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番外編:奥手な術師と積極的な魔道具師①
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ヴァルファル帝国との戦いが終わった後、ようやく時間が取れたサミュエルはシフを連れて自室で話をする。
だが何を話しても、シフは怖い顔をして、短く返事をするだけだ。
「怒ってる?」
ちらちらと伺うが、シフの顔は明らかに怒っていた。
戦が終わり数日経っていたのに、後始末が忙しくこうしてなかなか会えなかった。
時間を合わせることが出来ず、こうして、ようやっと話せたのだが、シフは無言で睨みつけてくる。
(どうしよう……この様子では、帝国に移住するって言っても付いてきてくれないかも)
友人もいるし、住み慣れたところを離れるなんて嫌と言われそうだ。
この険悪な空気なら尚更。
(でも今日を逃すと話せないかもしれない)
数日後にはアドガルムにはいないだろう。
「あ……「あのね」
サミュエルが話そうとした時を狙って、シフは口を開く。
「私、待ってたの。サミュエルが来てくれる事を」
「ご、ごめん」
責める口調に思わず謝る。
「なのに全然来てくれなくて、何で?」
サミュエルは何度も空き時間を見つけてシフのいる所へ行った。
「行ったけれど、会えなくて……」
「伝言も残さずに?」
悪いと思いつつ、こくりと頷く。
他の者に話しかける事も出来ず、いつも大人しく帰ってきていた。
いくら傷がなくなっても性格はすぐには変えられない。
せめてシフの兄のフェンがいたならば、話しかけられたかもしれない。
しかし彼以外の魔導具師はサミュエルの事を好まない。
憧れのシフを射止めた者として、憎まれている。
「それにその仮面とフードは? お父様から聞いたのよ、もう治ってるって」
戦前に見せてもらった酷い怪我はもう完全に治っていると聞いた。
それなのに今も何故かつけている。
「癖、なのもあるけど……」
今更外すのは恥ずかしいし、少なからず注目を集めるのは嫌なのもあった。
だがもう一つ大切な理由がある。
「シフに一番に見て貰いたかったんだ、君にだけ受け入れてもらえればそれでいいから」
「あら、どんな顔でもサミュエルなら好きよ」
さらっと言うシフの男前なところにサミュエルは笑う。
「君はいつも僕を励ましてくれるね。ありがとう」
意図して言ってるかはわからない。
けれど彼女の言葉はサミュエルをとても勇気づけてくれる。
「大した顔ではないけれど」
サミュエルはフードと仮面を外した。
さすがにシフも驚く。
あれだけの酷い怪我が跡形もなく消えているのだ。
しかも失われた眼球まである。
「どう、かな?」
好みじゃないとかそんな風に思われたのではないかと心配だ。
とにかくサミュエルは自信がない。
そして好きな人に嫌われたくない。
「えっと、思ったよりも可愛らしいかな」
「可愛い?」
サミュエルはシフよりも年上だ、まさかそんな言葉を返されるとは。
「素朴というか何というか、悪くないわよ」
カッコいい、とまでは言わないが純朴で真面目そうな顔つきだ。
顔色は青白いが日の光も浴びず、忙しく仕事をしていた疲れもあるのだろう。
「僕はシフのタイプ、かなぁ」
心配そうに聞かれ、シフは首をひねる。
容姿ではなく優しくて真面目な中身が好きだ、顔は二の次だけれど、それでサミュエルが安心するならばと力強く頷く。
「うん。好みよ」
シフの家族は割りとキリッとしたイケメンが多いが、サミュエルはほわっとしていて癒やされる顔立ちだ。
「怖がらなくていいのからね」
見つめるサミュエルの目は恐怖をたたえていた。
受け入れられるか心配だったのだろう、幼い頃から拒絶されてきた人生だ。簡単に心の傷は払拭はされないだろう。
「これで君の隣にいても許される?」
「そんなの前々から許されているわよ」
「確かにいつもシフは許してくれてた。でも周囲は違うんだ」
そうは言いつつ、サミュエルは別に周囲の対応を恨んではない。
顔の傷を理由に周囲から距離を取っていたのは自分だ。
帝国に行ったらそこをもっと克服したい。
だってシドウ達はサミュエルを厭わなかった。
弱気で陰気なサミュエルを見せてなかったのもあるが、必要以上にサミュエルを拒絶しなかったからだろう。
(アドガルムでももっと近寄る努力をするべきだったんだ)
王宮医師のシュナイの手解きを受けて薬や医学の知識があるサミュエルだが、誰かに頼られた事は少ない。どちらかというとそういう話はセシルが受けてくれていた。
人当たりのいい義弟は話しやすいようで、皆そちらに行ってしまう。
自分がこのような顔だからと卑下していたが、今ならわかる。
自分も周りの人を拒絶していたのだと。
「周りが何と言っても私はサミュエルの味方だわ」
そう言ってくれるシフの存在が何と嬉しいものか。
