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第153話 もう一人
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「もう一つの魂?」
それは一体誰のものか。
「それはもちろん本物の皇帝だ」
バルトロスはそう言う。
口調も表情も変わり、雰囲気も変わった。
「早くこの体を独り占めしたい。ルビア、とっととその王太子の体にバルトロスを移せ、俺は自分だけの体が欲しいんだ」
「落ち着いて下さいませ。すぐですから」
ルビアはそう言うとエリックの肩に触れる。
「少々魂を体の奥深くに封印します、抗わないでください」
「何を、」
不意にエリックの意識が朦朧とする。
「あなたの体を動かすには意識が邪魔なの。魂と体があればそっくりそのまま魔力をもらえるわ。バルトロス様の為に、あなたには目覚めない眠りについてもらうわね」
勿体ないけれどと、ルビアは嘆息した。
目の前が暗く染まって、エリックの意識が遠のいていく。
「これが新しい体か」
エリックとなったバルトロスが己を見て驚いた。
「体も軽いし、魔力も漲る。何といい身体だ」
常々鍛えているのであろう、見た目以上に逞しい体だ。
「こんなに馴染むのも初めての感覚だ。それまでは適する体もなく、壊れてばかりだったからな」
悠然と微笑み、ルビアに寄る。
「ありがとうルビア。おかげで俺は自由になった」
バルトロスに褒められ、ルビアは歓喜し、跪く。
「あぁ。わが主バルトロス様。おめでとうございます」
涙を零し、ルビアは感激していた。
ようやく悲願が叶った。バルトロスの魔力に耐えられる器が手に入ったのだ。
(初めて会った時に感じたけれど、これだけの魔力を持っていて、しかも由緒正しい王族の血を持つ人。やはりバルトロス様に相応しかった)
次点で言えばリオンでも良かったが、アドガルム国をも頂くならばやはり王太子の方が都合が良い。
それにエリックの方が、ルビアの好みだ。リオンでは若すぎる。
「兄上、だいぶ待たせてしまい申し訳ありません」
「あぁバルトロス。いや、今は俺がバルトロスか。今後は帝国の傘下に下れ。アドガルムの王太子としてな」
バルトロスの兄、ヴァージルはそう命じる。
「えぇ、皇帝陛下の意のままに」
バルトロスは恭しく頭を下げる。
「さて、それでアシュバンとシェルダムの進捗を聞こう。どうだろうか」
「そうですね」
命じられ、ルビアが通信を試みる。
「あまり芳しくないようです……パルスやシェスタ、そしてセラフィムの王太子たちも出張っているようで」
「何だと?!」
ヴァージルは驚愕した。
「俺の息子たちだ、それがなぜこうも苦戦するというのだ」
「……」
バルトロスは静かにヴァージルの様子を見ている。
「ルビア、その王子と共にアドガルムへと攻め入ってこい。そうすれば状況はすぐに覆せるだろう」
ヴァージルの言葉にルビアは残念そうに首を横に振る。
「申し訳ありません、ヴァージル様。今はまだ私がこの体に馴染んでおりませんので、時折ティタン王子の抵抗が見られます。戦のような激しい状況の中では何をきっかけに魔法が解けてしまうかわかりませんわ」
「ではバルトロスと共にアドガルムに攻め入ればいいだろう」
「それもいけません。アドガルムはエリック殿下の故郷、思い入れの深い地では何かの拍子にエリック殿下の意識が起きてしまうかもしれませんから。今はまだ魂を移したばかりですし、万全を期すにはまだ早いのです」
「ちっ、使えない奴らめ」
ヴァージルは王座の間へと身を翻す。
「ひとまず兵を送っておけ。それと、この皇宮に引き入れたリオン王子はもう殺していい。こうして無事にエリック殿下の体を手に入れられたなら、用済みだ。スペアは要らない」
いざとなればティタンの体もある。ヴァージルは振り返ることなくその場を去った。
その姿が見えなくなるとバルトロスは笑う。
「本当によろしかったのですか、バルトロス様」
「あぁ。あんな体でよければくれてやる。これで俺は自由だ」
ルビアは悲しそうな顔をするが、バルトロスは清々しい顔をしている。
これで長年のしがらみから解放されたのだ。自分の体を手放す寂しさよりも、喜びの方が勝っていた。
「これでもう兄上に支配されることもないし、そして忌まわしい血筋からも解き放たれた。新たな未来を得るために、この体を存分に有効活用させてもらおう」
今後はエリックとして過ごすようになる。まずは邪魔な国王を排除し、実権を握ろう。
「ルビア、ありがとう。お前のおかげだ」
「勿体なきお言葉です。昔命を助けて頂いたお礼としては、まだまだ足りないのですが、これからも誠心誠意バルトロス様に仕えてさせて頂きますわ」
バルトロスはルビアの命の恩人だ。
その昔、高位貴族を誑かした淫売として、ルビアは貴族社会からつまはじきにされた過去がある。
決まっていた婚約も破棄され、そして評判の悪くなった娘を養っていく程、ルビアの実家は優しくなかった。
お金の為に娼館へと落とされる。
死のうと思った。このような屈辱受け入れられない。
ルビアは自殺を図ったところを助けてくれたのが、バルトロスだ。
