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アドガルム国での生活
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がらりと変わった生活だが、皆この生活にだいぶ順応してきた。
最初の頃とは違い、レナンにはエリックが、ミューズにはティタンと二人きりで話す機会が増えた。
それぞれで案内役をするようになったのだ。
リオンは時折ティータイムを一緒にするくらいだが、二人に対し冷遇することもなかった。
むしろ実姉のように二人を慕い、レナンもミューズも弟が出来たようで可愛く思っていた。
最初は王族が付き添うなんて、とレナンもミューズも遠慮したのだが、隣国のとはいえ公爵令嬢である二人を、他の者に案内させるわけにはいかないと、変更されることはなかった。
二人の父、ディエスの投獄がアドガルムまで報じられた事も、原因の一つである。
ミューズとティタンは二人でティータイムを過ごしていた。
「美味しいか?」
「えぇ、とっても。特にこちらのチョコレートが好きです」
甘いものを頬張り、幸せそうな顔をするミューズを見てティタンも嬉しそうだ。
口調もだいぶ砕けてきた。
「喜んで頂けてこちらも嬉しいよ、今度街へも行ってみよう。皆へのお土産とか一緒に選ぼう、カフェ限定のスイーツもあるぞ」
「まぁ!カフェ限定ですか、ぜひ行きたいです。その際はご飯を抜いて万全にしないといけませんね」
気合をいれてその日に臨みたいとするミューズに、ティタンは笑った。
ミューズの反応が嬉しい。
以前誘ったときは硬い表情をし、社交辞令で返されたのに、今はコロコロと変わる表情で、受け入れてくれる。
とても愛しく思えた。
「どれだけ食べるつもりなんだ、最近少しし顔が丸くなったぞ」
可愛いミューズを、ついからかいたくなってしまった。
「うっ、本当ですか?!」
真っ青になりながら、ミューズは自分の顔を両手で触る。
「冗談だ。だがミューズは少し太ったほうがいい、今までが痩せすぎだったんだから。気になるなら一緒に鍛錬するか?」
エリックが王太子となった事もあり、ティタンは騎士としてこの国を支えるつもりだと以前教えてくれた。
今日も、実は訓練の合間の短い休憩時間にわざわざ来てくれている。
騎士になりたい。
兄に万が一があった場合は弟のリオンがいるし、気楽な次男坊だと話していた。
(気楽とは思えないけど、ティタン様は元が優しいのよね)
優秀な兄と弟と比べられて、辛かったのではないだろうか。
本人の思惑を別として、第二王子とは王太子のスペアとして見られる事が多い。
容姿も線の細い二人と違い、鍛えているため筋肉質だ。
縁談もあまりないと聞く。
既に王太子が決まっており、臣籍降下することが決まってるからだろうと、メイド達の憶測がされていた。
頭脳面もけして悪いわけではないが、王宮の重役につくことは無いだろうと考えられているため、将来性が今のところ見込めないと令嬢方から敬遠されている。
そんな噂はだんだんとミューズの耳にも入るようになった。
だが実際に話をするミューズには、噂など当てにならないと思っていた。
実直なティタンにミューズは好感を抱き始めているのだ。
(真面目で優しく、女っ気もない。夫としては申し分ない人だわ)
打算的な考えかもしれないが、とても良い人なのだ。
接してわかるが、家族からも愛されている。
特に兄弟仲が良く、エリックもリオンもティタンを敬愛していた。
自分にない強さを持つものとして、一目置かれているようだ。
ミューズも同い年ながら、しっかり自分の将来を見据えているティタンを尊敬している。
ミューズと別れ、訓練に戻る僅かな時間に、ティタンは従者のマオに感謝を伝える。
「ありがとう、ミューズもとても喜んでいた」
「良かったです、それなら僕も知恵を貸した甲斐があるのです」
ふふんと胸を張るは、ティタンの従者だ。
「味見した際は甘すぎるかと思ったが、紅茶に合った。自分で好んで食べるものではないから、貴重な情報は助かる」
「ティタン様には甘すぎても、ミューズ様には合うこともあるです。そのあたりは好みを熟知する事が必要なのです」
「次はそこも考慮しよう」
しっかりとメモを取るこの主は、本当に真面目で素直だなぁとマオは思った。
自分のわからない事は知ってそうな人に聞くのが一番早い。
ティタンは自分が知らないことは知らないと、素直に認めているのだ。
そして直感的に誰に聞けば良いのかわかるらしくて、無駄がない。
今回はマオの言ったものとミューズの好みが合ったので、成功した。
ティタンは情報をまず自分で調べてから確認で聞きに行く。
聞いたことも鵜呑みにせず、自分で試すし、裏も取る。
甘いのは苦手としながらも、試食品も誰かにあげたりはせず自分で完食していた。
曰く、「ミューズにプレゼントする為のものを、他の人にあげることは出来ないだろ?」
との事。
ミューズに一番にあげるのだから、試食品でも他の人にあげることはしない、という言い分だ。
無自覚だが、その人の為だけに何かをするのに優れている男だ。
(まぁここまでいくと、愛が重いのですが…)
婚約者にしたいが為とはいえ、ここまでするものかと呆れてはいる。
しかし政略的に婚姻しても利益のある女性のため、マオは応援するつもりであった。
「今まで女性経験がないため、意図せず尽くすですか…まぁ僕は実を結ぶことを祈るです」
多分だが、ミューズもティタンに惚れている。
楽しそうに話す様子や気兼ねない言葉掛けなどからの推測だ。
