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恋の話
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「兄上こそレナン嬢について、どうするおつもりです?ハインツ殿と婚約破棄はされると思いますが…」
エリックはレナンを好いているが、彼女には婚約者がいる。
しかしその婚約者との関係も、現在怪しい。
レナンには気の毒だが、人身売買の容疑者の娘との婚約など、本気の恋でない限りは続かない。
相手の有責で、早々に慰謝料を貰って破棄してしまう方がいいと思われる。
今回の悲劇により、エリックとレナンの間にあったその障害が無くなる予定ではあった。
障害が無くなった後、エリックがどうするのかを、ティタンは問うているのだ。
「アピールしていくさ。少しばかり彼女は鈍いし、難しいが、リンドールに返す気は最初からない」
エリックはレナンを自身の妻に、と考えていた。
感情が表に出やすい女性で、思い込みも若干激しいが、変に小狡いよりは好感が持てる。
そしてとても真面目だ。
王妃となっても責任と立場を重んじて、仕事を投げ出すこともしなさそうだし、王家の乗っ取りの心配もおそらくない。
あのくらい人間味があり、可愛げがある方が、国民のウケも良さそうだ。
氷の王太子と言われるような表情の乏しい自分の隣に、彼女のような人間味のある女性がいれば、きっと楽しいだろうと考えている。
「真面目に見えて活動的だし、かといえば博識だ。興味が尽きない」
エリックの命令で、レナンには護衛がつけられていた。
報告書を見るたびにハラハラしたり、大声を出して笑ってしまったとエリックは言う。
「兄上が、大声で、笑う…?」
俄に信じ難い言葉を聞いて、ティタンが目が白黒させる。
表情筋が死んでいる、と世間に言わしめた兄の大笑いなど弟のティタンでも想像出来ない。
「要するに、俺にとって最高の女性という事だ。ハインツ如きに先を越されてしまったが、何とか口説き落とすぞ。駄目だったら、すまん、リオンに王太子を譲る」
レナンとの婚約が出来ねば王太子にならない、と言うことらしい。
「俺が振られてもレナンは素敵な女性だから、いずれ誰かとまた婚約するだろう。好きな女性が他の男の物になるのは耐え難い。そうなったら俺は国の事などどうでもよくなり、何も出来なくなりそうでな」
想像するのすらつらい。
地位や身分があろうとも本当に欲しいものが手に入らないならば、その地位を守る気すらしなくなるだろう。
「気持ちはわからなくもないですが、そこで次の王太子候補に俺の名を言わないのが、兄上らしいです」
根っから王太子に向いてないティタンに対して、こんな時でも考慮してくれるのが兄らしい。
選ばれても辞退するだろうし、国の皆も認めないと思う。
「お前の力は、そういうところで使うものではないからな」
恵まれた体型と身体能力を持つティタン。
いくら綺麗事を言おうと、腕力がものを言うときもある。
「ティタンの力は牽制にもなるし、実際の戦でも役立つ。政治については俺とリオンに任せて、お前は思うがまま剣の腕を鍛えていてくれ」
「はい!」
適材適所で力を発揮すればいいとエリックは言った。
「国を守りたいとは思うから、何とか俺がレナンに近づければいい話なのだが…」
レナンは本が好きなので、やはりそこから近づいていくか。
「少しずつ歩み寄っていくしかないな」
翌日のティータイム。
「この国には慣れましたか?」
エリックは向かいのソファに座るレナンに、優しく声をかける。
テーブルの上にはお茶とお菓子があり、二人の後ろには従者や侍女が付き従っていた。
今日は二人きりである。
厳密には侍女や従者がいるし、完璧に二人ではないのだが、エリックがレナンとゆっくり話したい、という事でこうなった。
