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第3話 婚約のきっかけ
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ファルクとラズリーの婚約は幼い時に交わされた。
父親が友人同士なのもあり、物心つく前から交流があり、親しい関係であった事が大きい。
近くに住んでいて公私ともに関りも深いので、助け合う事も多かった。
ラズリーの両親は公にはしていないが、子爵家ながらも王族の専属医師であり、多忙である。何かあればすぐに王城へと行かねばならず、特に王子達が小さいうちは呼び出される事が度々あった。
その為夜間でも家を空ける事があり、事情を知っていて家も近いファルクの家に、ラズリーは兄と共に預けられるようになる。
ラズリーはとても泣き虫で、両親と離れる寂しさから、泣きながらファルクの家に来る事もしばしばあった。
自分よりも小さい子が泣いているのを見て、ファルクは可哀想だと親身になって慰め、話を聞き、一緒に側で寝てあげたりしていた。
子どもの頃の話だから今は勿論そんな事はしていない。
大きくなるにつれてラズリーの泣き虫は治まってきたけれど、それでもファルクの心配性は抜けなかった。
ある日、母親に尋ねられる。
「ラズリーちゃんの事は好き?」
そう言われ、ファルクは顔を赤くしたのを覚えている。
言われるまでそんな自覚はなかったのだけれど、こうして気持ちが動揺するのはそういう事なのかと、胸がドキドキしてしまい困った。
「別に、そんな事……ないけど」
子ども特有の照れ隠しでそう答えたら、父親に頭を捕まれ、無理矢理顔を上げられ、視線を合わせられた。
「正直に言え。いいか、機会はもうないかもしれないんだぞ」
凄みのある顔でそう問われ、ファルクは照れ隠しもそこそこに、恐怖心から素直に気持ちを吐露する。
「可愛くて、守ってあげたい。好き、だと思う」
そう言うと父は離してくれた。
昔狂犬と呼ばれていた父はすぐ怒るし、怖い。
周囲の者に噛みつくように喧嘩を売っていたから、そう呼ばれていたそうだ。掴まれた頭がじんじんと痛む、子ども相手なんだから手加減をして欲しい。
痛む頭を母親も共に撫でてくれた。
「ならばラズリーと婚約を結ぶか」
「え?!」
そこまではさすがに考えていなかった。
「将来有望だと思われる者には、すぐに婚約者がつく。ラズリーは既に高度な治癒魔法を使えるし、薬学も好きらしく将来そういう仕事をしたいというやる気もある。貴族の殆どは親の仕事を受け継ぐのが一般的だから、ラズリーは将来王族専属医師になる可能性が高い。そうなると王族に近づきたいものがラズリーを利用してのし上がろうとするはずだ。隠してはいてもああいう輩は金と権力の為なら何でもするからな」
「ラズリーを利用?」
その言葉はどう聞いても良い意味などない。
「そんな事するやつは許せない。ラズリーを守れるのなら俺、婚約します」
「ラズリーが了承すればな」
正直この時はまだ婚約という言葉の意味をよくわかっていなかった。ただラズリーが誰かに傷つけられるなんて許せなかっただけだ。
今ではあの時の決断は最良だったと思っている。
早くに目標が出来ていた事で、他の追随を許さない程成長出来たからだ。
◇◇◇
「幼馴染の婚約者? いるけど、正直あまり大きな声で言いたくないな」
学園に入りたての頃、級友たちがそんな話をしているのが耳に入る。
次は体を動かす授業という事で、動きやすい服装に着替えているのだが、男しかいないからか、かなり突っ込んだ内容の話をしていた。
ファルクは第二王子であるリアムの側に付き従いながら、聞こえてくる内容に耳を傾ける。自分も幼馴染と婚約しているから多少気になったのだ。
「だってこうして学園に入ってさ、驚いたよ。美人は多いし華やかだし……いかに自分が小さな世界で過ごしてきたのかって目が覚めた。ずっと可愛いって思っていた婚約者が、大したことないって思うようになったさ」
「……」
ファルクはそれを聞いても、どうという事も感じなかった。
人それぞれ感じる事は違うし、自分とは考えが異なるものだ、という感想しかわかない。
