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第171話 深い闇の中に
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「ここはどこかしら?」
レナンは真っ暗な中をひたすら歩いていた。
「エリック様の体からバルトロスを離そうとしたのに、あれ?」
もしかして、自分の方が体から離れてしまったのか?
「どうしよう、どうしたら戻れるの?」
暗い中でレナンはおろおろと歩く羽目になってしまった。
「何でお前がここに居る?」
警戒を強め、エリックは目の前の男を睨みつける。
「俺がお前の体を貰ったからな」
バルトロスは不敵な笑みを浮かべながら、エリックに近づいた。
「俺の体を? どういうことだ」
「忘れたか? 気を失う前にルビアにこうして体の深部に封印されただろう?」
そう言われ、痛む頭を抑える。
「記憶が混濁したか……まぁいい。お前はここから出られないし。もうじき死ぬ」
「何だと?」
「もうじきお前の体は壊れるからだ。魔力を使い果たし、消えてなくなる。安心しろ、レナン王女もお前と一緒に死ぬからな」
そして自分も、とは言わなかった。
もう少しこの王子と遊んでやろうと思ったのだ。
「俺の事はいい、だがレナンも死ぬだと? 貴様、一体何をした!」
エリックは掴みかからんばかりの形相で、バルトロスを睨みつけた。
「俺の邪魔をしようと食って掛かって来るから、お前の魔法で氷漬けにしただけだ。元がいいからな、良い氷像になったぞ」
「貴様!」
エリックが拳を握り、殴りかかってくる。
もうだいぶ力もないはずなのに、よく動けるものだ。
バルトロスはその攻撃をかわし、エリックの腹部に蹴りを入れる。
「うぐっ!」
避けることもままならず、まともに受けてしまう。
やはり力がなくなり、動きが鈍い。
「弱すぎるな。これで王太子とは何とだらしない」
その勢いでエリックの頬にも拳を入れる。
(くそっ)
抵抗する事も出来ぬままにバルトロスの良いようにされる。
「何か最後に言う事はあるか?」
無様に地べたに這うエリックに対して、バルトロスが声を掛けるが、エリックは身動き一つ取らない。
「何だ、もしかして死んだか?」
呆気ない王太子の死にバルトロスはつまらなさそうにする。
(まぁどちらにしろ死ぬしかないからな、俺もお前も)
魔力の為に生かしていたが、魔力がなければどっちみち要らない。
それにもう体の崩壊も進んでいる。
エリックを生かしておくメリットはもうない。
「さらばだ王太子。地獄で会おう」
自分もこの王太子も人を殺し過ぎた、行く先は決まっている。
「エリック様から離れなさい!」
暗い世界の中で、突如威勢の良い声が聞こえてきた。
「まさかこんなところにまで来るとはな」
真っ暗な中、立っていたのはレナンであった。
バルトロスの足元にいるエリックを見て、急いで駆け寄ろうとする。
「動くな」
バルトロスはエリックの頭を踏みつけ、レナンの行動を制する。
「それ以上近づけば殺す。動くな」
「卑怯よ」
この男は何度こうしてレナンを追い込むのか。
「卑怯で結構、これ以上邪魔を受けるわけには行かないんでね」
「邪魔ですって? そもそもあなた達がアドガルムに喧嘩を売ったことから起こったことよ。それなのにまるでこちらに罪があるかの如く語るなんて、おかしな人だわ。少しはエリック様を見習ったらどうなのよ!」
声を震わせながらレナンは主張する。
こうして人と口論めいた事をするのは初めてだ。
「自分勝手な事ばかりして、そしてエリック様を道連れに死のうとして、死にたければ一人で勝手に死になさい」
「そうは行かない。エリック王太子が生きていたらアルフレッドが喜ぶだろ? あの男を喜ばせたくはない」
「?」
なぜここでアドガルムの国王の名が出るのか。
「お前のような小娘は何も知らないだろうが、俺とあいつは旧知の中だ。昔からあいつの事が虫唾が走るほど嫌いだった。あいつ以外もな。アドガルムの者は皆俺の神経を逆なでする。アルフレッドもアナスタシアもシュナイもヒューイもロキも……皆嫌いだ!」
噴出する想いにレナンは戸惑いつつも耳を傾ける。
「そんなに嫌いなのに、エリック様の体を奪い、アドガルムを乗っ取ろうとしたのは何故? 帝国の力を持ってしたら、ただ侵略する事も出来たでしょう」
内部崩壊を狙っただけにしては違和感がある口調だ。
ただエリックやレナンを殺していれば、少なくともアドガルムの戦力は大幅に殺げたはずだ。
レナンが死んでいたら、ティタンやミューズを奪い返すことも出来なかっただろうし、リリュシーヌも消滅していた。ライカ達もルビアの手駒になっていた可能性がある。
下手に生かしておかず、切り捨てていたら良かっただろうに、下手に生かしておいたから、バルトロスは窮地な追い込まれたのである。
「嫌いだ。だから王太子の顔で、体で、直にアルフレッドを殺してやろうと思ったのに」
なかなか根深い思いがあるようだが、レナンには理解できない。
「アルフレッド様が何をしたというの? あの方はとても慈悲深い方で、優しい方よ。そこまでの憎しみを受ける方には思えないわ」
「その慈悲深さが、優しさが俺を長年苦しめたんだ」
仄暗い目がレナンを射抜く。
レナンは真っ暗な中をひたすら歩いていた。
「エリック様の体からバルトロスを離そうとしたのに、あれ?」
もしかして、自分の方が体から離れてしまったのか?
