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追記 第二王子と蛇
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フィリオーネを送った後、エイディンに呼ばれて彼の部屋に行く。
「エイディン様、ゼインです」
「待ってたよ、入っておいで」
「失礼します」
部屋にいたのはエイディン一人だ。
「アマリア様は?」
「フィリオーネ嬢の歌を聞きにいっているよ、アマリアはフィリオーネ嬢のファンだもの」
エイディンは自らお茶を入れ、ゼインに振る舞う。
「エイディン様は聞きに行かなくて大丈夫なのですか? 月に一度のカナリアの歌を」
「そうだね、今日はいいかな。ゼインがここにいるとなると、そこまで効果は大きくないだろうし」
「効果、ですか」
ゼインは複雑な顔をする。
カナリア令嬢の夫となったことで、少しだけカナリアについての話を聞いてはいたが。
「カナリアの役目はただ歌うだけではない。その膨大な魔力によって大勢の人に癒しの恩恵をもたらす事だ」
フィリオーネが両親の死後、よく熱を出すようになったのは、歌わなかったからである。
本来であれば歌う事で魔力を放出するそうだが、それが出来なかった為にどんどんと内に溜まってしまい、体に悪さをするのだとフィリオーネの祖母であるラーナに教えてもらった。
しかし皆が皆魔力があるわけではなく、カナリアだけだそうだ。
何故かはわからないが、キャネリエ家のカナリア令嬢だけが癒しの魔法を使う事が出来、歌に魔法を乗せる事が出来る。
それゆえに貴重な女性として大切にされていたようだ。
(疲労を回復したり、傷を癒したり……昔は死者をも生き返らせると言われたそうだが)
今はそこまでの力はないらしい。
けれど、このような広範囲の回復魔法を使えるのは貴重というのには変わりがなく、故に国の大切な役目だといわれている。
(アマリア様はともかく、エイディン様はそれを知っていたはずだ)
カナリアについての話は王族であるなら知っているとラーナは言っていた、ならばエイディンが知らないとは考えづらい。
ククルを調べろと言われたが、その時既に彼女にカナリアとしての力がない事をエイディンはとっくに知っていたはずだ。
ククルの歌を聞く機会はたくさんあったのだから。
それでも調べるように命じたのは、フィリオーネの存在に掛けたからか。
「エイディン様。もしかして最初からフィリオーネがカナリアと気づいていたのですか?」
「いや、それ事はないよ。引きこもりで我儘と聞いていたし、彼女の歌は聞いたことがなかったからね。わかっていたのはククル嬢がカナリアではないって事くらいかな。でも確実に違うという証拠が欲しかったから、ゼインに調べてって頼んだのだけど、フィリオーネ嬢がまさかカナリアだなんて、その頃は本当に思っていなかった」
「ククル嬢がカナリアではないっていうのは、歌から魔力を感じなかったからですか?」
「ううん。アマリアが言っていたんだ。『あの人の歌、あまり好きではないです』って。だから絶対にカナリアではないと思ったんだ」
確信するには曖昧な理由であった。
「エイディン様はアマリア様を信じているのですね」
「信じているというか、好きだから? アマリアが黒と言えば、黒く染めてみせるよ」
エイディンは笑顔で怖い事をいう。
「フィリオーネ嬢がカナリアじゃなくても僕にはどっちでも良かった。けどアマリアが好きになったから令嬢だから応援したんだよ」
「それを俺の前で言いますか」
「アマリアには内緒ね」
エイディンは人差し指を唇に当てて、にこっと笑う。
(無邪気で裏のなさそうな顔だけれど、この仮面の裏は俺より酷いものが隠されている)
ゼインは眉間に皺を寄せる。
「エイディン様、話は終わりでしょうか。まだ間に合いますから、一緒にフィリオーネの歌を聞きに行きましょう」
「そうだね、アマリアもいる事だし。また今度ゆっくりと話をしよう」
エイディンが立ち上がり、ゼインもその後ろを付いていく。
王族として生まれて、第二王子として育てられ、そこにどれだけの苦労があったかはわからない。
ある日を境にエイディンは変わった。常に笑顔の仮面で己を取り繕うようになったのだ。
(カナリアでもエイディン様の心は癒せないだろうが……それでもその重圧を少しだけ軽くできるはずだ)
フィリオーネがアマリアを癒せばそのアマリアがまたエイディンを癒すだろう。
エイディンの心の支えはアマリアのようだから。
「ねぇゼイン。僕は君にも感謝しているよ。ずっと僕の味方をしてくれていたし」
突然言われた礼の言葉にゼインは少し戸惑った。
「ありがとうございます」
「だから僕も君の好きなカナリアを守るよ。色々なものからね」
それが何を示すのか、セルガやククル、他消息不明になった者達を思えばその答えはおのずと導かれる。
「あまり無茶はしないでくださいよ」
