上 下
194 / 202

番外編:生真面目な騎士と早とちりな侍女②

しおりを挟む
 チェルシーは内心で落ち込みながら、それでもルドと話す機会を待った。

 幸いにも早くに顔を合わすことが出来たのだが、落ち着いて話す事は無理だった。

 その後はバタバタとした日が続き、休み時間どころか寝る間も削れてしまう。

 ある程度城内が落ち着いたと思えば、今度はティタンと共に属国を回るミューズの世話に追われた。

 ルドもまた属国への移動の準備や下調べなどで手一杯だ。

 慣れない他国での生活と、そして書類仕事。寝る時以外は皆で報告書を作成したり、その国の挨拶や文化を復習する。

 チェルシーもまたミューズに教わり勉強をしていた。

(付いていくだけでも覚えることが多いものね)
 作法やマナーが多少異なる為に、侍女であるチェルシーも慣れないながらも勉強をしなくてはならない。

 失礼があっては困る。

「大丈夫?」
 仕事の合間に大変であろうミューズが気を遣い、チェルシーに回復魔法を掛けてくれ、それを見てセシルが疲労回復の薬湯を淹れてくれた。

 少し早いが自然と休憩を取ろうとなる。

「申し訳ありません、お茶を淹れるなどあたしの仕事なのに」

「良いのです、チェルシーさんもあまり無理なさらずに。あなたに倒れられては心配で仕事出来ない者がいますから」
 チェルシーはその気遣いに目が潤む。

「うぅ、ありがとうございます。セシル様って優しい。婚約の話もきっとたくさん来てますよね」

「あぁまぁ……僕は少ない方ですけどね」
 苦笑し、ため息をついている。

(よく地味だとか静かとか、身内が寡黙過ぎて嫌とか言われてるけど、やはりモテるのね。良い人だもの、当然よね)
 セラフィム出身で薬草の知識が豊富だし、薬箱の代わりに欲しい人だ。

「二人で何の話をしてるのです?」

「ルド様」
 チェルシーとセシルの間を割るようにしてルドが来た。

「婚約の話、ルドも結構手紙貰ってたよね」
 セシルがさり気なくルドに話題を明け渡し、距離を取る。

「あまり言いたくないですね」
 うんざりした様子のルドにセシルも同調する。

「そうだよね。断りの手紙を用意するのも大変だし」

「そうなの? 羨ましいと思うのですが」
 それでもちょっと貰ってみたい。

「十も二十も貰えばうんざりするものです。それが格上の家からなら断るのも一苦労で」
 ルドがため息をついている。

「気になる人もいたんじゃないですか?」
 多くの令嬢がルドを好いていると侍女仲間に聞いているし、チェルシーよりも好条件の人が多いはず。

 心変わりしてしまうのも仕方ないと思っているのだが。

「いいえ。俺はチェルシーが好きだからそれ以外の人は気になりません。それで、いつ求婚の返事をくれるのでしょう。今か今かと待っているのですが」
 直球の言葉にチェルシーではなく、セシルが焦る。

「ルド、そういう話は二人の時にしてくれ!」
 皆の前でする話ではないと咎めた。

 ティタンは特に気にした様子もなく、ミューズはわくわくしながらチェルシーを見ている。
 ライカは眉間に深く皺を寄せつつも、見ないふりをして書類仕事に戻っていった。

「その二人きりの時間も取れず、セシルと仲良さそうな様子を見せられて、我慢できると思いますか? それとも戦前にした話を忘れてしまったのでしょうか」
 口調は丁寧なのに、怒っているような雰囲気がある。

「落ち着いてくださいルド様。後ほどお返事しますから」

「待てません。今ここで返事を下さい」
 真っすぐに見つめられ、チェルシーは慌てふためいた。

 皆がいる前でなんて恥ずかしすぎる。

「ココさんに言われたのです。チェルシーが俺に恋人はいないと言っていたと。何故その時に求婚を受けたと伝えてくれなかったのですか。俺はあなたが好きなのに」

「いやいや、まだ恋人でも婚約者でもないのに言えませんって」

「ではチェルシーは俺の事をどう思っているのですか。俺はあなたの恋人にも婚約者にも夫にもなれます」
 色々飛び越えた選択肢にチェルシーは身震いする。
 助けを求めるようにミューズを見れば、応援するよという視線を向けられ、男衆は逆に目線を逸らしていた。

 差し出された手を見ながら、チェルシーは思う。

(すっごい重そう!)
 さすがはティタンの部下だと思いながら、そっとチェルシーは手を添えた。

 どのような関係から始まろうと結果は同じ。

 チェルシーも一途で真面目で不器用なルドが好きだ。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

処理中です...