隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第145話 奪われたもの

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 炎渦巻く中で、さすがにティタンは足を止める。

 殺さぬようにと言われたがライカは剣を持っている。

 あれをどう受けたらいいか。
 ティタンは考えた。

(まともに切られては火傷と裂傷でただではすまないな……)
 そう考えてから、ティタンはライカに向かって走る。

 単純な事だ。受けなければいい。

 ライカの剣を躱しながら、隙を探る。

 鬼気迫る剣が猛追してくるが、どことなく懐かしさを感じて、胸が熱くなる。

 大事な事を忘れているような気がする。

「ティタン様! 早くそいつらをやっつけて!」
 ミューズの声にハッとする。

(こいつらはミューズを傷つける敵だ。俺の妻に手を出すものは許さん)
 ティタンは集中した。

 ライカの攻撃をかい潜り、再起不能にするにはどうしたらいいのか。

 躱してばかりでは切りが無い。

 覚悟を決め、ティタンは炎の中ライカに向かい拳を突き出す。

 剣で受け止められるが、炎は消えた。

「?」
 不思議に思うが、ティタンはそのまま攻撃を続ける。

 赤い髪に見覚えはあるが、顔はぼやけて見えない。
 ただ、泣きそうに歪んでいるのは何となく感じられていた。




「もう、何をしているのよ」
 ティタンの力ならライカなどあっという間に倒せるはずだ。

 もう一人の騎士だって、一撃で倒したのだから。

 こうしている間もセシルは退却の準備をしている。

(あまり魔力を消費したくないけど、仕方ないわ)
 この後を考えれば温存したかったが、やむを得ずだ。

 セシルはアドガルム兵に何かを命じている。

「直接の攻撃魔法はあまりないのよね」
 特にここ最近は死霊にばかりに任せていて、ルビアが直接戦う事はなかった。

 そしてミューズ自身も攻撃魔法に長けてはいない。

 そんな不慣れな魔法でセシルを倒せるとは思わなかった。

「やるしかないか」
 もう少しティタンが役に立てばと思ったが殺さないように、という命令は彼には難しかったようだ。

 剣を振るえば人の命を軽く奪えてしまうから仕方ない事なのだろう。

 セシルに向けて強力な魔法を放った。

 眩い光が灼熱となってアドガルム兵を狙う。

「来た!」
 セシルは魔石を砕き、魔力を補充すると大きく息を吐いた。

(大丈夫、これさえ防ぐことが出来れば逃げ切れる)
 セシルは防御壁を張った。なるべく一転に集中させ、ぶ厚いものを作る。

(あいつはミューズ様の魔力に慣れていない、上手く魔法を放てないはずだ)
 ミューズが攻撃魔法を苦手だというのはロキからも聞いて確認済だ。

 という事はこれは無理矢理放ったもの。

 ならば、まだ防げる可能性は高い。
 案の定破られることはなかったが、防御壁を超えて熱を感じた時は驚いた。

 もう少しまともに放たれていたら、防ぎきれなかっただろう。

「この勝負は僕の勝ちだね」
 肩で荒い息をしながらセシルは膝をつく。

「何を言ってるの? あたしはまだ魔力に余裕があるのよ。あなたの負けだわ」
 再び魔法を放とうとルビアは魔力を溜め始めた。

「いいんだよ。僕が生き残ることは目的ではないから」
 そう言うとセシルは自身の後ろに作ってあった転移陣に魔力を注ぐ。

 ルビアを倒した後、準備をしていた。

 皇宮に行くなら援軍が欲しかったからだ。

 自分如きの微々たる力ではティタンの補佐など出来ないという思ったからだ。

(今もこうして役に立ててない。ならば出来る事だけでもせめてこなさないと)
 アドガルムに、恩のある国に顔向けが出来ない。

 転移陣が光り出す。

「無駄よ、ここら一帯には結界が張ってあるもの。あなたの魔力程度では転移魔法は使えないわ」

「知ってる、通信石が使えなかったから気づいていた。余程協力な壁があるって。だから」
 ありったけの魔石が転移陣の周囲にちりばめられていた。

「この時だけ、少しだけでいいんだ。一瞬結界を破られればいいんだよ」
 凄まじい光と火花を散らせながら、転移陣に乗っていたアドガルム兵は消えていく。

「これで、とりあえず大丈夫かな」
 頭が痛い。意識がもうろうとする。

 魔石を大量に使用したのに、セシルの残った魔力も根こそぎ持っていかれた。

(それだけ皇宮にある結界は強いってことだよね)
 恐らくもう既に修復されているだろう。

 顔にぬるりとした感触を感じる。

「体がここまで悲鳴を上げたのは初めてだ」
 少々頑張り過ぎて、負荷が来たようだ。

 目と鼻から血が垂れている。

「最後に仲間を助けられたのは良かった」
 本当は皆助けられたら良かったんだけれど。

 ライカも地に倒れるのが見える。

(このまま僕達も取り込まれるかな)
 意識が遠のき、とうとうセシルも倒れた。

(せめて体を取られないように自死しとく? でも生きていても死んでいても操られるのか)
 どちらにしろ最悪だ。

(ティタン様、どうか目を覚ましてください……)
 主が正気に戻れば戦況は変わるのにと、悔しい思いで意識を失ってしまった。


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