。
今、私の名前を呼んだのは、誰だったの?
※こちらの作品は他サイトにも掲載しております
嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉
海林檎
恋愛
※1月4日12時完結
全てが嘘でした。
貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。
婚約破棄できるように。
人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。
貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。
貴方とあの子の仲を取り持ったり····
私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。
【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから
よどら文鳥
恋愛
私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。
五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。
私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。
だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。
「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」
この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。
あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。
婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。
両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。
だが、それでも私の心の中には……。
※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。
※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
旦那様の秘密 ~人も羨む溺愛結婚、の筈がその実態は白い結婚!?なのにやっぱり甘々って意味不明です~
夏笆(なつは)
恋愛
溺愛と言われ、自分もそう感じながらハロルドと結婚したシャロンだが、その婚姻式の夜『今日は、疲れただろう。ゆっくり休むといい』と言われ、それ以降も夫婦で寝室を共にしたことは無い。
それでも、休日は一緒に過ごすし、朝も夜も食事は共に摂る。しかも、熱量のある瞳でハロルドはシャロンを見つめている。
浮気をするにしても、そのような時間があると思えず、むしろ誰よりも愛されているのでは、と感じる時間が多く、悩んだシャロンは、ハロルドに直接問うてみることに決めた。
そして知った、ハロルドの秘密とは・・・。
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる