隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
141 / 202

第141話 ルビアの計画

しおりを挟む
 皇宮の入口ではいまだ激しい攻防が続いている。

「やはり強いわよね、ティタン様は」
 ルビアは怯むことないティタンの圧倒的強さに恐怖を覚えつつ、様子を見ている。

 生身の人間なのに痛みに負けず、寧ろ笑顔で嬉々として戦っていた。

 粘っているが、ルビアの手駒の中でも特に力の強いあの者でも、ティタンを止められるとは思えない。

 赤髪の護衛騎士も着々と屍人を減らしており、ルビアの軍勢は確実に減っていた。

 アドガルムの兵も後方のセシルが全体を見て指揮を出しているので、けが人はいても死人までは出ていない為、手駒を増やせない。

(少しはこちらに引き込めるかと期待したのに)
 恐怖心を煽ろうとも、ティタンの猛攻と、ミューズの治癒で、そこまで取り乱す者はいない。

「もうそろそろいいわよね」
 奥の手を出そう。





 戦況は少しずつアドガルムへと傾いていて、ミューズはホッとした。

 早くティタンの回復をしたいが、あの者との戦いが終わらないと近づくことは出来なさそうだ。
 下手な事をして邪魔をしてはならないと思いつつも、はらはらしながら様子を見ていた。

『ミューズ』

「誰?」
 ミューズは不意に声を掛けられ周囲を見回す。

 聞き覚えのある様なないようなその声は、どこか懐かしさがあった。

「どうかされましたか?」
 セシルが訝し気に問うと、ミューズは声が聞こえたのだと正直に伝える。

「声、ですか?」

「どこかで私を呼ぶ声がしたの」
 この喧騒の中では聞こえそうにもないような、か細い女性の声だ。

 この喧騒の中では聞こえそうにない程小さい声なのに、やけにはっきりとミューズの耳に届いた。

『こっちよ』
 ミューズはその声に振り向いた。

 ぼんやりと透けたその姿は明らかに生きている者の姿ではない。

 だがミューズはその人を知っている。

「お母様?」
 ミューズは振るえながらも、その女性を見つめた。

『えぇそうよ。会えてうれしいわ』
 金の髪に金の目、ミューズにとても雰囲気が似ている女性がそこに佇んでいた。

 女性はすっと人込みに紛れて行ってしまう。

「ま、待って!」
 戦いの最中で、絶対に会えることなんてない人だが、確かめたい気持ちは抑えられない。

 あの顔や声、紛れもなくミューズの母親であるリリュシーヌだからだ。

「いけません、ミューズ様!」
 セシルがミューズの腕を掴んで止めた、このような屍人の中を単身で行くのは危険すぎる。

「離して!」
 ミューズはセシルの腕を捻り、拘束を解いた。

 奇しくもシグルド達の教わった護身術が役に立ったのだ。

「ミューズ様駄目です! ティタン様!!」
 自分では止められないとあらん限りの声で主に向かって叫ぶ。

 ティタンもようやく気付いた。ミューズの様子がおかしい。

「おおおおおっ!!」
 目前の大男が力の限り戦斧を振り下ろした。

「っ、邪魔をするな!!」
 気をとられたティタンは避けることが出来ず、その攻撃をまともに受け止める。

 だが、その凄まじい力に、さすがのティタンも膝が地に着いてしまった。

「ぐうぅぅぅっ!」
 ティタンを叩き切ろうと大男も力を込める。

「ルド、ライカ!」
 二人にも呼びかけながら、セシルもミューズを追いかけようとするが、屍人達に行く手を阻まれ、進めない。

「ミューズ様、止まってください!」
 そんな呼びかけにもミューズは応えない。

 それどころかどんどんと敵地の中を進んでしまう。

 屍人も誘導するように道を開けているため、ミューズの進行を邪魔するものは誰もいない。

「お母様、お父様!」
 リリュシーヌの隣には青い髪をした男性もいる。ミューズよりも少し年上の、気弱そうな男性だ。

 会ったことはないが、父親だろうというのが感覚でわかった。

『ずっと会いたかった』
 そうか言うものの、二人にはまだたどり着けない。

「私も、ずっと二人に会いたかった」
 ミューズは嬉しそうな顔で二人に向かって走る。敵地である事を忘れてしまいそうな程の笑顔だ。




「感動の対面で良かったわ」
 
(わざわざセラフィムまで足を伸ばした甲斐があったわ)
 二人の墓を暴き、魂を捕えてきた。

 リリュシーヌは生前の魔力の強さからか抵抗が激しかったけれど、何とかいう事を聞かせることが出来、こうして役に立っている。

「後はミューズを使って第二王子を操れば……ふふ、アドガルムも困るでしょうね」
 もうすぐミューズはルビアの元へとたどり着く。

「そうは行かない……」
 肩から血を流し、荒い息をついたティタンはルビアを背中に剣を突き刺した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...