ミューズはティタンと話しているそうだ。
レナンはアドガルムの王太子を前にして、少し緊張している。
今までは妹がいたのに、今日は二人だけ。
緊張しないわけがない。
「本来であれば婚約者がいるレナン嬢と未婚の俺が、二人で話すという事はないと思うのですが…状況が状況ですし、この国に少しでも馴染んでくれたらと思いまして。ニコラ達もいるし他意はないので、安心してください。とはいえ、婚約者がいる女性が警戒するのは仕方ない事ですよね……茶飲み友達くらいにはなれるでしょうか?」
レナンに婚約者がいることを把握しているときちんと言葉で言われ、またはっきりと茶飲み友達と言われた。
「私には勿体ないお言葉です、ぜひ喜んで」
レナンは警戒した自分が少し恥ずかしくなる。
女性などこの王太子には引く手数多だ。
数々の浮き名をレナンも聞いており、国にいる時から慕う令嬢の多さを知っていたはずなのに。
そもそも自分は容疑者の娘だ。
そんな危ない人物にエリックがわざわざ手を出すわけはない。
単純にレナンに同情しているのだろうと結論付けた。
「君の反応は貴族として正しいから、急に二人で話を、と言われても困るのが普通だよ。俺が今日二人で話そうと思ったのは、この為なのだけど…」
エリックが合図を出すと、ニコラがレナンの前に、この前の本を置いた。
とある恋愛小説だ。
幼馴染みと婚約者の間で揺れ動く恋。
甘酸っぱい心理描写や受けた優しさを上手く返せない主人公…恋に恋するレナンは憧れている。
ハインツとは婚約者同士になったが、燃えるような恋ではなく、緩やかに愛情を育んできた。
なのでこういう指南書のような恋愛ストーリーを参考にさせてもらっていた。
「俺が恋愛小説を読んでるなど皆に知られるのは恥ずかしく、二人にしてもらったのです。レナン嬢と色々語れればと読んでみたのですが、感想を教えてもらっても大丈夫でしょうか?」
共通の話題を持ち出され、しかも自分の好きな本の話。
レナンはキラキラとした目で頷いた。
「もちろんです!」
エリックはレナンを好いているが、彼女には婚約者がいる。
しかしその婚約者との関係も、現在怪しい。
レナンには気の毒だが、人身売買の容疑者の娘との婚約など、本気の恋でない限りは続かない。
相手の有責で、早々に慰謝料を貰って破棄してしまう方がいいと思われる。
今回の悲劇により、エリックとレナンの間にあったその障害が無くなる予定ではあった。
障害が無くなった後、エリックがどうするのかを、ティタンは問うているのだ。
「アピールしていくさ。少しばかり彼女は鈍いし、難しいが、リンドールに返す気は最初からない」
エリックはレナンを自身の妻に、と考えていた。
感情が表に出やすい女性で、思い込みも若干激しいが、変に小狡いよりは好感が持てる。
そしてとても真面目だ。
王妃となっても責任と立場を重んじて、仕事を投げ出すこともしなさそうだし、王家の乗っ取りの心配もおそらくない。
あのくらい人間味があり、可愛げがある方が、国民のウケも良さそうだ。
氷の王太子と言われるような表情の乏しい自分の隣に、彼女のような人間味のある女性がいれば、きっと楽しいだろうと考えている。
「真面目に見えて活動的だし、かといえば博識だ。興味が尽きない」
エリックの命令で、レナンには護衛がつけられていた。
報告書を見るたびにハラハラしたり、大声を出して笑ってしまったとエリックは言う。
「兄上が、大声で、笑う…?」
俄に信じ難い言葉を聞いて、ティタンが目が白黒させる。
表情筋が死んでいる、と世間に言わしめた兄の大笑いなど弟のティタンでも想像出来ない。
「要するに、俺にとって最高の女性という事だ。ハインツ如きに先を越されてしまったが、何とか口説き落とすぞ。駄目だったら、すまん、リオンに王太子を譲る」
レナンとの婚約が出来ねば王太子にならない、と言うことらしい。
「俺が振られてもレナンは素敵な女性だから、いずれ誰かとまた婚約するだろう。好きな女性が他の男の物になるのは耐え難い。そうなったら俺は国の事などどうでもよくなり、何も出来なくなりそうでな」
想像するのすらつらい。
地位や身分があろうとも本当に欲しいものが手に入らないならば、その地位を守る気すらしなくなるだろう。
「気持ちはわからなくもないですが、そこで次の王太子候補に俺の名を言わないのが、兄上らしいです」
根っから王太子に向いてないティタンに対して、こんな時でも考慮してくれるのが兄らしい。
選ばれても辞退するだろうし、国の皆も認めないと思う。
「お前の力は、そういうところで使うものではないからな」
恵まれた体型と身体能力を持つティタン。
いくら綺麗事を言おうと、腕力がものを言うときもある。
「ティタンの力は牽制にもなるし、実際の戦でも役立つ。政治については俺とリオンに任せて、お前は思うがまま剣の腕を鍛えていてくれ」
「はい!」
適材適所で力を発揮すればいいとエリックは言った。
「国を守りたいとは思うから、何とか俺がレナンに近づければいい話なのだが…」
レナンは本が好きなので、やはりそこから近づいていくか。
「少しずつ歩み寄っていくしかないな」
翌日のティータイム。
「この国には慣れましたか?」
エリックは向かいのソファに座るレナンに、優しく声をかける。
テーブルの上にはお茶とお菓子があり、二人の後ろには従者や侍女が付き従っていた。
今日は二人きりである。
厳密には侍女や従者がいるし、完璧に二人ではないのだが、エリックがレナンとゆっくり話したい、という事でこうなった。
ミューズはティタンと話しているそうだ。
レナンはアドガルムの王太子を前にして、少し緊張している。
今までは妹がいたのに、今日は二人だけ。
緊張しないわけがない。
「本来であれば婚約者がいるレナン嬢と未婚の俺が、二人で話すという事はないと思うのですが…状況が状況ですし、この国に少しでも馴染んでくれたらと思いまして。ニコラ達もいるし他意はないので、安心してください。とはいえ、婚約者がいる女性が警戒するのは仕方ない事ですよね……茶飲み友達くらいにはなれるでしょうか?」
レナンに婚約者がいることを把握しているときちんと言葉で言われ、またはっきりと茶飲み友達と言われた。
「私には勿体ないお言葉です、ぜひ喜んで」
レナンは警戒した自分が少し恥ずかしくなる。
女性などこの王太子には引く手数多だ。
数々の浮き名をレナンも聞いており、国にいる時から慕う令嬢の多さを知っていたはずなのに。
そもそも自分は容疑者の娘だ。
そんな危ない人物にエリックがわざわざ手を出すわけはない。
単純にレナンに同情しているのだろうと結論付けた。
「君の反応は貴族として正しいから、急に二人で話を、と言われても困るのが普通だよ。俺が今日二人で話そうと思ったのは、この為なのだけど…」
エリックが合図を出すと、ニコラがレナンの前に、この前の本を置いた。
とある恋愛小説だ。
幼馴染みと婚約者の間で揺れ動く恋。
甘酸っぱい心理描写や受けた優しさを上手く返せない主人公…恋に恋するレナンは憧れている。
ハインツとは婚約者同士になったが、燃えるような恋ではなく、緩やかに愛情を育んできた。
なのでこういう指南書のような恋愛ストーリーを参考にさせてもらっていた。
「俺が恋愛小説を読んでるなど皆に知られるのは恥ずかしく、二人にしてもらったのです。レナン嬢と色々語れればと読んでみたのですが、感想を教えてもらっても大丈夫でしょうか?」
共通の話題を持ち出され、しかも自分の好きな本の話。
レナンはキラキラとした目で頷いた。
「もちろんです!」
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