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第89話 心構え
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「やはり駄目だ、危険すぎる。王城に戻って欲しいというのが俺の願いだ。魔法に巻き込まないかという不安も強い」
レナンは納得いっていないようだが、残って欲しいという思いに渋々頷く。
連れて行って万が一誰かが命を落とすようなことがあれば、レナンは自分の命を差し出して、力を行使してしまうかもしれない。
そんな命がけな事をさせるわけには行かない。
「ただ一つだけ約束を。俺がいる内は他の男に靡かないでくれよ」
「あの、エリック様。そのような事はありませんから」
少々照れくさそうに笑っていたレナンだが、次の言葉に顔色を失う。
「俺が死んだ場合はその限りではない、自由に生きてくれ」
真剣な声だ。
「生活の保障はさせるし、王太子妃でもなくなるから大変な仕事も負わなくていいようになる。そもそも俺がいなくなればこの国に縛られる事もない。ルアネドに言ってパルス国に戻ることも出来るようにしておこう。妨げであったヘルガもいないし、トゥーラ様もいる母国ならのびのびと暮らせるからな。追い出したいわけではないから、もちろんレナンが選んでいい。幸せになる道を選んでくれ」
変わらぬ声音と変わらぬ表情でエリックは続けた。
「必ず、生きて帰ってきますよね……?」
「無論そのつもりだが、どうなるかはわからない。戦とはそういうものだ」
少し弱気に感じるエリックの言葉だが、皆の気が引き締まる。
「帝国の者達は、一人でもあのような強い力を持っている。撃退は出来たが、複数でいたにも関わらず押されていた。戦でもしあのような未知なる力を持つ者がまだいたら? あのもの達より強い者がいたら? 勝てる保証はない」
当然のことではあるけれども、先の戦で勝利した事からか、失念しやすい。
「ミューズ嬢もマオ嬢も本来は残っていて欲しいものだが、どうにも頑固だ。だからレナン、君だけでも戦火から少しでも遠ざかっていて欲しい」
「そんなの、わたくしだって本当は了承したくないのに」
押しが弱いといわれたようでムッとする。
「否が応でも了承させる。が、ここでの話はこれで終わりだ。ティタン、何か話はあるか?」
納得していないレナンを押しとどめ、エリックは主導権を譲った。
「俺からは特には……作戦などに関しては兄上やリオンに任せます。そして父上が命じたならば、剣を振るうのみ。ですが」
少し考え、ティタンは言葉を選んでいく。
「属国となった三国からの援軍はお願いしたい。彼の国の者達もまた無関係ではないし、帝国は多くの国や民族を従えていると聞きます。数の上でもアドガルムの兵だけでは守り切れない」
一番危険なのは帝国との境のパルス国だと思っていたが、転移魔法を使うとなればどの国も危険はある。
「戦力として積極的に組み入れて欲しいです。剣を交えた感覚から言えば、グウィエン殿のいるシェスタ国は相当な手練れだ。そういった戦士たちにぜひ助力を乞いたい。いかがでしょう、父上」
前線を張れるものがいたら、戦況は大きく変わりそうだ。
良くも悪くもティタン達は警戒を受けている。
突き崩す為の帝国が知らない遊撃隊がいれば、虚をつけそうだ。
「そうだな、それぞれの国に声を掛けて、作戦を練ってみよう」
アルフレッドも頷いた。
「おそらくもうそんなには時間がない。パルスやセラフィムも先の奇襲でまだ立て直せていない。アドガルムも完全復興はまだしておらず、食料補充や新たな兵の育成も苦しい状況下だ。だからこそ今が好機とし帝国はこちらが整う前に叩きに来るはずだ。宣戦布告を受けてからそう日にちが経ってないうちに来るはずだ」
わざわざ潰す相手の万全を待つわけがないし、そんな真摯な者達ならば、あのような搦め手で奇襲は掛けてこないはずだ。
「だからこちらも奇襲を掛けたい。あちらも万全ではないアドガルムが急に仕掛けたら驚くだろうからな」
「攻め入る理由はどうしますか?」
リオンが訪ねる。
「順番と理由は大事です。防衛線なら正当性も主張できますが、こちらから攻め入るならばかなり説得力のあるものがなければ、他国から付け入る隙となってしまいます。帝国に与しないものや、アドガルムに与しないもの達にとって格好の餌食になるでしょう」
「この前の皇子達の訪問時の無茶な要求とそして属国への奇襲が理由だ。実害を被っているのだから、これは防衛戦だ。このまま手をこまねいて被害を大きくするわけには行かないし、パルス国の商人達も無為に殺された。今も被害は増えている」
表に出ないだけで、色々な被害があちこちで出ている。
「帝国兵が蹂躙、略奪を行なっているという話も聞く。兵の中には無理に命令されたものもいるだろうから、そのような者はなるべく殺したくはない」
ロキとミューズがいった地域もそのようなところだ。
アルフレッドはそのような横暴も止めなければと義憤に駆られる。
「俺の考えは甘いが、それでも皆がついてきてくれて嬉しい」
改めて皆に強く訴える。
