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第6話 優しい世界
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あれよあれよと、言う間にゼイン様の屋敷、シャルペ侯爵邸についた。
離れを出る頃はまだ日も高かったけれど、もう夕方である
シャルペ侯爵邸はうちの本邸よりも豪華で、そして大きい。
「凄い……」
「うちは王族の遠縁だし、代々側近を務めている。こんなに大きくなくてもいいと思うが、ある程度見栄も必要だからな」
そう言って馬車を降りるとゼイン様は手を差し出してくれた。
「気をつけて」
乗り慣れてない事もあり、足元に不安もあった為、恐る恐る手を握らせてもらう。
男の人の手はこんなに大きくてゴツゴツしているのね。
父が亡くなってから男性に触れたことがないから、すっかりと忘れていた。
失礼はないかなとちらりとゼイン様を見ると眉間にはシワが寄り、目つきがさらに鋭くなっている。
「……」
こ、怖い……何か気に障るような事をしたかしら。
手を離そうとするが、離してくれない。
「ゼイン、また怖い顔になってるよ」
くすくすと笑いながら一人の男性が近づいてくる。
暗い中でもキラキラとした綺麗な金髪に柔らかな目元、すらりとしたスタイルの男性は私とゼイン様の側で立ち止まった。
「緊張するとより怖い顔になるんだから、そんなんじゃフィリオーネ嬢に嫌われてしまうよ?」
「嫌われ……っ!」
その言葉にショックを受けたのか、ゼイン様は固まってしまう。
「あ、あの、そんな嫌いになんてなりませんから」
その表情が、悲壮過ぎて思わず声を掛けてしまう。
「優しいね、こんな誘拐紛いに連れてこられたのに」
そう言った男性を後ろから女性が小突く。
「脅してはいけません殿下。そんな言い方ではフィリオーネ様だって怖がってしまいますわ」
次いで現れた女性もまた綺麗な人だった。
背筋はピンとしていてきりっとした目つき、燃えるような赤い髪はきっちりと結い上げられている。
なんだかこのようなキラキラとした人たちに囲まれて、一気に恥ずかしくなってきた。
「大丈夫か? 馬車酔いでも起こしたか?」
俯く私を心配してゼイン様が私を抱える。
「エイディン様、アマリア様。すみませんが先にフィリオーネ嬢を医師に診せてきます。お話はもう少々お待ちください」
突然抱えられた為に拒むことも出来ず、体はがちがちに固まってしまった。
「僕たちの事は気にせずに。早く診てもらってね」
「ひと目会えたので十分ですわ。後でまたお話をしましょうね、フィリオーネ様」
にこやかな笑顔のエイディン様と満足そうな表情のアマリア様に見送られ、ゼイン様に抱えられた私は侯爵邸へと向かう。
勢いに押されて、下ろしてほしいと言いそびれてしまった。
「あ、あの」
ゼイン様に私の声は届いていないようで、止まってくれない。
玄関前ではレイドが待っており、タイミングよくドアを開けてくれる。
「お帰り、ゼイン」
その言葉に私はますます固まってしまった。
だってゼイン様を呼び捨てにするような人物なんて、そう多くない。
「今戻りました。父上」
こんな体勢での対面だなんて、不敬すぎる。
心臓がバクバクして、呼吸が荒くなってきた。
(父上って事は侯爵様?! あぁ私、こんな格好で、こんな状態で)
とても人前で出ていい服ではないし、しかも侯爵様のご子息に抱えられているなんて、ありえない状況だ。
今すぐ床に頭をつけて謝りたい。
「話は後でゆっくりと聞くから、まずはフィリオーネ嬢を中に」
侯爵様はこんな私に対して、特に顔をしかめるとか怒るとかもなく、優しく微笑んでくれた。
「部屋の方にカッツェ医師を呼んでいるから、しっかりと診てもらうんだよ」
侯爵様は私を見て、頭を撫でてくれる。
「今まで辛かっただろう、これからは私たちが君の家族となるよ」
そう言って柔らかく微笑む顔が、亡き父を思い出させる。
思わずじわりと涙が滲んでしまい、声が詰まる。
「ありがとう、ございます……」
ゼイン様は少しだけ口を尖らせる。
「父上、フィリオーネ嬢を泣かせないで頂きたい」
「ははっ、それはすまなかった。さぁ早いところ診てもらおう。これ以上君と話すと息子の機嫌も悪くなるようだからね」
「?」
その意味はよくわからないけれど、こくんと頷いておく。
ゼイン様は再び歩き始めた。
「でもお医者様って……侯爵様の家では医師が常にいるのですか?」
医師を雇うのには相当のお金がかかると聞いた。
侯爵家ともなると普通の事なのだろうか。
「いや、シャルペ家に常駐はしていない。そんな事をしたら診てほしいものが診てもらえなくなるだろ」
どうやらお金の問題ではないらしいが、そんな考えした事もなかった。
(叔父様はいつも医師にかかるのは莫大なお金がかかるとしか言ってなかったから)
だから最近は呼ぶ事もなかった。
お金で独占するのではなく、必要な人に必要な治療が行くようになんて、シャルペ家はとても優しいのね。
「じゃあなんで今日はこちらに? 誰かほかにも診てもらう方がいるのではないですか? それならばその方を優先してください」
「違う。フィリオーネ嬢の為に呼んでいた。あなたはすぐ熱を出すのに医師も呼んでもらえなかっただろう。だからあそこから連れ出したら、診てもらうと決めていたんだ」
「私の為に?」
