上 下
18 / 19

第18話 エピローグ

しおりを挟む
 そうして選定の儀は終わった。

 途中フィリオーネが刺客に襲われる事態はあったものの、ゼインの活躍で未然に防がれた事で選定に支障は起きなかった。

 刺客を放ったのはセルガだ。

 セルガは選定の儀を邪魔しようとした事、そして令嬢誘拐を企てたとして、投獄される。

 その後については……内密に処理をされた。

 カナリアにもなれず、父もいなくなり、一人残されたククルだが、変わらずにカナリアを自称をし、周囲を困らせるようになってしまう。

「本物のカナリアはあたしよ、フィリオーネではないわ!」

 そう言って憚らず、そうしてその行為はどんどんとエスカレートしてしまう。

 一向にキャネリエ家の本邸から出て行こうとしないククルのもとへ、エイディンが訪れる。

「ねぇククル嬢。カナリアというのは国の大切な役割だと話をしたよね」

「えぇ。ですから容姿も、そして歌もフィリオーネよりも優れたあたしが継ぐべきです。だってこんなにも歌がうまくて、綺麗ですもの」

「わぁ凄い。そんなにも自分に自信があるって羨ましいなぁ。ねぇセクト、シャラ」

 エイディンが目配せをするとエイディンの後ろに控えていた二人がククルの腕を掴む。

「な、なに? 離してよ!」

 暴れようとするククルの手と口を素早く塞ぐと、二人は荷物のようにククルを抱える。

「カナリアを詐称するものには罰が下るんだよ。言ったでしょ? 国からの大事な役割だって。あまりにもひどい振る舞いだから、君は牢に入らなくてはならない。あぁ、君の親族からの了承も得ているから心配しないで」

 ククルは暴れるが体格の良い二人はびくともしない。

「フィリオーネ嬢はこれからこの国の顔となる大切な女性だ。それに僕の大事な親友の妻で大好きなアマリアのお友達、ね、君よりも全然大事な存在だろ?」

 エイディンはすっと笑顔を殺す。

「だから君は要らない。僕の前から消えて」

 怯え震えるククルに目をくれる事もなく、エイディンはその場を後にする。

 まるで何事もなかったのように。

「さて、そろそろアマリアの誕生日の用意をしなければ。今年はどんなぬいぐるみを送ろうかな」





 ◇◇◇





「あのゼイン様、そろそろお仕事の時間では?」

「嫌だ、行きたくない」

 そう言ってゼインはフィリオーネを抱きしめる。仕事へ行く時間が迫っているのに、ゼインは全く離れる気がないようだ。

 あの選定の儀でフィリオーネはカナリアに選ばれた。

 それ故生活が忙しくなり、二人きりの時間がなかなか取れなくなってしまったのだ。

「そうは言いますが、今日は一緒に王宮へ行く日ですもの。まだ良い方ではないですか?」

 今日は月に一度の王宮で歌を披露する日となっている。行き先が同じなので馬車も一緒なのだけれど、それでもゼインはごねていた。

「そうだけれど、あなたが他の男に見られるところを間近で見るのもつらい」

 ゼインとしてはフィリオーネが誰かと話したり、見つめられるのも嫌だそうだ。

(こんな事ならカナリアに選ばれない方が良かったのでは?)

 そんな考えが頭をよぎる事もあるが、フィリオーネには言えない。

 フィリオーネがカナリアになったことで、キャネリエ家を取り戻すことが出来たのだ。親戚づきあいも復活し、近々会う予定もある。

 皆で歌うという楽しい集会も復活するのだ。

「それはどうしようもない事なので……どうしたら納得していただけるでしょう」

 困ったように笑うフィリオーネを見て、ゼインの眉間にまた皺が寄る。

「そんな顔をさせたいわけではないし、我儘を言っている自覚はある。すまない」

 渋々といった様子でゼインはフィリオーネから離れた。

「私もゼイン様を悲しませたいわけではないので、何とかよい解決が出来ればと思います」

 離れてしまったゼインの手をフィリオーネが繋ぎ止める。

「もうすぐ夫婦となるのですから、あまりもやもやを抱えないように二人で考えていきましょう」

「あぁ」

 ゼインもまたフィリオーネの手を握り返して、ようやく馬車へと乗り込んだ。

「もやもやというか、一つ心残りがある。フィリオーネと一緒に行きたいところがあるんだ」

「行きたいところ、ですか?」

「フィリオーネさえ良ければだが、結婚式の前にフィリオーネの両親のお墓参りに行きたい」

 フィリオーネは小さく息をのむ。

「あなたがまだ気持ちの整理が出来ていないのならば、出来た時でいい。ただ結婚の挨拶をしたくて」

 その言葉にフィリオーネの目元にじわりと涙がこみ上げる。

「そう言ってくださるの、すごく嬉しいです。そうですね。私もカナリアになれたのだと、両親に報告をしたいです」

 亡くなってから一度もお墓参りにいけなかった。外に出てはいけないと言われた事もあるが、いまだに心の整理が付いていなかったからもある。

 葬儀に出られなかった負い目も感じていた。

「こんな蛇のような目つきの悪い男だが、結婚を許してもらえるだろうか」

「ふふ、絶対に許してもらえますよ。だってこんなにも優しい人ですから」

 フィリオーネはゼインに体を寄せ、ゼインもまた腕を回す。

「ぜひ今度一緒に行きましょうね、約束ですよ」

 ゼインと一緒であればきっと行ける。

 そう、どこへだって。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」 「私が愛しているのは君だけだ……」 「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」 背後には幼馴染……どうして???

手のひらサイズの令嬢はお花の中におりました

しろねこ。
恋愛
とても可愛い手の平サイズ。 公爵令嬢のミューズは小さな小さな女の子になってしまったのだ。 中庭にたまたま来た、隣国の第二王子一行が見つけるは淡く光る一輪の花。 お花に触れようとするが……。 ハピエン、両片思い大好きです(*´∀`*) 同名主人公にてアナザーストーリー的に色んな作品書いています! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

条件は飼い犬と一緒に嫁ぐこと

有木珠乃
恋愛
ダリヤ・ブベーニン伯爵令嬢は、姉のベリンダに虐げられる日々を送っていた。血の繋がらない、元平民のダリヤが父親に気に入られていたのが気に食わなかったからだ。その父親も、ベリンダによって、考えを変えてしまい、今では同じようにダリヤを虐げるように。 そんなある日、ベリンダの使いで宝石商へ荷物を受け取りに行くと、路地裏で蹲る大型犬を見つける。ダリヤは伯爵邸に連れて帰るのだが、ベリンダは大の犬嫌い。 さらに立場が悪くなるのだが、ダリヤはその犬を保護し、大事にする。けれど今度は婚姻で、犬と離れ離れにされそうになり……。 ※この作品はベリーズカフェ、テラーノベルにも投稿しています。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】契約結婚の妻は、まったく言うことを聞かない

あごにくまるたろう
恋愛
完結してます。全6話。 女が苦手な騎士は、言いなりになりそうな令嬢と契約結婚したはずが、なんにも言うことを聞いてもらえない話。

処理中です...