隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
129 / 202

第129話 イシスの戦法

しおりを挟む
 エリックの攻撃で訓練場の地面が大きく隆起し、地形が変わる。

 差し迫る氷の刃は二人を貫くことは出来なかったが、分断することは出来た。

「お相手をお願いしますね」
 二コラが風を纏い、ギルナスに向かっていく。

 目で追える速さではない、しかし途中で二コラは急に方向転換をし、ギルナスを避けた。

 キラキラとしたものが目の端に映ったので、咄嗟に風を纏い、周囲を切り刻みつつ上に飛んだのだ。

「そのような攻撃もあるんですね」
 空中に浮かびながら、二コラは己が斬ったものをパラパラと落とす。

「さすがね、あちこちに張っていたのに気づかれるなんて」
 イシスはふぅっとため息をつくと二コラを睨みつける。

「自滅してくれたら早かったのに。さすがにこの人数を相手にしたら疲れてしまうもの、さっさと死んでくれないかしら」
 そう言ってイシスはエリック達に向かって手を翳す。

「もう終わりよ。全て整っているわ」
 無数の糸が訓練場に張り巡らされていた。それらがイシスの合図で迫ってくる。

「下がれ! 死ぬぞ!」
 オスカーとキュアが兵達を守るために魔法を繰り出した。

 ニコラは自力で糸を切るが、目に見えない程の細い糸に兵たちはついていけない。

「クソが!」
 助けきれなかった周囲のアドガルム兵が細切れにされていく。

 手助けに奔走するが、隣の仲間があっという間にバラバラにされるという恐怖に恐慌状態だ。

 逃げ惑う兵達はそれぞれ動くので助けきれない。

 エリックが手を翳し、アドガルム兵ごと周囲の糸を凍らせていく。

 新たな糸も氷に阻まれて兵を切れない。

「硬度を強めた。その糸ではもはや切れないだろう」
 傷口の止血も兼ね、腕や足などを切り落とされた兵も一部凍らせる。

「治癒師、急げ! 助かるもの達はまだいるはずだ!」
 エリックは冷気を生み出すと自ら前に出る。

 被害を悔い留めなくてはならない、それならば最大の囮は自分だ。

「俺と遊ぼう、なぁ皇女殿」
 エリックは氷の矢をイシスに向かって撃ち出していく。

 イシスは防御壁を張り、それらを弾くが余裕の表情だ。

「嬉しいわ」
 エリックが迫っているのにも関わらず、不敵な笑みだ

 その時地面が揺れる。

「こういう攻撃はどうかしら?」
 イシスが合図をすると、エリックの体を捕まえようと下から黒い影が伸びてきた。

 それらを避けるためにエリックは横に跳躍するが、執拗に影は追いかけてくる。

「カミュの魔法と似たようなものか?」
 そこまで強いようには見えない、キュアの光魔法を当てればすぐに消えるだろうな。

(だが……)
 キュアには回復とそしてレナンの護衛を任せてある。

 オスカーも共に来てくれているが、草魔法での対抗は難しいようだ。

「どうしましょうーエリック様ー?!」
 オスカーはキャアキャア言いながら逃げ惑っている。

「うるさいですね」
 遠くでギルナスと斬り合う二コラの声が聞こえた。

 オスカーの甲高い声はとても響く。

「情けない護衛騎士ね。どうしたらこんな男のなれの果てのようなものを、連れて歩く気になるのかしら」
 イシスも呆れたような声を出した。

「……そうだな」
 エリックもつい苦笑してしまう。

「皆酷いわ!」
 泣き真似をしながらもオスカーは訓練場を駆けまわっている。

 やけになっているようにも見えるが、気づかれないようにあちこちに種を蒔いている。

 この場を自分のフィールドにしようとしているのだろう。

 だいぶ余裕はあるように見える。

 糸も影もオスカーを傷つけることも捕らえることも出来てはいない。

 そして自ら囮を買ってくれている、あまりの煩さに、ギルナスもイシスもその存在を気にしているようだ。

「前面に出た俺を慮ったか」
 オスカーとてエリックだけを戦わせるわけには行かないと、考えたのだろう。

 見た目もそして性格も煩いオスカーは二コラの方にまで足を伸ばす。

「邪魔をするな!」
 ギルナスの一撃を軽く避け、しなやかな動きですぐさま飛び退る。

「ごめん遊ばせ」
 オスカーはそう言うとようやくイシスの方に向き直る。

 あれだけ動き回ってもまだ息は切れていない。

「エリック様、お待たせしました」
 準備が出来たことを知らせる。

 影による攻撃を避けながら、エリックもイシスの方に近づいていた。

 近づくにつれ攻撃は激しくなるが、お互い決定打はない。

「大口を叩いた割にはこれで終わりか?」

「まさか。まだまだこれからよ」
 イシスの姿がかき消える、気づけばギルナスもだ。

 そして雷鳴が轟き、訓練場内は凄まじい音と光と熱に包まれた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜

羽村美海
恋愛
【※第17回らぶドロップス恋愛小説コンテスト最終選考の結果が出たので再公開しました。改稿版との差し替えも完了してます】 思い入れのあるレストランで婚約者に婚約破棄された挙げ句、式場のキャンセル料まで支払う羽目になった穂乃香。 帰りに立ち寄ったバーでしつこいナンパ男を撃退しようとカクテルをぶちまけるが、助けに入ってきた男の優れた見目に見蕩れてしまった穂乃香はそのまま意識を手放してしまう。 目を覚ますと、見目の優れた男とホテルにいるというテンプレ展開が待ち受けていたばかりか、紳士だとばかり思っていた男からの予期せぬ変態発言により思いもよらない事態に……! 数ヶ月後、心機一転転職した穂乃香は、どういうわけか社長の第二秘書に抜擢される。 驚きを隠せない穂乃香の前に社長として現れたのは、なんと一夜を共にした、あの変態男だった。 しかも、穂乃香の醸し出す香りに一目惚れならぬ〝一嗅ぎ惚れ〟をしたという社長から、いきなりプロポーズされてーー!? 断るも〝業務の一環としてのビジネス婚〟で構わないと言うので仕方なく応じたはずが……、驚くほどの誠実さと優しさで頑なだった心を蕩かされ、甘い美声と香りに惑わされ、時折みせるギャップと強引さで熱く激しく翻弄されてーー 嗅覚に優れた紳士な俺様社長と男性不信な生真面目秘書の遺伝子レベルで惹かれ合う極上のラブロマンス! .。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜ *竹野内奏(タケノウチカナタ)32歳・働きたい企業ランキングトップを独占する大手総合電機メーカー「竹野内グループ」の社長・海外帰りの超絶ハイスペックなイケメン御曹司・優れた嗅覚の持ち主 *葛城穂乃香(カツラギホノカ)27歳・男性不信の生真面目秘書・過去のトラウマから地味な装いを徹底している .。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜ ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません .。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚ ✧エブリスタ様にて先行初公開23.1.9✧

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

処理中です...