「どうしよう、どうしたら戻れるの?」
暗い中でレナンはおろおろと歩く羽目になってしまった。
「何でお前がここに居る?」
警戒を強め、エリックは目の前の男を睨みつける。
「俺がお前の体を貰ったからな」
バルトロスは不敵な笑みを浮かべながら、エリックに近づいた。
「俺の体を? どういうことだ」
「忘れたか? 気を失う前にルビアにこうして体の深部に封印されただろう?」
そう言われ、痛む頭を抑える。
「記憶が混濁したか……まぁいい。お前はここから出られないし。もうじき死ぬ」
「何だと?」
「もうじきお前の体は壊れるからだ。魔力を使い果たし、消えてなくなる。安心しろ、レナン王女もお前と一緒に死ぬからな」
そして自分も、とは言わなかった。
もう少しこの王子と遊んでやろうと思ったのだ。
「俺の事はいい、だがレナンも死ぬだと? 貴様、一体何をした!」
エリックは掴みかからんばかりの形相で、バルトロスを睨みつけた。
「俺の邪魔をしようと食って掛かって来るから、お前の魔法で氷漬けにしただけだ。元がいいからな、良い氷像になったぞ」
「貴様!」
エリックが拳を握り、殴りかかってくる。
もうだいぶ力もないはずなのに、よく動けるものだ。
バルトロスはその攻撃をかわし、エリックの腹部に蹴りを入れる。
「うぐっ!」
避けることもままならず、まともに受けてしまう。
やはり力がなくなり、動きが鈍い。
「弱すぎるな。これで王太子とは何とだらしない」
その勢いでエリックの頬にも拳を入れる。
(くそっ)
抵抗する事も出来ぬままにバルトロスの良いようにされる。
「何か最後に言う事はあるか?」
無様に地べたに這うエリックに対して、バルトロスが声を掛けるが、エリックは身動き一つ取らない。
「何だ、もしかして死んだか?」
呆気ない王太子の死にバルトロスはつまらなさそうにする。
(まぁどちらにしろ死ぬしかないからな、俺もお前も)
魔力の為に生かしていたが、魔力がなければどっちみち要らない。
それにもう体の崩壊も進んでいる。
エリックを生かしておくメリットはもうない。
「さらばだ王太子。地獄で会おう」
自分もこの王太子も人を殺し過ぎた、行く先は決まっている。
「エリック様から離れなさい!」
暗い世界の中で、突如威勢の良い声が聞こえてきた。
「まさかこんなところにまで来るとはな」
真っ暗な中、立っていたのはレナンであった。
バルトロスの足元にいるエリックを見て、急いで駆け寄ろうとする。
「動くな」
バルトロスはエリックの頭を踏みつけ、レナンの行動を制する。
「それ以上近づけば殺す。動くな」
「卑怯よ」
この男は何度こうしてレナンを追い込むのか。
「卑怯で結構、これ以上邪魔を受けるわけには行かないんでね」
「邪魔ですって? そもそもあなた達がアドガルムに喧嘩を売ったことから起こったことよ。それなのにまるでこちらに罪があるかの如く語るなんて、おかしな人だわ。少しはエリック様を見習ったらどうなのよ!」
声を震わせながらレナンは主張する。
こうして人と口論めいた事をするのは初めてだ。
「自分勝手な事ばかりして、そしてエリック様を道連れに死のうとして、死にたければ一人で勝手に死になさい」
「そうは行かない。エリック王太子が生きていたらアルフレッドが喜ぶだろ? あの男を喜ばせたくはない」
「?」
なぜここでアドガルムの国王の名が出るのか。
「お前のような小娘は何も知らないだろうが、俺とあいつは旧知の中だ。昔からあいつの事が虫唾が走るほど嫌いだった。あいつ以外もな。アドガルムの者は皆俺の神経を逆なでする。アルフレッドもアナスタシアもシュナイもヒューイもロキも……皆嫌いだ!」
噴出する想いにレナンは戸惑いつつも耳を傾ける。
「そんなに嫌いなのに、エリック様の体を奪い、アドガルムを乗っ取ろうとしたのは何故? 帝国の力を持ってしたら、ただ侵略する事も出来たでしょう」
内部崩壊を狙っただけにしては違和感がある口調だ。
ただエリックやレナンを殺していれば、少なくともアドガルムの戦力は大幅に殺げたはずだ。
レナンが死んでいたら、ティタンやミューズを奪い返すことも出来なかっただろうし、リリュシーヌも消滅していた。ライカ達もルビアの手駒になっていた可能性がある。
下手に生かしておかず、切り捨てていたら良かっただろうに、下手に生かしておいたから、バルトロスは窮地な追い込まれたのである。
「嫌いだ。だから王太子の顔で、体で、直にアルフレッドを殺してやろうと思ったのに」
なかなか根深い思いがあるようだが、レナンには理解できない。
「アルフレッド様が何をしたというの? あの方はとても慈悲深い方で、優しい方よ。そこまでの憎しみを受ける方には思えないわ」
「その慈悲深さが、優しさが俺を長年苦しめたんだ」
仄暗い目がレナンを射抜く。
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