「気を付けるよ」
聞いているのか、いないのか。
エイディンの口調はいつも通り軽いものであった。
「エイディン様、ゼインです」
「待ってたよ、入っておいで」
「失礼します」
部屋にいたのはエイディン一人だ。
「アマリア様は?」
「フィリオーネ嬢の歌を聞きにいっているよ、アマリアはフィリオーネ嬢のファンだもの」
エイディンは自らお茶を入れ、ゼインに振る舞う。
「エイディン様は聞きに行かなくて大丈夫なのですか? 月に一度のカナリアの歌を」
「そうだね、今日はいいかな。ゼインがここにいるとなると、そこまで効果は大きくないだろうし」
「効果、ですか」
ゼインは複雑な顔をする。
カナリア令嬢の夫となったことで、少しだけカナリアについての話を聞いてはいたが。
「カナリアの役目はただ歌うだけではない。その膨大な魔力によって大勢の人に癒しの恩恵をもたらす事だ」
フィリオーネが両親の死後、よく熱を出すようになったのは、歌わなかったからである。
本来であれば歌う事で魔力を放出するそうだが、それが出来なかった為にどんどんと内に溜まってしまい、体に悪さをするのだとフィリオーネの祖母であるラーナに教えてもらった。
しかし皆が皆魔力があるわけではなく、カナリアだけだそうだ。
何故かはわからないが、キャネリエ家のカナリア令嬢だけが癒しの魔法を使う事が出来、歌に魔法を乗せる事が出来る。
それゆえに貴重な女性として大切にされていたようだ。
(疲労を回復したり、傷を癒したり……昔は死者をも生き返らせると言われたそうだが)
今はそこまでの力はないらしい。
けれど、このような広範囲の回復魔法を使えるのは貴重というのには変わりがなく、故に国の大切な役目だといわれている。
(アマリア様はともかく、エイディン様はそれを知っていたはずだ)
カナリアについての話は王族であるなら知っているとラーナは言っていた、ならばエイディンが知らないとは考えづらい。
ククルを調べろと言われたが、その時既に彼女にカナリアとしての力がない事をエイディンはとっくに知っていたはずだ。
ククルの歌を聞く機会はたくさんあったのだから。
それでも調べるように命じたのは、フィリオーネの存在に掛けたからか。
「エイディン様。もしかして最初からフィリオーネがカナリアと気づいていたのですか?」
「いや、それ事はないよ。引きこもりで我儘と聞いていたし、彼女の歌は聞いたことがなかったからね。わかっていたのはククル嬢がカナリアではないって事くらいかな。でも確実に違うという証拠が欲しかったから、ゼインに調べてって頼んだのだけど、フィリオーネ嬢がまさかカナリアだなんて、その頃は本当に思っていなかった」
「ククル嬢がカナリアではないっていうのは、歌から魔力を感じなかったからですか?」
「ううん。アマリアが言っていたんだ。『あの人の歌、あまり好きではないです』って。だから絶対にカナリアではないと思ったんだ」
確信するには曖昧な理由であった。
「エイディン様はアマリア様を信じているのですね」
「信じているというか、好きだから? アマリアが黒と言えば、黒く染めてみせるよ」
エイディンは笑顔で怖い事をいう。
「フィリオーネ嬢がカナリアじゃなくても僕にはどっちでも良かった。けどアマリアが好きになったから令嬢だから応援したんだよ」
「それを俺の前で言いますか」
「アマリアには内緒ね」
エイディンは人差し指を唇に当てて、にこっと笑う。
(無邪気で裏のなさそうな顔だけれど、この仮面の裏は俺より酷いものが隠されている)
ゼインは眉間に皺を寄せる。
「エイディン様、話は終わりでしょうか。まだ間に合いますから、一緒にフィリオーネの歌を聞きに行きましょう」
「そうだね、アマリアもいる事だし。また今度ゆっくりと話をしよう」
エイディンが立ち上がり、ゼインもその後ろを付いていく。
王族として生まれて、第二王子として育てられ、そこにどれだけの苦労があったかはわからない。
ある日を境にエイディンは変わった。常に笑顔の仮面で己を取り繕うようになったのだ。
(カナリアでもエイディン様の心は癒せないだろうが……それでもその重圧を少しだけ軽くできるはずだ)
フィリオーネがアマリアを癒せばそのアマリアがまたエイディンを癒すだろう。
エイディンの心の支えはアマリアのようだから。
「ねぇゼイン。僕は君にも感謝しているよ。ずっと僕の味方をしてくれていたし」
突然言われた礼の言葉にゼインは少し戸惑った。
「ありがとうございます」
「だから僕も君の好きなカナリアを守るよ。色々なものからね」
それが何を示すのか、セルガやククル、他消息不明になった者達を思えばその答えはおのずと導かれる。
「あまり無茶はしないでくださいよ」
「気を付けるよ」
聞いているのか、いないのか。
エイディンの口調はいつも通り軽いものであった。
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