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第91話 戦の前に(ティタン)
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会議が終わり、ようやくミューズと二人きりで話しをする時間を設けられた。
ロキと共に戻ってきた後、詳しく話を聞きたかったのだが、生憎と湯浴みと身支度で時間を取られてしまい、そうこうしているうちに全体での会議の時間になってしまったのだ。
始終やきもきした思いを抱えて話し合いに参加していた。
「ミューズはロキ殿をどう思っているのだ? 本当に叔父として信頼しているのか?」
本当に何もなかったのか、ロキに対してどのような感情を持ったのかなど、嫉妬のような心配するような、そんな気持ちで改めて確認を取る。
「言動は不可思議ですが、根の部分はとてもお優しく、信頼に足る人だと思います」
「優しいだと? それに信頼してるというが、本心か? あんなミューズと血が繋がっているとは思えない程いい加減な人物なのに」
見た目も中身も似ていない。
ロキは切れ長の目で、ミューズはぱっちりとした目をしている、周囲を顧みない破天荒な性格の叔父と、周囲への気遣いに溢れている姪、とても親類とは思えない。
「言葉はだいぶ足りない人ですけれど、聞けば丁寧に教えて頂けます。一から説明をすることが苦手なのでしょう。それにもしかしたら一生知りえなかった両親の事を教えて頂けたのは、聞いた時は驚きましたが、今では有難いことだと思っています。とても大事な事ですから」
かなりの衝撃を受けたが、実親の事を知らずにいるよりはずっと良かった。
そしてロキはミューズの本当の父の事を尊敬していると言っていて、その人の話をする時はとても柔らかな口調をしていた。
慈しみと親しみを感じるその言葉に、聞いていてミューズも心が温かくなったのだ。
「……どのようなご両親だったんだ?」
ミューズと気持ちを共有したく、聞いてみる。
ロキから聞く事はしたくない。
「お母様はとても魔力が豊富な方だったそうです、お父様は頭が良く文官としてとても優秀で、二人共とても優しい人だったとのお話ですわ。お母様はよく叔父様の魔法の暴走を止めていて、魔力のないお父様は吹き飛ばされたりしていたそうです」
「そうか、被害者か」
それを聞いて何とも複雑だ。
義兄相手にもそのようにしでかすとは、やはりロキは普通とは違う。
「お父様に魔法も武もないということで、お祖父様は二人の婚姻の承諾をしなかったそうです。だから二人はアドガルムを出てセラフィムへと移りました」
そこでディエスは病にかかり。困ったリリュシーヌは、病に効く薬と引き換えにヘンデルとの婚姻を承諾した。
「シグルド殿がそのように反対するとは思えないが、ご自分で道を誤ったとは言っていた。難しい問題だ」
厳しくも優しいティタンの剣の師、人としても出来た人である。
だが、ティタンが物心つく以前にそういう事があり、辛い経験をしたからこそ今のようになったのだろうか。
贖罪の気持ちもあるのかもしれない。
ミューズもまた育ての親を気にしていた。
(ヘンデル陛下がしたことを許すわけではないけれど、ここまで育ててくれた恩もあるし、落ち着いたら話を聞きに行きたいわ)
血のつながらないミューズを大事に育ててくれたのは事実だ、けれど本当の両親の話を聞いたからには今までのように接することは出来なくなる。
そこでミューズは重要な事に気が付いた。
「私は王女ではないのね」
ヘンデルの血を引いていないなら、自分はセラフィム王家のものではない。
ミューズもまたマオと同じ、正統な血筋ではないということになる。
(いえ、でもマオはもしかしたら血のつながりがあるかもしれないし)
確定はしていなかった気がした。
しかし自分の父親はどこの誰かというのも判明している。
この事が公に出たら、騒ぎが起きるのではないか?
