隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第108話  元諜報員②

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「女子会?」
行く先についていけばそこはレナンの部屋だ。

「そうなのです。親睦を深めるためという名目のおやつパーティです」

「わかりました、では俺はここで」
行く先もわかったし、部屋に入る気はない。

あとでエリックに何と言われるか恐ろしいからだ。

「待つですよ、カミュも共に行くです」

「何故ですか?!」
こんな場に入ったら王太子に殺されかねない。

「ぼくの護衛ですよね? まさかどこかに行く気ですか?」

「ぐぬ……!」
自らが言ったことだ。

ついていくといったのも、守らなくてはと言ったのも自分。

「ウィグルが戻ってきたら帰りますからね」
強めにそう宣言し、マオの後ろに付き従った。




(帰りたい)
カミュは部屋の隅にいながらそう何度も心の中で呟いた。

王子妃達のいる空間に自分がいるなど場違いだ。

マオは楽しそうに談笑している、親睦を深めるのはいいが、この場に自分がいてはいけない。

対応を間違えればエリックかティタンに殺されるだろう、下手したらリオンにかもしれない。

「カミュ、ぜひお茶をどうぞ」

「……ありがとうございます」
カミュはレナンが手ずから淹れたお茶を恭しく受け取り、口にした。

(エリック様に見られたら、殺される)
レナンの優しさは嬉しいのだが、こういう優しさを受け取る度に死期が近づいている気がする。

レナンは満足そうにしていて、その後ろのキュアも満足そうだ。

最初は断ったのだが、レナンが残念そうにしていたので、キュアに脅された。

「レナン様を悲しませるな。エリック様に言いつけるからね」
氷漬けになるのは嫌なので、大人しくキュアに従う。

「嬉しいわ。こうしてカミュと一緒にお茶が出来るなんて。なかなか話す機会がなかったんだもの」
ミューズもにこにこと笑顔になっている。

「俺も皆さまとこうしてお茶を飲めるのは有難いです」
言葉を慎重に選んでいく。

誤解を招いてはいけないからだ。

「カミュは色々な国を見ているのでしょう? ぜひ話を聞かせて欲しいわ」
ミューズは異国の話が聞きたいようで、興味津々に目を輝かせている。

「俺ではなくマオ様も色々なところに行っていますよ」

「いやいやぼくよりもカミュの方が行ってるのです。海を渡って数々の国を訪問した話もあるのです」

「「海の向こう?!」」
レナンもミューズも聞きたそうな表情だ。

その顔を見ては、話をしないという選択肢はない。

後々に不幸にならない事を祈りつつ、カミュは話し始めた。

「ふふ、ぼくには癒しの空間でもカミュにとっては辛いはずです。何せレナン様もミューズ様もお優しいですから」
マオのようにからかう為ではなく、本当の親切心でカミュに話しかけたり微笑みかけたりしているのだ。

リオンの従者という事でレナンもミューズも警戒はしていないが、王子たちが同じとは思えない、状況によっては嫉妬で殺されかねない。

部屋に男性がカミュ一人しかいないというのも最悪の状況だ。

「ウィグル、早く来てくれ」
心の中で願うばかりだ。

一分一秒が長く感じられたが、しばらくしてノックの音がし、ウィグルの声がした。

これで解放されると思ったのだが。

「おや、カミュ。お前もいたのか」
エリックの冷たい声が聞こえ、心臓が縮み上がる。

「エリック様……」
今は執務中ではないのか。

「マオ様に言われてお菓子を取りに行っていたんです。この前の外交の際にいっぱい買っていたので、レナン様やミューズ様にも振舞いたいって思って。それならエリック様やティタン様にも声を掛けようってマオ様から言われたんで、お呼びしたのです」
ウィグルはにこにこだ。

王子たちに声を掛けるのは勇気が要ったが、快くついてきてくれたのだ。

そして二人はリオンを支えてくれてありがとうとお礼まで言ってくれた。

二人の王子たちに認められ、感謝され、ウィグルは嬉しい。

「楽しそうな茶会だ。忙しさででこのような時間も取れなかったからな、誘ってくれてありがとう」
ティタンも一緒に来ていて、マオとウィグルにお礼を言う。

知らぬはカミュばかりであった。

「カミュとは一体何の話をしてたんだ?」
エリックのように睨みはしないものの、ティタンもやはりカミュがいた事は気になっているようだ。

「レナン様の淹れてくれたお茶を飲みつつ、異国の話をしてもらってましたわ。海の向こうの話や、花々が咲き誇る美しい国の話とか。お話も上手で、色々な国に実際に行ったような気持ちになりました」
笑顔でそう話をする。

「まぁカミュはリオンと共に色々な国に行ってるものな。話は楽しかったか?」

「えぇ、とっても!」
ミューズが笑顔になるのに比例し、ティタンの目線が怖くなる。

「レナン、カミュにお茶を淹れてあげたのかい? 俺もぜひレナンの淹れたお茶が飲みたいな」
優しい口調でレナンに話しかけながらも、視線は射殺すようにカミュを見ている。

直接何かを言われるよりも怖い。

(こうなるのが嫌だったのに)
カミュは今からでもここから立ち去ろうと画策する。

「ではウィグルも来たので、失礼いたします」
そう言って足早に部屋から出ようと思ったが、押しとどめられた。

「まぁまぁ。もう少し一緒にお茶でも飲もう」

「リオン様」
主までもが来てしまった。

「ねぇ。僕は確かにマオの様子を見てきてって頼んだけどさ。まさかまったりとお茶を飲んでるとは思わなかったよ。しかもマオだけではなく、レナン義姉様やミューズ義姉様と一緒だし」
怒ったような口調だ。

「僕にだけ仕事をさせてカミュは休憩か。いいご身分だよね」
目が据わっている。

「そうではないのです。ウィグルが来るまで護衛を兼ねて一緒にいただけで、それにマオ様に言われ、同席しただけで」

「へぇ。マオに誘われたんだ」
何を言ってもこの状態になったリオンは聞いてくれなさそうだ。

妻に関することがあると思考が鈍くなるのは兄弟共通だろうか。

「誓って嫉妬を受ける様なことはしていません。本当です」

「してないとは信じてるよ。でもね、一緒の空間に男がいるだけで嫌なんだ」
さらりとリオンは言った。

「感情の話だから、どうしようもない。だから聞かせてもらえる? 僕達がいない間、カミュは何をしていたのかを」
半端な説明では許されないし、レナンやミューズが少しにこやかにしただけで不機嫌になる王子たちを、何と言って説得すればいいかわからない。

カミュは王子達の感情を鎮めようとしばし、頭をフル回転させ、身も心も疲れ果てることとなった。
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