98 / 202
第98話 ライカ編②
しおりを挟む
「今度はわたくしもあなたと一緒に行きたいのです」
フローラは涙を浮かべた目でライカを見た。
「遠くで待ってるだけなど出来ません、少しでもこの身が役立てれば本望です。いざとなったら盾にでもなります」
その言葉に苦々しい表情になる。
「フローラ様を戦場などに行かせる気はありませんよ。あなたは近衛騎士としてこの城と国王陛下を守るのが役目なのですから」
あのような異様な男と会わせるわけにはいかない。
何をされるかわからないし、そしてこんなに怯えているのだから
「嫌です。わたくしはあの映像を見て、次こそあなたが死んでしまうんじゃないかと怖くてたまらなかったのです。次の戦はあの男とだけ戦うわけではなく、何が起きるかわからない。皆様の力を疑うわけではないですが、ライカ様が無事に帰って来るか心配なのです。万が一何かあったらと思うと……わたくしは耐えられません」
師としてライカを尊敬している。
それ以上に子どもの戯言を真剣に聞いてくれて、見た目にそぐわず真面目に話を聞いてくれたライカを信頼していた。
信頼が愛情に変わるのにはそれ程時間はかからなかったが、フローラははっきりとした自覚を持っていない。
ライカもまたその気持ちに気づいていない
「ご心配をおかけして申し訳ない。ですが、次こそは必ず勝ちます」
ライカに行かないなんて選択肢はない、戦場で散ったとしても主を守って死ねるのなら本望だ。
戦わずして逃げるなど、それこそ死んだ方がましだ。
「そしてフローラ様、あなたの仕事は俺を守る事ではないのです。あなたが守るのは国王様たちですから、ご自分の使命を全うしてください。俺なら大丈夫ですから」
仕事だからという理由ももちろん大きいが、フローラを連れてくなんて選択肢はない。
大事な女性をわざわざ死地に飛び込ませる気なんてあるわけがない。
幸いフローラはしっかりと城に残らざるを得ない理由がある、他の女性達よりは
説得しやすい。
「嫌です。また遠く離れたところであなたがあのような目に合ったらと思うと、わたくし……」
ついにフローラの目から涙が溢れて。
「泣かないで下さい」
オロオロとしながらも、ハンカチを取り出して涙を拭ってあげる。
一回泣き出したらなかなか止まりそうになく。ライカは困ってしまった。
「だって、ライカ様が死んじゃったら、わたくしは生きていけませんわ」
言葉にして言ったぶんまた涙が溢れた。
人通りは少ないが、それでも見られたら誤解されてしまう場面だ。
「死にません。必ず戻ってきます。その為に俺とある約束をしてください」
「約束?」
「えぇ。戦が終わって帰ってきたら、いの一番にあなたの元へ行きます。ですので、あなたは俺に『お帰り』と言ってください。そうしたら俺は『ただいま』と言いますから」
「それの何がいいのですか? 普通の挨拶ではないですか」
「いいえ、大事です。フローラ様には俺の帰る場所になって欲しいのです」
至極大真面目な顔でそう言った。
「何があってもフローラ様がアドガルムで待っていてくれると思えば、絶対に生きて帰るんだと頑張れます、希望が持てます。フローラ様が嫌でなければですが」
「……」
それでライカは満足なのだろうか。
「帰る場所を守りながら待っていてください。国が無くなっては元も子もないので」
城の守りは重要だ、その役目こそ本来のフローラのものである。
「わかりました」
ようやく冷静になれて、ライカの説得にも応じた。
ここまで彼に強く残って欲しいと願われているのに、これ以上縋っては迷惑だろう。
それにこれ以上自分の仕事を放棄するようなことを言ったら幻滅されてしまうかもしれない。
「我が儘を言ってごめんなさい。自分の仕事を放り投げようとするなんてどうかしてたわ。まだまだ未熟でお恥ずかしい……これでは護衛騎士になっても務まりませんね、もっと精進しないと。当分腕を磨くのに鍛錬を重ねたいと思います、お見合い話もしばらく断っていきますわ」
「見合い?」
唐突な話の流れにライカの目つきが鋭くなる。
「えぇ。前回の戦の後からそういう話が周囲でも多く出始めているのです。多分ライカ様のところにも婚約の話は出てましたよね?」
「顔を知らない者から幾つかは。全て断りましたが、でも何故最近増えていたのです?」
「戦の功績で力関係が変わったことや、また命を落とす前に次なる跡継ぎを早く決めようと躍起になる方が多いようです。わたくしもいくつか話が来ましたわ」
騎士爵はあるし、美人なら尚更。
また近衛騎士なので王族とも話す機会が多い。
全ての者がそうではないと思うが、大事な弟子に打算で近づくものは容赦しない。
「フローラ様。もしも気になる相手がいたら一度俺と手合わせをさせてもらえませんか?」
黒いオーラを隠しもせずそう頼んだ。
「大事なフローラ様をどこぞのものにくれてやる気はありません。最低条件、俺よりも強く、そして俺よりもフローラ様を大事に想うものでないと渡したくはありません」
「それって……」
どういう事なのかと聞き返したかったが、勘違いであれば恥ずかしい。
「あなたよりも強い人なんているかしら」
ライカは相当の実力者だ。
剣聖と呼ばれるシグルドを師に持ち、そして火炎魔法も使える。