「あの、私、このままでは離縁でしょうか?」
「はぁ?!」
ティタンは突然の言葉に大声を出した。
「今の流れでどうして、そういう考えに至った?」
怒りの気を発するティタンに言葉足りずを詫び、慌てて今考えた事を述べると、ティタンは渋面を浮かべて考え込んでしまう。
「……そもそもこの話はロキ殿から聞かされたもので、セラフィム国はずっと隠していることだ」
ヘンデルがこの話を公にするはずがない。
ミューズはヘンデルの子として育ち、セラフィムの正統な王女としてティタンと婚姻を結んでいる。
ディエスの存在を公にしたら、アドガルムを騙そうとしたことになるが、隠した理由はそういうものではないだろう。
「俺はヘンデル王がどのような意図でミューズの母親を娶ったのかはわからないが、しかし好きな女性とはいえ、自分と血のつながりのない子を我が子として育てるのは、相当覚悟が要っただろう。けれどヘンデル王がミューズを虐げていたとは感じられなかった。本当に我が子のように思っているのではないか」
それはミューズも感じていた。
愛された、優しくしてもらった思い出しかない。
「今更そのような話をセラフィム国からされても、離縁する気はないがな。そのように血筋がどうのと誰かに責められミューズがここに居られないとなれば俺もここを離れる」
「それは困ります!」
ティタンはこの国になくてはならない人だ。
武力もそうだが、その強さに憧れるものも多く、剣聖と言われるシグルドも一目置いている。
剣の道を進むものの目指すべき目標となっていた。
「絶対駄目ですからね。ティタン様には大事な責任があるではないですか、それをいとも容易く捨てようとしてはいけません」
「安心してくれ、離縁さえなければそんな事は現実にならない」
冗談を言う人ではないから、ティタンは今言ったことを本当にやるだろう。
「一応聞くが、ミューズが俺と離縁したいからそのような事を言ったのではないだろうな?」
「もちろん違います」
そこはすぐに否定する。
「でも側にいられなくなるかもと思い、必要ならば身を引かねばと考えました。ティタン様の隣に立ちたい女性がいると以前聞いていましたし……ごめんなさい、涙が出そうです」
自分の言葉にますます目が潤む。
この前の強気な問い詰めとは打って変わり、とても弱弱しい姿である。
出自で、隣に立つ資格がないかもと考え始めたら、段々と自信がなくなってきてしまったのだ。
ティタンがそんな事で離れるわけが無いのに、不安が付きまとってくる。
「絶対に別れない」
そもそも父はミューズの出自を知っていたと言っていたし、ならばアドガルムは全てを含めて婚姻の了承をしたはずだ。
あとは下手に噂が流れて、ティタンやミューズを蹴落としたい貴族たちに利用されないように気を付けるだけだ。
(もしも世間が納得がいかないと言うならば、戦で功績を上げて、力を見せつければいいだろう)
良くも悪くも頭脳労働よりも力技に頼る事多いので、その結論に至った。
力をひけらかすことが良いことだとは言わないが、それで黙らせられるならば、存分に揮おう。
それが自分に出来る唯一の事だ。
「俺を他の女性の元にいかせたくないと言ってただろ。そんな簡単に諦めていいのか?」
「誰にも渡したくはありません。ですが……」
「文句を言うものがいたら、俺が潰す。ロキ殿もだ。また考えなしに余計な話をしたならば今度こそ止めを刺そう。ミューズの大事な両親の事について話すまでは良かったが、余計な悩みを増やさせた事は許せん」
「あの一応私の叔父なのですが」
「俺は認めん」
ここまで人を悪く言う事は珍しい気がする。
自国のもので実力もあるものだし、多少怒りはあるだろうが、ここまで継続するとは見た事がない。
(私の事が絡んでいるからかしら)
そうだとしたら、嬉しい。
不謹慎ながらもそう感じてしまった。
「たくさんの心配をかけてしまって申し訳ありません。お詫びにこの戦が終わったらもっと二人で過ごす時間を作ると約束しますわ」
「二人で?」
