隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第132話 命の重み

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(死ぬ)
 二コラに掴まれ、イシスはゾッとした。

 自分の死を恐れてではない、ギルナスが死ぬことが怖いのだ。

「お願い、私は良いから、ギルナスは助けて……」
 イシスが涙を流しても、二コラは動揺も見せない。

「私は帝国の皇女よ。この首には価値があるわ。でも、ギルナスは違うの。私の為にやむを得ず戦っている平民。命令に従っているだけ、だからお願い、許して」
 イシスは必死に訴える。

「イシス様!」

「お願い……」
 イシスは抵抗を止めた。

「エリック様、如何いたします?」
 傷も治り、すっかり力を取り戻した二コラがそう尋ねる。

「生かしておくつもりはないが……」
 エリックの視線の先にはレナンが映っていた。

 優しい彼女が、このような場面を見て心を痛めないわけがない。

 戦いの中ならともかく、命乞いをする相手を殺したとあっては、許してくれない可能性もある。

「二コラ、オスカー、二人を捕縛せよ」
 二人にそう命じる。

 一人ずつ慎重に魔封じの手枷をつけ、動きを封じる。

「キュア、死なない程度に回復してやれ」

「はい」
 仲間を殺され腑に落ちないものの、キュアはすぐさま二人を回復する。

「お前たちはアドガルムの法で裁く。覚悟をしておけ」
 冷たい目でそう告げると、レナンの元へと駆け寄った。

「怪我はないか? 大丈夫か?」

「それはエリック様の方ではないですか、お怪我とか、痛いところはありませんか?」
 レナンは心配そうな表情をし、体を震わせていた。

 激しい争いの後だ、怖くて仕方なかっただろう。

「俺は大丈夫だ、二人がいたからな」
 二コラとオスカーは治癒師達により、治療を受けていた。

「二コラ、平気なの?」
 キュアが心配し、二コラの腕に触れる。

「もう治ってますよ、エリック様のおかげです」
 回復魔法を掛けなくてもほとんどの傷がもう癒えていた、切られた腕ももはや切断面がわからないくらいに綺麗に治っている。

「二コラは死なない。俺が生きてる限りは」
 エリックはそういうと魔力を回復させるために魔石を使用する。

「そういう契約魔法だ、主の為に何度死んでも蘇って、俺の為に尽くさねばならない」

「それって、帝国が使用している魔法と同じではないですか?」
 レナンはエリックがさも当然とばかりに話すのに驚いた。

 二コラの忠誠心はエリックが命を握っているからあるものなのかと関係性を疑う。

(強い主従関係だとは思ったけれど)

「帝国の使う低俗なものとは違います。それにこの契約は僕が望んで行われたものなのですよ、レナン様」
 二コラはうっとりと微笑む。

「僕は昔エリック様に命を拾われた、あの時からこの人の為に生き、そして死にたいと願ったのです。この契約魔法だとそれが叶うのです、エリック様の命を僕が守り、僕の命はエリック様が掌握する。エリック様が死ねと言うならば、喜んで死にます」

「止めろ、レナンが引いている」
 エリックが眉根を寄せて二コラの弁を止めた。

 初めてその話を知った兵士や治癒師も化け物を見る様な目で二コラを見ている。

「話には聞いていたけれど本当に治るものなのね」
 キュアはしげしげと二コラの体を見眺めた。

 焼け焦げた衣類の隙間からは逞しい体が見えている。

「あたしもレナン様とそういう契約魔法結びたいな」
 改めて目の前にしてそう思う。

 主を守ることが自分の命を守ることにつながるし、主が生きていればある意味不死だ。

 案外いいのかもしれない。

「止めておけ、怪我を治すには大量の魔力がいる。普通であればこのような怪我を治すのに魔石一つでは足りないくらいだ」
 あれだけの魔法を放った後でも、二コラの傷を治せたのは、もともとエリックの魔力量が多いからだ。

 そうでなければ魔石が幾つあっても足りない程に魔力を吸い取られていたかもしれない。

「油断させるためにと魔法を受けたのですが、結構痛いですね。切られるよりも焼かれる方が辛かったです」
 二コラはそう言うと捕らえた二人を睨みつける。

「さてそろそろ皇帝のところに案内してもらいましょうか。そろそろ帝国兵がこちらにつくのでしょうけれど、あなた方が盾になれば幾許かは進みやすいでしょうからね」

「ぐっ……」
 二コラがギルナスの塞ぎきれていない傷口に爪を立てる。

 血がどろりと流れ、床に落ちる。

 エリックはそれらの事が見えないようにと、レナンの視線を遮るように立ち位置を変えた。

「皇女様、正直に案内してくださいね。この男がどうなってもいいのならば」
 脅しをかけるように言えば、イシスは素直に頷いた。

「その必要はない」
 聞き覚えのない声が響く。

「お前は……」
 エリックはまさかという表情だ。

 そこに現れた人物に驚きを隠せない。

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