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番外編:生真面目な騎士と早とちりな侍女②
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チェルシーは内心で落ち込みながら、それでもルドと話す機会を待った。
幸いにも早くに顔を合わすことが出来たのだが、落ち着いて話す事は無理だった。
その後はバタバタとした日が続き、休み時間どころか寝る間も削れてしまう。
ある程度城内が落ち着いたと思えば、今度はティタンと共に属国を回るミューズの世話に追われた。
ルドもまた属国への移動の準備や下調べなどで手一杯だ。
慣れない他国での生活と、そして書類仕事。寝る時以外は皆で報告書を作成したり、その国の挨拶や文化を復習する。
チェルシーもまたミューズに教わり勉強をしていた。
(付いていくだけでも覚えることが多いものね)
作法やマナーが多少異なる為に、侍女であるチェルシーも慣れないながらも勉強をしなくてはならない。
失礼があっては困る。
「大丈夫?」
仕事の合間に大変であろうミューズが気を遣い、チェルシーに回復魔法を掛けてくれ、それを見てセシルが疲労回復の薬湯を淹れてくれた。
少し早いが自然と休憩を取ろうとなる。
「申し訳ありません、お茶を淹れるなどあたしの仕事なのに」
「良いのです、チェルシーさんもあまり無理なさらずに。あなたに倒れられては心配で仕事出来ない者がいますから」
チェルシーはその気遣いに目が潤む。
「うぅ、ありがとうございます。セシル様って優しい。婚約の話もきっとたくさん来てますよね」
「あぁまぁ……僕は少ない方ですけどね」
苦笑し、ため息をついている。
(よく地味だとか静かとか、身内が寡黙過ぎて嫌とか言われてるけど、やはりモテるのね。良い人だもの、当然よね)
セラフィム出身で薬草の知識が豊富だし、薬箱の代わりに欲しい人だ。
「二人で何の話をしてるのです?」
「ルド様」
チェルシーとセシルの間を割るようにしてルドが来た。
「婚約の話、ルドも結構手紙貰ってたよね」
セシルがさり気なくルドに話題を明け渡し、距離を取る。
「あまり言いたくないですね」
うんざりした様子のルドにセシルも同調する。
「そうだよね。断りの手紙を用意するのも大変だし」
「そうなの? 羨ましいと思うのですが」
それでもちょっと貰ってみたい。
「十も二十も貰えばうんざりするものです。それが格上の家からなら断るのも一苦労で」
ルドがため息をついている。
「気になる人もいたんじゃないですか?」
多くの令嬢がルドを好いていると侍女仲間に聞いているし、チェルシーよりも好条件の人が多いはず。
心変わりしてしまうのも仕方ないと思っているのだが。
「いいえ。俺はチェルシーが好きだからそれ以外の人は気になりません。それで、いつ求婚の返事をくれるのでしょう。今か今かと待っているのですが」
直球の言葉にチェルシーではなく、セシルが焦る。
「ルド、そういう話は二人の時にしてくれ!」
皆の前でする話ではないと咎めた。
ティタンは特に気にした様子もなく、ミューズはわくわくしながらチェルシーを見ている。
ライカは眉間に深く皺を寄せつつも、見ないふりをして書類仕事に戻っていった。
「その二人きりの時間も取れず、セシルと仲良さそうな様子を見せられて、我慢できると思いますか? それとも戦前にした話を忘れてしまったのでしょうか」
口調は丁寧なのに、怒っているような雰囲気がある。
「落ち着いてくださいルド様。後ほどお返事しますから」
「待てません。今ここで返事を下さい」
真っすぐに見つめられ、チェルシーは慌てふためいた。
皆がいる前でなんて恥ずかしすぎる。
「ココさんに言われたのです。チェルシーが俺に恋人はいないと言っていたと。何故その時に求婚を受けたと伝えてくれなかったのですか。俺はあなたが好きなのに」
「いやいや、まだ恋人でも婚約者でもないのに言えませんって」
「ではチェルシーは俺の事をどう思っているのですか。俺はあなたの恋人にも婚約者にも夫にもなれます」
色々飛び越えた選択肢にチェルシーは身震いする。
助けを求めるようにミューズを見れば、応援するよという視線を向けられ、男衆は逆に目線を逸らしていた。
差し出された手を見ながら、チェルシーは思う。
(すっごい重そう!)