だから忠誠を誓い、どんな汚い手を使ってもバルトロスの望みを叶えようと決めた。
何があってもバルトロスだけは裏切らない。
それは一体誰のものか。
「それはもちろん本物の皇帝だ」
バルトロスはそう言う。
口調も表情も変わり、雰囲気も変わった。
「早くこの体を独り占めしたい。ルビア、とっととその王太子の体にバルトロスを移せ、俺は自分だけの体が欲しいんだ」
「落ち着いて下さいませ。すぐですから」
ルビアはそう言うとエリックの肩に触れる。
「少々魂を体の奥深くに封印します、抗わないでください」
「何を、」
不意にエリックの意識が朦朧とする。
「あなたの体を動かすには意識が邪魔なの。魂と体があればそっくりそのまま魔力をもらえるわ。バルトロス様の為に、あなたには目覚めない眠りについてもらうわね」
勿体ないけれどと、ルビアは嘆息した。
目の前が暗く染まって、エリックの意識が遠のいていく。
「これが新しい体か」
エリックとなったバルトロスが己を見て驚いた。
「体も軽いし、魔力も漲る。何といい身体だ」
常々鍛えているのであろう、見た目以上に逞しい体だ。
「こんなに馴染むのも初めての感覚だ。それまでは適する体もなく、壊れてばかりだったからな」
悠然と微笑み、ルビアに寄る。
「ありがとうルビア。おかげで俺は自由になった」
バルトロスに褒められ、ルビアは歓喜し、跪く。
「あぁ。わが主バルトロス様。おめでとうございます」
涙を零し、ルビアは感激していた。
ようやく悲願が叶った。バルトロスの魔力に耐えられる器が手に入ったのだ。
(初めて会った時に感じたけれど、これだけの魔力を持っていて、しかも由緒正しい王族の血を持つ人。やはりバルトロス様に相応しかった)
次点で言えばリオンでも良かったが、アドガルム国をも頂くならばやはり王太子の方が都合が良い。
それにエリックの方が、ルビアの好みだ。リオンでは若すぎる。
「兄上、だいぶ待たせてしまい申し訳ありません」
「あぁバルトロス。いや、今は俺がバルトロスか。今後は帝国の傘下に下れ。アドガルムの王太子としてな」
バルトロスの兄、ヴァージルはそう命じる。
「えぇ、皇帝陛下の意のままに」
バルトロスは恭しく頭を下げる。
「さて、それでアシュバンとシェルダムの進捗を聞こう。どうだろうか」
「そうですね」
命じられ、ルビアが通信を試みる。
「あまり芳しくないようです……パルスやシェスタ、そしてセラフィムの王太子たちも出張っているようで」
「何だと?!」
ヴァージルは驚愕した。
「俺の息子たちだ、それがなぜこうも苦戦するというのだ」
「……」
バルトロスは静かにヴァージルの様子を見ている。
「ルビア、その王子と共にアドガルムへと攻め入ってこい。そうすれば状況はすぐに覆せるだろう」
ヴァージルの言葉にルビアは残念そうに首を横に振る。
「申し訳ありません、ヴァージル様。今はまだ私がこの体に馴染んでおりませんので、時折ティタン王子の抵抗が見られます。戦のような激しい状況の中では何をきっかけに魔法が解けてしまうかわかりませんわ」
「ではバルトロスと共にアドガルムに攻め入ればいいだろう」
「それもいけません。アドガルムはエリック殿下の故郷、思い入れの深い地では何かの拍子にエリック殿下の意識が起きてしまうかもしれませんから。今はまだ魂を移したばかりですし、万全を期すにはまだ早いのです」
「ちっ、使えない奴らめ」
ヴァージルは王座の間へと身を翻す。
「ひとまず兵を送っておけ。それと、この皇宮に引き入れたリオン王子はもう殺していい。こうして無事にエリック殿下の体を手に入れられたなら、用済みだ。スペアは要らない」
いざとなればティタンの体もある。ヴァージルは振り返ることなくその場を去った。
その姿が見えなくなるとバルトロスは笑う。
「本当によろしかったのですか、バルトロス様」
「あぁ。あんな体でよければくれてやる。これで俺は自由だ」
ルビアは悲しそうな顔をするが、バルトロスは清々しい顔をしている。
これで長年のしがらみから解放されたのだ。自分の体を手放す寂しさよりも、喜びの方が勝っていた。
「これでもう兄上に支配されることもないし、そして忌まわしい血筋からも解き放たれた。新たな未来を得るために、この体を存分に有効活用させてもらおう」
今後はエリックとして過ごすようになる。まずは邪魔な国王を排除し、実権を握ろう。
「ルビア、ありがとう。お前のおかげだ」
「勿体なきお言葉です。昔命を助けて頂いたお礼としては、まだまだ足りないのですが、これからも誠心誠意バルトロス様に仕えてさせて頂きますわ」
バルトロスはルビアの命の恩人だ。
その昔、高位貴族を誑かした淫売として、ルビアは貴族社会からつまはじきにされた過去がある。
決まっていた婚約も破棄され、そして評判の悪くなった娘を養っていく程、ルビアの実家は優しくなかった。
お金の為に娼館へと落とされる。
死のうと思った。このような屈辱受け入れられない。
ルビアは自殺を図ったところを助けてくれたのが、バルトロスだ。
だから忠誠を誓い、どんな汚い手を使ってもバルトロスの望みを叶えようと決めた。
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