「婚約解消や破棄も考えてしまうさ。だって他の子は綺麗で家柄もいいのに、自分の婚約者は地味でパッとしないし家柄もそんなに良くなくて、恥ずかしい。いつまでも過去の約束に縛られなくてもいいんじゃないかなって」
(色々な考えの者がいるものだが、こいつは恥ずかしい奴だ)
ファルクのように自分で望んだ婚約でないと、そう思うものだろうか。
相手を貶す程この男が優れているようにも見えない。
こんなところで自分の株価を下げる様な話をするような者は大したことはないだろう。
現に隣にいるリアムとその従者も話が耳に入ったのか苦笑している。
(ファルクとはだいぶ考えが違うね)
小声でそう言われ、一緒にされたくはないなと眉間に皺が寄った。
(そもそも考えが浅い。破棄や解消など軽々しく口にしてはいけないものだ)
婚約は家同士の契りだし、正当な理由がない限り解消も破棄も許されない。
言われたら傷つく者の方が多いだろうし。
(それをそんな矮小な考えで、このような場で破棄したいなどと言う者は碌な奴ではない。将来リアム様の側に近付かせるものではないな)
至極真面目な顔で分析しながら、ラズリーの事を思い出してしまう。
ファルクの幼馴染婚約者はいつも可愛く、解消や破棄をしたいとは思わない。が、させようとする者は多いのに辟易する。
(解消させようとする者の意味は分からないが、彼女を傷つけようとする者を放置する気はない)
ラズリーが大好きだからなのもあるが、彼女は将来重要な仕事に就く者だ。
だからアリーナやルールーなど、友人として彼女を支えつつ、且つ物理的な攻撃からも守るために側にいる。
アリーナの父もルールーの父も王族の護衛騎士をしている。その血を継ぎ、鍛えてきた二人は口撃だけではなく、戦う術を持っていた。
ラズリーはそんな頼もしい者達に囲まれているのだが、本人は実はあまりその意識がない。
生まれてきた時からずっと秘密裏に守られているのだが、誰も言わないし、ラズリーは自分の価値を知らないので、自分が特別だとは欠片も思っていない。
そんな彼女だから、義務感に囚われることなく、ファルクもそして自由人なアリーナやルールーも側にいるのだ。
父親が友人同士なのもあり、物心つく前から交流があり、親しい関係であった事が大きい。
近くに住んでいて公私ともに関りも深いので、助け合う事も多かった。
ラズリーの両親は公にはしていないが、子爵家ながらも王族の専属医師であり、多忙である。何かあればすぐに王城へと行かねばならず、特に王子達が小さいうちは呼び出される事が度々あった。
その為夜間でも家を空ける事があり、事情を知っていて家も近いファルクの家に、ラズリーは兄と共に預けられるようになる。
ラズリーはとても泣き虫で、両親と離れる寂しさから、泣きながらファルクの家に来る事もしばしばあった。
自分よりも小さい子が泣いているのを見て、ファルクは可哀想だと親身になって慰め、話を聞き、一緒に側で寝てあげたりしていた。
子どもの頃の話だから今は勿論そんな事はしていない。
大きくなるにつれてラズリーの泣き虫は治まってきたけれど、それでもファルクの心配性は抜けなかった。
ある日、母親に尋ねられる。
「ラズリーちゃんの事は好き?」
そう言われ、ファルクは顔を赤くしたのを覚えている。
言われるまでそんな自覚はなかったのだけれど、こうして気持ちが動揺するのはそういう事なのかと、胸がドキドキしてしまい困った。
「別に、そんな事……ないけど」
子ども特有の照れ隠しでそう答えたら、父親に頭を捕まれ、無理矢理顔を上げられ、視線を合わせられた。
「正直に言え。いいか、機会はもうないかもしれないんだぞ」
凄みのある顔でそう問われ、ファルクは照れ隠しもそこそこに、恐怖心から素直に気持ちを吐露する。
「可愛くて、守ってあげたい。好き、だと思う」
そう言うと父は離してくれた。
昔狂犬と呼ばれていた父はすぐ怒るし、怖い。
周囲の者に噛みつくように喧嘩を売っていたから、そう呼ばれていたそうだ。掴まれた頭がじんじんと痛む、子ども相手なんだから手加減をして欲しい。
痛む頭を母親も共に撫でてくれた。
「ならばラズリーと婚約を結ぶか」