飾らないティタンに魅力を感じているのが伺われる。
彼女はマオのような従者にも優しくしてくれた。
主に幸あれ、と祈っといた。
最初の頃とは違い、レナンにはエリックが、ミューズにはティタンと二人きりで話す機会が増えた。
それぞれで案内役をするようになったのだ。
リオンは時折ティータイムを一緒にするくらいだが、二人に対し冷遇することもなかった。
むしろ実姉のように二人を慕い、レナンもミューズも弟が出来たようで可愛く思っていた。
最初は王族が付き添うなんて、とレナンもミューズも遠慮したのだが、隣国のとはいえ公爵令嬢である二人を、他の者に案内させるわけにはいかないと、変更されることはなかった。
二人の父、ディエスの投獄がアドガルムまで報じられた事も、原因の一つである。
ミューズとティタンは二人でティータイムを過ごしていた。
「美味しいか?」
「えぇ、とっても。特にこちらのチョコレートが好きです」
甘いものを頬張り、幸せそうな顔をするミューズを見てティタンも嬉しそうだ。
口調もだいぶ砕けてきた。
「喜んで頂けてこちらも嬉しいよ、今度街へも行ってみよう。皆へのお土産とか一緒に選ぼう、カフェ限定のスイーツもあるぞ」
「まぁ!カフェ限定ですか、ぜひ行きたいです。その際はご飯を抜いて万全にしないといけませんね」
気合をいれてその日に臨みたいとするミューズに、ティタンは笑った。
ミューズの反応が嬉しい。
以前誘ったときは硬い表情をし、社交辞令で返されたのに、今はコロコロと変わる表情で、受け入れてくれる。
とても愛しく思えた。
「どれだけ食べるつもりなんだ、最近少しし顔が丸くなったぞ」
可愛いミューズを、ついからかいたくなってしまった。
「うっ、本当ですか?!」
真っ青になりながら、ミューズは自分の顔を両手で触る。
「冗談だ。だがミューズは少し太ったほうがいい、今までが痩せすぎだったんだから。気になるなら一緒に鍛錬するか?」
エリックが王太子となった事もあり、ティタンは騎士としてこの国を支えるつもりだと以前教えてくれた。
今日も、実は訓練の合間の短い休憩時間にわざわざ来てくれている。
騎士になりたい。
兄に万が一があった場合は弟のリオンがいるし、気楽な次男坊だと話していた。
(気楽とは思えないけど、ティタン様は元が優しいのよね)
優秀な兄と弟と比べられて、辛かったのではないだろうか。
本人の思惑を別として、第二王子とは王太子のスペアとして見られる事が多い。
容姿も線の細い二人と違い、鍛えているため筋肉質だ。
縁談もあまりないと聞く。
既に王太子が決まっており、臣籍降下することが決まってるからだろうと、メイド達の憶測がされていた。
頭脳面もけして悪いわけではないが、王宮の重役につくことは無いだろうと考えられているため、将来性が今のところ見込めないと令嬢方から敬遠されている。
そんな噂はだんだんとミューズの耳にも入るようになった。
だが実際に話をするミューズには、噂など当てにならないと思っていた。
実直なティタンにミューズは好感を抱き始めているのだ。
(真面目で優しく、女っ気もない。夫としては申し分ない人だわ)
打算的な考えかもしれないが、とても良い人なのだ。
接してわかるが、家族からも愛されている。
特に兄弟仲が良く、エリックもリオンもティタンを敬愛していた。
自分にない強さを持つものとして、一目置かれているようだ。
ミューズも同い年ながら、しっかり自分の将来を見据えているティタンを尊敬している。
ミューズと別れ、訓練に戻る僅かな時間に、ティタンは従者のマオに感謝を伝える。
「ありがとう、ミューズもとても喜んでいた」
「良かったです、それなら僕も知恵を貸した甲斐があるのです」
ふふんと胸を張るは、ティタンの従者だ。
「味見した際は甘すぎるかと思ったが、紅茶に合った。自分で好んで食べるものではないから、貴重な情報は助かる」
「ティタン様には甘すぎても、ミューズ様には合うこともあるです。そのあたりは好みを熟知する事が必要なのです」
「次はそこも考慮しよう」
しっかりとメモを取るこの主は、本当に真面目で素直だなぁとマオは思った。
自分のわからない事は知ってそうな人に聞くのが一番早い。
ティタンは自分が知らないことは知らないと、素直に認めているのだ。
そして直感的に誰に聞けば良いのかわかるらしくて、無駄がない。
今回はマオの言ったものとミューズの好みが合ったので、成功した。
ティタンは情報をまず自分で調べてから確認で聞きに行く。
聞いたことも鵜呑みにせず、自分で試すし、裏も取る。
甘いのは苦手としながらも、試食品も誰かにあげたりはせず自分で完食していた。
曰く、「ミューズにプレゼントする為のものを、他の人にあげることは出来ないだろ?」
との事。
ミューズに一番にあげるのだから、試食品でも他の人にあげることはしない、という言い分だ。
無自覚だが、その人の為だけに何かをするのに優れている男だ。
(まぁここまでいくと、愛が重いのですが…)
婚約者にしたいが為とはいえ、ここまでするものかと呆れてはいる。
しかし政略的に婚姻しても利益のある女性のため、マオは応援するつもりであった。
「今まで女性経験がないため、意図せず尽くすですか…まぁ僕は実を結ぶことを祈るです」
多分だが、ミューズもティタンに惚れている。
楽しそうに話す様子や気兼ねない言葉掛けなどからの推測だ。
飾らないティタンに魅力を感じているのが伺われる。
彼女はマオのような従者にも優しくしてくれた。
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