体躯にも恵まれていて、筋力も胆力もある。
「力だけの問題ではありません。気持ちの面もです。俺よりも強くなければフローラ様の体も心も守れない。あなたに相応しいのは俺よりも強く、そしてあなたを心から愛せる者だけだ。そうでなければ認めない」
父性か師弟愛か。
少なからず心配してくれているのがわかる。
(あなた以上にわたくしを想ってくれてる方なんているかしら)
家族から勘当され、貴族ではなくなったフローラに変わらぬ態度で接してくれたのはライカだ。
その後も口さがない悪口から庇ってくれたのは彼だ。
思い返せばいつだって自分の事を想ってくれている、でも……。
「そのような方がいたらぜひ紹介させていただきますね」
「えぇ、ぜひお待ちしております」
脈のなさそうな返事だ。
いつかこの気持ちがはっきりとしたら、伝えてみようかな。
少しだけ気づいた恋心、このもどかしい両片思いは時間を掛けてゆっくりと育まれるようになった。
フローラは涙を浮かべた目でライカを見た。
「遠くで待ってるだけなど出来ません、少しでもこの身が役立てれば本望です。いざとなったら盾にでもなります」
その言葉に苦々しい表情になる。
「フローラ様を戦場などに行かせる気はありませんよ。あなたは近衛騎士としてこの城と国王陛下を守るのが役目なのですから」
あのような異様な男と会わせるわけにはいかない。
何をされるかわからないし、そしてこんなに怯えているのだから
「嫌です。わたくしはあの映像を見て、次こそあなたが死んでしまうんじゃないかと怖くてたまらなかったのです。次の戦はあの男とだけ戦うわけではなく、何が起きるかわからない。皆様の力を疑うわけではないですが、ライカ様が無事に帰って来るか心配なのです。万が一何かあったらと思うと……わたくしは耐えられません」
師としてライカを尊敬している。
それ以上に子どもの戯言を真剣に聞いてくれて、見た目にそぐわず真面目に話を聞いてくれたライカを信頼していた。
信頼が愛情に変わるのにはそれ程時間はかからなかったが、フローラははっきりとした自覚を持っていない。
ライカもまたその気持ちに気づいていない
「ご心配をおかけして申し訳ない。ですが、次こそは必ず勝ちます」
ライカに行かないなんて選択肢はない、戦場で散ったとしても主を守って死ねるのなら本望だ。
戦わずして逃げるなど、それこそ死んだ方がましだ。
「そしてフローラ様、あなたの仕事は俺を守る事ではないのです。あなたが守るのは国王様たちですから、ご自分の使命を全うしてください。俺なら大丈夫ですから」
仕事だからという理由ももちろん大きいが、フローラを連れてくなんて選択肢はない。
大事な女性をわざわざ死地に飛び込ませる気なんてあるわけがない。
幸いフローラはしっかりと城に残らざるを得ない理由がある、他の女性達よりは
説得しやすい。
「嫌です。また遠く離れたところであなたがあのような目に合ったらと思うと、わたくし……」
ついにフローラの目から涙が溢れて。
「泣かないで下さい」
オロオロとしながらも、ハンカチを取り出して涙を拭ってあげる。
一回泣き出したらなかなか止まりそうになく。ライカは困ってしまった。
「だって、ライカ様が死んじゃったら、わたくしは生きていけませんわ」
言葉にして言ったぶんまた涙が溢れた。
人通りは少ないが、それでも見られたら誤解されてしまう場面だ。
「死にません。必ず戻ってきます。その為に俺とある約束をしてください」
「約束?」
「えぇ。戦が終わって帰ってきたら、いの一番にあなたの元へ行きます。ですので、あなたは俺に『お帰り』と言ってください。そうしたら俺は『ただいま』と言いますから」
「それの何がいいのですか? 普通の挨拶ではないですか」
「いいえ、大事です。フローラ様には俺の帰る場所になって欲しいのです」
至極大真面目な顔でそう言った。
「何があってもフローラ様がアドガルムで待っていてくれると思えば、絶対に生きて帰るんだと頑張れます、希望が持てます。フローラ様が嫌でなければですが」
「……」
それでライカは満足なのだろうか。
「帰る場所を守りながら待っていてください。国が無くなっては元も子もないので」
城の守りは重要だ、その役目こそ本来のフローラのものである。
「わかりました」
ようやく冷静になれて、ライカの説得にも応じた。
ここまで彼に強く残って欲しいと願われているのに、これ以上縋っては迷惑だろう。
それにこれ以上自分の仕事を放棄するようなことを言ったら幻滅されてしまうかもしれない。
「我が儘を言ってごめんなさい。自分の仕事を放り投げようとするなんてどうかしてたわ。まだまだ未熟でお恥ずかしい……これでは護衛騎士になっても務まりませんね、もっと精進しないと。当分腕を磨くのに鍛錬を重ねたいと思います、お見合い話もしばらく断っていきますわ」
「見合い?」
唐突な話の流れにライカの目つきが鋭くなる。
「えぇ。前回の戦の後からそういう話が周囲でも多く出始めているのです。多分ライカ様のところにも婚約の話は出てましたよね?」
「顔を知らない者から幾つかは。全て断りましたが、でも何故最近増えていたのです?」
