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第84話 要請と要望
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「もしもユーリがこれ以上馬鹿なことをしたらシェスタ国はユーリを見限る。それで許してほしい」
もう庇い立てをしないという宣言だ。
「実の妹なのだろ?」
「実の妹だからだ。あいつの我儘で宗主国に逆らい続け、これ以上シェスタの立場を悪くしたくない。人質として嫁いだマオが、シェスタに愛着がないことも知っている。この先の帝国との戦で見捨てられないためにも、これ以上アドガルムの不敬を買ってはいけない」
グウィエンの覚悟にエリックは興味を示した。
ただの色狂いの馬鹿ではないのだろう。
「わかった。今後ユーリ王女がこちらに不利益を齎した場合でも、シェスタに不利になることはしない。その代わり、後始末はこちらに任せてもらうぞ」
処刑するような場合になってもだ。
「もちろん。どういう結果になろうと何も言わない。俺が責任を持つ」
国の為に身内でも切り捨てるというところに、エリックも好感が持てた。
相応の覚悟を背負ってきたのだろう。
「ニコラ、今の取り決めを誓約書として用意し、サインを貰え。そして通信石を持って来て、グウィエン殿に渡してくれ」
「エリック様、よろしいのですか?」
ニコラはまだ信用していないようだ。
「あぁ」
ルアネドに引き続き、似たような立場の味方が欲しい。
今後エリックが王になったときに必要な事だ。
「それと頼みたい事がある。ティタン殿とミューズ様に会いたい」
「悪いがそれは出来ない」
きっぱりとエリックは断った。
「グウィエン殿に女性を合わせる気はない、マオからも再三注意されているしな。それにティタン、今は特に駄目だ。かなり気が立っている」
ロキがミューズを連れ去って早三日だ。
殺気に満ち溢れていて、エリックとて近づきたくない。
気持ちはわかる、だがロキも悪い男ではない事を知っている。
功績を考えると言葉はともかく腕前は信用しているが、あの人となりを信じろとは言い難い。
早く二人が帰ってくることを祈るばかりだ。
「ミューズ様は諦めるとして、ティタン殿には会いたい。せっかくなら手合わせしたくてな。騎士の国の王太子として、剣を交えたい」
気が立ってても構わないとグウィエンは言う。
「手合わせか。それは面白そうだな」
興味深い提案だ。
わざわざティタンを指名するとは、相当腕に自信があるのだろう。
少しは弟の気も紛れるかもしれない。
「オスカー、ティタンに直接提案してこい。シェスタの王太子が相手したいとな」
「わかりました」
優雅な礼をするオスカーを見て、グウィエンは首を傾げる。
「男、だよな? 派手なもんだが、綺麗だ」
「本当に見境ないな」
呆れて頭痛がする。
「だが男で一番きれいなのはエリックだ。今まで見た中でこんなに色白美人な者は見たことがない」
呼び捨て、そして主を侮辱するような言葉に、二コラが白刃を煌めかせ、グウィエンに切りかかった。
「少しは口を慎んでもらえませんか?」
「それは申し訳ありません。後できつく言いますので、この場はこれで収めてもらえませんか?」
二コラの剣を止めたのはグウィエンの後ろにいた従者だ。
「これを貰ったから親しくなれたと思ったのだがな。俺の中ではもうエリックは親友なのだ。こんな綺麗な友人が出来て鼻が高い」
先程の通信石を眺めながらそんな事を言う。
二コラに命を狙われても動じていないグウィエンの胆力に、少しだけ感心する。
「ティタンに勝てたら考えよう」
後は実力を見てみたい。
「本当か?! セト、俺の剣を出せ! 本気を出す」
「もう帰りましょう、グウィエン様が怪我でもしたら嫌ですよ」
「俺は勝つぞ。それでエリックの親友の座を得るんだからな」
「待って、待ってください! 押し切ろうとしないで!」
二コラがグウィエンの度重なる非礼に、剣を持つ手に力を込めた。
「許可なく呼び捨てはよくないですよ」
「二コラ退け。俺も二人の試合が見たいからな」
ふっと二コラの力が抜けて、ようやくセトも腕を下ろす。
剣を持つ手は震えていた。
「グウィエン様、勝手な発言しないでください。俺があなたを切りますよ」
セトが恨みがましい目でグウィエンを見る。
危うくグウィエンより先に二コラに斬られかけたのだ、庇わなければよかったとまで思ってしまった。
「すまんすまん」
その時許可を得たオスカーが戻って来るのが見えた。
「では、行くか」
エリックが先頭に立ち、皆を案内していく。
「あなたがティタン様ですか」
凄惨な表情のティタンにグウィエンは少々気圧され、セトは後ずさった。
(これがあの戦場で一番人を切り殺した男? 普段からこんなに殺気に満ちているのか?)