「帝国の暴挙をこれ以上許してはならない。皆で力を合わせ、アドガルムを守り、今度こそ平穏を取り戻すぞ!」
力強い言葉に皆が従う意を見せた。
レナンは納得いっていないようだが、残って欲しいという思いに渋々頷く。
連れて行って万が一誰かが命を落とすようなことがあれば、レナンは自分の命を差し出して、力を行使してしまうかもしれない。
そんな命がけな事をさせるわけには行かない。
「ただ一つだけ約束を。俺がいる内は他の男に靡かないでくれよ」
「あの、エリック様。そのような事はありませんから」
少々照れくさそうに笑っていたレナンだが、次の言葉に顔色を失う。
「俺が死んだ場合はその限りではない、自由に生きてくれ」
真剣な声だ。
「生活の保障はさせるし、王太子妃でもなくなるから大変な仕事も負わなくていいようになる。そもそも俺がいなくなればこの国に縛られる事もない。ルアネドに言ってパルス国に戻ることも出来るようにしておこう。妨げであったヘルガもいないし、トゥーラ様もいる母国ならのびのびと暮らせるからな。追い出したいわけではないから、もちろんレナンが選んでいい。幸せになる道を選んでくれ」
変わらぬ声音と変わらぬ表情でエリックは続けた。
「必ず、生きて帰ってきますよね……?」
「無論そのつもりだが、どうなるかはわからない。戦とはそういうものだ」
少し弱気に感じるエリックの言葉だが、皆の気が引き締まる。
「帝国の者達は、一人でもあのような強い力を持っている。撃退は出来たが、複数でいたにも関わらず押されていた。戦でもしあのような未知なる力を持つ者がまだいたら? あのもの達より強い者がいたら? 勝てる保証はない」
当然のことではあるけれども、先の戦で勝利した事からか、失念しやすい。
「ミューズ嬢もマオ嬢も本来は残っていて欲しいものだが、どうにも頑固だ。だからレナン、君だけでも戦火から少しでも遠ざかっていて欲しい」
「そんなの、わたくしだって本当は了承したくないのに」
押しが弱いといわれたようでムッとする。
「否が応でも了承させる。が、ここでの話はこれで終わりだ。ティタン、何か話はあるか?」
納得していないレナンを押しとどめ、エリックは主導権を譲った。
「俺からは特には……作戦などに関しては兄上やリオンに任せます。そして父上が命じたならば、剣を振るうのみ。ですが」
少し考え、ティタンは言葉を選んでいく。
「属国となった三国からの援軍はお願いしたい。彼の国の者達もまた無関係ではないし、帝国は多くの国や民族を従えていると聞きます。数の上でもアドガルムの兵だけでは守り切れない」
一番危険なのは帝国との境のパルス国だと思っていたが、転移魔法を使うとなればどの国も危険はある。
「戦力として積極的に組み入れて欲しいです。剣を交えた感覚から言えば、グウィエン殿のいるシェスタ国は相当な手練れだ。そういった戦士たちにぜひ助力を乞いたい。いかがでしょう、父上」
前線を張れるものがいたら、戦況は大きく変わりそうだ。
良くも悪くもティタン達は警戒を受けている。
突き崩す為の帝国が知らない遊撃隊がいれば、虚をつけそうだ。
「そうだな、それぞれの国に声を掛けて、作戦を練ってみよう」
アルフレッドも頷いた。
「おそらくもうそんなには時間がない。パルスやセラフィムも先の奇襲でまだ立て直せていない。アドガルムも完全復興はまだしておらず、食料補充や新たな兵の育成も苦しい状況下だ。だからこそ今が好機とし帝国はこちらが整う前に叩きに来るはずだ。宣戦布告を受けてからそう日にちが経ってないうちに来るはずだ」
わざわざ潰す相手の万全を待つわけがないし、そんな真摯な者達ならば、あのような搦め手で奇襲は掛けてこないはずだ。
「だからこちらも奇襲を掛けたい。あちらも万全ではないアドガルムが急に仕掛けたら驚くだろうからな」
「攻め入る理由はどうしますか?」
リオンが訪ねる。
「順番と理由は大事です。防衛線なら正当性も主張できますが、こちらから攻め入るならばかなり説得力のあるものがなければ、他国から付け入る隙となってしまいます。帝国に与しないものや、アドガルムに与しないもの達にとって格好の餌食になるでしょう」
「この前の皇子達の訪問時の無茶な要求とそして属国への奇襲が理由だ。実害を被っているのだから、これは防衛戦だ。このまま手をこまねいて被害を大きくするわけには行かないし、パルス国の商人達も無為に殺された。今も被害は増えている」
表に出ないだけで、色々な被害があちこちで出ている。
「帝国兵が蹂躙、略奪を行なっているという話も聞く。兵の中には無理に命令されたものもいるだろうから、そのような者はなるべく殺したくはない」
ロキとミューズがいった地域もそのようなところだ。
アルフレッドはそのような横暴も止めなければと義憤に駆られる。
「俺の考えは甘いが、それでも皆がついてきてくれて嬉しい」
改めて皆に強く訴える。
「帝国の暴挙をこれ以上許してはならない。皆で力を合わせ、アドガルムを守り、今度こそ平穏を取り戻すぞ!」
力強い言葉に皆が従う意を見せた。
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