さすがはティタンの部下だと思いながら、そっとチェルシーは手を添えた。
どのような関係から始まろうと結果は同じ。
チェルシーも一途で真面目で不器用なルドが好きだ。
幸いにも早くに顔を合わすことが出来たのだが、落ち着いて話す事は無理だった。
その後はバタバタとした日が続き、休み時間どころか寝る間も削れてしまう。
ある程度城内が落ち着いたと思えば、今度はティタンと共に属国を回るミューズの世話に追われた。
ルドもまた属国への移動の準備や下調べなどで手一杯だ。
慣れない他国での生活と、そして書類仕事。寝る時以外は皆で報告書を作成したり、その国の挨拶や文化を復習する。
チェルシーもまたミューズに教わり勉強をしていた。
(付いていくだけでも覚えることが多いものね)
作法やマナーが多少異なる為に、侍女であるチェルシーも慣れないながらも勉強をしなくてはならない。
失礼があっては困る。
「大丈夫?」
仕事の合間に大変であろうミューズが気を遣い、チェルシーに回復魔法を掛けてくれ、それを見てセシルが疲労回復の薬湯を淹れてくれた。
少し早いが自然と休憩を取ろうとなる。
「申し訳ありません、お茶を淹れるなどあたしの仕事なのに」
「良いのです、チェルシーさんもあまり無理なさらずに。あなたに倒れられては心配で仕事出来ない者がいますから」
チェルシーはその気遣いに目が潤む。
「うぅ、ありがとうございます。セシル様って優しい。婚約の話もきっとたくさん来てますよね」
「あぁまぁ……僕は少ない方ですけどね」
苦笑し、ため息をついている。
(よく地味だとか静かとか、身内が寡黙過ぎて嫌とか言われてるけど、やはりモテるのね。良い人だもの、当然よね)
セラフィム出身で薬草の知識が豊富だし、薬箱の代わりに欲しい人だ。
「二人で何の話をしてるのです?」
「ルド様」
チェルシーとセシルの間を割るようにしてルドが来た。
「婚約の話、ルドも結構手紙貰ってたよね」
セシルがさり気なくルドに話題を明け渡し、距離を取る。
「あまり言いたくないですね」
うんざりした様子のルドにセシルも同調する。
「そうだよね。断りの手紙を用意するのも大変だし」
「そうなの? 羨ましいと思うのですが」
それでもちょっと貰ってみたい。
「十も二十も貰えばうんざりするものです。それが格上の家からなら断るのも一苦労で」
ルドがため息をついている。
「気になる人もいたんじゃないですか?」
多くの令嬢がルドを好いていると侍女仲間に聞いているし、チェルシーよりも好条件の人が多いはず。
心変わりしてしまうのも仕方ないと思っているのだが。
「いいえ。俺はチェルシーが好きだからそれ以外の人は気になりません。それで、いつ求婚の返事をくれるのでしょう。今か今かと待っているのですが」
直球の言葉にチェルシーではなく、セシルが焦る。
「ルド、そういう話は二人の時にしてくれ!」
皆の前でする話ではないと咎めた。
ティタンは特に気にした様子もなく、ミューズはわくわくしながらチェルシーを見ている。
ライカは眉間に深く皺を寄せつつも、見ないふりをして書類仕事に戻っていった。
「その二人きりの時間も取れず、セシルと仲良さそうな様子を見せられて、我慢できると思いますか? それとも戦前にした話を忘れてしまったのでしょうか」
口調は丁寧なのに、怒っているような雰囲気がある。
「落ち着いてくださいルド様。後ほどお返事しますから」
「待てません。今ここで返事を下さい」
真っすぐに見つめられ、チェルシーは慌てふためいた。
皆がいる前でなんて恥ずかしすぎる。
「ココさんに言われたのです。チェルシーが俺に恋人はいないと言っていたと。何故その時に求婚を受けたと伝えてくれなかったのですか。俺はあなたが好きなのに」
「いやいや、まだ恋人でも婚約者でもないのに言えませんって」
「ではチェルシーは俺の事をどう思っているのですか。俺はあなたの恋人にも婚約者にも夫にもなれます」
色々飛び越えた選択肢にチェルシーは身震いする。
助けを求めるようにミューズを見れば、応援するよという視線を向けられ、男衆は逆に目線を逸らしていた。
差し出された手を見ながら、チェルシーは思う。
(すっごい重そう!)
さすがはティタンの部下だと思いながら、そっとチェルシーは手を添えた。
どのような関係から始まろうと結果は同じ。
チェルシーも一途で真面目で不器用なルドが好きだ。
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