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第7話 人の温もり
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「カッツェ先生。フィリオーネ嬢を連れてきました」
「いらっしゃい、待っていたよ」
入った部屋の中では優しそうな男性が座っていた。もう一人女性がいるが、こちらは誰だろう。
「ゼイン、後はわたくしに任せて。あなたはエイディン様やアマリア様に今日あったことを先にお話ししてきなさい。二人共ずっとあなたの帰りを待っていたのよ」
「はい。ではフィリオーネ嬢をお願いします、母上」
「は、母上?! あの、シャルペ侯爵夫人様。わ、私は……」
これほどの方にはどんな挨拶をした方がいいのだろうか。
いや今はそれよりも早く、ゼイン様の腕から下ろしてもらわないと。
「シャルペ侯爵令息様、私――」
「ゼインだ。体は辛くなかったか?」
気遣いの言葉と共にゆっくりとベッドへと下ろされる。そして履いていた靴も脱がせてもらって(?!)横になるよう体勢を変えられた。
「ここまで来たのだからもうそんな呼び方は止めてくれ。呼ぶならゼインと」
有無を言わせぬ圧を感じ、コクコクと頷く。
「俺は席を外す。さすがにフィリオーネ嬢の診察に付き添うのは、まだ早いからな」
「代わりにわたくしが付き添うから安心してね」
にこにことするゼイン様のお母様は、まるで虫を払うかのようにゼイン様を追い立てる。
「さぁさ、あなたがいるとフィリオーネさんの診察が出来ないわ。あなたは早く出て行ってちょうだい」
「わかってる。フィリオーネ嬢、いやフィリオーネ。何かあったら俺を呼ぶんだぞ」
「は、はい。シャル……ゼイン様」
目力に負け、途中で言い直す。
それを聞いてゼイン様は満足そうな顔で部屋を後にした。
「あ、あの挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。私は……」
「そのまま寝ていて。すぐ診るから」
起き上がろうとした私の体をカッツェ医師が押し戻す。
「あなたの身元も内情も色々と知っているわ。だから自己紹介は不要よ。今はまずリラックスして、そして質問に答えてね」
「は、はい……」
ゼイン様のお母様にまで牽制されたらもう返事しかできない。
それにしても私の事を知っている? 一体何を、どこまで?
「そうそう、わたくしの名はオクタヴィアよ。ヴィアか、もしくはお母様と呼んでちょうだい」
「……ヴィア様と呼ばせてもらいます」
距離の詰め方に戸惑いながら、先生の診察を受けていく。
腕を握られたり、額に触れられたり、舌を伸ばすように言われたり。よく熱が出るのでそれについても色々と質問された。
「熱が出たのはいつが最初? 何歳くらいとか覚えている?」
「最初に出たのは……両親が亡くなる前でしょうか」
あの時、私が熱を出さなければ、きっと一緒に行けたのに。
あの時の事を思い出して心がキリキリと痛み、ぐっと服を握りしめて耐える。
「そう……発熱はだいぶ続いたの?」
「はい、しばらく下がらなくて……葬儀も、出れなくて」
握りしめた手の上からヴィア様の手が重なる。
何も言わないけれどその暖かさは心地良く、少しずつ気持ちも落ち着いてきた。
「どこかが悪いというは見受けられませんね。しばらく様子を見ましょう」
「やっぱり原因はわからないのですね……」
お医者さんが診てもわからないなんて。
やはり昔と同じく気持ちの問題なのだろうか。
「ですから、普段の様子を見ていきましょう、何を食べたとか触ったとか、アレルギーかもしれない。色々な視点から原因を一緒に探していきますよ」
「原因を探す?」
思いもしなかった事にだ。
「えぇ。わからないままではフィリオーネ様もつらいですよね。ですから徹底して調べるんです。その日あった事や、食べたもの、毎日記録をしてください。大変かと思いますが、頑張れますか?」
「はい、私頑張ります」
原因がわかるのなら何でもする。
何より、たくさんの人が私の為に色々としてくれたのだもの、ここで断るなんて不誠実な事はしたくなかった。
◇◇◇
「それでゼイン。ここまでの事をしたのだから、覚悟は出来ているな?」
「はい」
シャルペ侯爵は真っすぐに視線を返す息子を見て、満足そうに頷く。
「まぁあのように可愛らしい娘が家にくるというのは歓迎だ。第二王子の後押しもありますし。ねぇエイディン様」
「まぁゼインと僕の仲ですからね。親友の恋をもちろん応援します」
エイディンは楽しそうに笑っている。
「まぁ、後はフィリオーネ嬢がゼインを受け入れてくれればいいけど」
ぐさりと来る言葉に、ゼインは小さく呻く。
「好きになってもらえるように努力します」
「ダメだったらどうするの?」
「そ、れは……」
無邪気なエイディンに言葉に、ゼインは眉間に皺を寄せ苦痛に耐える表情になる。
「彼女が、幸せになれば、それでいい」
「おおー偉い偉い」
「あまりゼイン様をからかってはいけませんよ、エイディン様」
二人のやり取りを呆れたように見ていたアマリアは、シャルペ侯爵に向き直る。
「フィリオーネ様が本当にカナリア令嬢ならば、これからシャルペ侯爵家は大変になるか思います。それにフィリオーネ様も。くれぐれもお気を付けください」
「心配ありがとう、アマリア様。でも大丈夫」
