隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
84 / 202

第84話 要請と要望

しおりを挟む
「もしもユーリがこれ以上馬鹿なことをしたらシェスタ国はユーリを見限る。それで許してほしい」
もう庇い立てをしないという宣言だ。

「実の妹なのだろ?」

「実の妹だからだ。あいつの我儘で宗主国に逆らい続け、これ以上シェスタの立場を悪くしたくない。人質として嫁いだマオが、シェスタに愛着がないことも知っている。この先の帝国との戦で見捨てられないためにも、これ以上アドガルムの不敬を買ってはいけない」
グウィエンの覚悟にエリックは興味を示した。

ただの色狂いの馬鹿ではないのだろう。

「わかった。今後ユーリ王女がこちらに不利益を齎した場合でも、シェスタに不利になることはしない。その代わり、後始末はこちらに任せてもらうぞ」
処刑するような場合になってもだ。

「もちろん。どういう結果になろうと何も言わない。俺が責任を持つ」
国の為に身内でも切り捨てるというところに、エリックも好感が持てた。

相応の覚悟を背負ってきたのだろう。

「ニコラ、今の取り決めを誓約書として用意し、サインを貰え。そして通信石を持って来て、グウィエン殿に渡してくれ」

「エリック様、よろしいのですか?」
ニコラはまだ信用していないようだ。

「あぁ」
ルアネドに引き続き、似たような立場の味方が欲しい。

今後エリックが王になったときに必要な事だ。

「それと頼みたい事がある。ティタン殿とミューズ様に会いたい」

「悪いがそれは出来ない」
きっぱりとエリックは断った。

「グウィエン殿に女性を合わせる気はない、マオからも再三注意されているしな。それにティタン、今は特に駄目だ。かなり気が立っている」
ロキがミューズを連れ去って早三日だ。

殺気に満ち溢れていて、エリックとて近づきたくない。

気持ちはわかる、だがロキも悪い男ではない事を知っている。

功績を考えると言葉はともかく腕前は信用しているが、あの人となりを信じろとは言い難い。

早く二人が帰ってくることを祈るばかりだ。

「ミューズ様は諦めるとして、ティタン殿には会いたい。せっかくなら手合わせしたくてな。騎士の国の王太子として、剣を交えたい」
気が立ってても構わないとグウィエンは言う。

「手合わせか。それは面白そうだな」
興味深い提案だ。

わざわざティタンを指名するとは、相当腕に自信があるのだろう。

少しは弟の気も紛れるかもしれない。

「オスカー、ティタンに直接提案してこい。シェスタの王太子が相手したいとな」

「わかりました」
優雅な礼をするオスカーを見て、グウィエンは首を傾げる。

「男、だよな? 派手なもんだが、綺麗だ」

「本当に見境ないな」
呆れて頭痛がする。

「だが男で一番きれいなのはエリックだ。今まで見た中でこんなに色白美人な者は見たことがない」
呼び捨て、そして主を侮辱するような言葉に、二コラが白刃を煌めかせ、グウィエンに切りかかった。

