上 下
9 / 19

第9話 悪評と嘘

しおりを挟む
 しばらく三人で抱きしめ合い涙も落ち着いたところでゼイン様にお茶をすすめられる。

 泣いてしまったところを見られて、少し気恥ずかしさはあるけれど、温かいお茶で気持ちも落ち着く。

 一呼吸置いた後、今まで会えなかった理由を教えてもらった。

「ずっと俺達は騙されていたんだ。お前の叔父、セルガに」

「フィリオーネは誰にも会いたくないと言っているからと、屋敷に行く許可ももらえなかったの。手紙も受け取らないし、返事も書く気はなとだけ伝えられて」

「そんな子だとは思わなかったが、両親を亡くしてふさぎ込んでいるかもと強硬な手段はとれなかった。それに今はセルガが当主だ、逆らうことは出来なかった。」

 そのうちに私の悪評が流れ、親戚の間でも私に対して嫌悪感を持つものが出てきたらしい。

「中にはフィリオーネに会いに近くに行ったものもいたが、門前払いを食らったと。だが、押し切って会いに行けばよかった。そうすればこんなにも可哀想な目に合わせなかったのに」

「ごめんなさい。私がもっと勇気を出して外に出ればよかったのに」

「いや、それは違う。フィリオーネが外に出たいと言っても、あいつらは外に出す気はなかったはずだ」

 それは一体どういう事だろう。

「もうすぐ選定の儀があり、それで正式にカナリア令嬢が決まる。だが、フィリオーネ。あなたがその儀式に出なかったら、どうなる?」

「ククルが当主となるけど……でも私が出なくてもどうせ、ククルに決まるもの」

「いや、そうとは限らない。ラーナ様ならわかるでしょう? ククル嬢とフィリオーネ、どちらが選ばれるのか」

 ゼイン様はおばあ様に同意を求めるけれど、買い被り過ぎだわ。私はククル程上手ではないのに。

「えぇ、そうね。でも私の口からそれについては言えないの。でも上手いとか下手とかでは決まらないわ」

 前カナリア令嬢だったおばあ様は選定の基準を知っているの?

「何か、あるのですか? 選ばれる理由というか、意味が」

「ごめんなさいフィリオーネ、それは教えられない。でもね、頑張ったものにそれはついてくるの。だから努力する事は怠らないでいてね、そして何のために歌うのかを考えなさい。そうでないとカナリアには選ばれないわ」

 何のために歌うのか?

(私が歌う理由は……何だろう)

「上手に歌おうというものではなく、伝えたい相手を思って歌いなさい。そうすれば心に響く良い歌になるわよ」

「難しい……ですね」

 わかるようなわからないような。

 けれど、それならばククルが必ず選ばれるという事ではない、という事よね。

「おばあ様やおじい様は私の歌が下手とは思いませんか……?」

 昔ククルに言われたことはいまだ心に染みとなって残っている。

「下手なんて思ったことはないわ、とっても上手だもの。昔からあなたの歌を聞くと元気が出るし、あの日も、とても楽しみにしていたの」

 おばあ様の目には涙が浮かんでいた。

「フィリオーネの歌はいっとう上手いよ。聞くと心もワクワクする」

 おじい様も笑顔でそう言ってくれた。

「フィリオーネの歌声はとても綺麗で優しくて、ずっと聞いていたい。それはきっとフィリオーネの心根が優しいからだ。歌に人柄がにじみ出ている」

 ゼイン様の手が私の手に重ねられる。

「あなたはあのような目に合っても、不貞腐れることなく真面目に生きていた。誰を恨むことなく、誰も羨むことなく。そんな純粋な心に惹かれたんだ」

「そんな……買い被り過ぎです」

 おじい様とおばあ様の前でそんな風に言われると困ってしまう。また顔が熱くなってきたわ。

「もう、そんな風にいわれるとまた熱が出てしまいますから」

 手を離そうとするが離してくれない。

「最近は熱が出ることなく過ごせているから大丈夫だろう。きっとしっかり食べたり休んだりしているからではないか」

 それもあるとは思うけど、熱が出ないとは言えないのに。

「フィリオーネ、そう言う時は歌うと良いのよ。そうすると体がすっきりするの」

(そうなの?)

 思わぬ解決法だ。

「ラーナ様は、熱が出る原因をご存じなのですか?」

「えぇ。でも、今のこの子にはまだ教えられない。だからあなたにだけこっそり教えるわ」

 おばあ様はゼイン様にこっそり耳打ちをする。

 あっ、おじい様が凄い目でゼイン様を睨んでるわ。

「なるほど……そういう事だったのですね」

「あまり広めないでね。一応秘密の話だから」

 おばあ様は可愛く目を瞑るけれど、私は不満だ。

「何で当事者ではないゼイン様に教えるんですか、私も知りたいです」

「だってゼイン様は婚約者なのでしょ? 将来の夫だからいいじゃない」

 そう言われ、ゼイン様の顔が真っ赤に染まる。

「そう、ですが……俺がフィリオーネの夫と認めてもらって、いいのですか?」

「孫娘の為にここまでしてくれるのだもの、信じていますよ」

 おばあ様は優しい眼差しで私を見つめる。

「幸せになるのよフィリオーネ。いい人と出会ってよかったわね」

 その言葉でまた一つ、悩んでいたことから解き放たれた。

「ありがとうございます、おばあ様」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」 「私が愛しているのは君だけだ……」 「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」 背後には幼馴染……どうして???

手のひらサイズの令嬢はお花の中におりました

しろねこ。
恋愛
とても可愛い手の平サイズ。 公爵令嬢のミューズは小さな小さな女の子になってしまったのだ。 中庭にたまたま来た、隣国の第二王子一行が見つけるは淡く光る一輪の花。 お花に触れようとするが……。 ハピエン、両片思い大好きです(*´∀`*) 同名主人公にてアナザーストーリー的に色んな作品書いています! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

条件は飼い犬と一緒に嫁ぐこと

有木珠乃
恋愛
ダリヤ・ブベーニン伯爵令嬢は、姉のベリンダに虐げられる日々を送っていた。血の繋がらない、元平民のダリヤが父親に気に入られていたのが気に食わなかったからだ。その父親も、ベリンダによって、考えを変えてしまい、今では同じようにダリヤを虐げるように。 そんなある日、ベリンダの使いで宝石商へ荷物を受け取りに行くと、路地裏で蹲る大型犬を見つける。ダリヤは伯爵邸に連れて帰るのだが、ベリンダは大の犬嫌い。 さらに立場が悪くなるのだが、ダリヤはその犬を保護し、大事にする。けれど今度は婚姻で、犬と離れ離れにされそうになり……。 ※この作品はベリーズカフェ、テラーノベルにも投稿しています。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】契約結婚の妻は、まったく言うことを聞かない

あごにくまるたろう
恋愛
完結してます。全6話。 女が苦手な騎士は、言いなりになりそうな令嬢と契約結婚したはずが、なんにも言うことを聞いてもらえない話。

処理中です...