シャルペ侯爵は目を細め、口元に笑みを浮かべる。
「こっちには頼りになる『蛇』がいるから」
「いらっしゃい、待っていたよ」
入った部屋の中では優しそうな男性が座っていた。もう一人女性がいるが、こちらは誰だろう。
「ゼイン、後はわたくしに任せて。あなたはエイディン様やアマリア様に今日あったことを先にお話ししてきなさい。二人共ずっとあなたの帰りを待っていたのよ」
「はい。ではフィリオーネ嬢をお願いします、母上」
「は、母上?! あの、シャルペ侯爵夫人様。わ、私は……」
これほどの方にはどんな挨拶をした方がいいのだろうか。
いや今はそれよりも早く、ゼイン様の腕から下ろしてもらわないと。
「シャルペ侯爵令息様、私――」
「ゼインだ。体は辛くなかったか?」
気遣いの言葉と共にゆっくりとベッドへと下ろされる。そして履いていた靴も脱がせてもらって(?!)横になるよう体勢を変えられた。
「ここまで来たのだからもうそんな呼び方は止めてくれ。呼ぶならゼインと」
有無を言わせぬ圧を感じ、コクコクと頷く。
「俺は席を外す。さすがにフィリオーネ嬢の診察に付き添うのは、まだ早いからな」
「代わりにわたくしが付き添うから安心してね」
にこにことするゼイン様のお母様は、まるで虫を払うかのようにゼイン様を追い立てる。
「さぁさ、あなたがいるとフィリオーネさんの診察が出来ないわ。あなたは早く出て行ってちょうだい」
「わかってる。フィリオーネ嬢、いやフィリオーネ。何かあったら俺を呼ぶんだぞ」
「は、はい。シャル……ゼイン様」
目力に負け、途中で言い直す。
それを聞いてゼイン様は満足そうな顔で部屋を後にした。
「あ、あの挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。私は……」
「そのまま寝ていて。すぐ診るから」
起き上がろうとした私の体をカッツェ医師が押し戻す。
「あなたの身元も内情も色々と知っているわ。だから自己紹介は不要よ。今はまずリラックスして、そして質問に答えてね」
「は、はい……」
ゼイン様のお母様にまで牽制されたらもう返事しかできない。
それにしても私の事を知っている? 一体何を、どこまで?
「そうそう、わたくしの名はオクタヴィアよ。ヴィアか、もしくはお母様と呼んでちょうだい」
「……ヴィア様と呼ばせてもらいます」
距離の詰め方に戸惑いながら、先生の診察を受けていく。
腕を握られたり、額に触れられたり、舌を伸ばすように言われたり。よく熱が出るのでそれについても色々と質問された。
「熱が出たのはいつが最初? 何歳くらいとか覚えている?」
「最初に出たのは……両親が亡くなる前でしょうか」
あの時、私が熱を出さなければ、きっと一緒に行けたのに。
あの時の事を思い出して心がキリキリと痛み、ぐっと服を握りしめて耐える。
「そう……発熱はだいぶ続いたの?」
「はい、しばらく下がらなくて……葬儀も、出れなくて」
握りしめた手の上からヴィア様の手が重なる。
何も言わないけれどその暖かさは心地良く、少しずつ気持ちも落ち着いてきた。
「どこかが悪いというは見受けられませんね。しばらく様子を見ましょう」
「やっぱり原因はわからないのですね……」
お医者さんが診てもわからないなんて。
やはり昔と同じく気持ちの問題なのだろうか。
「ですから、普段の様子を見ていきましょう、何を食べたとか触ったとか、アレルギーかもしれない。色々な視点から原因を一緒に探していきますよ」
「原因を探す?」
思いもしなかった事にだ。
「えぇ。わからないままではフィリオーネ様もつらいですよね。ですから徹底して調べるんです。その日あった事や、食べたもの、毎日記録をしてください。大変かと思いますが、頑張れますか?」
「はい、私頑張ります」
原因がわかるのなら何でもする。
何より、たくさんの人が私の為に色々としてくれたのだもの、ここで断るなんて不誠実な事はしたくなかった。
◇◇◇
「それでゼイン。ここまでの事をしたのだから、覚悟は出来ているな?」
「はい」
シャルペ侯爵は真っすぐに視線を返す息子を見て、満足そうに頷く。
「まぁあのように可愛らしい娘が家にくるというのは歓迎だ。第二王子の後押しもありますし。ねぇエイディン様」
「まぁゼインと僕の仲ですからね。親友の恋をもちろん応援します」
エイディンは楽しそうに笑っている。
「まぁ、後はフィリオーネ嬢がゼインを受け入れてくれればいいけど」
ぐさりと来る言葉に、ゼインは小さく呻く。
「好きになってもらえるように努力します」
「ダメだったらどうするの?」
「そ、れは……」
無邪気なエイディンに言葉に、ゼインは眉間に皺を寄せ苦痛に耐える表情になる。
「彼女が、幸せになれば、それでいい」
「おおー偉い偉い」
「あまりゼイン様をからかってはいけませんよ、エイディン様」
二人のやり取りを呆れたように見ていたアマリアは、シャルペ侯爵に向き直る。
「フィリオーネ様が本当にカナリア令嬢ならば、これからシャルペ侯爵家は大変になるか思います。それにフィリオーネ様も。くれぐれもお気を付けください」
「心配ありがとう、アマリア様。でも大丈夫」
シャルペ侯爵は目を細め、口元に笑みを浮かべる。
「こっちには頼りになる『蛇』がいるから」
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