「戦の功績で力関係が変わったことや、また命を落とす前に次なる跡継ぎを早く決めようと躍起になる方が多いようです。わたくしもいくつか話が来ましたわ」
騎士爵はあるし、美人なら尚更。
また近衛騎士なので王族とも話す機会が多い。
全ての者がそうではないと思うが、大事な弟子に打算で近づくものは容赦しない。
「フローラ様。もしも気になる相手がいたら一度俺と手合わせをさせてもらえませんか?」
黒いオーラを隠しもせずそう頼んだ。
「大事なフローラ様をどこぞのものにくれてやる気はありません。最低条件、俺よりも強く、そして俺よりもフローラ様を大事に想うものでないと渡したくはありません」
「それって……」
どういう事なのかと聞き返したかったが、勘違いであれば恥ずかしい。
「あなたよりも強い人なんているかしら」
ライカは相当の実力者だ。
剣聖と呼ばれるシグルドを師に持ち、そして火炎魔法も使える。
体躯にも恵まれていて、筋力も胆力もある。
「力だけの問題ではありません。気持ちの面もです。俺よりも強くなければフローラ様の体も心も守れない。あなたに相応しいのは俺よりも強く、そしてあなたを心から愛せる者だけだ。そうでなければ認めない」
父性か師弟愛か。
少なからず心配してくれているのがわかる。
(あなた以上にわたくしを想ってくれてる方なんているかしら)
家族から勘当され、貴族ではなくなったフローラに変わらぬ態度で接してくれたのはライカだ。
その後も口さがない悪口から庇ってくれたのは彼だ。
思い返せばいつだって自分の事を想ってくれている、でも……。
「そのような方がいたらぜひ紹介させていただきますね」
「えぇ、ぜひお待ちしております」
脈のなさそうな返事だ。
いつかこの気持ちがはっきりとしたら、伝えてみようかな。
少しだけ気づいた恋心、このもどかしい両片思いは時間を掛けてゆっくりと育まれるようになった。
0
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)
しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。
良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。
人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ?
時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。
ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。
気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。
一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。
他作品で出ているサブキャラのお話。
こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。
このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)?
完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
猛獣のお世話係
しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」
父は頷き、王家からの手紙を寄越す。
国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。
条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。
猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。
猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など
「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」
「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」
婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み!
いつまでもモフっていたい。
動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。
もふもふはいいなぁ。
イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。
完全自己満、ハピエン、ご都合主義です!
甘々です。
同名キャラで色んな作品を書いています。
一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。
他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる