上 下
16 / 21

第16話 社交界デビュー

しおりを挟む
「素敵! アリーナもルールーも凄く綺麗だわ」

「ラズリーもとっても可愛いわよ。それにしてもルールー、ラズリーのドレスだいぶ気合を入れて作ったんじゃない?」

「当然よ。ラズリーが一番可愛くなるようにデザインしたんだから」

 今日は社交界デビューの日だ。数多くの令嬢が王家や貴族に者に大人になったと認められる、大事なイベントである。

 デビュタントの三人は白いドレス、手袋、ティアラをつけている。

 三人の衣装はルールーが用意をし、ヘアセットはアリーナが担当した。

 いつもとは違う装いと雰囲気だけれど、三人は普段と変わらず話をしている。

「直接会場で待ち合わせとは言われていたが、こういう事か」

 いつもより大人びた装いのラズリーを見て、ファルクは目のやり場に困ってしまう。

 ボリュームのある髪は少し梳かれ、可愛らしい花が編み込まれていた。

 ドレスにはところどころ宝石が散りばめられており、細やかな光を放っている。

 眼鏡もリボンも外している為にいつもと印象も違うし、メイクもしっかりとしているために普段よりも一段と可愛く感じられた。

「こんな可愛いラズリーを先に見るなんて二人とも狡いぞ」

 ファルクが低い声で不満を漏らす。

「着飾るものの特権よ。可愛くしたのだから文句言わないの」

 アリーナが舌を突き出して揶揄う。

「そうよ。それに途中で文句を言われても困るから内緒にしていたの。露出が多いとか言いそうだし」

「そんなの当たり前だろ」

 デコルテ部分をレースにはしているが、それもファルク的にはあまり良くは思っていない。ラズリーの肌を誰にも見られたくないのだ。

「落ち着いてファルク、そこまで神経を尖らせるものではないよ」

 宥めるように間に入ったのはアリーナの兄のヴァイスだ、今日は妹のエスコート役として来ている。

「ルールー嬢の作るドレスはどれも可愛いし、ラズリーも喜んでいる。本人が喜んでいるのだから、難癖をつけるものではないよ」

 やや不安そうなラズリーの顔を見て、ファルクは言葉をのみ込んだ。

「もしかして似合っていない?」

「似合っているし、可愛いよ……」

 ラズリーが気に入っているのに自分の嫉妬で悲しい思いをさせてはいけない。

「似合い過ぎて他の人に見られるのが嫌なだけだ。このまま連れて帰りたい」

「今から挨拶なのよ」

 そんな事を言ってしまうファルクを宥めるように背を擦ると、ファルクはラズリーを抱きしめた。

「相変わらず重い愛情だね、ラズリーちゃん大丈夫?」

 ルールーのエスコート役として来たのは宝石の国パルスからの留学生、グルミアだ。

 普段は保健室登校なのだが、こういうイベントごとは好きで何だかんだと参加してくる。

 ルールーの昔からの知り合いで腐れ縁らしい。

「こんなんで参ってたらとっくに別れているわよ」

 ルールーは慣れた様子で返すが、傍目から見たら重すぎる事は間違いないし、グルミアの意見は正しいと思う。

(あたし達見慣れ過ぎているからだけれど、心配になるわよね)

 ヴァイスとグルミアの苦笑や態度は真っ当だなぁと思ってしまった。近過ぎると感覚が麻痺するものである。


 ◇◇◇


 そしていよいよ入場の時。ラズリーはファルクのエスコートを受け、名を呼ばれるのを待つ。

「うぅ、緊張する」

 大勢の人の前に出るわけだし、それに眼鏡もかけていない為何だか気恥ずかしい。

「大丈夫、俺がついている」

 安心させるように握られた手はとても力強かった。

 伯爵家であるアリーナとルールーは先に呼ばれ、堂々と入場を果たす。

 アリーナはヴァイスは赤い髪同士なのと、どちらも身長がある為にとても目立っていた。

 二人とも体を鍛えている為か背筋も真っすぐで動きにブレもなく、優雅な動きであった。兄妹であるから息もぴったりである。

 ルールーはいつも以上に神々しい。無表情なのも相まって近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、グルミアが代わりに愛想を振りまいていた。

 紫交じりの黒髪はこの国では少なく、ひと目でパルス国の者とわかる。

(そう言えばフローラ様もあの色よね?)

 ファルクの母親であるフローラも同じ髪色だ。今までそういう話を聞いたことはなかったが、もしかしてパルスに所縁があるのだろうか。

(今度聞いてみようかな)

「そろそろだ」

 ファルクの促しでラズリーははっとした。もう順番だなんて早いような気がする。

 ファルクの手を握り、ラズリーは深呼吸して気持ちを落ち着かせようとした。

(大丈夫、大丈夫……)

 心の中で唱え、そうして名が呼ばれた。

 ラズリーはファルクの腕に手を掛けて、皆の前へと歩み出る。

 周りを見る余裕はないけれど、蔑むような声や笑い声は聞こえない。

 安堵のため息をこっそり吐きながら、ラズリーは最後まで気を抜くことなく笑顔で歩歩を進める。

(きちんと出来た、と思う。これも皆のお陰ね)

 ラズリーは心の中で自分を褒め、そして色々とお手伝いをしてくれた友人達に感謝をした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。

石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。 ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。 騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。 ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。 力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。 騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~

バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。 幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。 「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」 その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。 そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。 これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。 全14話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

処理中です...