隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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番外編:生真面目な騎士と早とちりな侍女①

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「浮かれた顔してどうしたの?」
 同僚の声にチェルシーは顔を引き締める。

「ふふ、だってもう少しでミューズ様が帰って来るじゃない」
 帝国との勝負に勝ったと聞いて、チェルシーは泣いた。
 主が無事に帰ってくる話を聞けば、涙も出るに決まっている。

 それにルドに会えるのも嬉しい。

 戦に行く前に受けた告白を思うと顔が赤くなる。

 返事など勿論決まっているので、はれて恋人となれるのは願ってもない事だ。。

(セラフィムからこっちに来てまさか結婚出来るなんて)
 正直結婚なんて諦めていた。

 ミューズを支えるためならば別にしなくてもいいかと思っていたのもあるし、ルドに会うまで誰かに恋をしたこともなかった。

 あんなにかっこいい異性に優しくされたのも初めてだ。

「そう言えばチェルシー、ルド様って恋人いるの? 聞いた事ないけど」

「いないんじゃない?」

(今はまだ、ね)
 ルドは帝国に行く前にチェルシーに好意を示してくれていた。

 だが、それを自分から言いふらすものではないと思っているから、いくら親しい侍女仲間でも言えなかった。

 大事な事なのでミューズには伝えてあるが、勿論誰にも言い触らす人ではないので広まってはいない。

「いないなら良かった。実は私、狙ってたのよね」

「はぁ?」
 思わずどすの利いた声になってしまい反省する、でも湧き上がる嫉妬心は止まらない。

「私だけじゃないのよ。結構狙ってる子は多いの。顔は良いし優しくて強い。しかも第二王子の側近で高給取り。狙わない人がいると思う?」

「確かにそうね」
 外から見た分には確かにそうだ。

 だがチェルシーは既に告白を受けているし、仕事で話すことも多い。絶対に有利だ。

「ルド様もだけど、今回の戦から帰ってくる皆は英雄だもの。婚約の打診や釣書もどの方に送るか、多くの令嬢が考えているわ」

「でもルド様は結構条件があるって聞いたけど。ほらお姑さんと一緒に住むとか、ライカ様と親族になるとか」

「そんなの英雄の妻になれるなら些細なことじゃない。あまり気にしないんじゃないかな」
 チェルシーはそれを聞いて焦った。

(これってルド様を見る目が皆変わったって事? そうなるとあたしはルド様からして特別な人にならない?)
 ルドだって本当はもっと条件のいい、気立ての良い美人が妻になる方が嬉しいのではないだろうか。

 それにチェルシーはセラフィム生まれでアドガルムの文化や作法に未だ不慣れな部分がある。

 今後ルドの隣で支えるには生粋にアドガルム生まれの女性の方がいいのではないかと、思考がぐるぐるして来た。

 先程まで自分が優位だと思っていたのが嘘のように落ち込んでいく。

「ルド様を想う人って結構いるの?」

「あれだけの美形だから勿論いるわよ。例えば伯爵令嬢のリーリア様とか、同じく伯爵令嬢の―」
 どんどんと名を上げられ、チェルシーは凹む。

(生粋の伯爵令嬢に好かれてるなんて、あたしじゃ駄目じゃない?)
 改めて自分の手を見る。

 ミューズのように白く細い手ではないし、仕事で疲れた手だ。

 顔だって体型だって秀でたものはない。

 しかも地位は他国の子爵令嬢、しかも実家は太くない。

(勝てる要素ないんだけど)
 今この話をしているココにすら、チェルシーは勝てる気がしなかった。

 ココはチェルシーと共にミューズの身の回りの世話をする侍女なのだが、卒なく仕事をこなし要領もいい。

 それに良く考えれば彼女は自分よりも長くここに勤めている。ルドとも話をしたり、顔を合わせる機会も多かったはずだ。

「そうだわ、差し入れに何か焼き菓子でも持っていって見ましょう」

「あら駄目よ。ルド様は甘いもの苦手って有名だわ。持ってくなら別なものがいいわね」
 そんな事も知らない。

(あたしって思っている以上にルドの事知らないのね)
 ミューズと共に騎士団の見学をし、焼き菓子を差し入れをした時は食べてくれた。

 だから受け取って貰えると思ったのだが、気を遣って食べてくれたのだろう。

 思いの外ショックを受け、チェルシーはどんどんと落ち込んでしまった。





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