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第106話 王宮医師の跡継ぎ②
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「大丈夫ですか? サミュエル様」
運良く自室にいたサミュエルに許可を取り、話がしたいと部屋に入ったが、様子がおかしい。
机に顔を突っ伏して、時々「あぁ」とか「うぅ」とか呻いている。
聞けばシフと会った後だそうだ。
(何かあったんだろうな)
話を聞く前にとりあえずお茶を淹れる。
お湯が沸くまで部屋の中を眺めた。
物のない部屋でさっぱりとしていると思っていたサミュエルの部屋だが、久しぶりに入るとシフからの贈り物で溢れていた。
余程大事にしているのだろう、見えるところに綺麗に並べられている。
「サミュエル様。お茶を置いておきますよ」
零さないようにと注意を促し、自分も椅子に座る。
この椅子も昔はなかったなぁ。
基本誰も来ないしわざわざ物を増やすようなことはしたくないと話していた。
だいぶ変わるものだ。
「ありがとう……」
小さい声でお礼を言われる。
一応セシルの声は届いていたようだ。
「それで話なんですけど、シフ様とはどうなったのです?」
ストレートに話を切り出すと、サミュエルは勢いよく顔を上げて、セシルから距離を取った。
「どこで、その、話を?!」
息遣い荒く言われ、なんと答えるかと考える。
「いや、普通に見ていたらわかりますね。明らかに不審でしたし」
「本当に?!」
バレていないと思ったのかサミュエルは頽れている。
「嘘だろ、だってシフは顔が広い。それに僕と話す姿だって、きっと周囲からは同情にしか見えていないはずなのに」
ぶつぶつと小声で言っている言葉をセシルは耳を傾けて聞いていく。
「だってサミュエル様、シフ様と話す時たまに声が上ずってますよね? 明らかに好意を持ってるし、シフ様も嬉しそうだし。このあたりのものもシフ様からの贈り物ですよね」
サミュエルの趣味とは言い難いものが数々並んでいる。
「お願い、セシル。このことは内緒にして欲しいんだ」
「もう同僚の殆どは知っていますよ」
「えっ? 何で?」
「てか先生も知っています」
「っ!」
サミュエルは頭を抱えた。
あのシュナイまでもが知っているとは、相当ショックなのだろうなと思うが交際相手の親が悪すぎた。
「ロキ様経由で話が来ました」
ひゅっと息を吸う音が聞こえた、プルプルと体を震わしている。
「記憶を消す薬が必要か……」
「誰に飲ませる気ですか?!」
さすがに不穏を感じ、サミュエルを止める。
「もう色々な人が知っているし、諦めた方がいいですよ。それでその事でシュナイ先生は養子の話を進めたいと言ってました。シフ様と結婚するなら貴族籍は要るでしょう?」
「結婚……」
その言葉にサミュエルは立ち上がった。
「そうだ、どうしよう。結婚、僕……」
動揺してるのだろう、片言になっている。
「聞きますから、まずは座って」
先程淹れたお茶を飲ませつつ、落ち着くのを待った。
サミュエルはシフとのやり取りを話していく。
義兄弟の為、セシルに対しては他の者よりも信頼をしているのだ。
「俺はどうしたらいいのか。シフは僕で良いと言ってくれた。だが答える自信がない」
顔も見てもらった。
少し驚いたものの、それだけだ。
「受け入れてもらえたならいいのでは? それにシフ様が他の男性と一緒になっても許せるのですか?」
「部屋に籠って会わなければ大丈夫。転移魔法も習ったから廊下も通らなくて済むから、会わないでいられる」
どこにも大丈夫な要素はない。
「そうではなくて。シフ様が他の人と抱きしめ合ったり手を繋いだり、キスしても平気なのですか?」
「それは嫌だ!」
「じゃあそれが答えです。サミュ兄が応えるだけでこの縁談は纏まりますよ。ロキ様ももうお認めですから」
思わず昔の呼び名で呼んでしまった。
シュナイの元に現れたロキが言っていたのだから、ほぼ公認だろう。
「でもこんな顔の男でいいのかな? ほら貴族ってしょっちゅうパーティとか夜会とかするだろ。この格好では一緒に歩けないし」
「そう言えば」
あまり気にしたことがなかったが、そうなるか。
リオンの護衛として認識阻害をかけて陰ながら護衛をしていたが、シフのパートナーともなればそうはいかない。
もと貴族であったセシルはあまり気にしていなかったが、そう言えばそのような事もある。
貴族の婚約者ともなれば、最低でも皆の前でのお披露目をしなければいけないだろう。
「ミューズ様なら治せるかもしれないから、今度相談してみよう」
「嘘、こんな古い傷も?」
サミュエルは仮面の上から傷口に触れた。
相当広く、広範囲に渡るものだ。
「もしかしたら。欠損部も治せるらしいし」
「それは凄い魔力と医学の知識が必要になるのに」
シュナイとて難しい魔法だ。
だが期待が持てる。
「戦が終わった後でも一緒に頼みに行きましょ。サミュ兄は俺の大事な家族だから」
よしよしと慰め、セシルはにこやかな笑顔を見せた。