「あぁ」
思わぬ返答にまたしても声が出ない。
……なんでここの人たちはこんなにも親切なのだろうか。
離れを出る頃はまだ日も高かったけれど、もう夕方である
シャルペ侯爵邸はうちの本邸よりも豪華で、そして大きい。
「凄い……」
「うちは王族の遠縁だし、代々側近を務めている。こんなに大きくなくてもいいと思うが、ある程度見栄も必要だからな」
そう言って馬車を降りるとゼイン様は手を差し出してくれた。
「気をつけて」
乗り慣れてない事もあり、足元に不安もあった為、恐る恐る手を握らせてもらう。
男の人の手はこんなに大きくてゴツゴツしているのね。
父が亡くなってから男性に触れたことがないから、すっかりと忘れていた。
失礼はないかなとちらりとゼイン様を見ると眉間にはシワが寄り、目つきがさらに鋭くなっている。
「……」
こ、怖い……何か気に障るような事をしたかしら。
手を離そうとするが、離してくれない。
「ゼイン、また怖い顔になってるよ」
くすくすと笑いながら一人の男性が近づいてくる。
暗い中でもキラキラとした綺麗な金髪に柔らかな目元、すらりとしたスタイルの男性は私とゼイン様の側で立ち止まった。
「緊張するとより怖い顔になるんだから、そんなんじゃフィリオーネ嬢に嫌われてしまうよ?」
「嫌われ……っ!」
その言葉にショックを受けたのか、ゼイン様は固まってしまう。
「あ、あの、そんな嫌いになんてなりませんから」
その表情が、悲壮過ぎて思わず声を掛けてしまう。
「優しいね、こんな誘拐紛いに連れてこられたのに」
そう言った男性を後ろから女性が小突く。
「脅してはいけません殿下。そんな言い方ではフィリオーネ様だって怖がってしまいますわ」
次いで現れた女性もまた綺麗な人だった。
背筋はピンとしていてきりっとした目つき、燃えるような赤い髪はきっちりと結い上げられている。
なんだかこのようなキラキラとした人たちに囲まれて、一気に恥ずかしくなってきた。
「大丈夫か? 馬車酔いでも起こしたか?」
俯く私を心配してゼイン様が私を抱える。
「エイディン様、アマリア様。すみませんが先にフィリオーネ嬢を医師に診せてきます。お話はもう少々お待ちください」
突然抱えられた為に拒むことも出来ず、体はがちがちに固まってしまった。
「僕たちの事は気にせずに。早く診てもらってね」
「ひと目会えたので十分ですわ。後でまたお話をしましょうね、フィリオーネ様」
にこやかな笑顔のエイディン様と満足そうな表情のアマリア様に見送られ、ゼイン様に抱えられた私は侯爵邸へと向かう。
勢いに押されて、下ろしてほしいと言いそびれてしまった。
「あ、あの」
ゼイン様に私の声は届いていないようで、止まってくれない。
玄関前ではレイドが待っており、タイミングよくドアを開けてくれる。
「お帰り、ゼイン」
その言葉に私はますます固まってしまった。
だってゼイン様を呼び捨てにするような人物なんて、そう多くない。
「今戻りました。父上」
こんな体勢での対面だなんて、不敬すぎる。
心臓がバクバクして、呼吸が荒くなってきた。
(父上って事は侯爵様?! あぁ私、こんな格好で、こんな状態で)
とても人前で出ていい服ではないし、しかも侯爵様のご子息に抱えられているなんて、ありえない状況だ。
今すぐ床に頭をつけて謝りたい。
「話は後でゆっくりと聞くから、まずはフィリオーネ嬢を中に」
侯爵様はこんな私に対して、特に顔をしかめるとか怒るとかもなく、優しく微笑んでくれた。
「部屋の方にカッツェ医師を呼んでいるから、しっかりと診てもらうんだよ」
侯爵様は私を見て、頭を撫でてくれる。
「今まで辛かっただろう、これからは私たちが君の家族となるよ」
そう言って柔らかく微笑む顔が、亡き父を思い出させる。
思わずじわりと涙が滲んでしまい、声が詰まる。
「ありがとう、ございます……」
ゼイン様は少しだけ口を尖らせる。
「父上、フィリオーネ嬢を泣かせないで頂きたい」
「ははっ、それはすまなかった。さぁ早いところ診てもらおう。これ以上君と話すと息子の機嫌も悪くなるようだからね」
「?」
その意味はよくわからないけれど、こくんと頷いておく。
ゼイン様は再び歩き始めた。
「でもお医者様って……侯爵様の家では医師が常にいるのですか?」
医師を雇うのには相当のお金がかかると聞いた。
侯爵家ともなると普通の事なのだろうか。
「いや、シャルペ家に常駐はしていない。そんな事をしたら診てほしいものが診てもらえなくなるだろ」
どうやらお金の問題ではないらしいが、そんな考えした事もなかった。
(叔父様はいつも医師にかかるのは莫大なお金がかかるとしか言ってなかったから)
だから最近は呼ぶ事もなかった。
お金で独占するのではなく、必要な人に必要な治療が行くようになんて、シャルペ家はとても優しいのね。
「じゃあなんで今日はこちらに? 誰かほかにも診てもらう方がいるのではないですか? それならばその方を優先してください」
「違う。フィリオーネ嬢の為に呼んでいた。あなたはすぐ熱を出すのに医師も呼んでもらえなかっただろう。だからあそこから連れ出したら、診てもらうと決めていたんだ」
「私の為に?」
「あぁ」
思わぬ返答にまたしても声が出ない。
……なんでここの人たちはこんなにも親切なのだろうか。
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