187 / 202
第187話 変化と幸せ
しおりを挟む
帝国と戦いの後、程なくレナンは懐妊した。
あの時の感動と驚きは忘れられないが、そこから世界はがらりと変わるとは予想だにしていなかった。
過保護すぎるくらい甘やかされ、大事にされ、守られて、一人になる事は殆ど許されなかった。
それは跡継ぎを宿したからなのかもしれないが、とかくエリックが縛り付ける勢いで次々に指示を出していたのは覚えている。
「レナンに傷一つつけるなよ」
彼は率先して妊娠や出産についての勉強をしたり、直に話を聞いたりしていた。
レナンの実母トゥーラにも頭を下げ、支えて欲しいと頼んだのもある。
恐らく妊娠していたレナンよりも、エリックの方が精神的に追い詰められていたのではないかと言うくらい、あの時のエリックは殺気立っていた。と、二コラが後から教えてくれたのだ。
何とか出産を終え、レナンが無事であったその時にようやく憑き物が取れたように落ち着いたと。
生まれた男女の双子を見て、エリックの目も潤み、まさに鬼の目にも涙だった。
アルフレッドもアナスタシアも、久しくエリックが泣いたのを見た事がないと言っていていたし、余程嬉しかったのだと安堵した。
「ありがとう、レナン」
そう言って労わってくれる、だが、そこからまた甘やかされるという生活は終わらなかった。
「もうすぐ皆さんがいらっしゃる時間ですね」
ラフィアの促しに時計を見る。
「もうそんな時間だったのね」
縫い途中の産着を綺麗に仕舞うと、別な箱を取り出していそいそと準備をする。
「喜んでくれるかしら?」
もじもじと自信なさそうにしているレナンに、ラフィアは優しく微笑む。
「勿論です。レナン様が心を込めてお作りしたものですもの。絶対に喜んでもらえますわ」
レナンの代わりに綺麗に包まれたプレゼントを大事に持つ。
それはプレゼント用の手製の産着だ。ミューズとマオに渡そうと並行して作っていたのである。
「二人には良くしてもらったし、なかなか会えなくなってしまったもの。せめて何か記憶に残るものを渡せないかなって思って」
ミューズやマオと話す時間は大幅に減っていた。
帝国の復興で移り住んでしまったマオはともかく、ミューズとも離れてしまったのである。
それまでリオンが請け負っていた外交の部分を補うために、ティタンもまたアドガルムを離れることが増えた。
他国の言語、文化についての知識はリオンに遠く及ばないが、人柄の良さと目に見える誠実さで、他国の者に割と好感触であった。
足りない部分はミューズやセシルが補い、そしてルドやライカも剣だけでなく話術を磨く努力をする。
ティタンと共に色々な国を回れることが嬉しいようで、ミューズはよくレナン宛に手紙に送ってくれた。
その内容がまた微笑ましい。
「何を見るのもどこへ行くのもティタン様と一緒だととても楽しいのです」
外交で諸外国を回るのは大変だが、それでもその合間に色々なところを見せてくれたり、お土産を買ってくれたりするらしい。
「どうやらリオン様と密にやり取りしているらしく、お勧めの店や観光地など私が好きそうなところを聞いているようですわ」
そのおかげで少ない時間でも楽しみを見つけられているようだ。
そんなミューズと久々の再会になるなのは、何も外交にいっていたからだけではない。
ミューズもまたレナンの後に、妊娠し、そして出産場所をセラフィムに決めたからだ。
「我が儘を言って申し訳ございません。ですが母の近くで出産をしたくて」
心配ではあったが、ミューズが決めた事ならばと反対はされなかった。
何よりセラフィムは薬学の国。
最高の薬師がおり、優秀な医師も多く、産後の対応も慣れている。
そういう意味での安心感はあった。
「うふふ、どんな可愛い子かしら」
実はレナンはまだミューズの子には会っていない。
薄紫色の髪をした女の子だとは聞いたが、それ以上の情報はまだだ。
早く会えることを楽しみにしている。
色々な事を考えているとノックの音が聞こえてきた。
あの時の感動と驚きは忘れられないが、そこから世界はがらりと変わるとは予想だにしていなかった。
過保護すぎるくらい甘やかされ、大事にされ、守られて、一人になる事は殆ど許されなかった。
それは跡継ぎを宿したからなのかもしれないが、とかくエリックが縛り付ける勢いで次々に指示を出していたのは覚えている。
「レナンに傷一つつけるなよ」
彼は率先して妊娠や出産についての勉強をしたり、直に話を聞いたりしていた。
レナンの実母トゥーラにも頭を下げ、支えて欲しいと頼んだのもある。
恐らく妊娠していたレナンよりも、エリックの方が精神的に追い詰められていたのではないかと言うくらい、あの時のエリックは殺気立っていた。と、二コラが後から教えてくれたのだ。
何とか出産を終え、レナンが無事であったその時にようやく憑き物が取れたように落ち着いたと。
生まれた男女の双子を見て、エリックの目も潤み、まさに鬼の目にも涙だった。
アルフレッドもアナスタシアも、久しくエリックが泣いたのを見た事がないと言っていていたし、余程嬉しかったのだと安堵した。
「ありがとう、レナン」
そう言って労わってくれる、だが、そこからまた甘やかされるという生活は終わらなかった。
「もうすぐ皆さんがいらっしゃる時間ですね」
ラフィアの促しに時計を見る。
「もうそんな時間だったのね」
縫い途中の産着を綺麗に仕舞うと、別な箱を取り出していそいそと準備をする。
「喜んでくれるかしら?」
もじもじと自信なさそうにしているレナンに、ラフィアは優しく微笑む。
