隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
158 / 202

第158話 援軍

しおりを挟む
「俺様が来たんだ、逃がさないさ」
 シェルダムの視界に赤髪の男が映るが、すぐに姿が消える。

「悪いが孫の危機だ、手短に済まさせてもらうぞ」
 今度は別な男が現れた。

 白髪交じりの金髪をした壮年の男―シグルドが剣を振るい、空中にいるシェルダムの首に迫る。

 こんな不安定な状態でも素早い剣捌きだ、シェルダムは焦った。

(こいつら、一体何なんだ?)
 かろうじて間に合った転移魔法にて地面に降り立つが、立て続けの転移に目が回る。結界に弾かれた事も原因で、体力の消耗が早い。

 熱い衝撃が首に走った。

 視界がぐるりと回り、栗色の髪と赤い目が見える。

「お前……」
 キールの刃により、シェルダムの首は無残にも地を転がった。





「すみませんグウィエン様。邪魔をしてしまいまして」
 キールは剣を振り、鞘に収める。

「いや、助かった、それよりも何かあったのか?」
 先程シグルドは孫の危機だと言っていた。そしてキールはともかく、ロキがここに居るのはおかしい。

 彼は王城の守りに徹すると言っていたはずだ。
 何かがあったと察する他ない。

「ミューズが敵に奪われ、その影響でティタン王子も操られている。叔父としてそのような状況を手をこまねいてみているわけにはいかないからな」
 ロキは口元に笑みを浮かべているが、顔とは裏腹に声には怒りが満ちていた。

「だからヴァルファルに乗り込む。ティタン王子を抑えられるとしたら、親父殿かキールだけだろうと思ってな。帝国に行く前に皇子達を仕留めておけば、多少は王城の結界も保てるだろう。フェンもシフもいるしな。すまないが後は任せたぞ、グウィエン王子」

「待ってください、ロキ殿。皇子達って……」
「先程の火柱は見えなかったか? アシュバン皇子ももう消し炭だ」
 そう伝えるとロキはキールとシグルドを伴い、姿を消す。

「嵐のような人だな」
 急に現れたと思ったら、あっという間に消えていく。

「キール様、凄い……」
 ユーリはうっとりとした目でシェルダムを仕留めたキールのいたところを見つめていた。

 グウィエンも剣を一度収め、セトに目配せをする。

「彼らのおかげで余裕が出来た。まだまだ帝国兵はいるから油断はするなよ、それにこの捕虜たちを何とかせねばな」
 転がっているシェルダムの首を持ち上げ、どうするべきか悩む。

「重いな……」
 帝国の皇子を殺したとあれば、ますます戦は激化するだろう。

 一時的に統率が乱れたとしても、皇帝が生きていれば何度でも攻め入って来る事は想像に難くない。

「そのままエリック様へ手柄として渡せば、親友として認められるかもしれませんよ?」

「そんな事したら、ますます嫌われるのはわかっているだろ。キール殿の功績としてきちんと報告するさ」
 セトに首を渡し、グウィエンはユーリの周囲で怯えた顔をしている亡命者たちに目を配る。

(落ち着いたらこの者達を母国へ戻せるように尽力せねばな)
 曲がりなりにもロキに後始末を頼まれたし、このまま見捨てるわけにも行かない。
 アルフレッドの許可を得て、しばし安全な場所に置いて上げねば。

 だが、その前に。

「本当にあなた達が帝国を見限ったのか、本心を知りたい。だからこのまま俺と共にアドガルムを守るために来て欲しい」
 シェルダムとの交戦でグウィエンも少なからず疲弊している。

 増え続けている帝国兵をこの街から除外するためには、一人でも多くの味方が欲しい。

 ロキ達がいないならば尚更だ。

「もしも手を貸してもらえるならば、帝国を倒し母国へ帰る際に手助けすると約束しよう。故郷に帰りたいならば一緒に来てくれ」
 グウィエンの言葉にざわめきが酷くなる。

 契約魔法の為に戦いを強要されていたが、けして戦うのが好きなもの達ではない。

 どうしたらいいか決心がつかないようだ。

「何を悩むというのですか!」
 ユーリが群衆を見据える。

「自分達の信じる道、そして未来の為にも力を尽くすのが通りでしょう。国に帰る為、矜持を守る為、そして誇りを保つ為にも自分達の力で勝利を掴みなさい」
 ユーリの凛としてはっきりとした声は、皆の耳にすっと入っていく。

 命の恩人であるユーリの言葉を素直に聞いてくれているようだ。

「それにこのままアドガルムが負けてしまったら、あなた方はまた帝国の犬に戻るのよ? いいえ、裏切り者だもの。どのような目に合うか、わからないわ」
 裏切者の末路がどうなるのかなんて、すぐに想像できるはずだ。

「恐ろしいわよね? ならば少しでも生き残れる道に賭けなさい。人に自分の命を預けるの何て、余程信頼している人しか駄目よ」
 王族らしく、決意のある言葉で発破をかける。

 ユーリの言葉で皆も覚悟を決め、武器を手に取った。

「……お前、何でそんな立派な事を言えるのに、ティタン様に阿呆みたいな手紙を送っていたんだ」

「そうね、盲目だったからかしら」
 強いティタンに本当に憧れていた。しかし、彼は何の返事も言葉もくれなかった。

 当然だ、彼は自分なんか、目に入っていなかったのだから。

 ここに来てキールと話し、彼が本当はどんな人物なのか分かった。

 何を欲して、何がしたくてあのような強さを持ったのか。

 それらはアドガルムの皆が抱いた強き信念に基づく想いだった。自分勝手なユーリでは用いえない強さ。

「自分の為、家族の為、愛する人の為に得られる強さがあるって、ここの人たちを見て何となくわかったわ」
 シェスタにいた頃には他の者を蹴り落として上にいく事しか頭になかった。

 生まれ持っての地位と力を持つ自分は勝ち組で、何でも出来ると勘違いをしてしまっていたのだ。

「お兄様に殺される前に気づけて良かったわ……」
 もしもあのまま国に帰ろうとしたら、始末されていたという事実に後から気づかされた。それだけ自分の行動は過ちで、国を破滅に向かわせていたのだと理解した。

(罪滅ぼしも兼ねてこうして助力に来たのだけど、許される日は来るかしら)
 今はまだ言えないが、いつか落ち着いたら兄に謝ろうと思っている。

 人に優しい兄に、妹を殺す決断をさせてしまった事を後悔していた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...