「少しは口を慎んでもらえませんか?」

「それは申し訳ありません。後できつく言いますので、この場はこれで収めてもらえませんか?」
二コラの剣を止めたのはグウィエンの後ろにいた従者だ。

「これを貰ったから親しくなれたと思ったのだがな。俺の中ではもうエリックは親友なのだ。こんな綺麗な友人が出来て鼻が高い」
先程の通信石を眺めながらそんな事を言う。

二コラに命を狙われても動じていないグウィエンの胆力に、少しだけ感心する。

「ティタンに勝てたら考えよう」
後は実力を見てみたい。

「本当か?! セト、俺の剣を出せ! 本気を出す」

「もう帰りましょう、グウィエン様が怪我でもしたら嫌ですよ」

「俺は勝つぞ。それでエリックの親友の座を得るんだからな」

「待って、待ってください! 押し切ろうとしないで!」
二コラがグウィエンの度重なる非礼に、剣を持つ手に力を込めた。

「許可なく呼び捨てはよくないですよ」

「二コラ退け。俺も二人の試合が見たいからな」
ふっと二コラの力が抜けて、ようやくセトも腕を下ろす。

剣を持つ手は震えていた。

「グウィエン様、勝手な発言しないでください。俺があなたを切りますよ」
セトが恨みがましい目でグウィエンを見る。

危うくグウィエンより先に二コラに斬られかけたのだ、庇わなければよかったとまで思ってしまった。

「すまんすまん」
その時許可を得たオスカーが戻って来るのが見えた。

「では、行くか」
エリックが先頭に立ち、皆を案内していく。





「あなたがティタン様ですか」
凄惨な表情のティタンにグウィエンは少々気圧され、セトは後ずさった。

(これがあの戦場で一番人を切り殺した男? 普段からこんなに殺気に満ちているのか?)
その迫力に震える手は無意識に腰の剣に伸び、庇うようにグウィエンの前に出る。

「手合わせの相手は俺だ。セト下がれ」
本能的に行なってしまったセトの肩に手を置き、強引に下がらせる。

「ティタン殿、俺がシェスタ国の王太子グウィエン=ドゥ=マルシェです。部下が失礼した」
迂闊な事をしては、そのままティタンに切り殺されそうだ。

「ティタン=ウィズフォードです。ぜひ手合わせをという話ですが、真剣で行いますか?」
強い殺気は抑えられていない。

「本気で相手してもらえるならば、どちらでもいいが木剣にしとくか。新婚のティタン殿に何かあったら、ミューズ様が可哀そうだからな」
その名を聞いてティタンの表情が動く。

「では、しましょう。試合」
木剣をルドから受け取る。

グウィエンはルドの顔を見て驚くが、今はティタンに向かい合った。

先程の殺気はそのままに、表情がすっと消えていく。

だがその様子の方が恐ろしい。

(上手く感情を消すな)
自分より年下の相手だが、体格はほぼ同じくらいだ。

鳥肌が立つ感覚とピンと張り詰める空気。

愉しみすぎてグウィエンの口元に笑みが浮かぶ。

「強い相手とやり合えるのは嬉しいな」
先に打って出たはグウィエンだ。

低い位置からティタンの体を狙って切りかかる。

素早い剣筋を避け、ティタンも剣を振り下ろしグウィエンの頭を狙う。

グウィエンは身体を捻ってそれを避け、ティタンの背後に回る。

大きな体に向かって突きを放つがこちらも躱され、一旦距離を置かれた。

「思ったより動きが早いな」

「お互い様でしょう」
楽しそうなグウィエンと無表情のティタン。

ウェイトがあるようには見えない動きに、エリックも感心する。

「グウィエン殿は戦には参加していなかったな」

「グウィエン様は戦で武勲を上げるよりも民の命の方を優先しましたので。国にとって大事なのは民ですからね」
グウィエンは戦の参加を拒んだ。

国を守るならともかく侵略には興味ないと。

元より腕前を晒したことのない名ばかりの王太子であった為、戦に行かない臆病者と蔑まれただけで話は終わった。

その後、戦の騒乱にかこつけて攻めてきたもの達を撃退してからは見る目も変わっていった。

エリックもグウィエンの実力を聞いたことがなかったから、今日の手合わせは貴重だ。

「ティタンとやり合えるとは、凄いものだ」
シグルドも感心してみているし、ルドとライカも驚いている。

打ち合いはまだまだ続いていた。

「誰に向けた殺気だ?」
グウィエンの問いにティタンは答えない。

「先程いったミューズ様の事が関係あるとか?」
グウィエンの言葉に思わず体に力が籠る。

(これは、隙か?)
空いた体に向かって木剣を振った。

大きな音が鍛錬場に響く。





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...