サミュエルは跪き、手を差し出す。
「シフ=ガードナー様。僕と結婚してください」
ちょっぴり恥ずかしい。
だが何を話しても、シフは怖い顔をして、短く返事をするだけだ。
「怒ってる?」
ちらちらと伺うが、シフの顔は明らかに怒っていた。
戦が終わり数日経っていたのに、後始末が忙しくこうしてなかなか会えなかった。
時間を合わせることが出来ず、こうして、ようやっと話せたのだが、シフは無言で睨みつけてくる。
(どうしよう……この様子では、帝国に移住するって言っても付いてきてくれないかも)
友人もいるし、住み慣れたところを離れるなんて嫌と言われそうだ。
この険悪な空気なら尚更。
(でも今日を逃すと話せないかもしれない)
数日後にはアドガルムにはいないだろう。
「あ……「あのね」
サミュエルが話そうとした時を狙って、シフは口を開く。
「私、待ってたの。サミュエルが来てくれる事を」
「ご、ごめん」
責める口調に思わず謝る。
「なのに全然来てくれなくて、何で?」
サミュエルは何度も空き時間を見つけてシフのいる所へ行った。
「行ったけれど、会えなくて……」
「伝言も残さずに?」
悪いと思いつつ、こくりと頷く。
他の者に話しかける事も出来ず、いつも大人しく帰ってきていた。
いくら傷がなくなっても性格はすぐには変えられない。
せめてシフの兄のフェンがいたならば、話しかけられたかもしれない。
しかし彼以外の魔導具師はサミュエルの事を好まない。
憧れのシフを射止めた者として、憎まれている。
「それにその仮面とフードは? お父様から聞いたのよ、もう治ってるって」
戦前に見せてもらった酷い怪我はもう完全に治っていると聞いた。
それなのに今も何故かつけている。
「癖、なのもあるけど……」
今更外すのは恥ずかしいし、少なからず注目を集めるのは嫌なのもあった。
だがもう一つ大切な理由がある。
「シフに一番に見て貰いたかったんだ、君にだけ受け入れてもらえればそれでいいから」
「あら、どんな顔でもサミュエルなら好きよ」
さらっと言うシフの男前なところにサミュエルは笑う。
「君はいつも僕を励ましてくれるね。ありがとう」
意図して言ってるかはわからない。
けれど彼女の言葉はサミュエルをとても勇気づけてくれる。
「大した顔ではないけれど」
サミュエルはフードと仮面を外した。
さすがにシフも驚く。
あれだけの酷い怪我が跡形もなく消えているのだ。
しかも失われた眼球まである。
「どう、かな?」
好みじゃないとかそんな風に思われたのではないかと心配だ。
とにかくサミュエルは自信がない。
そして好きな人に嫌われたくない。
「えっと、思ったよりも可愛らしいかな」
「可愛い?」
サミュエルはシフよりも年上だ、まさかそんな言葉を返されるとは。
「素朴というか何というか、悪くないわよ」
カッコいい、とまでは言わないが純朴で真面目そうな顔つきだ。
顔色は青白いが日の光も浴びず、忙しく仕事をしていた疲れもあるのだろう。
「僕はシフのタイプ、かなぁ」
心配そうに聞かれ、シフは首をひねる。
容姿ではなく優しくて真面目な中身が好きだ、顔は二の次だけれど、それでサミュエルが安心するならばと力強く頷く。
「うん。好みよ」
シフの家族は割りとキリッとしたイケメンが多いが、サミュエルはほわっとしていて癒やされる顔立ちだ。
「怖がらなくていいのからね」
見つめるサミュエルの目は恐怖をたたえていた。
受け入れられるか心配だったのだろう、幼い頃から拒絶されてきた人生だ。簡単に心の傷は払拭はされないだろう。
「これで君の隣にいても許される?」
「そんなの前々から許されているわよ」
「確かにいつもシフは許してくれてた。でも周囲は違うんだ」
そうは言いつつ、サミュエルは別に周囲の対応を恨んではない。
顔の傷を理由に周囲から距離を取っていたのは自分だ。
帝国に行ったらそこをもっと克服したい。
だってシドウ達はサミュエルを厭わなかった。
弱気で陰気なサミュエルを見せてなかったのもあるが、必要以上にサミュエルを拒絶しなかったからだろう。
(アドガルムでももっと近寄る努力をするべきだったんだ)
王宮医師のシュナイの手解きを受けて薬や医学の知識があるサミュエルだが、誰かに頼られた事は少ない。どちらかというとそういう話はセシルが受けてくれていた。
人当たりのいい義弟は話しやすいようで、皆そちらに行ってしまう。
自分がこのような顔だからと卑下していたが、今ならわかる。
自分も周りの人を拒絶していたのだと。
「周りが何と言っても私はサミュエルの味方だわ」
そう言ってくれるシフの存在が何と嬉しいものか。
サミュエルは跪き、手を差し出す。
「シフ=ガードナー様。僕と結婚してください」
ちょっぴり恥ずかしい。
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