隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第98話 ライカ編②

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「今度はわたくしもあなたと一緒に行きたいのです」
フローラは涙を浮かべた目でライカを見た。

「遠くで待ってるだけなど出来ません、少しでもこの身が役立てれば本望です。いざとなったら盾にでもなります」
その言葉に苦々しい表情になる。

「フローラ様を戦場などに行かせる気はありませんよ。あなたは近衛騎士としてこの城と国王陛下を守るのが役目なのですから」
あのような異様な男と会わせるわけにはいかない。

何をされるかわからないし、そしてこんなに怯えているのだから

「嫌です。わたくしはあの映像を見て、次こそあなたが死んでしまうんじゃないかと怖くてたまらなかったのです。次の戦はあの男とだけ戦うわけではなく、何が起きるかわからない。皆様の力を疑うわけではないですが、ライカ様が無事に帰って来るか心配なのです。万が一何かあったらと思うと……わたくしは耐えられません」
師としてライカを尊敬している。

それ以上に子どもの戯言を真剣に聞いてくれて、見た目にそぐわず真面目に話を聞いてくれたライカを信頼していた。

信頼が愛情に変わるのにはそれ程時間はかからなかったが、フローラははっきりとした自覚を持っていない。

ライカもまたその気持ちに気づいていない

「ご心配をおかけして申し訳ない。ですが、次こそは必ず勝ちます」
ライカに行かないなんて選択肢はない、戦場で散ったとしても主を守って死ねるのなら本望だ。

戦わずして逃げるなど、それこそ死んだ方がましだ。

「そしてフローラ様、あなたの仕事は俺を守る事ではないのです。あなたが守るのは国王様たちですから、ご自分の使命を全うしてください。俺なら大丈夫ですから」
仕事だからという理由ももちろん大きいが、フローラを連れてくなんて選択肢はない。

大事な女性をわざわざ死地に飛び込ませる気なんてあるわけがない。

幸いフローラはしっかりと城に残らざるを得ない理由がある、他の女性達よりは
説得しやすい。

「嫌です。また遠く離れたところであなたがあのような目に合ったらと思うと、わたくし……」
ついにフローラの目から涙が溢れて。

「泣かないで下さい」
オロオロとしながらも、ハンカチを取り出して涙を拭ってあげる。

一回泣き出したらなかなか止まりそうになく。ライカは困ってしまった。

「だって、ライカ様が死んじゃったら、わたくしは生きていけませんわ」
言葉にして言ったぶんまた涙が溢れた。

人通りは少ないが、それでも見られたら誤解されてしまう場面だ。

「死にません。必ず戻ってきます。その為に俺とある約束をしてください」

「約束?」

「えぇ。戦が終わって帰ってきたら、いの一番にあなたの元へ行きます。ですので、あなたは俺に『お帰り』と言ってください。そうしたら俺は『ただいま』と言いますから」

「それの何がいいのですか? 普通の挨拶ではないですか」

「いいえ、大事です。フローラ様には俺の帰る場所になって欲しいのです」
至極大真面目な顔でそう言った。

「何があってもフローラ様がアドガルムで待っていてくれると思えば、絶対に生きて帰るんだと頑張れます、希望が持てます。フローラ様が嫌でなければですが」

「……」
それでライカは満足なのだろうか。

「帰る場所を守りながら待っていてください。国が無くなっては元も子もないので」
城の守りは重要だ、その役目こそ本来のフローラのものである。

「わかりました」
ようやく冷静になれて、ライカの説得にも応じた。

ここまで彼に強く残って欲しいと願われているのに、これ以上縋っては迷惑だろう。

それにこれ以上自分の仕事を放棄するようなことを言ったら幻滅されてしまうかもしれない。

「我が儘を言ってごめんなさい。自分の仕事を放り投げようとするなんてどうかしてたわ。まだまだ未熟でお恥ずかしい……これでは護衛騎士になっても務まりませんね、もっと精進しないと。当分腕を磨くのに鍛錬を重ねたいと思います、お見合い話もしばらく断っていきますわ」

「見合い?」
唐突な話の流れにライカの目つきが鋭くなる。

「えぇ。前回の戦の後からそういう話が周囲でも多く出始めているのです。多分ライカ様のところにも婚約の話は出てましたよね?」

「顔を知らない者から幾つかは。全て断りましたが、でも何故最近増えていたのです?」

「戦の功績で力関係が変わったことや、また命を落とす前に次なる跡継ぎを早く決めようと躍起になる方が多いようです。わたくしもいくつか話が来ましたわ」
騎士爵はあるし、美人なら尚更。

また近衛騎士なので王族とも話す機会が多い。

全ての者がそうではないと思うが、大事な弟子に打算で近づくものは容赦しない。

「フローラ様。もしも気になる相手がいたら一度俺と手合わせをさせてもらえませんか?」
黒いオーラを隠しもせずそう頼んだ。

「大事なフローラ様をどこぞのものにくれてやる気はありません。最低条件、俺よりも強く、そして俺よりもフローラ様を大事に想うものでないと渡したくはありません」

「それって……」
どういう事なのかと聞き返したかったが、勘違いであれば恥ずかしい。

「あなたよりも強い人なんているかしら」
ライカは相当の実力者だ。

剣聖と呼ばれるシグルドを師に持ち、そして火炎魔法も使える。

体躯にも恵まれていて、筋力も胆力もある。

「力だけの問題ではありません。気持ちの面もです。俺よりも強くなければフローラ様の体も心も守れない。あなたに相応しいのは俺よりも強く、そしてあなたを心から愛せる者だけだ。そうでなければ認めない」
父性か師弟愛か。

少なからず心配してくれているのがわかる。

(あなた以上にわたくしを想ってくれてる方なんているかしら)
家族から勘当され、貴族ではなくなったフローラに変わらぬ態度で接してくれたのはライカだ。

その後も口さがない悪口から庇ってくれたのは彼だ。

思い返せばいつだって自分の事を想ってくれている、でも……。

「そのような方がいたらぜひ紹介させていただきますね」

「えぇ、ぜひお待ちしております」
脈のなさそうな返事だ。

いつかこの気持ちがはっきりとしたら、伝えてみようかな。

少しだけ気づいた恋心、このもどかしい両片思いは時間を掛けてゆっくりと育まれるようになった。








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