その迫力に震える手は無意識に腰の剣に伸び、庇うようにグウィエンの前に出る。
「手合わせの相手は俺だ。セト下がれ」
本能的に行なってしまったセトの肩に手を置き、強引に下がらせる。
「ティタン殿、俺がシェスタ国の王太子グウィエン=ドゥ=マルシェです。部下が失礼した」
迂闊な事をしては、そのままティタンに切り殺されそうだ。
「ティタン=ウィズフォードです。ぜひ手合わせをという話ですが、真剣で行いますか?」
強い殺気は抑えられていない。
「本気で相手してもらえるならば、どちらでもいいが木剣にしとくか。新婚のティタン殿に何かあったら、ミューズ様が可哀そうだからな」
その名を聞いてティタンの表情が動く。
「では、しましょう。試合」
木剣をルドから受け取る。
グウィエンはルドの顔を見て驚くが、今はティタンに向かい合った。
先程の殺気はそのままに、表情がすっと消えていく。
だがその様子の方が恐ろしい。
(上手く感情を消すな)
自分より年下の相手だが、体格はほぼ同じくらいだ。
鳥肌が立つ感覚とピンと張り詰める空気。
愉しみすぎてグウィエンの口元に笑みが浮かぶ。
「強い相手とやり合えるのは嬉しいな」
先に打って出たはグウィエンだ。
低い位置からティタンの体を狙って切りかかる。
素早い剣筋を避け、ティタンも剣を振り下ろしグウィエンの頭を狙う。
グウィエンは身体を捻ってそれを避け、ティタンの背後に回る。
大きな体に向かって突きを放つがこちらも躱され、一旦距離を置かれた。
「思ったより動きが早いな」
「お互い様でしょう」
楽しそうなグウィエンと無表情のティタン。
ウェイトがあるようには見えない動きに、エリックも感心する。
「グウィエン殿は戦には参加していなかったな」
「グウィエン様は戦で武勲を上げるよりも民の命の方を優先しましたので。国にとって大事なのは民ですからね」
グウィエンは戦の参加を拒んだ。
国を守るならともかく侵略には興味ないと。
元より腕前を晒したことのない名ばかりの王太子であった為、戦に行かない臆病者と蔑まれただけで話は終わった。
その後、戦の騒乱にかこつけて攻めてきたもの達を撃退してからは見る目も変わっていった。
エリックもグウィエンの実力を聞いたことがなかったから、今日の手合わせは貴重だ。
「ティタンとやり合えるとは、凄いものだ」
シグルドも感心してみているし、ルドとライカも驚いている。
打ち合いはまだまだ続いていた。
「誰に向けた殺気だ?」
グウィエンの問いにティタンは答えない。
「先程いったミューズ様の事が関係あるとか?」
グウィエンの言葉に思わず体に力が籠る。
(これは、隙か?)
空いた体に向かって木剣を振った。
大きな音が鍛錬場に響く。
もう庇い立てをしないという宣言だ。
「実の妹なのだろ?」
「実の妹だからだ。あいつの我儘で宗主国に逆らい続け、これ以上シェスタの立場を悪くしたくない。人質として嫁いだマオが、シェスタに愛着がないことも知っている。この先の帝国との戦で見捨てられないためにも、これ以上アドガルムの不敬を買ってはいけない」
グウィエンの覚悟にエリックは興味を示した。
ただの色狂いの馬鹿ではないのだろう。
「わかった。今後ユーリ王女がこちらに不利益を齎した場合でも、シェスタに不利になることはしない。その代わり、後始末はこちらに任せてもらうぞ」
処刑するような場合になってもだ。
「もちろん。どういう結果になろうと何も言わない。俺が責任を持つ」
国の為に身内でも切り捨てるというところに、エリックも好感が持てた。
相応の覚悟を背負ってきたのだろう。
「ニコラ、今の取り決めを誓約書として用意し、サインを貰え。そして通信石を持って来て、グウィエン殿に渡してくれ」
「エリック様、よろしいのですか?」
ニコラはまだ信用していないようだ。
「あぁ」
ルアネドに引き続き、似たような立場の味方が欲しい。
今後エリックが王になったときに必要な事だ。
「それと頼みたい事がある。ティタン殿とミューズ様に会いたい」
「悪いがそれは出来ない」
きっぱりとエリックは断った。
「グウィエン殿に女性を合わせる気はない、マオからも再三注意されているしな。それにティタン、今は特に駄目だ。かなり気が立っている」
ロキがミューズを連れ去って早三日だ。
殺気に満ち溢れていて、エリックとて近づきたくない。
気持ちはわかる、だがロキも悪い男ではない事を知っている。
功績を考えると言葉はともかく腕前は信用しているが、あの人となりを信じろとは言い難い。
早く二人が帰ってくることを祈るばかりだ。
「ミューズ様は諦めるとして、ティタン殿には会いたい。せっかくなら手合わせしたくてな。騎士の国の王太子として、剣を交えたい」
気が立ってても構わないとグウィエンは言う。
「手合わせか。それは面白そうだな」
興味深い提案だ。
わざわざティタンを指名するとは、相当腕に自信があるのだろう。
少しは弟の気も紛れるかもしれない。