「え?!」
そこまではさすがに考えていなかった。
「将来有望だと思われる者には、すぐに婚約者がつく。ラズリーは既に高度な治癒魔法を使えるし、薬学も好きらしく将来そういう仕事をしたいというやる気もある。貴族の殆どは親の仕事を受け継ぐのが一般的だから、ラズリーは将来王族専属医師になる可能性が高い。そうなると王族に近づきたいものがラズリーを利用してのし上がろうとするはずだ。隠してはいてもああいう輩は金と権力の為なら何でもするからな」
「ラズリーを利用?」
その言葉はどう聞いても良い意味などない。
「そんな事するやつは許せない。ラズリーを守れるのなら俺、婚約します」
「ラズリーが了承すればな」
正直この時はまだ婚約という言葉の意味をよくわかっていなかった。ただラズリーが誰かに傷つけられるなんて許せなかっただけだ。
今ではあの時の決断は最良だったと思っている。
早くに目標が出来ていた事で、他の追随を許さない程成長出来たからだ。
◇◇◇
「幼馴染の婚約者? いるけど、正直あまり大きな声で言いたくないな」
学園に入りたての頃、級友たちがそんな話をしているのが耳に入る。
次は体を動かす授業という事で、動きやすい服装に着替えているのだが、男しかいないからか、かなり突っ込んだ内容の話をしていた。
ファルクは第二王子であるリアムの側に付き従いながら、聞こえてくる内容に耳を傾ける。自分も幼馴染と婚約しているから多少気になったのだ。
「だってこうして学園に入ってさ、驚いたよ。美人は多いし華やかだし……いかに自分が小さな世界で過ごしてきたのかって目が覚めた。ずっと可愛いって思っていた婚約者が、大したことないって思うようになったさ」
「……」
ファルクはそれを聞いても、どうという事も感じなかった。
人それぞれ感じる事は違うし、自分とは考えが異なるものだ、という感想しかわかない。
「婚約解消や破棄も考えてしまうさ。だって他の子は綺麗で家柄もいいのに、自分の婚約者は地味でパッとしないし家柄もそんなに良くなくて、恥ずかしい。いつまでも過去の約束に縛られなくてもいいんじゃないかなって」
(色々な考えの者がいるものだが、こいつは恥ずかしい奴だ)
ファルクのように自分で望んだ婚約でないと、そう思うものだろうか。
相手を貶す程この男が優れているようにも見えない。
こんなところで自分の株価を下げる様な話をするような者は大したことはないだろう。
現に隣にいるリアムとその従者も話が耳に入ったのか苦笑している。
(ファルクとはだいぶ考えが違うね)
小声でそう言われ、一緒にされたくはないなと眉間に皺が寄った。
(そもそも考えが浅い。破棄や解消など軽々しく口にしてはいけないものだ)
婚約は家同士の契りだし、正当な理由がない限り解消も破棄も許されない。
言われたら傷つく者の方が多いだろうし。
(それをそんな矮小な考えで、このような場で破棄したいなどと言う者は碌な奴ではない。将来リアム様の側に近付かせるものではないな)
至極真面目な顔で分析しながら、ラズリーの事を思い出してしまう。
ファルクの幼馴染婚約者はいつも可愛く、解消や破棄をしたいとは思わない。が、させようとする者は多いのに辟易する。
(解消させようとする者の意味は分からないが、彼女を傷つけようとする者を放置する気はない)
ラズリーが大好きだからなのもあるが、彼女は将来重要な仕事に就く者だ。
だからアリーナやルールーなど、友人として彼女を支えつつ、且つ物理的な攻撃からも守るために側にいる。
アリーナの父もルールーの父も王族の護衛騎士をしている。その血を継ぎ、鍛えてきた二人は口撃だけではなく、戦う術を持っていた。
ラズリーはそんな頼もしい者達に囲まれているのだが、本人は実はあまりその意識がない。
生まれてきた時からずっと秘密裏に守られているのだが、誰も言わないし、ラズリーは自分の価値を知らないので、自分が特別だとは欠片も思っていない。
そんな彼女だから、義務感に囚われることなく、ファルクもそして自由人なアリーナやルールーも側にいるのだ。
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