冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。

文字の大きさ
12 / 31

婚約

しおりを挟む
「あ、愛…」
顔中どころか今なら体も赤い気がする。

目の前の王子様がレナンに愛と言ったのだ、どの恋愛小説よりもドキドキしてしまう。

そもそもあの時レナンが感じたときめきは、本来エリックから与えられたものだ。

人違いでハインツと思っていたが、本来の初恋相手が自分に告白してくれた。

思わずふらりとソファに倒れ込む。

「大丈夫か、レナン!」
「大丈夫です、あまりの展開に目眩が…」
目が合わせられない。





少しして何とか体を起こすことができた、意を決する。


「わたくしもエリック様が好きです。あの時のときめき、そして、こちらに来てからの優しさ。凄く嬉しかったです」
いつも優しくしてくれた人。

今だって人違いに気づいても怒ることもない。

そして、冤罪を一緒に信じてくれている。

レナンを信じて認めてくれている事はとても嬉しいだ。

レナンの言葉にどう思っただろうか。

エリックはゆっくりと呼吸をし、瞳がレナンの方を向く。

そしてそっと手を取られた。

「凄く、嬉しい。恋が実るとは嬉しいものだな」
穏やかな、優しい笑顔だ。

氷の王子様だなんて、思えない。

今の笑顔を額に収めて眺めていたい程だ。

「すぐに婚約を…」
「嬉しいですが、婚約となると…お断りさせてください」
控えめに言ったレナンの言葉に、エリックの体が固まる。

「俺のことが好き、だよな?」
先程の言葉は聞き間違いなのだろうか?

「好きです。ですが王太子妃、ゆくゆくは王妃になるなんて、わたくしには到底務まりません。それにわたくしとの婚姻はエリック様になんのメリットもございませんから」

(メリットなど、俺がレナンを好きであれば充分だ)
エリックは言葉を飲み込む。

レナンをおとすためにはそういう言葉ではない。



恋愛と結婚が違うのを理解しているし、エリックの身分と、アドガルムという国を思って断っているのはわかった。

感情よりも理性が優先されているようだ。

そうでなければ、あんな悲しそうな顔で断るわけがない。

今から再度口説き落とす必要があるのだが、時間が少ない。

今夜までにここに残りたいと思わせなくば、さすがのシグルドだってそろそろ手元に移したいと思うはず。

エリックは呼吸を整える。

「メリットがある結婚であればいいのか?   そこに感情がなくても」

「そういうわけではないですが、でもエリック様はこの国を背負う方です。もっと相応しい方がいいと思いまして」

「レナンが言う相応しい人物とは、どういうものだ」
話しながら何とか説得の手立てを考える。

「賢くて優しく、民を思う人。そしてエリック様の隣に立つくらいの方でしょうか?」

「それならばレナンとて成績は優秀だし、語学は堪能だし、とても優しい。そして今は自分は王太子妃になれないと民の為に身を引こうとする謙虚さがある。俺の隣に立つべき人だと思うが?」
そのままレナンに当て嵌めていいはずなのに。

「しかし、わたくしでは相応しくないです! 感情もすぐに顕にしてしまうし……」
「いいんだ、そこは王太子妃教育でどうとでもなる。正直俺はその素直さが好きだ」
この素直さが決め手と言っていいのだが、本人は納得していない。

「確かに少し迂闊な時はあるが、君は本来聡い人間だ。考え方と話す際の注意点を重点的に勉強すれば問題ない。何かあれば俺がフォローしよう。背筋を伸ばし、堂々と前を向けば自ずと自信が出る」
自信のなさで背が丸まってしまうから、伸ばすように心掛けよう。

「……でもやはり、無理です」
それでもやはり自信はなさそうだ。

エリックは脅しにかかる。

「逆にレナンが婚姻をしてくれなければ、デメリットが出る」

「デメリット…ですか?」

「今振られたならば、俺は一生独身のまま過ごす。アドガルムに跡継ぎができない」
断言出来る。

「…エリック様への婚約話は多数出ているではないですか」

「出ているのにこの年まで婚約していないんだ、相応しいと思えるような令嬢に会えていない。それに好きな女性に振られて、その想いを抱えて別な女性と結婚するような不義理は行えない」

「それは…」
自分のせいになるというのはそういうことなのかと、レナンが小さくなる。

「君は違うのか?恋愛小説でもそうだと思ったが」
他の女性を想う者が、次の恋愛になど踏み切れないだろう。

「でも、エリック様にはこれから出会う方もいらっしゃると思いますよ」

「これから? 今目の前に好きな女がいるのに、次の女に心を寄せろと? レナンは酷な事を言うな」
レナンの銀髪を手に取る。

「こういう事をしたいと思うのはレナンだけなんだが」
銀髪に口づけをし、じっとレナンを見る。

距離がとても近い。

「リンドールになど返さない」
感情のこもった声にレナンの心臓がドキドキしている。

「俺の為にも頼む。帰らないでくれ」
強い自分が守るだけではなく、弱い自分をレナンが守って欲しい。

「エリック様の為に…」
「そうだ、俺はレナンとの家庭が欲しい。温かい君に側にいてほしいんだ」
レナンの素直さは時として仇となるが、人なのだから間違えるのは当然だ。

頭脳の良さもあり、控えめなところも好感が持てる。

優しいレナン。

家族はエリックを大事にしてくれる。

しかし、ティタンもリオンもいずれ自分の家族を持ち、離れていくだろう。

その時に一人になりたくない、レナンによってエリックは支えられたいし、エリックも支えていきたい。

今振られてしまったら、自分はこの先も生涯愛するものを持てないだろうと、確信している。

政略的に決められた相手と愛を育めるとは思えない。

エリックはレナンとの未来しかもはや描けなかった。

「いいのですか? 私王妃様なんて器じゃないのですが…」

「いいんだ、俺が欲しいんだから。君は俺が嫌いか?」
再度の確認。

レナンは首を横に振る。

「好き、です。わたくしもエリック様の側にいたいです」
ようやく素直に言ってくれたレナンを、エリックは抱きしめた。

「エリック様?!近いです」
思わず腰が引けてしまう。

「ようやく受け入れてくれたんだ、少し甘えさせてくれ」
レナンは体を強張らせ、しばらく身じろぎ一つ出来なかった。





「この後レナン達の今後についての話があるが、俺はリンドールへと返すつもりはない」
ようやく体を離してくれて、そのような事を言われる。

「帰りたい気持ちもあるだろうが、今帰ればどのような目に合うか、想像に難くない。だから、安全が確認出来るまではアドガルム王城にいてくれ。ここなら警備も厚いし、リンドールの者も手出しをしづらいはずだから」
レナンの手を握りながら、心配そうに言っている。




「必ず守る、だからこれからはずっと側に」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...