「オスカー、ティタンに直接提案してこい。シェスタの王太子が相手したいとな」
「わかりました」
優雅な礼をするオスカーを見て、グウィエンは首を傾げる。
「男、だよな? 派手なもんだが、綺麗だ」
「本当に見境ないな」
呆れて頭痛がする。
「だが男で一番きれいなのはエリックだ。今まで見た中でこんなに色白美人な者は見たことがない」
呼び捨て、そして主を侮辱するような言葉に、二コラが白刃を煌めかせ、グウィエンに切りかかった。
「少しは口を慎んでもらえませんか?」
「それは申し訳ありません。後できつく言いますので、この場はこれで収めてもらえませんか?」
二コラの剣を止めたのはグウィエンの後ろにいた従者だ。
「これを貰ったから親しくなれたと思ったのだがな。俺の中ではもうエリックは親友なのだ。こんな綺麗な友人が出来て鼻が高い」
先程の通信石を眺めながらそんな事を言う。
二コラに命を狙われても動じていないグウィエンの胆力に、少しだけ感心する。
「ティタンに勝てたら考えよう」
後は実力を見てみたい。
「本当か?! セト、俺の剣を出せ! 本気を出す」
「もう帰りましょう、グウィエン様が怪我でもしたら嫌ですよ」
「俺は勝つぞ。それでエリックの親友の座を得るんだからな」
「待って、待ってください! 押し切ろうとしないで!」
二コラがグウィエンの度重なる非礼に、剣を持つ手に力を込めた。
「許可なく呼び捨てはよくないですよ」
「二コラ退け。俺も二人の試合が見たいからな」
ふっと二コラの力が抜けて、ようやくセトも腕を下ろす。
剣を持つ手は震えていた。
「グウィエン様、勝手な発言しないでください。俺があなたを切りますよ」
セトが恨みがましい目でグウィエンを見る。
危うくグウィエンより先に二コラに斬られかけたのだ、庇わなければよかったとまで思ってしまった。
「すまんすまん」
その時許可を得たオスカーが戻って来るのが見えた。
「では、行くか」
エリックが先頭に立ち、皆を案内していく。
「あなたがティタン様ですか」
凄惨な表情のティタンにグウィエンは少々気圧され、セトは後ずさった。
(これがあの戦場で一番人を切り殺した男? 普段からこんなに殺気に満ちているのか?)
その迫力に震える手は無意識に腰の剣に伸び、庇うようにグウィエンの前に出る。
「手合わせの相手は俺だ。セト下がれ」
本能的に行なってしまったセトの肩に手を置き、強引に下がらせる。
「ティタン殿、俺がシェスタ国の王太子グウィエン=ドゥ=マルシェです。部下が失礼した」
迂闊な事をしては、そのままティタンに切り殺されそうだ。
「ティタン=ウィズフォードです。ぜひ手合わせをという話ですが、真剣で行いますか?」
強い殺気は抑えられていない。
「本気で相手してもらえるならば、どちらでもいいが木剣にしとくか。新婚のティタン殿に何かあったら、ミューズ様が可哀そうだからな」
その名を聞いてティタンの表情が動く。
「では、しましょう。試合」
木剣をルドから受け取る。
グウィエンはルドの顔を見て驚くが、今はティタンに向かい合った。
先程の殺気はそのままに、表情がすっと消えていく。
だがその様子の方が恐ろしい。
(上手く感情を消すな)
自分より年下の相手だが、体格はほぼ同じくらいだ。
鳥肌が立つ感覚とピンと張り詰める空気。
愉しみすぎてグウィエンの口元に笑みが浮かぶ。
「強い相手とやり合えるのは嬉しいな」
先に打って出たはグウィエンだ。
低い位置からティタンの体を狙って切りかかる。
素早い剣筋を避け、ティタンも剣を振り下ろしグウィエンの頭を狙う。
グウィエンは身体を捻ってそれを避け、ティタンの背後に回る。
大きな体に向かって突きを放つがこちらも躱され、一旦距離を置かれた。
「思ったより動きが早いな」
「お互い様でしょう」
楽しそうなグウィエンと無表情のティタン。
ウェイトがあるようには見えない動きに、エリックも感心する。
「グウィエン殿は戦には参加していなかったな」
「グウィエン様は戦で武勲を上げるよりも民の命の方を優先しましたので。国にとって大事なのは民ですからね」
グウィエンは戦の参加を拒んだ。
国を守るならともかく侵略には興味ないと。
元より腕前を晒したことのない名ばかりの王太子であった為、戦に行かない臆病者と蔑まれただけで話は終わった。
その後、戦の騒乱にかこつけて攻めてきたもの達を撃退してからは見る目も変わっていった。
エリックもグウィエンの実力を聞いたことがなかったから、今日の手合わせは貴重だ。
「ティタンとやり合えるとは、凄いものだ」
シグルドも感心してみているし、ルドとライカも驚いている。
打ち合いはまだまだ続いていた。
「誰に向けた殺気だ?」
グウィエンの問いにティタンは答えない。
「先程いったミューズ様の事が関係あるとか?」
グウィエンの言葉に思わず体に力が籠る。
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