「えぇ。私がいない間多大な心配とご迷惑をお掛けしましたから、そのお詫びとそしてもっと一緒にいる時間を増やし、色んなお話をなさりましょう。最近は仕事の話がメインとなっていて、落ち着いた話も出来ませんでしたから、ティタン様のしたい事をしながら二人でゆったりと過ごしましょう」
「俺のしたい事、何でもいいのか?」
「えぇ」
にこやかな笑顔で言ってくれたのを見て、ティタンは少々頬を赤くし、目を逸らす。
「その時が来るのを楽しみにしておく」
ようやく機嫌が直ったようで何よりだ。
後は叔父のロキに、余計なことはティタンの前で言わないように釘を刺さなければいけない。
ロキと共に戻ってきた後、詳しく話を聞きたかったのだが、生憎と湯浴みと身支度で時間を取られてしまい、そうこうしているうちに全体での会議の時間になってしまったのだ。
始終やきもきした思いを抱えて話し合いに参加していた。
「ミューズはロキ殿をどう思っているのだ? 本当に叔父として信頼しているのか?」
本当に何もなかったのか、ロキに対してどのような感情を持ったのかなど、嫉妬のような心配するような、そんな気持ちで改めて確認を取る。
「言動は不可思議ですが、根の部分はとてもお優しく、信頼に足る人だと思います」
「優しいだと? それに信頼してるというが、本心か? あんなミューズと血が繋がっているとは思えない程いい加減な人物なのに」
見た目も中身も似ていない。
ロキは切れ長の目で、ミューズはぱっちりとした目をしている、周囲を顧みない破天荒な性格の叔父と、周囲への気遣いに溢れている姪、とても親類とは思えない。
「言葉はだいぶ足りない人ですけれど、聞けば丁寧に教えて頂けます。一から説明をすることが苦手なのでしょう。それにもしかしたら一生知りえなかった両親の事を教えて頂けたのは、聞いた時は驚きましたが、今では有難いことだと思っています。とても大事な事ですから」
かなりの衝撃を受けたが、実親の事を知らずにいるよりはずっと良かった。
そしてロキはミューズの本当の父の事を尊敬していると言っていて、その人の話をする時はとても柔らかな口調をしていた。
慈しみと親しみを感じるその言葉に、聞いていてミューズも心が温かくなったのだ。
「……どのようなご両親だったんだ?」
ミューズと気持ちを共有したく、聞いてみる。
ロキから聞く事はしたくない。
「お母様はとても魔力が豊富な方だったそうです、お父様は頭が良く文官としてとても優秀で、二人共とても優しい人だったとのお話ですわ。お母様はよく叔父様の魔法の暴走を止めていて、魔力のないお父様は吹き飛ばされたりしていたそうです」
「そうか、被害者か」
それを聞いて何とも複雑だ。
義兄相手にもそのようにしでかすとは、やはりロキは普通とは違う。
「お父様に魔法も武もないということで、お祖父様は二人の婚姻の承諾をしなかったそうです。だから二人はアドガルムを出てセラフィムへと移りました」
そこでディエスは病にかかり。困ったリリュシーヌは、病に効く薬と引き換えにヘンデルとの婚姻を承諾した。
「シグルド殿がそのように反対するとは思えないが、ご自分で道を誤ったとは言っていた。難しい問題だ」
厳しくも優しいティタンの剣の師、人としても出来た人である。
だが、ティタンが物心つく以前にそういう事があり、辛い経験をしたからこそ今のようになったのだろうか。
贖罪の気持ちもあるのかもしれない。
ミューズもまた育ての親を気にしていた。
(ヘンデル陛下がしたことを許すわけではないけれど、ここまで育ててくれた恩もあるし、落ち着いたら話を聞きに行きたいわ)
血のつながらないミューズを大事に育ててくれたのは事実だ、けれど本当の両親の話を聞いたからには今までのように接することは出来なくなる。
そこでミューズは重要な事に気が付いた。
「私は王女ではないのね」
ヘンデルの血を引いていないなら、自分はセラフィム王家のものではない。
ミューズもまたマオと同じ、正統な血筋ではないということになる。
(いえ、でもマオはもしかしたら血のつながりがあるかもしれないし)
確定はしていなかった気がした。
しかし自分の父親はどこの誰かというのも判明している。
この事が公に出たら、騒ぎが起きるのではないか?
