隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
135 / 202

第135話 サミュエルの素顔

しおりを挟む
 止血は終えたものの、仮面を割かれたサミュエルは途方に暮れていた。

 フードも裂かれ意味をなさない、だが顔を晒すのは嫌だ。

 戦の最中で今はまだ誰もこちらを見る余裕がなく、気づいてはいないが、自分の醜い素顔を知られたくなかった。

 だが、戦線を離脱するわけにはいかないと低く唸る。

 それどころではないのに、葛藤で呼吸が荒くなっていた。

「くそっ!」
 そんな苦悩の中で、目の端にカミュが切り裂かれたのが見えた。

 疲労が濃くなってきたのもあるだろうが、サミュエルは心臓が止まりそうになる。

(皆の補助は僕の役目なのに)
 自分の事ばかりに気を取られ、戦況を見誤った。

「影渡りは行く場所が制限されるよね、良く見てれば行先くらいわかるよ」
 悔しいがダミアンは性格は悪いものの相当強い。

「危ない!」
 カミュにせまる剣を見て、咄嗟にサミュエルは爆破魔法を使用した。

 激しい音と熱、そして爆風が吹き荒れ、皆がサミュエルの方に振り返った。

「ははっ、何だその醜い顔は」
 一番初めに気づいたのはダミアンだ。

 手で顔を隠すが、庇いきれない。

「黙れ!」
 サミュエルは魔力が続く限り、ダミアンを狙い、魔法を放った。

 そしてカミュに向けて走りだす。

 転移魔法を使うなど忘れていた、すぐさま回復魔法を使用しなければと出血を見て、焦っていた。

「カミュ、カミュ、無事か?!」
 数少ない友人が怪我をしたのだ、自分の顔などに構っている暇はない。

「すぐ回復する、痛むか?」
 サミュエルは傷口に手を当て、回復を図る。

「かすり傷だ。それより、いいのか?」
 失血で青褪めながらも、心配するのは友人の事だ。

「いい。大丈夫だ」
 サミュエルの顔半分は酷い火傷の跡があった。

 眼球はなく、昏い穴しか見えない。ところどころ皮膚同士が張り付いている。

 眼球はダミアンに斬りつけられたからではなく、だいぶ昔に失っていた。

 髪もところどころ生えておらず、異様な風体だ。

「まるで化け物だな、よくそんな顔で今まで生きてきたものだ……あぁ、だから顔を隠してたのか」
 ダミアンが腹の底から大笑いしているが、そんな事気にしている暇はない。

 今はカミュの治療が先決だ。

 すぐに傷口は塞げたが、憂いた表情は戻らない。

「あいつは絶対に切り刻む! サミュエルに向かって化け物なんて……!」
 カミュが声を荒げた。

 怒りで頬を赤くし、怒りで息を荒くしている。

「ありがとう、その言葉で十分だよ」
 カミュの優しい言葉に、サミュエルは救われる。

 それでも周囲の顔は見られない。

 皆が嘲り笑っているのだろうと思っていても、直視することは怖くて出来ないからだ。

「とても滑稽だが、お前には相応しい従者達だよ」
 笑いを抑えもせずにダミアンはリオンを指さす。

「平民の妻に、平民の従者、そして貧弱な護衛騎士に化け物の術者とは、余程大事にされてないようだな! 要らない王子だから、そんな者しかつけてもらえなかったのか」

「はぁ?」
 さすがにリオンも表情を変える。

 怒りで見開いた目で、ダミアンを睨みつけた。

「いい加減にしろよ、お前ごときが僕の仲間を貶していいわけがない」

「図星を言われ、怒ったのか? 何回でも言ってやるさ。そんな下らない者達しか集まらない、軟弱王子風情が!」
 リオンの周囲に黒い靄が発生する。

「カミュ、マオ、ウィグル。こいつ殺すぞ」
 据わった目で皆を見る。

「はい!」
 緊張感が走り、マオはそっとポケットに手を入れた。

 リオンは黒い靄を纏ったまま、走る。

 先程よりも早い。

(あれは何だ?)
 スピードよりも靄が気になる。

 何らかの魔法だろうが、何の効果を持つのか。

(こいつの魔法は普通じゃないからな)
 身体に異常をきたすものが多い、直接触れることは避けた方がいい。

 警戒してしかるべきだ。

 そこらにいた帝国兵の一人を捕まえ、リオンの方に投げつける。

「無駄なあがきだ」
 靄が集まり、兵士の体を弾き飛ばす、リオンの命令通りに様々な動きや形を作るようだ。

 そして剣も狙いづらい。

「全くめんどくさいな」
 遠くから転移魔法で斬撃を送る事にする。

 ダミアンは触れずとも十本程度の剣を操ることが出来る。

 剣を振るった勢いを風魔法で斬撃に変換させることもできる為、攻撃の範囲も広い。

 それを更に転移魔法でランダムに出現させ、予測不能な攻撃にしているのだ。

「そんな攻撃当たらないよ」
 リオンの防御壁に阻まれてしまう。

「僕の魔力を上回る攻撃でなければ超えられるはずないよ。それこそティタン兄様みたいな人じゃないとね。非力なお前には無理だ」
 にやりとリオンは笑う。

 先程言われた仕返しだ。

「うるさい!」
 リオンに挑発にカッとし、頬を赤くさせて怒っていた。

「倒せればいいんだよ」
 ダミアンの姿がかき消えるとリオンの靄が濃くなった。

 きょろきょろとあたりを見回していたら、腹部が妬けるように熱くなる。

「ぐっ?」

「剣だけ届けばいいだろ?」
 現れたダミアンの右腕が消えていた。

 その先はリオンの元へと通じており、ダミアンの持っていた剣はリオンの腹部を貫通している。

「っ!」
 大量の血がリオンの口から吐き出された。





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...