「勿論です。レナン様が心を込めてお作りしたものですもの。絶対に喜んでもらえますわ」
レナンの代わりに綺麗に包まれたプレゼントを大事に持つ。
それはプレゼント用の手製の産着だ。ミューズとマオに渡そうと並行して作っていたのである。
「二人には良くしてもらったし、なかなか会えなくなってしまったもの。せめて何か記憶に残るものを渡せないかなって思って」
ミューズやマオと話す時間は大幅に減っていた。
帝国の復興で移り住んでしまったマオはともかく、ミューズとも離れてしまったのである。
それまでリオンが請け負っていた外交の部分を補うために、ティタンもまたアドガルムを離れることが増えた。
他国の言語、文化についての知識はリオンに遠く及ばないが、人柄の良さと目に見える誠実さで、他国の者に割と好感触であった。
足りない部分はミューズやセシルが補い、そしてルドやライカも剣だけでなく話術を磨く努力をする。
ティタンと共に色々な国を回れることが嬉しいようで、ミューズはよくレナン宛に手紙に送ってくれた。
その内容がまた微笑ましい。
「何を見るのもどこへ行くのもティタン様と一緒だととても楽しいのです」
外交で諸外国を回るのは大変だが、それでもその合間に色々なところを見せてくれたり、お土産を買ってくれたりするらしい。
「どうやらリオン様と密にやり取りしているらしく、お勧めの店や観光地など私が好きそうなところを聞いているようですわ」
そのおかげで少ない時間でも楽しみを見つけられているようだ。
そんなミューズと久々の再会になるなのは、何も外交にいっていたからだけではない。
ミューズもまたレナンの後に、妊娠し、そして出産場所をセラフィムに決めたからだ。
「我が儘を言って申し訳ございません。ですが母の近くで出産をしたくて」
心配ではあったが、ミューズが決めた事ならばと反対はされなかった。
何よりセラフィムは薬学の国。
最高の薬師がおり、優秀な医師も多く、産後の対応も慣れている。
そういう意味での安心感はあった。
「うふふ、どんな可愛い子かしら」
実はレナンはまだミューズの子には会っていない。
薄紫色の髪をした女の子だとは聞いたが、それ以上の情報はまだだ。
早く会えることを楽しみにしている。
色々な事を考えているとノックの音が聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)
しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。
良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。
人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ?
時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。
ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。
気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。
一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。
他作品で出ているサブキャラのお話。
こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。
このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)?
完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
猛獣のお世話係
しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」
父は頷き、王家からの手紙を寄越す。
国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。
条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。
猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。
猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など
「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」
「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」
婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み!
いつまでもモフっていたい。
動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。
もふもふはいいなぁ。
イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。
完全自己満、ハピエン、ご都合主義です!
甘々です。
同名キャラで色んな作品を書いています。
一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。
他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる