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ハインツの仕事

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ハインツは生まれた時からナ=バークの駒だった。

リンドールへ来たのは、この国の金が目当てだったから。

隙が多くやりたい放題、女王に命じられるがままに動く。

貴族や平民を攫い、優秀ならばナ=バークの兵士へと仕立て上げた。

そうでなければ他国へ売った。

麻薬や脅し、時には命を奪い、様々な人を言いなりにしてきた。

リンドールの大臣を隠れ蓑として使うため、親しくなっておいた。

最初からいざとなったら切り捨てるつもりでいた。

麻薬を売ったお金をたくさん献上し、尊敬しているという名目で近づいて、商売に誘った。

そのうちに社交界デビューの時期となった。

エリックがレナンを見初めた瞬間、各国の要人が数多く居た。

ナ=バークの女王も勿論いたが、女王から迸る冷気に死ぬかと思った。

表情も変えず扇をへし折っていたが、気づく者は少なかった。

ハインツに、レナンを口説いてエリックから引き離せと命じたのは、女王だ。

レナンを騙すのは少しだけ心が痛んだが、それだけだった。

命じられるまま、次の結婚も出来ないようにと手を出そうとしたのだが、見えない刃が喉元にあたる。

「レナン様に手を出すな」
ハインツにしか聞こえない声で脅される。

姿は見えないから、認識阻害で見張っていたのだとわかった。

後々に護衛術師のキュアだとわかったが、それ以降ハインツはレナンに手を出すことが出来なくなった。

あの時から見えないのに殺気を感じる事が増えたからだ。

次にレナンに手を出せば、躊躇いなく殺されるだろう。

予定を変更し、ディエスを陥れて投獄し、レナンを拘束することを目論んだ。

宰相や貴族達が人身売買について、貴族の関与が疑わしいと発言し出した事と、レナンを陥れる必要性があったので、邪魔な宰相に罪を押し付け、ついでに危なくなってきた商売から身を引く予定をたてた。

女王より、牢獄内にて拷問の末にレナンを殺せと命ぜられたが、捕まえる前に行方を暗まされて、捕らえる事が出来なかった。

調べるとなんとアドガルムにいるという。

あちらに疑われてはまずいと、すぐに婚約破棄をしてレナンとの関係を絶ってしまった。

仕留める前に捕まってはいけないと思っからだ。

せっかくレナンをエリックから奪ったのに、エリックの元に行ってしまった。

きっと女王はお怒りになるに違いないとハインツの体は震え、怯えた。

女王は失敗したものに容赦はしないからだ。

ならばエリック達の従者を寝返らせようと考えたが、強固な絆で結ばれた彼らは靡きもしなかった。

より一層絆を強くする。

そのうちにラーラの存在を知られ、所在を突き止められて、捕縛に来たアドガルム兵と交戦することとなった。

ハインツはラーラに助けられて逃げられたが、ラーラが捕まってしまった。

魔封じをつけられ、ラーラは証言を促される。

大臣については包み隠さず証言し、ハインツについても不自然じゃないくらいの嘘をついて、難を逃れた。

女王の関与は一言ももらさないようにとラーラは細心の注意を払っていた。

リンドールに忍び込ませていたナ=バークの間者がラーラを逃し、背格好の似た女の焼死体を置いておく。

簡単な偽装工作だが、しないよりマシだ。

そしてついにラドンは処刑され、エリックとレナンの婚約が発表された。

女王がハインツとラーラに命じたのは、信じられない事だった。

「エリックを攫ってくること」
これは死ねと言っているものだ。

あれだけ守られ、そして強いエリックを攫うなんてできるわけがない。

そしてたった二人で王太子を攫おうなど出来るわけがない。

しかし、ノーとはいえないのだ。

ナ=バークの民にとって、女王の命令は絶対である。

昔から受け継がれてきた教えと、体にに流れる血がそうさせる。

女王がアドガルムの王太子に固執する理由は多々あるが、この度見たエリックの氷魔法は大きな決め手となった。

彼が王配になるのに反対など起きることはなさそうなくらい、見事なものだった。

今のアドガルム国王の数代前になるが、ナ=バークの王族との婚姻もあった。

その為少なからず血は流れているはずだが、エリックには特にその血が色濃く出たとしか思えない。

人形のような見た目と性格、そして強い氷魔法は女王の隣に立つためとしか思えなかった。

リンドールの屋敷にいるのを知り、ずっと見張っていた。

護衛もいない二人っきりという好機。

レナンは殺しても構わないし、ラーラが少しでもエリックに触れさえすれば、転移魔法でナ=バークに連れていけるはずだった。








だが計画は崩れ、死の恐怖が迫っていた。

痛い、熱い、寒い、苦しい、死にたくない。

どうせ死ぬなら最後の最後抵抗を。

「死ぬのは嫌だーーー!」
ハインツは最大級の魔法を使い、意識を失った。
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