隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第189話 幸福の時間

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「皆とまたこうして会えるのは嬉しい」
 そう言ったのはアドガルム国の国王だ。

 数年で白髪もしわも増えたが、穏やかな雰囲気は変わらない。

 ヴァージルの処刑を行うまでは一時期険しい表情が多かったのだが、日が経つにつれて元の柔和な表情に戻っていった。

 今はそれよりも幾分か口元がだらしなくなっている。

「かわいい孫がまた増えて、もうたまらん」

「父上。挨拶くらいは真面目にこなしてください」
 だいぶしまらない表情になるアルフレッドに厳しい言葉を投げつける。

 その腕には金髪碧眼の可愛らしい女の子を抱いていた。

 エリックの実の娘であるフィオナだ。

 抱っこされている間エリックの髪を引っ張りスカーフを口に入れているが動じた様子もなくあやしている。

「わかったから抱っこさせてくれ」
 きりっとした表情で両腕を出すアルフレッドに、エリックは身を引いた。

「まだ駄目です」
 エリックとて娘を抱っこする機会は少ない。

 その貴重な時間をアルフレッドに渡すのは嫌なのだ。

「二人は相変わらずですね。ですがこのままでは話が進みませんのでお願いします」
 ティタンは苦笑しながら生まれて数か月の娘を抱っこしながら、もう片方の手でミューズを支えている。

 喧騒の中、ティタンの大きな腕で眠る姿はお人形さんのようだ。

「そうだな。早くその子も抱っこしたいし」
 コホンと咳ばらいをし、アルフレッドは向き直る。

「こうして一堂に会することが出来て喜ばしい限りだ。悪いニュースもなくめでたい事が続き、平和が続いている。これもひとえに皆が尽力してくれたおかげだ。本当にありがとう。実の息子たちがこのように立派に成長してとてもうれしい」
 皆が静かに耳を傾けていた。

「特にリオン、お前がだいぶ頑張っていることはこちらにも届いているぞ。それに見た目も変わったな。父親である俺から見ても戸惑ってしまった」

「そうですね、自分でも驚きです。まさか成人後にこんなに伸びるとは思ってませんでしたから」
 帝国に移り住んでから数か月が経過した頃、急に身長が伸びた。

 今まではマオの少し上くらいだったのが、今では見上げるくらいになっている。

「理屈はわかりませんが身長が伸びた事で魔力量も増えました。何度も魔力切れを起こしのも関係あるのでしょうか?」
 背の高さはさすがにティタンには及ばないが、今やエリックに並ぶくらいになっている。
 顔立ちもすっかり幼さが抜けて、逞しくなっていた。

 魔力も大幅に増えて転移魔法を多用しても平気な程である。

「そう言うのもあるかもな。俺も魔力量は増えている。リオンみたいに身長は伸びなかったが」
 エリックも自身の変化を感じていた。
 
「立場的にはリオンの方が上だ。もう気軽に名を呼ぶことは出来ないな」
 宗主国とは言え、アドガルムくらいではエヴァスティ帝国に遠く及ばない。

 大きく、そして立派になった弟に感慨深いものを感じる。

「止めてください。それに僕はずっと皇帝で居るつもりはないです」

「どういうことだ?」

「いずれ時がきたら共和国としてまた再出発をしたいのです」

「共和国?」
 ティタンが首を傾げながらリオンに近づく。

 リオンはいまだ眠る可愛い姪っ子の頬に触れ、口元を綻ばせながら説明をする。

「今みたいな絶対君主の制度はいつかまたこうして破綻するかもしれない。だからイシスやシドウと話し合って徐々に皆の賛同を得ながら。民達にトップを選ばせる共和制を取り入れたいと思っています」

「それをすると帝国は良くなるのか?」

「それが、どうなるかはっきりとわからないんです」
 ティタンの疑問に苦笑いで返す。

「良くなるか悪くなるかは民次第になるんですけど、少なくとも自分達の責任で選ぶわけだから、文句は出づらくなると思います。良いも悪いも自分達が選んだ人が国を動かすので。生活に直結する事ですから真剣に選んでくれるのではないかなと感じています」
 マオの炊き出しとイシスの陳情書の内容を見て、リオンは改善したいと思う点を見つけた。

 それが異民族が多すぎることにより起きる不和と、そして一定数いる怠惰な者達だ。

「大多数の意見が通りやすい危険はありますが、今よりずっと熱心に国の事について取り組んでくれるはずです。勿論まだまだ実現はしないけど。僕が死ぬ前までには制度を整えていきたいと思っている」
 壮大な計画に関心してしまう。

「凄いなリオン。何かあったら俺にも言ってくれ、出来ることはするから」

「ありがとうティタン兄様。じゃあ早速なのですが、エヴァスティ国の騎士団を作りたいんだ。セラフィムに滞在中にフロイド様に頼まれて基礎を作ったと聞いたんだけど、同じことを僕のところでもして欲しいです。もちろんミューズ義姉様とセレーネも共に来てください。歓迎します」
 ティタンはミューズの出産の為の里帰りに当然ついていき、ミューズの体調を見ながら空いた時間でセラフィムの騎士達を鍛えていた。

「皆筋が良いな。これならどんどん強くなれる」
 褒め上手なのと、意外と優しい教え方で一気にセラフィムの騎士団は強くなっていった。

 ルドやライカもそれに倣い、乞うものには丁寧に指導を行なった。

 産前産後の約ふた月で、かなりの騎士達が強くなった

 それに伴い軍事力も上がり、そして交易の方でも数字が上がった。

 国としての自信がついたようで、考え方と発言に変化が出たようだ。

「エヴァスティ国では今戦える者が少ないんだ。僕は騎士について詳しくないし、実力主義なところもあるだろうから。だから兄様の力が必要なんだ」
 他にも懸念がある。

 新興国として、人手不足もあり、どうしても荒くれ者も引き受けざるをえない。ウィグルでは優しすぎるし、人に教える経験も少ない。

 女性騎士として民にも紹介しているから女性はともかく男性は反発してしまうのがある。

「帝国の為に力を貸すのは我がアドガルムの為にもなるな。よし、行ってくるといい」
 二つ返事でアルフレッドは許可を出す。

 セレーネ達に簡単に会えなくなるのは寂しいが、リオンがこの場で頼んだ理由もわかる。

「「ありがとうございます」」
 リオンとマオ、二人が揃って言った。

 その表情には安堵が示されていた。


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