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第93話 戦の前に(サミュエル①)
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「シフ、ごめん」
シフを部屋に呼び、サミュエルは深々と謝る。
「いいのよ、私もあなたの手伝いが出来るのは嬉しいから」
そう言ってくれる優しい女性だ。
ロキに指名された時はとても焦った。
サミュエルは魔術師の中でも特に力が強く、ロキやリオンに次ぐほどのものだ。
だが人と顔合わせるのが嫌で、仕事とはいえ、皆に話して回るのは緊張する。
その為、リオンが手助けを買って出てくれた時は安心した。
でもその後にわざわざロキが娘のシフを指名するとは。
「……あのさ、もしかしてロキ様は僕達の事を」
「知ってるわよ、私伝えたもの」
「うわあぁぁぁ!」
普段の彼からは聞いたことない大声が漏れる。
ここが自室でなかったら、ほとんどの者が驚いただろう。
「何故? 秘密だって言ったじゃないか」
伝えているのはリオンとカミュだけのはずだ。
シフとは恋人関係にある。
だが、婚約者ではない。
だから必要以上にサミュエルは近づきはしない。
清い関係で、ただ二人で食事をしたり、休日を共に過ごすくらい、それもシフに婚約者が出来たら終わりにすると言っている。
長い金髪を上でまとめ、魔力の高さを表す金の目を持つシフはとても人気がある。
可愛らしい見た目と、物怖じしない性格で、色々な人に話しかけるから顔も広く、故に密かに慕うものが多いのだ。
ガードナー家の者は魔力が高く、また何らかの才に恵まれているので、結婚相手にと望むものが多いという事はサミュエルですら知っていた。
だから最初から日陰者の自分がシフの婚約者になることは諦めている。
「秘密にしていたし、言ってはないわ。でもお父様もお兄様たちもどこかから話を聞きつけて、既に知っていたの。でもあなたに何も言わないならば、それは認められたという事よ」
シフは嬉しそうだが、サミュエルは複雑だ。
間違っても自分が隣に立つべきではない。
サミュエルは平民からの成り上がり、伯爵令嬢のシフとは釣り合わないので、お付き合いについて言われた時も、一時の気の迷いだと思っていた。
貴族ですらないサミュエルは絶対に苦労させてしまう。
シフとは偶然に出会ったが、戦さえなければ王城で働くもの達からもサミュエルは認知されなかったろうくらい陰が薄い。
普段は研究職として城に籠っていて、時折リオンの外遊の護衛として外に出るだけの生活だ。
他の魔術師との交流も少ないから、人望もない。
フードと仮面で顔も隠しているので素顔を知るものもいないし、これからも日陰で生きていく予定だから見せる気もない。
「僕は伯爵家の者に認められる程のものじゃないよ」
「そんな事ないわ。家族皆祝福してくれてるのよ。反対されていないし」
「それは希望的観測にしか過ぎないよ、本心はどうだかわからない」
ぽつりとサミュエルは言った。
「シフ、僕の仕事を手伝ってくれるのは有難いのだけど、でも、これ以上はもう充分だ」
ロキにどう思われているのか、いつ引導を渡されるのか、今回の件だって試してるのかもしれない。
魔法の師としてロキは尊敬している。
その師の大事な娘を奪ってただで済むとは思っていない。
せめてロキの手を煩わせないように自らの手で幕を引こう。
「普通の知り合いに戻ろう」
ムッとしてシフはサミュエルのフードを掴む。
「ひっ!」
咄嗟に防御壁を張ろうとして思いとどまる。
シフを弾き飛ばすわけにはいかない。
「このまま引きこもってばかりではもういられないのよ? 先の戦での活躍で、あなたの魔力の高さと知識は皆が知ることになったわ。今では貴方は憧れの的、どれだけの人があなたに助けられたか」
フードを脱がそうとするシフと、取られまいとするサミュエルの攻防が続く。
「シフ、止めて」
サミュエルは男性だが、体力はない。
身体強化の魔法を使ってまでも、懸命にシフの強硬に抗う。
「その魔力を狙って、あなたとの結婚を望む人が増えているのよ。私があなたに付きまとっているから、余計な人は来ないけれど。そのフードの下は酷い怪我を負っているだなんて噂があるし、それと同じくらいに美しい美貌が隠されてるんじゃないかって言われて関心も高いの。どれだけ私のところにサミュエルの事について知りたいって者が来たか」
「えっ?」
怪我の噂などはともかく、結婚の話は初耳だ。
「あなたを捕まえようとしても皆見つけられないんだって。それで私の元に聞きに来るのだけど、フェンお兄様が仕事の邪魔だって追い返してくれてるわ」
周囲からは親しいとしか見られていない。
貴族と平民という事、そしてシフは人懐こく、誰にも物怖じしないから、一緒に居ても恋人とは思われていないようだ。
シフに近づく異性はフェンとキールが排除にかかるのもある。
だがサミュエルはその事でフェン達に何かを言われたことはないと今更気づく。
声を掛けるのがいつもシフが先だったからかもしれないが。
「ずっと君が守ってくれていたのか……ありがとう」
魔力の高さを買われるのは嬉しいが、それだけで結婚話なんて怖気が走る。
そんな話が出ていた事も、シフが庇っていてくれていた事も、全く考えが及ばなかった。
シフを部屋に呼び、サミュエルは深々と謝る。
「いいのよ、私もあなたの手伝いが出来るのは嬉しいから」
そう言ってくれる優しい女性だ。
ロキに指名された時はとても焦った。
サミュエルは魔術師の中でも特に力が強く、ロキやリオンに次ぐほどのものだ。
だが人と顔合わせるのが嫌で、仕事とはいえ、皆に話して回るのは緊張する。
その為、リオンが手助けを買って出てくれた時は安心した。
でもその後にわざわざロキが娘のシフを指名するとは。
「……あのさ、もしかしてロキ様は僕達の事を」
「知ってるわよ、私伝えたもの」
「うわあぁぁぁ!」
普段の彼からは聞いたことない大声が漏れる。
ここが自室でなかったら、ほとんどの者が驚いただろう。
「何故? 秘密だって言ったじゃないか」
伝えているのはリオンとカミュだけのはずだ。
シフとは恋人関係にある。
だが、婚約者ではない。
だから必要以上にサミュエルは近づきはしない。
清い関係で、ただ二人で食事をしたり、休日を共に過ごすくらい、それもシフに婚約者が出来たら終わりにすると言っている。
長い金髪を上でまとめ、魔力の高さを表す金の目を持つシフはとても人気がある。
可愛らしい見た目と、物怖じしない性格で、色々な人に話しかけるから顔も広く、故に密かに慕うものが多いのだ。
ガードナー家の者は魔力が高く、また何らかの才に恵まれているので、結婚相手にと望むものが多いという事はサミュエルですら知っていた。
だから最初から日陰者の自分がシフの婚約者になることは諦めている。
「秘密にしていたし、言ってはないわ。でもお父様もお兄様たちもどこかから話を聞きつけて、既に知っていたの。でもあなたに何も言わないならば、それは認められたという事よ」
シフは嬉しそうだが、サミュエルは複雑だ。
間違っても自分が隣に立つべきではない。
サミュエルは平民からの成り上がり、伯爵令嬢のシフとは釣り合わないので、お付き合いについて言われた時も、一時の気の迷いだと思っていた。
貴族ですらないサミュエルは絶対に苦労させてしまう。
シフとは偶然に出会ったが、戦さえなければ王城で働くもの達からもサミュエルは認知されなかったろうくらい陰が薄い。
普段は研究職として城に籠っていて、時折リオンの外遊の護衛として外に出るだけの生活だ。
他の魔術師との交流も少ないから、人望もない。
フードと仮面で顔も隠しているので素顔を知るものもいないし、これからも日陰で生きていく予定だから見せる気もない。
「僕は伯爵家の者に認められる程のものじゃないよ」
「そんな事ないわ。家族皆祝福してくれてるのよ。反対されていないし」
「それは希望的観測にしか過ぎないよ、本心はどうだかわからない」
ぽつりとサミュエルは言った。
「シフ、僕の仕事を手伝ってくれるのは有難いのだけど、でも、これ以上はもう充分だ」
ロキにどう思われているのか、いつ引導を渡されるのか、今回の件だって試してるのかもしれない。
魔法の師としてロキは尊敬している。
その師の大事な娘を奪ってただで済むとは思っていない。
せめてロキの手を煩わせないように自らの手で幕を引こう。
「普通の知り合いに戻ろう」
ムッとしてシフはサミュエルのフードを掴む。
「ひっ!」
咄嗟に防御壁を張ろうとして思いとどまる。
シフを弾き飛ばすわけにはいかない。
「このまま引きこもってばかりではもういられないのよ? 先の戦での活躍で、あなたの魔力の高さと知識は皆が知ることになったわ。今では貴方は憧れの的、どれだけの人があなたに助けられたか」
フードを脱がそうとするシフと、取られまいとするサミュエルの攻防が続く。
「シフ、止めて」
サミュエルは男性だが、体力はない。
身体強化の魔法を使ってまでも、懸命にシフの強硬に抗う。
「その魔力を狙って、あなたとの結婚を望む人が増えているのよ。私があなたに付きまとっているから、余計な人は来ないけれど。そのフードの下は酷い怪我を負っているだなんて噂があるし、それと同じくらいに美しい美貌が隠されてるんじゃないかって言われて関心も高いの。どれだけ私のところにサミュエルの事について知りたいって者が来たか」
「えっ?」
怪我の噂などはともかく、結婚の話は初耳だ。
「あなたを捕まえようとしても皆見つけられないんだって。それで私の元に聞きに来るのだけど、フェンお兄様が仕事の邪魔だって追い返してくれてるわ」
周囲からは親しいとしか見られていない。
貴族と平民という事、そしてシフは人懐こく、誰にも物怖じしないから、一緒に居ても恋人とは思われていないようだ。
シフに近づく異性はフェンとキールが排除にかかるのもある。
だがサミュエルはその事でフェン達に何かを言われたことはないと今更気づく。
声を掛けるのがいつもシフが先だったからかもしれないが。
「ずっと君が守ってくれていたのか……ありがとう」
魔力の高さを買われるのは嬉しいが、それだけで結婚話なんて怖気が走る。
そんな話が出ていた事も、シフが庇っていてくれていた事も、全く考えが及ばなかった。
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