「あの、私、このままでは離縁でしょうか?」
「はぁ?!」
ティタンは突然の言葉に大声を出した。
「今の流れでどうして、そういう考えに至った?」
怒りの気を発するティタンに言葉足りずを詫び、慌てて今考えた事を述べると、ティタンは渋面を浮かべて考え込んでしまう。
「……そもそもこの話はロキ殿から聞かされたもので、セラフィム国はずっと隠していることだ」
ヘンデルがこの話を公にするはずがない。
ミューズはヘンデルの子として育ち、セラフィムの正統な王女としてティタンと婚姻を結んでいる。
ディエスの存在を公にしたら、アドガルムを騙そうとしたことになるが、隠した理由はそういうものではないだろう。
「俺はヘンデル王がどのような意図でミューズの母親を娶ったのかはわからないが、しかし好きな女性とはいえ、自分と血のつながりのない子を我が子として育てるのは、相当覚悟が要っただろう。けれどヘンデル王がミューズを虐げていたとは感じられなかった。本当に我が子のように思っているのではないか」
それはミューズも感じていた。
愛された、優しくしてもらった思い出しかない。
「今更そのような話をセラフィム国からされても、離縁する気はないがな。そのように血筋がどうのと誰かに責められミューズがここに居られないとなれば俺もここを離れる」
「それは困ります!」
ティタンはこの国になくてはならない人だ。
武力もそうだが、その強さに憧れるものも多く、剣聖と言われるシグルドも一目置いている。
剣の道を進むものの目指すべき目標となっていた。
「絶対駄目ですからね。ティタン様には大事な責任があるではないですか、それをいとも容易く捨てようとしてはいけません」
「安心してくれ、離縁さえなければそんな事は現実にならない」
冗談を言う人ではないから、ティタンは今言ったことを本当にやるだろう。
「一応聞くが、ミューズが俺と離縁したいからそのような事を言ったのではないだろうな?」
「もちろん違います」
そこはすぐに否定する。
「でも側にいられなくなるかもと思い、必要ならば身を引かねばと考えました。ティタン様の隣に立ちたい女性がいると以前聞いていましたし……ごめんなさい、涙が出そうです」
自分の言葉にますます目が潤む。
この前の強気な問い詰めとは打って変わり、とても弱弱しい姿である。
出自で、隣に立つ資格がないかもと考え始めたら、段々と自信がなくなってきてしまったのだ。
ティタンがそんな事で離れるわけが無いのに、不安が付きまとってくる。
「絶対に別れない」
そもそも父はミューズの出自を知っていたと言っていたし、ならばアドガルムは全てを含めて婚姻の了承をしたはずだ。
あとは下手に噂が流れて、ティタンやミューズを蹴落としたい貴族たちに利用されないように気を付けるだけだ。
(もしも世間が納得がいかないと言うならば、戦で功績を上げて、力を見せつければいいだろう)
良くも悪くも頭脳労働よりも力技に頼る事多いので、その結論に至った。
力をひけらかすことが良いことだとは言わないが、それで黙らせられるならば、存分に揮おう。
それが自分に出来る唯一の事だ。
「俺を他の女性の元にいかせたくないと言ってただろ。そんな簡単に諦めていいのか?」
「誰にも渡したくはありません。ですが……」
「文句を言うものがいたら、俺が潰す。ロキ殿もだ。また考えなしに余計な話をしたならば今度こそ止めを刺そう。ミューズの大事な両親の事について話すまでは良かったが、余計な悩みを増やさせた事は許せん」
「あの一応私の叔父なのですが」
「俺は認めん」
ここまで人を悪く言う事は珍しい気がする。
自国のもので実力もあるものだし、多少怒りはあるだろうが、ここまで継続するとは見た事がない。
(私の事が絡んでいるからかしら)
そうだとしたら、嬉しい。
不謹慎ながらもそう感じてしまった。
「たくさんの心配をかけてしまって申し訳ありません。お詫びにこの戦が終わったらもっと二人で過ごす時間を作ると約束しますわ」
「二人で?」
「えぇ。私がいない間多大な心配とご迷惑をお掛けしましたから、そのお詫びとそしてもっと一緒にいる時間を増やし、色んなお話をなさりましょう。最近は仕事の話がメインとなっていて、落ち着いた話も出来ませんでしたから、ティタン様のしたい事をしながら二人でゆったりと過ごしましょう」
「俺のしたい事、何でもいいのか?」
「えぇ」
にこやかな笑顔で言ってくれたのを見て、ティタンは少々頬を赤くし、目を逸らす。
「その時が来るのを楽しみにしておく」
ようやく機嫌が直ったようで何よりだ。
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