その笑顔に安心し、サミュエルは自分を奮い立たせるように頷いた。
運良く自室にいたサミュエルに許可を取り、話がしたいと部屋に入ったが、様子がおかしい。
机に顔を突っ伏して、時々「あぁ」とか「うぅ」とか呻いている。
聞けばシフと会った後だそうだ。
(何かあったんだろうな)
話を聞く前にとりあえずお茶を淹れる。
お湯が沸くまで部屋の中を眺めた。
物のない部屋でさっぱりとしていると思っていたサミュエルの部屋だが、久しぶりに入るとシフからの贈り物で溢れていた。
余程大事にしているのだろう、見えるところに綺麗に並べられている。
「サミュエル様。お茶を置いておきますよ」
零さないようにと注意を促し、自分も椅子に座る。
この椅子も昔はなかったなぁ。
基本誰も来ないしわざわざ物を増やすようなことはしたくないと話していた。
だいぶ変わるものだ。
「ありがとう……」
小さい声でお礼を言われる。
一応セシルの声は届いていたようだ。
「それで話なんですけど、シフ様とはどうなったのです?」
ストレートに話を切り出すと、サミュエルは勢いよく顔を上げて、セシルから距離を取った。
「どこで、その、話を?!」
息遣い荒く言われ、なんと答えるかと考える。
「いや、普通に見ていたらわかりますね。明らかに不審でしたし」
「本当に?!」
バレていないと思ったのかサミュエルは頽れている。
「嘘だろ、だってシフは顔が広い。それに僕と話す姿だって、きっと周囲からは同情にしか見えていないはずなのに」
ぶつぶつと小声で言っている言葉をセシルは耳を傾けて聞いていく。
「だってサミュエル様、シフ様と話す時たまに声が上ずってますよね? 明らかに好意を持ってるし、シフ様も嬉しそうだし。このあたりのものもシフ様からの贈り物ですよね」
サミュエルの趣味とは言い難いものが数々並んでいる。
「お願い、セシル。このことは内緒にして欲しいんだ」
「もう同僚の殆どは知っていますよ」
「えっ? 何で?」
「てか先生も知っています」
「っ!」
サミュエルは頭を抱えた。
あのシュナイまでもが知っているとは、相当ショックなのだろうなと思うが交際相手の親が悪すぎた。
「ロキ様経由で話が来ました」
ひゅっと息を吸う音が聞こえた、プルプルと体を震わしている。
「記憶を消す薬が必要か……」
「誰に飲ませる気ですか?!」
さすがに不穏を感じ、サミュエルを止める。
「もう色々な人が知っているし、諦めた方がいいですよ。それでその事でシュナイ先生は養子の話を進めたいと言ってました。シフ様と結婚するなら貴族籍は要るでしょう?」
「結婚……」
その言葉にサミュエルは立ち上がった。
「そうだ、どうしよう。結婚、僕……」
動揺してるのだろう、片言になっている。
「聞きますから、まずは座って」
先程淹れたお茶を飲ませつつ、落ち着くのを待った。
サミュエルはシフとのやり取りを話していく。
義兄弟の為、セシルに対しては他の者よりも信頼をしているのだ。
「俺はどうしたらいいのか。シフは僕で良いと言ってくれた。だが答える自信がない」
顔も見てもらった。
少し驚いたものの、それだけだ。
「受け入れてもらえたならいいのでは? それにシフ様が他の男性と一緒になっても許せるのですか?」
「部屋に籠って会わなければ大丈夫。転移魔法も習ったから廊下も通らなくて済むから、会わないでいられる」
どこにも大丈夫な要素はない。
「そうではなくて。シフ様が他の人と抱きしめ合ったり手を繋いだり、キスしても平気なのですか?」
「それは嫌だ!」
「じゃあそれが答えです。サミュ兄が応えるだけでこの縁談は纏まりますよ。ロキ様ももうお認めですから」
思わず昔の呼び名で呼んでしまった。
シュナイの元に現れたロキが言っていたのだから、ほぼ公認だろう。
「でもこんな顔の男でいいのかな? ほら貴族ってしょっちゅうパーティとか夜会とかするだろ。この格好では一緒に歩けないし」
「そう言えば」
あまり気にしたことがなかったが、そうなるか。
リオンの護衛として認識阻害をかけて陰ながら護衛をしていたが、シフのパートナーともなればそうはいかない。
もと貴族であったセシルはあまり気にしていなかったが、そう言えばそのような事もある。
貴族の婚約者ともなれば、最低でも皆の前でのお披露目をしなければいけないだろう。
「ミューズ様なら治せるかもしれないから、今度相談してみよう」
「嘘、こんな古い傷も?」
サミュエルは仮面の上から傷口に触れた。
相当広く、広範囲に渡るものだ。
「もしかしたら。欠損部も治せるらしいし」
「それは凄い魔力と医学の知識が必要になるのに」
シュナイとて難しい魔法だ。
だが期待が持てる。
「戦が終わった後でも一緒に頼みに行きましょ。サミュ兄は俺の大事な家族だから」
よしよしと慰め、セシルはにこやかな笑顔を見せた。
その笑顔に安心し、サミュエルは自分を奮い立たせるように頷いた。
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