隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
172 / 202

第172話 憎悪と羨望

しおりを挟む
「アルフレッド様が何をしたというの? あの方はとても慈悲深い方で、優しい方よ。そこまでの憎しみを受ける方には思えないわ」

「その慈悲深さが、優しさが俺を長年苦しめたんだ」
 仄暗い目がレナンを射抜く。

「アドガルムで学んだことは、帝国で過ごしてきた俺の心を否定するものだった」
 人の上に立つ者として慈悲を持ってはいけない。
 下の者に威厳を持って接する事、そして問題を起こすものには粛々と制裁を加える事とされていた。

 帝国の者以外は皆虐げていい存在で、アドガルムも侵略対象だった。

「俺は侵略の為にアドガルムへと赴いた。慣れ合うつもりはなかった。なのに何故馴れ馴れしくも話しかけ、優しくする? 一人にして欲しいと言っても留学生だからと、同じ将来国を背負う立場の者だからと、突き放しても離れることをしなかった。あいつらは一体何なんだ?」
 バルトロスは困惑の表情をしていた。

「王とは、上に立つ者は孤独だ。皆と一緒では舐められるばかりだ。慣れ合っていては足元を掬われ蹴落とされる。それが常だ。なのに、何でこんなに隙ばかりなのだ。この王太子もお前という足枷を好んで側に置き、命を賭ける。理解できない」

「お前も、あの従者もだ。なぜこいつを助けに来た? 近づけば凍らせられて死ぬってわかっていたはずなのに、何故だ? あの第三王子も、解除魔法を次々とかけてイシスまで助けた。一歩間違えば自分が死ぬかもしれないというまで、ぎりぎりまで魔力を使う。王族らしくない。国を負うつもりはないのか?」

「……あなたにはずっとわからないと思うわ」
 レナンはバルトロスに近づく。

「誰かのために命を賭けるという事が何なのか、全くわからないのでしょう? 命を賭けてもいい、そう思う大切な人はいなかったの?」

「そんな者はいない、弱みになるだけだ」
 はっきりと言うバルトロスにぐっと唇を噛み締める。

「イシスさんは? ルビアは? あなたにとってはそう言う対象にはならなかったの?」
 実の娘や、慕ってくれていた女性に対してもそう思えないのか。

「彼女たちの想いがわからないのならば、一生わかるはずはないわ」
 レナンは憐みの目でバルトロスを見る。

「お前にとってのエリック王太子は命を賭けるに値する存在、という事なのだな。こんなにも弱く無様な男なのに」

「えぇ。愛してるもの。彼を助ける為ならば命を失ってもいい」
 二コラと共に突き進んだ時、寒さで体のあちこちが痛く、血が流れた。

 でも諦めるなんて思わなかった。少しでも希望があるならば、それにかけようと思ったのだ。

「どいつもこいつもどうして……!」
 バルトロスは怒りに満ちた目でレナンを掴む。

「何故だ。どうしてアドガルムの王族ばかりがこうして満たされる? 俺のどこがいけないんだ!」

「ひっ?!」
 まさか抱きしめられるとは思っていなかった。

「お前もアナスタシアも、だ。何故俺にも劣る者達にここまで入れ込み、そして尽くすんだ。俺の方が強く、そして偉いのに」

「いや、やだ!」
 離れたいのに、離してくれない。
 それどころか寧ろ強く抱きしめられ、体に触れられる。

「こんな負け犬のどこがいいんだ。俺にしろ」
 耳元にかかる吐息に鳥肌が立った。

「俺の方が強く、そしてお前を愛してやる。だからこんな男を忘れて、俺のものになれ」

「ふざけないで、誰がそんな事を……!」
 必死で抵抗を続けるが振りほどけない。

「なぁ俺を愛してくれ、俺だけを見てくれ。ヴァージルでもエリックでもなく、俺を」

(ヴァージル? 何でここでその名が)

「なぁ頼む」
 縋る様な目には切望の色が濃く見えた。

 あぁ、この人は……。

「誰も自分を見てくれなくて、寂しいのね」
 レナンは抵抗を止め、腕を下ろす。

「常に比較され、自分に自信を無くし、人を信じられなくなったのね。だから人を攻撃し、自分を守ろうとした。そうして心を閉ざし、向けられていた愛情すらも信じられなくなった……」
 イシスはバルトロスからの愛情を期待していた。
 期待した分、憎悪となって帝国に牙を向いた。

 ルビアはバルトロスを愛していた。
 だがバルトロスがヴァージルを大切に思っているだろうと思い、ヴァージルの為にも尽くした。

 それ故バルトロスは、ルビアは本当はヴァージルに仕えたいのだと思っていた。

 自分に愛などないと思い、それ故愛情溢れるアドガルムが憎く感じた。
 だから壊し、平穏を奪おうとしたのだろう。

 奪うだけではなく、アドガルムに絶望も植え付けようと、エリックの体を手に入れた。

「あなたはエリック様が憎いのではなく、妬ましかったのですね」
 優しい両親に囲まれ、兄弟仲もいい。
 皆に慕われ、政略結婚だと言いつつも幸せを手に入れた王太子。

「だから奪おうというのか」
 地の底から聞こえる様な、絞り出すような声がした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...