隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
186 / 202

第186話 幸せの時間

しおりを挟む
 レナンは幸せだった。

 アドガルム国はだいぶ落ち着いてきていて、周りも笑顔の者が増えている。

 数年が立ち、街並みもすっかりと整えられて、もう戦の傷跡などないように思えた。

「あの時は全てが突然だったわね」
 平穏が一気に崩れ去ったあの日の事は忘れることは出来ない。

 突如戦の準備が始まり、瞬く間に戦争が始まった。
 武器や鎧を身につけ、騎馬に乗り、騎士たちた出国していくのを見て、レナンは震えあがったのを覚えている。

 戦をするという事は、人が死ぬという事。見知った者達が決意を込めて死地に向かう姿を見て恐ろしかった。

 その中には異母兄のルアネドもいた。

 彼は穏やかに微笑み、レナンにも行く前に挨拶にきてくれた。彼の婚約者である令嬢がしきりに泣いて何かを必死に伝えていた姿を鮮明に覚えている。

 そんなルアネドが捕虜となって生きていると聞いた時は、自分の事のように嬉しかった。

 アドガルムの慈悲に感謝をした。

 そんなルアネドだが、今はパルス国国王となり奮闘している。そして当時の婚約者だった女性は王妃になった。

 レナンは異母妹としてではなくアドガルム国の王太子妃として結婚式に参加したが、ルアネドの妻になるロゼッタはほわほわとした雰囲気の可愛らしい女性であった。

「実はロゼッタは不思議な力の持ち主でね、そのおかげでいつも助かっているんだ」
 アドガルムとの戦でも帝国との戦でも命を落とさなかったのは、その不思議な力のお陰らしい。

「まぁ万能ではないけど、何かあったらすぐに知らせるからね」
 と言われたが、どういった力かまでは教えてもらえなかった。

 少なくともレナンのものとは違うらしい。無理に聞き出すのは良くないとして、詳しく聞くのは止めた。

 そしてパルス国との交流も増え、エリックとルアネドはとても親しくなる。
 お互いを呼び捨てにするくらい親密に。

「俺も混ぜてくれ」
 その関係に嫉妬したグウィエンが、自分も仲良くなりたいと何度もアドガルムに来て大変であった。

 数年の口説き落としでようやくエリックもグウィエンに呼び捨てを許可する。

 もう少ししたら属国から同盟国くらいになれそうというのと、グウィエンも国王の座を奪う目処が立ったそうなので特別に、という事らしい。

「エリック様もなんだかんだでグウィエン様を嫌ってはなさそうだし」
 物怖じもせずエリックを怖がりもしないグウィエンは、どことなくティタンに雰囲気も似ている。

 それゆえか文句や愚痴は言いながらもそこまで突き放していない、ように見える。

 まぁ相変わらずレナンを口説こうとするのは変わりないが、それはエリックが全力で止めていた。

 いつか本気で氷漬けにされるのではと冷や冷やしてしまうが。

「レナン様。お茶をお淹れしましょうか」
 物思いにふけっているとラフィアがそっと声を掛けてくれた。

 幼い頃から一緒の優しい侍女だ。

 政略結婚でアドガルムに来る際、母国から一緒についてきてくれた忠実なる女性である。そんな彼女も最近自分の幸せを掴み、笑顔が増えていた。

「ありがとう、頂くわね」
 ラフィアがお茶の準備を始めたので、レナンも動かしていた手を止める。

 可愛らしい、小さな産着を縫っていた。

 赤ちゃんの肌はとても薄くデリケートなので、縫い目が皮膚に当たってこすれないよう注意する。

 一番初めに作った時は四苦八苦したが、枚数を重ねるごとに手際が良くなり、形も整ってきた。

「とても可愛らしいデザインですね」
 ラフィアがレナンの手にある産着を見る。

「今は出来ることが少ないし、つい張り切っちゃって」
 大きなお腹を摩り、ゆったりとソファに凭れ掛かる。

 最初の子の時よりはやや小さめだが、それでも赤子がいるとこんなに大きくなるのかと驚くほど大きい。

「最初が双子だった事もあって大きくなりやすいのかしら?」
 優しく優しく我が子のいるお腹を撫でる。

「あなたはどんな子かしら。早く会いたいわね」
 穏やかな笑みでそう呟くと、返事をするように中から押されるのを感じた。

 ますますレナンの笑顔が深くなる。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜

羽村美海
恋愛
【※第17回らぶドロップス恋愛小説コンテスト最終選考の結果が出たので再公開しました。改稿版との差し替えも完了してます】 思い入れのあるレストランで婚約者に婚約破棄された挙げ句、式場のキャンセル料まで支払う羽目になった穂乃香。 帰りに立ち寄ったバーでしつこいナンパ男を撃退しようとカクテルをぶちまけるが、助けに入ってきた男の優れた見目に見蕩れてしまった穂乃香はそのまま意識を手放してしまう。 目を覚ますと、見目の優れた男とホテルにいるというテンプレ展開が待ち受けていたばかりか、紳士だとばかり思っていた男からの予期せぬ変態発言により思いもよらない事態に……! 数ヶ月後、心機一転転職した穂乃香は、どういうわけか社長の第二秘書に抜擢される。 驚きを隠せない穂乃香の前に社長として現れたのは、なんと一夜を共にした、あの変態男だった。 しかも、穂乃香の醸し出す香りに一目惚れならぬ〝一嗅ぎ惚れ〟をしたという社長から、いきなりプロポーズされてーー!? 断るも〝業務の一環としてのビジネス婚〟で構わないと言うので仕方なく応じたはずが……、驚くほどの誠実さと優しさで頑なだった心を蕩かされ、甘い美声と香りに惑わされ、時折みせるギャップと強引さで熱く激しく翻弄されてーー 嗅覚に優れた紳士な俺様社長と男性不信な生真面目秘書の遺伝子レベルで惹かれ合う極上のラブロマンス! .。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜ *竹野内奏(タケノウチカナタ)32歳・働きたい企業ランキングトップを独占する大手総合電機メーカー「竹野内グループ」の社長・海外帰りの超絶ハイスペックなイケメン御曹司・優れた嗅覚の持ち主 *葛城穂乃香(カツラギホノカ)27歳・男性不信の生真面目秘書・過去のトラウマから地味な装いを徹底している .。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜ ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません .。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚ ✧エブリスタ様にて先行初公開23.1.9✧

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

処理中です...