隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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番外編:多忙な魔道具師と世話焼き侍女②

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「こうして着飾ると本当にかっこいいのに、本当に勿体ない……あと時間ももっと欲しいです」

 丁寧に髪を梳かれ、整えられる。髭も丁寧に剃り直すと化粧水も付けられた。

 マッサージを受けていると、凝り固まった体や気持ちが段々と解けていく。

(あぁずっとこんな時間が続けばいいのに)

「ずっと一緒ならな……」

 思わずぽつりと心の声が漏れ、慌てて口を塞ぐ。

(俺とラフィアさんはそんな仲じゃないだろ? 落ち着け!)

 心臓がバクバクと鳴りながらも、フェンはちらりとラフィアの顔を見る。

 困ったように俯きつつも何も言わないが、その頬は赤く染まっている。

 二人とも気恥ずかしさからか、何も話すことが出来ず時間だけが過ぎ行くばかりだ。

(いや、良い年した男がこんなんでは駄目だろ)

 サミュエルの事を言えない程奥手な自分が嫌になる。

 自分はあの、好きな人を救い出すために婚約者と決闘までして国から連れ出した自分勝手な男、ロキの息子だ。

 ここで男を見せなくてどうする。

 振られたら……と思うと怖くはなるが、それでもこの思いを伝えずにいて後悔するのも嫌だ。

 フェンは深呼吸をし、ラフィアに向き直る。

「あ、あのラフィア様」

「は、はい」

 お互いに意識をし過ぎて上擦った声になるが、気にしている余裕はない。

 どちらもそれなりにいい歳なんだけど、恋愛事に疎すぎて駆け引きも出来ないのだ。じれったい。

「その、良ければ俺と、お付き合いを……」

 お約束のように響くノックの音で、フェンの言葉は途中で遮られた。





「兄さん、明日の準備なんだけど……取り込み中だったか」

 赤い顔で向き合うフェンとラフィアを見て、キールは無表情ながらも察してしまいどうしたものかと止まる。

「いや、大丈夫大丈夫。何の用だい?」

「いや、さすがに徹夜明けの格好で見送るのはどうかと言いに来ただけだ。でも心配なかったな」
 キールはちらりとラフィアを見て少しだけ口角を上げる。

「ありがとうございます、兄をこんなに人間らしくしてくれて」

「人間らしくて何?!」

 弟の言葉にフェンはさすがにショックを隠し切れない。

「今までの俺は人間じゃなかったの?!」

「あんな小汚い格好で平気な奴を、人間扱い何て出来ないだろ。室内にこもりっきりだから、体だってたるんでるのだから」

 ズバズバと痛いところを突いてくるキールに言葉を失くしてしまった。

「早く人間らしい生活を送れるよう、支えてくれる人を作れ。だからって相手に甘え過ぎるなよ」

 キールはそう言うとラフィアに頭を下げた。

「至らない兄ですが、よろしくお願いします。何かあれば俺がしごきに来ますので、いつでも言ってください」

「は、はい」

 キョトンとし、思わずラフィアは返事をしてしまう。
 それを聞いて、キールは優しい眼差しをラフィアに向けた後は「失礼した」と言って、すぐに退室していってしまった。

「あっという間だな……」

 言いたい事だけ言ってすぐさま立ち去ったキールに苦笑する。

 分かっている。ラフィアがいたからキールはこの場からすぐに離れたという事を。

 そしてラフィアを見て、安心したのだろう。妻になりそうな女性を見て。

(まだ決定ではないのだけれど)

 キールの早とちりだが、フェンはこれで決意が固まる。

 出来ればキールが思ったような関係性になりたい。

「ラフィア様、弟と騒がしくしてしまってすみません」

「いいえ、大丈夫ですよ」

 ラフィアもキールの登場で、少し冷静さを取り戻していた。

 そしてフェンの言葉を静かに待とうと決める。

(キール様がああ言ってくれたという事は、認めてもらえたという事よね)

 自分は元々他国の人間で、そして何も特別な力を持たない侍女だ。

 それがアドガルムの筆頭魔道具師に恋をした。もしかしたら告白を受けるかもしれないが、世間がどう思うのか少し怖く思っていた。

 でもこうして弟のキールに認められたのならば、恋も成就するかもしれない。

 二人は再び見つめ合い、そうしてフェンがゆっくりと思いを伝え始めた。





 翌日仲睦まじく見送りに来たフェンをラフィアを見て、シフがラフィアの手を握り、懇願するように上目遣いをする。

「ラフィア様、いえお義姉様。もしも兄様が何かしたらすぐに手紙を頂戴。転移魔法で掛けつけて説教するからね。デリカシーも女心も知らない男だけれど、家族想いで一途で浮気なんてしない男だわ。どうか末永くお願いね」

 シフの様子を見てガードナー家の面々もフェンの元へと来る。

「おっ、ようやく良い人を見つけたか。これでガードナー家はフェンに任せられるな」

 ロキはよくやったとフェンの背を叩く。

「あらあらいつの間にこんな可愛いお嬢さんを口説いていたの? フェンたら私くらいには話してくれてもいいじゃない」

 アンリエッタは静かに笑っていた。

「本当に良かった。これで俺は結婚せずに済むな」

 兄の結婚を色々な意味で祝福するキール。

「本当に良かった。えぇっと、義兄上。お幸せに」

 サミュエルも控えめにお祝いの言葉を送る。

 妹を送る為に来たのに、いつの間にか自分のお祝いになっていてしどろもどろになる。

(まだ、お付き合いを始めただけなのに)

 家族の熱量にフェンは困ってしまい、そしてラフィアが嫌な思いをしていないか様子を窺う。

 安心させるようにラフィアはフェンの腕にそっと手を添える。

「ありがとうございます、必ず幸せになりますね」

 その後間もなくフェンとラフィアは共に住むようになり、フェンの生活は一新する。

 甲斐甲斐しくフェンの世話を焼くラフィアもとても幸せそうで、二人は仲良く過ごすのであった。




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感想 6

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みんなの感想(6件)

さばこ
2023.04.08 さばこ
ネタバレ含む
2023.04.09 しろねこ。

お読み頂き、そして感想までありがとうございました。

一気読みも嬉しく思います。

最初は10万字の作品を目指していたのが、途中から世界が広がり30万字超の作品となりました(;´∀`)
ついてきてくれてありがたいです。

こちらの作品は間もなく終わりとなりますが、番外編で従者たちの恋愛模様を書けたらなぁと構想を練っております。

いつか世に出したいです(〃ω〃)

カミュさんとウィグルもですが、皆に幸せになって欲しいですね(^^)

解除
dragon.9
2022.12.27 dragon.9
ネタバレ含む
2022.12.29 しろねこ。

お読み頂きありがとうございます(^^)

王子達の二つ名が何とも秀逸です、敵に回してはいけないタイプばかりですね(^o^;)



解除
dragon.9
2022.12.20 dragon.9

あまずっぱーぁーぁーいっっ!(笑)

 |∀゚)
 |∀・)
 |∀´)
 |∀・)
 |∀・)
 |⊂  

3人のそれぞれの
青春、、、アオハルだーーー〜ー!(笑)


お腹いっぱぁーい、ごちそうさまでした!\(^o^)/
(わかる人いる?(笑))

じれったいけど可愛い((o(。・ω・。)o))

2022.12.21 しろねこ。

甘すぎて見ていられませんね〜(´vωv`*)ポッ

異なる三組の恋愛模様を意識しました(*´ェ`*)



解除

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